>
>
>

第3回 BL小説アワード「怪談」

えぐるさん

キスまで/微グロ・暴力表現あり/告白

 だから、俺はこの目で確かめたい。17歳になった今日。このままでは勝ち目のない夢を叶えるために、えぐるさんに会いたい。

ちかやん
グッジョブ

「……これで、よし」

 17歳の誕生日に、校舎の一番奥の空き教室で、使われなくなった机を円形に並べ直して、17時前にその円の中央に立つ。そして、叶えたい願いを思い浮かべながら待ち続けると、どんな願いも叶えてくれるヒトが現れるのだと。
 それが「えぐるさん」と呼ばれる、この変哲もない学校に伝わる伝説だ。
 どうしてそんな恐ろしい名前がついているのかわからないけど、元々は「江口さん」から始まったとか、心をえぐるような気持ちにならないと願いを叶えてくれないとか、真偽はわからない。そもそも「えぐるさん」自体が真偽不明だ。
 ただ、伝説として残っているだけで、誰もその儀式をしたという話は聞かない。「えぐるさん」の儀式を行うと前もって宣言するとえぐるさんが来ないとか、逆にえぐるさんに会った後から儀式を行ったことを誰かに話すと願いを叶えられない上に不幸になるとか、そんなもっともらしい話も耳にする。
全て噂だけれど。
 だから、俺はこの目で確かめたい。17歳になった今日。このままでは勝ち目のない夢を叶えるために、えぐるさんに会いたい。
 円の中心で、俺は瞼を閉じて、深呼吸した。

「あれ、ミヨシ? こんなところで何してんの?」
 背後から声をかけられたことで、少し驚きながら振り返った。
「なんだ、庄ちゃんじゃん……、びっくりさせないでよ」
「いやいや、そんなとこでつっ立ってるほうが驚くわ!」
 庄ちゃんはけらけらと笑いながら、俺の近くへと歩み寄って、円形に並べた机の一つに座った。
「で、結局ミヨシはなーにしてんのさ。UFOでも呼んでんの?」
「そんなに俺がオカルト大好き人間に見えんの?」
「いーや、全然。むしろ縁遠いでしょ」
 とはいえ、今までやってたのはオカルトの最前線みたいな感じだったけど。
 ふと考える。これって儀式失敗したのか?
「えぐるさん」の噂は断片的にしか聞いてないから、途中で誰かが入ってきた時のことは知らなかった。儀式の最中に「儀式をやっている」ことがバレたらどうなるのかすら。
 まさか知り合いに、親友に、好きで好きでたまらない相手に、出会うとは思いもしなかった。

「なぁ。そういえばミヨシって、今日誕生日でしょ?」
 俺が考え込む静かな空気の中で、庄ちゃんがいきなり直球の言葉を投げかけた。
「えっ、まぁ、そうだけど……。ちょっと待って、なんで知ってんの?」
 庄ちゃんに直接話したことは無いはずだ。むしろ誕生日のお祝いムードみたいなのは少し苦手だから、誕生日そのものを誰かに言いふらしたことはほぼ無いはず。
「ほら、4月に身体測定した時にさ、身長とか体重とか医者に書いてもらうカードあるじゃんか。そこに生年月日書いてあるのを、たまたま見てさ。あーこの日なんだーって思ってさ」
 別に大した日じゃない、七夕とかわかりやすい日付ではない。それでも、今日が誕生日だと覚えてくれてたことが、少し嬉しい。
「でさ、昨日、俺の誕生日って知ってた?」
 初耳だった。
「えっ、あっ、そうなの!? おめでとう!」
「いや、おめでとうは、ミヨシもそうじゃん。ありがとう、そして、おめでとう」
「あ、ありがとう……。そうなんだ、昨日だったんだ……」
「だから、ミヨシの誕生日見た瞬間に、俺の次の日だから忘れないようにしようって決めてたんだ。俺もそうだけど、ミヨシもあんまり誕生日を自分から言わない人間に見えたし」
 確かに、庄ちゃんも誕生日を言わないように感じた。俺自身が興味ないから、他の人の誕生日にも興味を抱かないこともあるけど、さすがに好きな人の誕生日は知っておくべきだったかな、と。今になってそう思った。
 でも、誰かが誕生日になったら「そういえば、お前の誕生日いつ?」という話の流れになるはずなのに、庄ちゃんはそれに応えていたのかよく覚えていない。俺もあまり聞かない。
 もしかしたら「えぐるさん」の伝説によって、誕生日を聞いたり話したりするのを遠慮する傾向にあるのかもしれない。願いを叶えられるかもしれない特別な日だから。誰にも邪魔されたくない、と思うのは無理もない。

