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第4回 BL小説アワード「再会」

極夜の彼方にひとつぶの

上司×部下/エロあり/ミントタブレット

ゲイだと自覚して開き直っている自分と、どこまでもフツーに踏みとどまりたい彼との間には、どうしようもない距離がある。好きになるほどに、好きになってはいけない人だった。

イブキサトウ
グッジョブ

 今でも、冬が近づいて夜が長くなるたびに、
 ミントタブレットの新しいフレーバーが発売されるたびに、
 あなたのことを思い出す。



 森屋智仁が、大学三年生の秋インターンを地元である北海道じゃなくて、わざわざ遠く離れた東京を選んだのは、ひとえに、新宿二丁目に行ってみたかったからだ。
 地方に住む人間にとって、テレビやネットで知る新宿二丁目はまるでゲイたちの楽園だった。隠し続けて押しとどめてきた性癖をオープンにできる場所。だれかの噂に怯えなくてもいい場所。そんな風に見えていたのだ。
 飛行機で東京へ飛び、あらかじめ契約していたウィークリーマンションに着いた。そして考えられる一番おしゃれできれいな服に着替えて、前もって調べておいたゲイバーに向かった。出会うだけならば発展場も考えたがハードルが高かった。初めての人でも行けて、女性やノンケの来ない観光地になってないところ。そのバーは、そうやって探し出した場所だった。
 店を開けると、いくつかのカップルとグループが仲良さそうに盛り上がっていた。イカニモな常連が醸し出す雰囲気に怖気づく。こちらから話しかけないと仲間に入れないのはわかっているが、森屋は緊張に身を竦ませた。自分の知らない話題で盛り上がる教室での居心地の悪さに似ていた。バーカウンターの端っこに座って甘いだけのカクテルを一杯、二杯と飲んでいくたびに、居心地の悪さが増していく。二丁目デビューは失敗かと店を出ようとしたとき、ふいに話しかけられた。
 おしゃれなスーツに、黒髪の短髪。森屋よりも十センチほど上背がある。年上の爽やかそうなサラリーマンだった。
「はじめての人?」
森屋が頷くと、彼はほっとしたように微笑んだ。
「俺もなんだよね。隣いいかな?」
ビールを持ったまま隣のスツールに座った彼は、店にいるほかのゲイと違って、独特の雰囲気もなくて逆に親しみが持てた。
「じゃあ、初めて同士、乾杯」
 最初こそ、なんてことない世間話をしていた。けれど、東京で初めて出会った喋った同族の人に、ずっと緊張してきた糸が緩んだことと、すこしの酔いが、森屋の口を軽くした。北海道からインターンに来たことや、ゲイであることが無性に苦しくなること、だから、二丁目に来たことも。だんだんと深刻になる内容をひとしきり喋りつくしてしまったにもかかわらず、男は「辛かったんだな」とやさしく頷いてくれた。ずっと胸につかえていたものを吐き出せて、みっともなくも泣きそうになった。それを隠したくて、唇の裏を噛んで、あたかも鼻炎ですよ的に鼻をすすっていると、あたたかい大きな手が、ふわりと頭にのせられた。
 そのまま頬に触れられ、親指でまつ毛についた涙のかけらを撫でられる。じわりと胸の奥が騒いだ。
「俺が今日ここに来たのは、自分がゲイなのか確かめたかったんだ。いままで当たり前にヘテロだと思ってて、でも女と付き合っても違和感がずっとあってさ。……君と話してみて、疑惑は確信になっちゃったけど」
 自嘲するように笑った顔が、あまりにも孤独に満ちていた。
 この人は、どんな気持ちで女性を抱いてきたのだろうか。
「……たぶんこのまま俺は、職場にも誰にも言わずに、明日も『フツーの人』のふりして会社にいくんだろうなぁ」
「辛くないですか」
「それでも、会社にバレるほうが怖いよ。仕事もいままで通り出来なくなるだろうし。もう、この店にも二丁目にも来ることはないかな」
 社会人としての重さは、学生である森屋には分らなかった。だからこそ、初めて出会ったこの人のことをもっと知りたくなった。
 彼のそばで、もっと彼の声を聞いていたい。
 どうしたら、すこしでも彼の孤独は埋めることができるのだろうか。そう、考えてしまった。
 たぶん、もう、自分はこの人を好きになっている。
「あなたの、名前を聞いてもいいですか? 僕は、森屋智仁っていいます」
「こういうところで、迂闊に名前を教えちゃだめだよ」
 やんわりと制されて、都会のルールを知らない自分の幼稚さに恥ずかしくなって、森屋はうつむいた。勝手に好きになって、失恋して、傷つく自分の子供っぽさに言葉が出ない。
「ごめん、責めるつもりはなかったんだ。いつか、ここじゃない場所で再会できたら、そのときは教えるよ」
 いつか、という訪れることのない慰めの言葉。
 店を出るとき、彼は名前のかわりに、名刺サイズのミントタブレットをくれた。
「これあげる。さっき買ったばかりで、まだ未開封。仕事中でもこういうのは食べれるから息抜きにでも食べて。……明日のインターン、うまくいくといいね」
 そのあと、どうやって部屋に帰って来たのかは覚えていない。倒れ込むようにベッドに横になっても、あの人のことが、ずっと忘れられなかった。明日から仕事が始まるというのに。
 もらったミントタブレットを掌の中で揺らす。東京限定フレーバーらしいそれは、かしゃん、と小気味好い音がした。フィルムをはがして口の中に入れる。
 さわやかで、甘くて、ミントが辛くて、まるで今夜の恋みたいだった。



