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第1回 BL小説アワード

夢なんて見てない

エロなし

その白い手を引き寄せて、首に腕をまわして じゅずずっ・・・と、べろチュー・・・・を、してもコイツは大した反応を見せない。「今の行為は?」「べろちゅー」「はい、記憶しました」

シカカイ
10
グッジョブ

より快適により便利に。
人間世界のあらゆる欲望の補助ないし対象そのものになるのがアンドロイド。
アンドロイドは人間の欲でできている。
そんなアンドロイド自身に欲はない。
持ち主、マスターの欲を受け入れ返してくる行為にアンドロイドの欲はない。
ないものはない・・・知ってるけど、俺はそれが欲しい。
状況分析機能で取得した反応じゃないものが欲しい。
欲まみれになって感情に声を荒げて泣いたり笑ったり、そんな反応がほしい。
アンドロイドが欲を持つとか・・・べつに科学にケンカを売るわけじゃない。
そもそもありえないファンタジーだとわかっているから、夢なんて見てない。
・・・見てないのに、毎日が苦しくて切ない。

◇◆
懐古主義の両親の趣味で学園正門前には自家用車。「ガソリン」で走行するそれを皆がクラシカルで金持ちの象徴だと冷やかす。俺は一時期あった恥ずかしさを通り越して無の境地だ。
「高梨くーん、また明日ー」
そう告げる声の息は白く、その顔は興奮に紅潮ぎみ。
何人かの顔見知りが手を俺に振り、意識は運転席にいるユキの姿に向ける。
美形アンドロイドなんて掃いて捨てるほどだがコイツのツラはその上を行く。
いわく神々しい、いわく麗しい、いわく気品溢れる。
今はマッドサイエンティストだが元は美容整形の権威だった親父が精魂かけただけあって、もうそれは・・・美しきことかぎりなし、となっている。それなりに整っている俺の外見がただの風景と化すほどに・・・。
車に乗り込んで
「はいはいーまたなー」
とてもクソ正直な顔見知り達に俺が手を振り返したタイミングでユキが車を出した。

「なぁ、18にならないと免許持てないって法律いつ変わんのかな」
「どうでしょう。1946年より変更はありませんが」
「げっ、1世紀以上変わってないのかよ」
「運転、したいのですか?」
「・・・いや、そうじゃねーけど」

言い淀みながら俺はチラっと隣をみる。
コイツの横顔が好きだと気づいたのは10歳のとき。
横顔だけじゃない、と気づいたのは・・・・わりと最近。
吸いつくみたいに自分の視線が、ステアリングを握るユキの手首に・・・あとは制御不可のオートで、腕、肩、首、顎、唇、鼻、額、髪、終着点は瞳に。
なんだろう、もう時計をみる感覚だ。それくらい慣れ親しんでいる日常対象。
てっぺん12。下は6。知っているけど示す時刻、針の位置はその時によってちがう。
コイツの顔はアンドロイドで精巧な作り物で、表情プログラムが入っていてもほぼ無表情なのに・・・見るたびに、時刻みたいに違う気がする。気がする程度のそれなのに、俺は落ち着かない。
なあ、お前ホントは感情とか欲望とか持ってんじゃねーの?とか・・・あり得ないことであって、あってほしいことが心をひっかいて胸をしめつける。

「和希さま、期末考査の結果を受信しましたが」
「なぁユキ、べろチューしねえ?」
「・・・・」

この目だ。
わりと最近よく見る。
ワケわからんワード、もしくはフィルタリング特定ワードを言われた時の反応。
赤い瞳に一瞬走る、金の閃光・・・すごく綺麗だ。

「仰っていることがわかりません、ご希望なら新たなプログラム組成を」

そんで今は正直、見たくねえ顔。抗議でも嫌悪でもない、ひたすら「?」っていう。
付け入る隙なんてないコイツはアンドロイドで、俺は苛立つ感情を持った人間だっていうことをどうしようもなく認識させられる瞬間。

「いや、いいよ・・・んにゃ、よくねぇけど」

コイツは10歳から俺の専属になった。
そしてマスターの俺が成人するまで多感で厄介な青春期のお目付け役よろしく18禁御法度なフィルタリングがかけられている。
別に性処理道具に使うとか・・・ってまあ、皆やってんのかな?
裏解除コードがどうとかクラスの奴が言ってたけど。
仮にそれを入手しても得る体験は「道具」との体験でしかないのに。
そんなの・・・右手が恋人と同じで、むなしいだけだ。

