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あぁ、もどかしいーー!いじらしい愛の奴隷?状態に、涙が頬を伝う 『スティール・マイ・ハート 号泣特集3』

2009/05/19 00:00

医者から俳優に転向した篝龍司(かがりりゅうじ)。人気俳優の彼が愛した男、同じ俳優の沖田仁光(おきたきみひこ)は男も女も虜にする綺麗な男だがなぜか人を寄せ付けない。
彼を追いかけながらもつれなくされ続けた篝だったが、他の俳優に変質的な言いがかりと憎しみで拉致された沖田は麻薬中毒にされてしまった。
その沖田を自分の元で看病し続け、やがて沖田に感謝され、しかも強姦まがいで身体の関係も出来て恋人の位置に納まった……と、普通はここでめでたしめでたしなのだが。
話はこれがプロローグに過ぎない。
沖田には人には言えない、たとえ自分をその命よりも大事に、すべてをかけて愛してくれている篝にさえ告白できない過去があった。

このカップルの話は6冊からなり、他に篝(かがり)の友人や周りの人間を描いたシリーズの数は複数に上る。

共通の人間関係の中で絡み合う恋愛模様は複雑な面もあり、篝の親友でドラマの監督をしている靭(ゆぎ)もまた沖田を密かに愛しているが、実は沖田が幼い日からずっと愛して求めていたのは、その靭の父親で映画監督だった靭大作だったという複雑な関係。

表面だけ見ていたら究極のツンデレのように、どれだけ篝に愛されても絶対に「愛してる」と言う言葉を言おうとしない沖田。 けれどその内面は篝よりも強く相手を求めて叫んでいる。 なのになぜ……と言う疑問符を投げたままこの話は先に進みそれが明かされるのはなんと4冊目。

医師の免許も持っているモデル上がりの篝は誰もがうらやむものをすべて持っている。もちろん女にもモテるのに好きになったのはいつも素っ気なくて冷たい反応しかしてくれない沖田。
カッコイイ攻めでも通るはずの篝は、この話ではなぜかずっとヘタレワンコです(笑) ワンコ攻め、執着攻め、一途な攻め、もうひとりで全部請け負ってしまっています。 出だし、すごくカッコイイキャラだったはずなのに、途中はずっとかっこわるい。
そしてヤンデレ気味でもある女王様受けの沖田。
本当は篝がいなければ生きていけないほど彼を好きなのに我慢大会?と思うほど両手両足を突っ張って彼を拒絶します。 その壁はなんなんだ????と読者みんなが首をひねるはず。

しかもこのお話、その二人が肝心なところ(まだ心より身体優先か?)でまだ繋がってないのに脇の面々が思いもかけない人脈でカップルが出来上がっていきます。
他にこのスタッフの番外編シリーズは別タイトルでも出ています。

登場人物は皆魅力的です。
靭監督を巡るスタッフの面々は皆いい男達ばかり。 こんなスタッフに恵まれていたらいいドラマが出来るんだろうなぁ?と違う方面にもうなずいてしまうし、紅一点の女優冴子も男勝りでなかなかいいキャラ。 早々に篝のマネージャーと結ばれるので男達の展開には関係なし。 もうひとりの女優ゆりも最初は沖田にまとわりつくものの、なかなかに性格のいい女の子。 よくある不快な女性陣は登場しないのでその辺も好感度があります。
芸能界の方の繋がりと、篝の身内や友人が皆医者と言うことで、医者や病院の登場も多い作品。
そして親友の医師(高師)も意外な人と……何このカップル?とビックリした次第。
実はこのシリーズはツッコミ所も満載な気がするんですが、その辺は置いておいてください←おい。
BLは空想もの、ファンタジーと思っている私は数々の疑問は目を瞑りました(笑)
ご都合主義は許せない!と言う人には勧められませんが、それに目を瞑ってもキャラの魅力と「もどかしい想い」と言う切なさに軍配を上げる私です。

この話の入り口は別の番外「この夜が明けさえすれば」だったのですが、こちらの「スティル」の方が話が長かったです。
「この夜」の和宏の親友が篝なのですが、登場人物がリンクしています。
篝はむしろこちらの話の方が頼りがいがあって落ち着いたキャラで描かれています。
読み比べてみると、人の恋愛には冷静に判断は下せるけれど、皆自分の恋愛になると手に余るのねぇ、と言うことがよくわかります。

涙の量からいったら「この夜」の方が圧倒的に降水量は多いかも知れません。
まずメインカップルの篝の友人で医師の和宏。
子供の患者の父親由井とえぇー!と思うような出会いで恋愛へ。 普通いきなり襲われて好きにはならないとは思うけれどBLにはままある話し。そこからの恋愛は苦しいばかりでついにアル中にまで。篝もそうだけど頭が良くて友人関係にも恵まれて、つまずきがなかった分、自分で障害が乗り越えきれずにどんどん自滅していく。 相手は夫婦関係が破綻していてもまだ戸籍上は夫婦で、男同士の上に不倫関係。 しかも担当患者の父親。 もともと真面目で真っ当な和宏には荷が重すぎる関係。 それでも好きになったら離れられない……は別に男同士でなくたって誰でも知っている感情。
二冊目の「この罪が許されるなら」まで延々と悩み続けます。

このカップルと同時進行なのが由井の秘書で友人の高梁(たかはし)と引き取った恩師の息子洸のカップル。
こちらは洸が和宏と同じように、好きになる余り自分を見失い「売り」まで始めてしまう始末。 それを後悔して後悔して謝り続ける洸に涙が止まりません。 わかっていても好きな人に好きと言えずに我慢してどうにも出来なくて、誰でもいいから助けて欲しいと思ってしまう気持ち。 まだ子供で、だからこそ純粋な気持ちに泣かされます。
数えたらかなりの数になるホモカップル?(笑)の中でもこの洸に一番泣かされると思います。後半ではなんとストーカーの餌食にまでなってしまう。
作者さん、受けはとことん苛めるタイプみたいです。

どちらも切なくて「涙」としてはひょっとしたら「この夜」の方が多いかも知れませんが、沖田の切ない過去を断ち切れない生き方と、篝の涙ぐましい愛の奴隷?状態の沖田への献身が涙を誘います。
沖田、和宏、洸。 それぞれの受けの共通のいじらしさと、それに翻弄されるいい大人の攻め達のジレンマを切なくタオルを片手に読みました。

紹介者プロフィール:Maika
耽美と呼ばれた時代から読み始めて出産、子育てで中断。15年ほど前に再び舞い戻ったときはBLと呼ばれていました。内容もがらりと変わって(いるように私には思えました)すっかり様変わり。 あまあまな世界はどうにも性に合わず、無情(鬼畜?)、泣ける(鬼畜?)、痛い(鬼畜?)作品が好みです。 エロも好きですが、基本的にはエロよりもストーリーを重視して欲しい。 好きな作家は木原音瀬、六青みつみ、水壬楓子、水原とほる、かわいゆみこなどetc。

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