 だから、
 こんなかたちの再会で、
 あなたの名前を知りたくなかった。



 森屋が二週間インターンする企業は、新進気鋭のITベンチャー企業だった。主な業務はWEBで行うプロモーションであり、映像・記事・サイト制作などを請け負っている。社員もみなポロシャツやカラーシャツなどのビジネスカジュアルで、スーツを着なくていいのは楽だった。
 十五人ほどのインターン生は待合室代わりの広い会議室で待機していた。仲良くなれそうにない見た目はリア充そうな人たちもやはり緊張していて、スマホをいじったり意識高い雑誌を読んでいる。
 しかしそれよりも、森屋は入ってきたインターン担当者の姿に釘付けになった。
 思わず上げそうになる声を、思い出しそうになる恋を、必死に抑えた。
 あの人も、一瞬、こちらを見た。
 けど、見た、だけだった。
「はいこんにちは! 今日から君らの教育係を担当する高遠武史、29歳。これでもチーフだからな。今後、わからん事あったらどしどし聞いてよし。まずはみんな自己紹介。そんで姉のいるやつはあとで俺に写メみせてな。合コン開催経験者も言えよー」
 いきなり淀みない口調で合コンの斡旋をほのめかす彼に、緊張していた場の空気が途端に和やかになった。森屋だけが動揺していた。
 昨夜に出会ったあの人は、スーツで大人っぽくてスマートだった。
 でも目の前の彼は、明るくて女好き。
 これが、彼の『社会での姿』だった。
 ふざける学生と同じテンションで騒ぐ彼は、誰が見てもフツーの人だった。
 それでも、ポケットに忍ばせたミントタブレットのお守りが、これが現実だと教えてくれる。確かに彼は言っていた。明日もフツーのふりをするのだと。
 だから、彼の邪魔になってはいけない。
 森屋はミントタブレットを口に含んで、口の中で噛み潰した。
 とたんに広がる辛い清涼感が、動揺を抑えてくれた。森屋もフツーの人の仮面を被って目の前で盛り上がるグループに、初めましての笑顔を張り付けて自己紹介した。