「それでさ」
 庄ちゃんがそう呟いたら、立ち上がって俺に前からぎゅっと抱きついてきた。
「えっ、ちょっと、庄ちゃん?」
 驚かないわけにはいかない。一気に顔が紅くなるのを感じた。心臓が飛び跳ねそうになって、鼓動が早くなる。庄ちゃんにもこのドキドキが伝わるようで、怖い。
「俺もさ、こうやって、ここで昨日やったんだ。『えぐるさん』の儀式」
「えっ?」
「願い……叶っちゃったかな」
 庄ちゃんは俺の耳元でそう呟くと、さらに腕の力を強める。身長はそこまで変わらないから、俺の鼓動が間違いなく庄ちゃんの心臓にまで伝わってしまう。
「好き。ミヨシが好き。キスしたいくらい、好き」
「……うそだぁ」
 俺は反射のごとく呟いた。
「嘘じゃないって」
「だって、こんなこと、信じられないって」
「ホントに。ミヨシが好きなんだって。誕生日を知ってから、気になっててさ。顔も性格もかわいいし」
「そ、そんなことないって……」
「そんなことあるから。でもさ、男同士だしドン引きされたら嫌でさ、『えぐるさん』にお願いしたんだ。明日の誕生日に告白するから最低限ミヨシに嫌われませんようにって」
「そんな、嫌うわけないって。だって……」
「だって?」
 庄ちゃんが抱きしめる腕の力を緩めて、俺の顔を確認しようと、両手は俺の肩に乗せたまま身体を離す。俺は庄ちゃんのじっと見てくる大きくて青い目に弱い。見られてると思うと恥ずかしくなる。庄ちゃんは顔がしゅっとしていてカッコいいから、余計に。
「俺だって、俺だってえぐるさんにお願いしたの、これだから! 庄ちゃんと恋人になれますようにって!」
 庄ちゃんが一瞬だけ驚いたような表情を浮かべたみたいだったけど、すぐに満面の笑みになってこう言った。
「知ってた」

 庄ちゃんは、そこから何も言わないまま、俺の顔に、唇に、自分の唇をくっつけた。
 柔らかく、暖かく、永遠に触れていたいキスを。何度も何度もする。その度に俺はドキドキして息が出来なくなりそうになる。
 俺は恥ずかしくなって、瞼を閉じた。恥ずかしいはずなのに、求めてしまうように、庄ちゃんの身体を抱きしめる腕の力を強くしてしまう。
 庄ちゃんはそんな俺の期待に応えてくれる。舌も突き出して、俺の閉じた唇のところで暴れるように舐める。力が抜けてふっと唇が開いてしまうと、そこから中へと捩じ込む。舌同士が触れ合い、唾液が交わる。絡め取るようにお互いの舌を舐め合う。
 俺はだんだん意識がぼんやりしてきた。庄ちゃんはどんな顔してキスをしてるのか気になって、うっすらと瞼を開いた。真っ直ぐ俺を見つめる、鋭い視線が見えて、俺は一気に身体の力が抜けた。
「わっ、ちょっと、大丈夫? ごめん、無理させた」
「い、いや、大丈夫。ドキドキしすぎただけだから」
「ごめん、いきなり飛ばしすぎたわ。ちょっと座って休憩しよう」
 そう言うと、庄ちゃんは俺の身体を支えて、教室の壁際まで連れていき、壁にもたれるように座らせた。隣に座る庄ちゃんは俺の前髪に触れて、かわいいとただ一言呟いた。

 何分間か息を整えるように休憩した。その間、俺の心臓は落ち着かなかった。こんなに夢心地なこと出来るなんて思わなかった。これも「えぐるさん」のおかげだと感謝していたところだった。
「そういえばさ、『えぐるさん』の本当の話って知ってる?」
 唐突に庄ちゃんが呟いた。俺は噂程度でしか聞いたことない部分を全て話すと、庄ちゃんは左右に首を振った。
「本当の話は、もっと怖いんだって」