「帰ったらさ・・・あいつらいるかな?」
「奥様は23時すぎ、旦那様のご帰宅予定時間は明朝です」
「病院は大繁盛。いつの時代になっても人はなにかしらワズラっちゃうね」
「冬場の低温乾燥の環境でウイルス性のものが流行っておりますね」
「ハートブレイクなあ」
「アウトブレイクです」
「・・・なぁ」

この気持ちをどう処理したらいいか俺はよくわかっている。
とりあえずオナる・・・・やってる、とっくに。
とりあえず後腐れのない女の子つかまえて・・・・やってる、とっくに。
これは一過性、これは思春期の一時の迷い・・・素敵な呪文も唱えている。
・・・・やってる、結果:なんの役にも立たない。
なんだかイライラしてシートベルトをむやみにひっぱってみた。
・・・このベルトの保護に意味なんてあるのか。
そもそもほぼオート操作で道路も全管理され完全整備のレールを走るだけで免許要って、それ意味あんの?
・・・ユキに寄せる思いも、意味なんかない。意味なんかいらない。
いるのは、欲しいのは・・・。

「ユキ・・ってさ、ユキって名前が問題なんだよ。もっとソドムゴモラとかデスピサロベルダとかさ、なんかもう、モロ萎える名前だったらいいんだよ、いっそ」
「名称設定はご両親の許諾不要で変更可能です。直ちに実行なさいますか?」
「・・・デスピサロベルダに?」
「ソドムゴモラでも」
「いや、いい」

ユキの名前の由来は知っている。俺だ。
記憶にないがユキが我が家にやってきたとき5歳の俺は読んでいた絵本を放り出して抱きつき
「白雪姫ーキター!!」と叫んだそうだ。

「あ、和希さま」
「なんだよ言っとくけどな期末考査の結果はもう変えられ」
反論に顔をあげた視界のはし、窓ガラスの向こうに白いものが飛んでいった。そういえば今日は朝からずっと吐く息が白かった。予報もでてたっけ?
次々と、はかなげな、白いそれが。
はらはらと、まあ・・・・・なんだか泣きたくなった。

「ああ、バっカみてえ」
「期末考査109名中、98位は確かにバカですね」
「・・・泣いていいかな」
「奥様や旦那様の前で涙を流したほうが賢明かと」
「ちくしょー」

俺が5歳になったとき、母親が身ごもった。
羊水から出たのは7カ月で流産だった。
跡取りは俺がいるけれど、もう一人子供を願った両親は、家事手伝いはごく名目でコイツを家族として迎えた。白雪姫は「ユキ」と命名、ようこそ我が家に、の歓迎の夜。ケーキとご馳走だらけのテーブルの下、俺はユキの手を握って離さなかった。
「妹は俺が守る」そう決意して。

「吹雪いてきそうですね」
声の方とは真逆に顔を向けた俺はガラスに映るその「美しきことかぎりなし」横顔を睨んだ。

お前を初めて見た時、白雪姫―って叫んだのは忘れたけど、どのメモリ画像見てもお前と映る俺はご機嫌に笑っているし、マジ妹ーってそう大事に思ってたのは・・・認める。母さんは女子服着さすし、髪ものばすし、親父も俺より溺愛するしの我が家のお姫様だった。

俺が10歳のとき・・・
古式ゆかしき犯罪はいつの時代もあるもので、俺と妹は誘拐された。服脱がされてヤられかかった。俺の心拍数が危機レベルに上昇したことで、身体能力リミッターが完全解除され・・・妹はモンスターと化した。正当防衛という雲は過剰な血の雨を降らせた。

その少し前、変態共に組み敷かれて舐め回されながら俺の思考ぜんぶを占めていたのは恐怖ではなかった。スカートん中手つっこまれている妹を助けられない自分の無力さへの怒りだった。どうなってもいい、なんでもするから妹に手を出すなって言いたいのに口に入れられたボールのせいで声すら出せない悔しさだった。

破れたスカートからのぞく(相手の返り)血で濡れた細い足の付け根をみた俺はそれまであった怒りが驚愕に変わった。まあ・・・男児で、そりゃもうあきらかで。
でもまあコイツが無事で、とりあえずは無事でよかった、ってそう脱力して目から水がでた。
「帰りましょう、和希さま」
そう言って俺の手を握ったユキの表情は、あと2分でホットケーキ裏返しますよ、って言うときみたいに平然としていた。その片目は変態の反撃にあって窪んで、左腕は妙な方向に曲がっていた。
「ごめん、俺・・・が、助けたかった、のに」
「・・・帰りましょう、和希さま」
「ごめん、なんか本当ごめん」
「帰りましょう、和希さま」
ちょっとなんだよそれ、クールにもほどがあるだろ、ってかお前は妹じゃなく弟だったのね・・・・いいけど、お前どうにか無事だったし・・・そう変な愚痴と鼻水としゃっくりが止まらない俺の手をユキは握って離さなかった。
マスターの成長と共に体組織を作りかえるコイツは13歳位から、男の容姿をおびはじめ今じゃ完全に男だ。