 それからは彼と会社ですれ違うたび、好きな気持ちを思い出さないように森屋は努めた。あくまでここでは、教育係の高遠チーフと、インターン生の森屋でしかない。それ以上はない。
 たとえインターン生の女の子が高遠を好きなこととか、高遠が誰と合コンをしてきただとか。そんな話を聞いても薄い笑顔を張り付けて、そうなんですねと返す。
 それなのに高遠はことあるごとに森屋にちょっかいをかけ、場に笑いが起きる。ちっともなじめないグループだけど、気付けば彼のおかげで居場所がなくなることはなかった。そんな気遣いに気付いてまた好きになってしまう。明るく無邪気に笑う高遠に、ますます惹かれている自分がいた。
こんなことなら、再会なんかしたくなかった。
 そんな恨みごとを抱いても、目の前で笑うチーフは、やっぱりフツーの人で。あの夜の姿なんかみじんも感じさせない。
 自分だけが、あの夜からずっと、抜け出せないみたいだった。
 心が揺れるたびに、もらったミントタブレットを口にすることが、いつしか癖になっていた。かしゃんと鳴る音や、ミントの辛さが、森屋のよりどころになっていた。


 インターンにおける午前中の仕事は、高遠から基本の仕事を教わりつつ業務を手伝い、午後からはどうやったらいいアイデアが出るか、そのアイデアを生かすためにはどうしたらいいかという指導をうける。そのあと学生たちで企画会議をする。というのが主な流れだった。
 企画会議は、インターン生全員で、架空のスマホゲームのプロモーションを考えるというものだった。設定は本格RPG。大まかなあらすじと、今流行りの二次元萌えキャラの設定資料といくつかの画像が渡される。インターン最終日にその企画を社員の前で発表して評価される。
 慣れない仕事に疲れた後に、慣れない同期との話し合いが連日ある。
 しかも、ほかのインターン生の出す企画は現実離れした理想論ばかりだった。森屋は異論を唱えたかったが、引っ込み思案な性格が口を重くし、その間にほかのインターン生が賛同してしまい数の有利で議論が進んでしまう。そもそも、真剣に会議をするなら、居酒屋なんていう場すらあり得ないと森屋は思った。話はすぐに脱線する。それでもインターン終了までには形にしないといけない。
 森屋は紙の上だけの企画をなんとか形にするために、居酒屋での会議の後、会社に戻った。
 複合ビルの時間外出口の警備員に会社に連絡をとってもらう。社内にはまだ正社員が残っているようだった。夜9時を過ぎたビルは暗く、一見誰もいないようだった。入口の前に立ち、中から扉が開くのを待つ。インターン生は社員証がないので、許可がないと会社に入れない。誰かいれば、一緒に残業させてもらえると考え、最初からそのつもりで、酒も飲まないようにしている。
 けど今更に、自分の勝手な行動に不安になった。たかがインターンの分際で残業とか。追い返されるんじゃないだろうか。そうじゃなくても、面倒くさがられたりとか、怒られたりとか。そもそも、こんな時間に会社なんて常識外れだ。ぐるぐると思考がマイナス方向に落ちて、いっそ帰ろうかとすら思った。
「あれ、森屋?」
 会社の扉から気だるげに出てきたのは高遠だった。
「え、っと。すみません、やり残したことがあって、チーフが帰る時まででいいので、一緒に残業させてもらえたらって……」
 森屋の姿に、高遠は驚いているようだった。すこしの間があってから、彼は微笑んだ。
「ふふ、今年のインターン生はやる気あるなぁ。どうせ俺しかいないし。いいよ、おいで」
 まさかの二人きりに、森屋は跳ねる心臓を抑えつけた。
 資料を作るためにデスクのPCを立ち上げていると、高遠も自分のノートPCを持ってきて隣に座る。
「やり辛いだろうが隣でやらせてな。いちおう情報保護管理的な感じで。お前はなにすんの?」
「あらかじめインターン前に、ウェブサイトや記事の雛形をいくつか作ってたんです。画像や文章を差し替えるだけで済むんですが、家へのデータ持ち帰りができないんで、ここでやりたくて」
「えらいなぁ。効率を考えてたのはいいな。残業するのはお前だけ?」
「ええ、まぁ、誰かに任すくらいなら自分でやった方が早いんで。それにほとんどの人間って、0からつくることは出来ないくせに、他人が作ったものには平気で文句ばっか言うじゃないですか。だったらそれを利用した方がいいかなって……正直、俺は『今話題のアイドルを起用する』なんて案は、費用対効果が薄いと思ってますけど」
「まあ、アイドル起用はありがちだな。ゴールデンタイムにCMを数打てばあたる可能性はあるが、博打にそんな予算は使えねーな」
「スマホゲーは課金が前提なので、アイドル目当てのライトユーザーよりもヘビーユーザーの獲得が先決かと。それに、ネット上での話題性だけを考えるなら、ただひたすら燃え続ける薪の映像の方がよっぽど低予算で話題性だけはありますけどね」
 話し出したらとまらない森屋に、高遠は笑いをかみ殺した。
「森屋ってふたりだとよく喋るし、実は毒舌だよな。普段は隅っこで静かなのに」
 自分のコミュ障とオタク気質を指摘された気がして、閉口した。普段喋れないくせに、一度火が付くと早口でどんどん喋ってしまうこの性格が恥ずかしい。
「……っすみません」
「謝るなよ。かわいいなって思ってたのに」
 一瞬で、顔が火照ったのが分かった。高遠は深い意味なんかなくて何気なく言っただけなのに、かわいいという言葉が頭の中で反響する。
 卑怯だ。毒舌なんか嫌われこそすれ可愛くなんかないのに。好きになっちゃだめだと抑えるほどに、好きな気持ちは増していく気がした。顔の火照りや雑念を冷ますために、ポケットのミントタブレットを口にして画面に集中した。それなのに、隣の高遠も画面を見ながら、慣れた仕草で同じミントを食べているから、余計に息苦しくなった。あの夜くれたものが、この人とお揃いだという事実に、小学生みたいにときめいてしまった。