――確かに、江口さんという先輩がこの学校に昔いたんだって。で、江口さんには好きな人がいたんだ。
 その相手は一年生からレギュラーで野球部のエースだったくらい上手な人だったんだ。
 でも、その才能に嫉妬した他の部員が、ある雨の日に自殺に見せかけてエースの人を殺したんだ。もちろん、当時は警察も技術が発達してないし、遺書も作られてたから、自殺扱いで通ってしまってたんだ。だから犯人たちはお咎めなし。
 それどころか、エースを失った分レギュラーになって、弔い合戦のようにチームは一致団結して、甲子園の県予選も勝ち進んで、ついには決勝にまで行ったんだ。
 それに対して、江口さんは激怒したんだ。エースの人からは野球部について相談を受けていたし、自殺じゃなく殺されたんだってわかっていたんだ。
 だから江口さんは、決勝の前日に犯人たちをこの教室に呼び出して、全員殺したんだ。心臓をナイフでえぐって、野球ボールみたいに投げて、潰したんだ。
 江口さんはもちろん警察に捕まった。そこでの供述で「夢を叶えようとする人間は許せなかった。あいつが見られなかった夢を見ようとする奴等を生かしておく訳にはいかなかった」って。
 江口さんはそれからすぐに何故か亡くなったんだ。野球部もこの不祥事で県予選を辞退した。
 江口さんの復讐は叶ったんだ。でも、エースに好きという気持ちが伝えられなかったのが心残りなんだ。だから、こうやって「えぐるさん」の伝説が生まれたんだ。

 俺が叶えられなかった夢を叶えようとする人間を、同じようにえぐって潰すんだ――


「それ……詳しすぎない? なんで庄ちゃん、そんなに知ってるの?」
「え?」
「だって、この学校の人でもそこまでの噂って聞いたことないよ。そんなの、残酷だし」
「そりゃあ、こんな残酷で不都合な真実を知ったらさ、こんな伝説を信用しようと思う?」
 僕は首を二、三度振る。
「だよね」
 庄ちゃんはクスクスと笑った。
 違う。何か、おかしい。
 俺の中で何かが引っかかる。
 この話通りなら、「えぐるさん」が願いを叶えようとする人間を、潰そうとしている?
 俺も? そして――
「気付かなければ、よかった」
「ん? ミヨシ、どうした? 何が?」
「庄ちゃん、そんな怖いことを知ってて、なんで昨日、この儀式やったの?」
 庄ちゃんのクスクスと笑っていた顔が、一瞬のうちに何かを睨みつけるような真顔になった。明らかに、矛盾を突かれたのだと言わんばかりの、表情だった。
 それでも庄ちゃんはすぐに微笑みに戻る。端正な顔つきの表情筋を動かして。
「母親から色々聞いてたんだよ。ここの学校の卒業生でさ、願いを叶えたとしてもえぐられないような対処を俺は知ってるから」
「庄ちゃん……それ、本当?」
「ああ」
 そう言うと、目の前の男は改めて抱きしめようとした。俺はその腕を跳ね退けて、立ち上がりつつ距離を取った。俺は慌てて、袖で口を拭った。
「あんた、誰?」
「……え? 何言ってんの、ミヨシ。クラスメイトで、恋人になったばかりの、庄原恵一だって」
「さっきの昔話、お母さんから聞いたって?」
「そうだよ、それがどうしたんだよ。ミヨシ、どうしたの? 怖くなったの?」
「じゃあさ、俺のミヨシって苗字、そこの黒板に書いてみてよ。漢字で」
「え? いや待って、ミヨシ。話がよくわからないんだけど……」
「早く」
 俺が厳しい口調でそう言うと、理解のできないような顔で、彼は黒板に近寄って、白いチョークで大きく漢字を書く。
 ――三吉――