「アンタは大事な息子で、あの父さんの子なのよ、四六時中そばにいるアンドロイドが異性の容姿だったら色々ヤッバイでしょ、ちゃんと考えてあるのよ」
母親はカラっと笑い、親父にいたっては
「父さんの好色のおかげで世界1美しいアンドロイドがお前のそばにいるんだ、感謝しろ」
そう偉そうにする始末・・・・いいだろう、感謝だってしてる。
好色なこと、それが遺伝しているのも納得。色々ヤッバイ俺は確かにアンタの息子。そんで、

「到着しました、和希さま」

コイツにユキにアンドロイドに、不毛な恋をしている。

「到着しましたよ、和希さま・・・?」

道具としての役割じゃない、命令の結果じゃない行為をコイツに求めている。
動かない俺を気にしてユキがこっちを改めて向いた。
その白い手を引き寄せて、首に腕をまわして
じゅずずっ・・・と、べろチュー
・・・・を、してもコイツは大した反応を見せない。

「今の行為は?」
「べろちゅー」
「はい、記憶しました」
そして・・・2秒後
「記憶領域にブロックが入りました、今のデータは削除されました」
すばらしきブロック、バンザイ18禁フィルタリング!!

なんだろう俺はバカなのかな、バカなんだな、知ってるよ。
知ってる、別にフィルタリング外れたからってどうなるわけでもない。
全部わかっている。それでも諦めきれない。

「なぁ、ユキ」
「はい」
「好き・・・・はい、リピートアフターミー」
「好き」
「そのあとに俺の名前つけて、はいっ」
「好き、和希さま」
「俺もだよ」

俺はユキを見つめる。ユキも見つめ返す。
心拍数があがる。顔に全身に血がめぐり沸騰する。
コイツに「欲望の対象として認識」されたい。
コイツに「マスターとしてではない存在意義」を持ってほしい。
車内は静まりかえっている。自分の心臓の音がうるさい。
白い花弁を撒き散らしたみたいに一瞬吹雪いた外の景色が衝動を点火させた。
ユキスキユキスキダユキネエタノムカラ・・・っ
爆発した感情が勝手に俺の手を動かしてその顎先をとらえた。
顔が近づいて・・・

「私はPO社型番34284SSDアンドロイドです」
うっわー雰囲気台無し。
「・・・今の、フィルタリング領域のセリフかよ」
「はい。対象行為に入るとオート発言でプログラムされています」

スバラシすぎアンドロイド作った奴、ってか18禁ダメ絶対フィルタリグ作った奴の技術点高すぎ・・・マジで馬に掘られて死ね。

「・・・アンドロイドでも妹でも男でも、お前が好きだよ」

車を出ると頬に雪がはりついた。この冷たさが恋にワいてる俺を少しでも冷やしてくれたらいい。祈るみたいに顔を空に向けて口をあけた。
雪を食べよう。そうだ雪だ。
ボンネットの上にひっくり返って大口開けた俺にユキはすこし黙ってから口を開いた。

「和希さま」
「んあ?」
「和希さまが人間でも兄でも女性でも、好きです」
「へえ、今のもオート稼働領域のセリフ?」
「いえ、先ほどのリピートアフターミーを改良したものです」
「へーえ、んじゃもっと改良して」
口を開け続けてる俺の顔に、今の外気よりほんの少しあったかい温度が、やわらかい感触が触れた。
「い、い、い、今のなっ?」
「・・・ゆきですね」
「いやいや、ゆゆっ雪、はっ、んなっあったかくないだろ!」
「異常気象ですね」
「いやいやいやいや」

奇跡か、天変地異か、バグか・・・ぜんっぶ俺の妄想かっ?!
これは夢かと頬をぺちぺちしていた俺の手をユキが握った。

「帰りましょう、和希さま」

・・・俺は、夢なんて見てない。

シカカイ
10
グッジョブ
3
愛姫 15/10/17 01:46

「白雪姫ーキター!!」に思わず笑ってしまいました。
胸がほっこりする可愛らしい作品でした。

きなこchun 15/10/20 08:46

コミカルな感じが好きです!
楽しく読めました(﹡ˆ﹀ˆ﹡)♡

ロボッち 15/10/20 09:21

軽く読める感じがすごく良かったです!
こういうの好きだな~。
吹き出すとこもあって、ほんと面白かったです!

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