 作業をすすめて、そろそろ日付をまたごうとする頃だった。突然、高遠が大きい声を出した。
「うああっ、やべぇ!」
 画面を見つめたまま、低く唸るような声を出している。緊急事態だろうか。
「どうしたんですか?」
「PCフリーズしやがった」
「最終保存はいつですか?」
「……四時間前」
 その時間は事態の被害を想像するには多すぎた。高遠が飛ばしたデータは、文書、画像、映像、いったいどれぐらいなのか。あまりにもな事態に、思わず森屋も自分の立場を忘れた。
「あなた何してんですか! 曲がり何もIT企業に勤めてるんでしょ」
「いや、俺は営業とか企画がメインで機械自体には強くねぇの」
「それでも、初心者レベルのミスですよ。……ちょっとどいてください。サルベージしますから」
「え、できんの?」
「やるんですよ」
 時計を見上げて、森屋は最終電車を諦めた。復旧作業をする森屋に、高遠は言われるままに、ドライバーや使われていないPCを持ってきたり、居た堪れないのかコンビニで二人分の夜食とプリンを買ってきたりしていた。高遠はもう一度はじめからやりなおすとも言っていたが、森屋は諦めなかった。
 森屋は、高遠がインターン生の面倒をみながら自分の仕事もやっているのを知っていた。明日に大切な会議があるのも知っていた。そのための残業をしていたことも。
 彼が忙しくて疲れていて、それでも頑張っている後姿をずっと見ていたから。だからこそ、意地でも復旧させて、彼の力になりたかった。
 森屋の必死の作業の甲斐もあり、なんとかデータを復旧させた頃には、あと一時間ぐらいで空も白んでくる頃だった。2人で窓の外、東の空の端が明るくなる気配に苦笑する。
「もう朝やなぁ」
「正直、もっと夜が長ければって思ってます」
「極夜、だっけ。冬はずっと夜のままの国もあるよな。高校生のころ憧れてたっけ」
 窓の外に向けた顔がやけに寂しそうに見えて、森屋は理由を尋ねた。けれど、はぐらかされた。
「そういやさっき俺のこと『あなた』って言ったよな。――――謝るなよ? 責めてるわけじゃないから。なんか昭和世界の女房みたいで面白くてさ。これからもお前だけはそう呼んでよ」
「呼べませんよ。なにふざけてんですか」
「いいじゃん、……じゃあせめて二人っきりの時だけでも、さ」
 とっさに出てしまった、あなたという言葉を噛み締める。あなた、貴方、彼方。
 愛する人を呼ぶ言葉なようでいて、はるか遠くを示す言葉でもある。まさに、言いえて妙だ。声に出さず、口の中で、何度も繰り返す。どんなに呼んでも、とどかない彼方。
 森屋の心の揺れなど気づかないで、高遠は体をストレッチさせながら、「とりあえず仮眠して。そんで明日も頑張るぞ」と笑った。
 この会社には、ベンチャーのせいか畳張りで布団のある仮眠室がある。ちょうどよくビルの近くに漫画喫茶もあるのでシャワーも可能だ。デスマーチ慣れしている高遠は着替えすら会社のロッカーに数着あるらしい
高遠との二人きりの時間をもう少しだけ味わえることが嬉しかった。
 今度はしっかりとデータを保存してから仮眠室に布団を引いた。布団はちょうど二枚あった。薄い布団だが風邪はひかないだろう。二つの布団を並べて引いたら、まるで旅館みたいでドキドキした。そうしたら、おもむろに高遠が並べていた布団を二枚重ねにした。
「ふたりで一つに入った方がぬくいだろ」
 予想外の行動に森屋が言葉も発せずにいたら、そのまま腕を引っ張られて布団の中に連れ込まれた。ごくごく近い距離で向き合ってしまい、慌てて布団のなかで彼に背中を向けた。それでも高鳴る心臓の音はバレていたかもしれない。
「気にしなくても、七時には起きるつもりだし、誰にも見られねぇよ。せやから、……まあ寂しいオッサンに付き合えよ」
 ふざけている声が、いつもの明るい声じゃなくて、なにも言えなくなった。