 その瞬間、この男から遠いドアに向かって走った。扉を開けようとしたが、開かない。内鍵はかかってない。それでも、何度試しても開かない。
「ミヨシ、どうしたの?」
 庄ちゃんと同じ姿かたちをした男は近寄りながら不吉な笑みを浮かべている。俺にはそうにしか見えなかった。
「あんた、庄ちゃんじゃない!」
 俺がそう叫ぶと、窓の方に駆け出した。重なった椅子を一つ持って、窓ガラスに向かって、投げつけた。
 椅子は窓ガラスにヒビ一つ入れることなく跳ね返った。
「どうして……」
「邪魔されたくないから、結界を張ったに決まってるだろう?」
 男はニヤニヤと俺の方を見る。
「あんた、誰だよ」
 もう一度同じ質問を男に問いかける。
「むしろ、どうして俺が偽者だとわかった? 完璧だったはずだろう? 教えてくれよ、何もしないからさ」
 男はその場で立ち止まって、外国人のようにわからないと言いたげな両手をふわっと上げるポーズをした。
 俺は油断をしないように、椅子や机を挟みつつ、警戒をしながら答える。
「まず、俺の苗字はその字じゃない」
 本当の漢字を教えてやる義理はないが、俺の苗字のミヨシは「三次」なのだ。
「それに、庄ちゃんの母親が、この学校の卒業生ではないし、そんな昔話を知っている訳もないし、そもそも話が出来るわけがない」
「おいおい、どうしてそこまで断定できるんだ?」
 本気でわからないようで、鼻で嘲笑うように俺に言葉を投げつける。
 俺は、一呼吸置いて、こう答えた。
「庄ちゃんの母親は、生粋のフランス人だ」

 庄ちゃんのしゅっとした端正な顔立ちは、フランス人で美人の母親譲りだった。一度庄ちゃんの家に遊びに行って出迎えてくれた時に感じたのが、青くて大きな瞳がそっくりだということだった。
 それと庄ちゃんの両親はフランスで結婚し、庄ちゃんが小学校の頃に日本人の父親の都合で日本に移住してきたという話も聞いた。今でも、母親は挨拶程度の日本語が話せるくらいで、庄ちゃんの家ではほぼフランス語で会話しているという。俺は「ボンジュール」と「メルシー」以外のフランス語はわからず、庄ちゃんの通訳無しでは庄ちゃんの母親と会話すら出来なかった。庄ちゃん曰く、母親は元々親日家だったが日本に移住するまで来たことがなかったという。
 だから、この男の言うことはありえないことだらけだったのだ。

