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圧倒的におもしろい!慈英×臣シリーズの第一弾 『しなやかな熱情』

2009/07/03 00:00

ちるちるでも大人気の小説家・崎谷はるひ。でも作品がたくさんありすぎていったいどれから読んでいいのかわからない! という方もいらっしゃるんじゃないでしょうか。そんな崎谷はるひの作品を読んだことがないひとにはこれを薦めたい。これはいい!

数多くの作品を世に出し続けている崎谷はるひの作品の中でも、圧倒的に好きな作品。慈英×臣シリーズと呼ばれる人気シリーズの第一弾である。とりあえず崎谷はるひの作品を読んだことがないひとにはこれを薦めたい。これで駄目なら相性が悪かったと思って諦めろ!なんていうのは五十冊以上の著作がある作者なので乱暴すぎるけれど、個人的にはそれぐらいこの作品が大好きである。

これまで一度も挫折したことがなかった新進気鋭の画家慈英は、二十歳をとうに過ぎてから初めて障壁にぶつかって、これまで積み重ねてきたことを何もかも投げ出すように長野県に旅に出た。そして偶然巻き込まれた事件をきっかけに出会った刑事である臣に、ひとめで恋に落ちる。一瞬で自分を惹きつけたおそろしく整った容姿とは正反対に、乱暴な口調と態度でふるまうかれに、驚きつつも惹かれていった。

絵を描くこと自体に嫌悪感を抱くほどに絶望した慈英だったが、臣の抱えている事件を解決するためなら、すすんでキャンパスに鉛筆を走らせた。しかしかれは、そんな自分を突き動かす衝動が、この年上の刑事への恋愛感情だなんて気付かない。晩生なのでも男同士というところに引っ掛かっているのでもなく、これまで誰かに告白されてそれを受けることしかしてこなかった慈英は、初めての能動的な情熱の正体に気づけなかったのだ。若いうちから相手に不自由したことがない経験豊富なかれの、それは初恋だった。

臣は反対に、かなり早くから自分が謎の画家に抱く気持ちを知っていた。慈英が見た目も中身も好みだと自覚でしているかれは、男に恋愛感情を持つ嗜好の持ち主であり、まともな恋愛をしたことがなかった。ろくでもない相手に弄ばれた過去の反動で、専ら一夜限りの相手と適当に日々をやり過ごしていた。

しかし臣は慈英と言葉を交わすたび、かれを好きになる気持ちを止められない。かれを好きだという衝動は、肉体を含めた臣のすべてを突き動かす。あまり褒められたものではない過去によって真剣に恋愛をすることに臆病になった臣は、遊びのふりをして慈英を誘った。襲った、と言う方が正しいかもしれない。旅行中だけで構わないから、言葉も気持ちもいらないからと半ば強引に慈英を押し倒し、そのまま体を繋げさせた。戸惑う慈英の口から、万が一にも自分を拒む言葉が出て来たら耐えられないからと会話を遮り、臣自身も一過性の遊びだと思っているかのように振舞って、真実と向き合うことを先送りにし続ける。

自分なんかが愛されるわけがないと思っている臣とは違い、慈英は何度も関係を持つうちに臣の気持ちに気づく。気づかれないように必死に振舞っている刑事が自分を想っていることを知ったかれは、しかしながらすぐにそのことを指摘しなかった。これまで何度も自分が試みた告白を臣が遮ったことの腹いせとばかりに、慈英は黙っていた。黙って、かれが限界を迎えて自分から好きだと言い出すことを待った。

しかし、告白すればもう何もかもが終わると思っている臣は、もちろん口にしない。吐き出してすべてが終わるくらいなら、ひとときの思い出であれ、少しでも傍にいたいとかれは願っていた。そのためならどんなに苦しくても耐えられると、本来感情表現が豊かな彼が必死に押し黙っている姿がほんとうに切ない。

そんな気持ちは勿論慈英にはわからない。かれはかれで、いつまでも動きを見せない現状に苛立っていた。態度で何よりも雄弁に好きだと語るくせに、決して言葉にしない臣の態度をもどかしく感じている。浮世離れした男だけれど、かれはまだ若い。臣の心情を予想することも、かれが勇気を出して告白してくるのを待つことも、進展のない関係を引きずることもそうそう耐えられなかった。

先に限界がきたのは慈英のほうだった。かれは旅行を切り上げて地元に帰ると、臣に揺さぶりをかける。しかしもう二度と会えなくなるという切迫感で、臣が本当の気持ちを言い出さないかという慈英の期待は外れてしまい、結局これまでと同じ、言葉のない夜が始まる。

だが慈英は諦めなかった。何度も臣を追い詰め、快楽に弱いかれを焦らし、本音を引きずりだそうとする。必死に隠す臣と、必死に問い詰める慈英のやり取りは胸が締め付けられて痛い。素直になれない臣も、素直になってもらえない慈英もかわいそうで、ベッドシーンで感極まって泣けたのは後にも先にもこの作品だけだ。好きだというたった一言が出ない。いくら抱き合っても一緒にいても、その言葉がないために、不安でたまらない。一歩も先に進めない。

臣が口にしないのは傷つきたくないという自己保身であり、慈英に迷惑をかけたくないという思いやりでもある。慈英が自分から告白しないのは、臆病な臣に勇気を与えてやりたいというかれなりの愛情表現であり、相手に言わせたいという狡さでもある。エゴと愛情が混在した夜は長く濃厚で、とにかく切ない。

大人になってから初めて出会った、年齢も育った環境も職業も何もかも違う二人が、互いのことを知って惹かれてゆく。言葉に出して、気持ちを伝える。それだけのことが本当に難しくて、永遠に叶わないのではないかとさえ思えてくる。終わってみればそれは些細な諍いで、痴話喧嘩にしか過ぎないようにもみえるけれど、その時の二人は真剣そのもので、胸の痛みで死んでしまうのではないかとさえ、本気で思っている。両想いになるまでの過程が本当に丁寧に描かれている傑作だと思う。

赤の他人であるかれらがひとつの人生を送れるようになるまでの道のりは決して平坦ではない。だからこそ、その困難な過程すべてが大切で、愛しい。

紹介者プロフィール:まゆみ
音楽とか舞台とか洋服とか、とにかく好きな人や物が多過ぎて見放されてしまいそうな月に負け犬的おたく。本を売って稼いだお金で、本を買って生きています。つまり本屋で働いています。誘惑にはすぐ負けます。 物心ついたらおたくで、気がついたら人生の半分以上腐っていました。節操も地雷もありませんが、歴史物・宗教物・主従物・中学生攻・親の愛を知らないまま大人になった子供、みたいなシチュエーションが好物です。おやじとアンドロイドも大好きです。 その他、本の感想と日常の出来事を書いているブログはこちら。 http://defeated.jugem.jp/

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