「なんかさ、積み重ねてきたデータが一瞬で消えるとさ、ヤバいって気持ち以上に、どこか楽んなる気持ちもあるよな。ああ、もう頑張んなくてもいいのかなって、さ……」
 背中に彼の体温を感じた。額をぎゅっと押し付けられている。まるで縋りつくみたいに。
 「寝物語に聞いてよ」と彼は話し出した。
「俺さ、母子家庭で。もともと、就活の時も大手決まってたんだけど、そのときに母親が体やらかしちゃってさ。もし介護とかすることになっても、ベンチャーの方が社長も同期だし時間の融通も利くってことで、ここに。パソコンなんて全然できないのにな。そんで、入院費とか手術費とか払うたびに、母親が謝って。いっそ早く天国の父さんのところに行くわなんて自虐したりさ、でも死ぬまでに孫がみたいってさ。タイムリミットが近づくみたいに、母親はどんどん痩せていくし、気持ちばっか焦って」
 淡々としゃべる声は、震えていた。
「……どうして、そんな個人的なことを俺に?」
「森屋は毒舌だからさ、俺のもやもやを一刀両断してくれっかなって」
「ひどくされたかったんですか」
「ひどくされるなら、ひどくしたいかな」
「嘘つき。 あなた優しいじゃないですか」
「こんな俺にちゃんと、あなたって呼んでくれるお前の方が、よっぽどな」
「なんで、あの日。二丁目に来たんですか」
 あの時高遠はスーツを着ていた。知り合いにバレないためなのかと聞くと、苦笑された。
「スーツじゃなくて礼服な。あの日は結婚式だったんだよ」
「……まさか、好きな人のだったりしたんですか?」
「そこまでドラマチックじゃねぇな。フツーに、大学の友達。でもな、そうやってフツーの友達がどんどん結婚していくとなぁ。同期で結婚してないの、俺だけになっててさ。同じテーブルなんか、奥さんとか子供とかいたりして。……ちょっと、クるものがあったよな。やっぱ、男と女が結婚して子供が生まれるみたいなのが、あたりまえの幸せなんだろうなって。今日もさ、同期から赤ちゃんが生まれたってライン来て、みんなでおめでとーって祝って、俺はアマゾンで出産祝い送ったわけよ。次はお前だな、なんて言われたりしてさ。……そういうのに、すこし、疲れた」
 誰よりも明るく、いつだって笑っている彼の、心の奥の冷たい部分が見えた気がした。冷た過ぎて低音やけどしそうなほどなのに、高遠は慣れたようにくしゃりと笑って、フツーの人の仮面をかぶり直した。
「――――さ、寝るか。明日も仕事一杯だもんなぁ」
 高遠は重荷を吐き出してすっきりしたのか、布団のなかで体の向きをかえる。背中合わせ触れた高遠の体温がじわりとひろがっていく。
 ちっとも眠れない森屋は、ただ、彼の言葉を思い返しては、苦い気持ちに唇を噛んだ。
 ……異性を愛せない。ただそれだけで、日の光の下を歩けないような、そんな罪悪感に襲われることがある。なにも悪いことをしてないんだからいいじゃないかと、自分の心に反論してみても、理屈じゃないものに押し潰されそうになる。それを彼はもっと感じている。自分はゲイだって認めてしまっているけど、彼は世間的にフツーの人で通していて、まして『女好き』で。ゲイであることを認められもしない。認めた方が楽になるけど、そうすれば今まで以上に苦しくなる。この世界は、フツーな方が生きやすくできている。
 体を起こして、彼の顔を見た。疲れていて、働く男の顔をしていた。
 きっと今までいろいろなことを背負い込んできたんだろう彼の苦悩と努力とやさしさが、
 いとおしくて、そっと唇を押し付けようとして、
 けれど、やめた。
 彼はきっとこの先もフツーの人として生きていく。ゲイの自分が彼を引き込んではいけない。ゲイだと自覚して開き直っている自分と、どこまでもフツーに踏みとどまりたい彼との間には、どうしようもない距離がある。
 好きになるほどに、好きになってはいけない人だった。