 その事実を突きつけた途端、男は落胆した様子で顔を地面に向けた。
「そんなの、この学校にいてわかる訳ないだろうが!」
「怒りたいのはこっちの方だ!」
 俺は騙されて、好きな人間ではない者を相手にキスまでした。それがどれだけ苦痛なのかこの男はまるでわかっていない。
「お前は最後まで騙し通せば問題ないんだろう? 偽者だとバレたからって、なんの傷も負っていない。じゃあ俺は、俺の気持ちは、あいつを好きな気持ちを傷つけられて、えぐられた気持ちはどうしてくれんだよ!」
 そう一気に言葉でぶつける。
 相手の男はゆっくり立ち上がり、俺の顔を見た。
 端正で優しげな顔だった人間とは別人のように、酷く醜く嘲笑うようにこちらを見て、一言呟いた。
「知るか」
 その瞬間、俺は円形に並べた机を一つ持ち上げ、男に向かって投げた。男は軽やかに机を避け、机は大きな音を立てながら床に落ちる。
「……ふざけんなっ! ふざけんなっ!」
 苛立ちが止まらないまま、叫ぶ。そしてもう一つ机を投げる。再び、男は避けようとするが、何故か足がもつれたように倒れた。その倒れた身体の上を、机は通過していった。今度は教室のドアにぶつかり、当たった部分は衝撃で凹んだ。
 俺は倒れた男に近寄り、机を持ちながら男に向かって振り下ろそうとする。
「わあああああ、待て待て待て!」
 男は慌てて、俺が持ち上げる机を抑えた。
「こんなカッコいい顔を傷つけて、お前の心は痛まないのか?」
「俺の好きな気持ちを傷つけておいて、よくそんなバカなこと言えるな! 心の芯から腐ってるな。あの昔話の、江口さんに殺された野球部の人間みたいだな、アンタ」
「なっ……」
「そもそも俺の好きな庄ちゃんが、そんな心の腐った人間じゃないのは俺がわかってるんだよ。顔のつくりが一緒なだけで、人間そのものが一緒だと勘違いするほど俺は愚かでもバカでもない。お前と一緒にするな!」
 そう言うと、俺は抑える男の手を、足で振り払い、再び机を振り下ろす。今度は男の頭に当たった。
「ぐはっ……、なんてね」
 全力の衝撃を与えたものの、男は比較的ダメージをさほど受けていないようだった。少なくとも、声が出て、すぐに立ち上がるくらいには。
「もう……一発くらいなら耐えられるかな」
「じゃあもう一発」
「わーっ、待て待て! ここから出してやる、出してやる方法教えるから、もう痛いのは勘弁してくれ!」
「……偽者の言葉を信用できると思うか?」
「これは本当だから、もうやめてくれ」
 俺は机を再び握りしめた。
「なら、まずはお前の本当の姿になれ。それが条件だ。今の姿のままで殴るのは俺も気が進まない」
「それは、無理なハナシだな」
 机をしっかり持って、男の頭上に乗せる。
「ちょっと待って、理由を聞け! この儀式はお前が叶えたい希望に沿った姿になって、俺が目の前に現れるってもんだ。だから、お前がこの姿の人間に逢いたいと願った以上、無理だ、変えられない」
「……それなら、今すぐここから出る方法を教えろ」
「あっ、ああ……、それなら簡単だ。そこの掃除ロッカーを開ければ良い。そこがこの結界を破る鍵になっている。そこが開けば、お前は外に出られる」
 俺は机を床に落とした。この男の言葉を信用していいのか、わからなくなってきた。
「お前が、開けろ」
 俺が脅すように言うが、男は諦めたように首を横に振った。
「出来ない。俺はそのロッカーには触れない」
「どうしてだ。俺の身体や、その机には触れただろ?」
「いや……、だって……」
 そう呟きながら男は立ち上がった。その姿は、俺から見ればまるで目眩をしたのかと思うくらいに、身体が分裂しているようだった。男が……男“たち”になっていく。
 その男たちの姿は、どう見ても野球部のユニフォームを着ていて、胸の周辺が赤く染まり、貫かれたように穴が空いていた。
「……俺たち、お前を同じようにしたいだけだから、逃がすわけねえだろぉ!」
 複数の男たちが同じ言葉を同じタイミングで叫ぶ。窓ガラスがビリビリと震える。
 直感でわかる、これはやばい、早く逃げないと、と。
 俺は、すぐに教室の後方に、ドアの近くに立つ、冷たく暗い掃除ロッカーに近付き、急いで扉を開ける。
 そこで、俺は、見てしまった。
「あ、あっ、ああああああああああああああああああああああああああああああ――」

――――――

「……そして、三次君は野球部の亡霊たちに心臓を貫かれて、殺されて、そのロッカーの中に閉じ込められてしまいました。そんな話が出てきたから、先輩の学校では、その教室に入ることは禁止されたんだって。これで、『えぐるさん』の話はおしまい」
「……やべぇ、なにそれ怖いわ」
「ねぇ、最後、三次君は何を見たの?」
「なんだと思う?」
「私が思うに、本物の庄ちゃんじゃないのかなって」
「ああ、やっぱりね。そう思うよね」
「違うの?」
「いや、俺も本当のことは知らない。ただ、この話を教えてくれた先輩は、庄ちゃんなら一番ショックだろうねって。その先輩も女子だから、そう思う人多いのかも」
「……おい、まだ百物語も序盤なのに、こんなに怖い話すんなよな。早く次行こう、ろうそくの火消して」
「でも、まだ続きがあるんだけどさ」
「えっ? なになに?」
「もうやめろよ……何話す気だよ」
「いや、その教えてくれた先輩がさ、三次君と庄ちゃんはどうなったと思う? って最後に俺に聞いたんだよ」
「それで、なんて言ったの?」
「俺は全く見当違いのことを言ったんだけどさ。先輩が言うには、『三次君と庄ちゃんは、ぽっかり空いたお互いの心臓の穴を埋めるように、そのロッカーの中で誰にも邪魔されずに、いつまでもいつまでも永遠のキスをしていたのでした』って。おとぎ話のように、聖母のように暖かく笑いながら言うんだよ。怖いだろ?」

ちかやん
グッジョブ
1
三元トン 16/07/09 00:20

怖いけど面白かった。(^○^)

コメントを書く

コメントを書き込むにはログインが必要です。