 

 森屋の迷いとは裏腹に、インターンの最終日は訪れた。
 企画発表は、社長を含めた社員の前で行われる。チームリーダーの学生がリア充のスキルを活かしてプレゼンしていく。森屋は裏方として技術面で質問が出た際の説明を担当する。緊張でたどたどしくなってしまう自分に向けられるリーダーの視線にたじろぎながらも、なんとか発表を終える。
 社員からはやはり予算のことを苦言されたものの、概ね好評だった。社長からプロモーションサイトの出来を評価されたこともうれしかった。ちなみに、費用と話題性の例を出すときに、高遠が『ひたすらに燃える薪』の話をしたときは、思わず吹き出しそうになって、彼を睨んだ。その視線に高遠は不敵にニヤリと笑った。ふたりしか知らない秘密の共有に、やっぱりこの人が好きだなぁと、森屋はやたら冷静に実感した。
 発表の後に、高遠や社長から総括と、今後の学生としてのあり方の話をもらい、インターンは終了した。インターン生はここで退社となり、夜からの打ち上げに参加することになっている。
 一度帰宅した森屋は、荷物をまとめて部屋を掃除した。
 がらんとした部屋を見渡して、仕事を終えた達成感と、疲れと、言葉にできない胸の痛みに、森屋はベッドにぼすんと身を投げる。瞼を閉じて、手のひらで覆った。
 明日の午前中の便で北海道に帰る。
 ……二週間はあっというまだった。
 二丁目で高遠と出会って、思わぬ再会をして、どんどん好きになって、でもゲイの自分が好きになってはいけない人で。
 森屋は一日早く、部屋を引き払うことに決めた。飲み会は一次会で抜けて、その足で最後にもういちど二丁目に行く。このままだと高遠を忘れられそうになくて、だったら、誰でもいいから抱かれたかった。
 正直、恋愛じゃない人とセックスするのは簡単だ。出会い系のアプリを使えばいい。恋人がほしいと願っても、哀しいかな男は性欲が強いので結局セックスだけでも求めてしまう人が多い。一夜限りの相手は高望みさえしなければ安易に手に入るものだった。大学生になってすぐ、そうやって初体験を済ませた時は、それはもう限りなく羞恥心と罪悪感に満ちて、ひどく森屋を乾いた気持ちにさせた。それでも、そうでもしなければ、苦しかった。



 しかし、飲み会で、森屋はやらかした。
 打ち上げで全体に酔いが回り、自然と女性と男性のテーブルに分かれたころ。男性陣は一気飲みをさせ合ったり下ネタトークが解禁された。風俗体験や合コンの武勇伝が下世話に語られる。合コン好き女好きをうたう高遠も、フツーにそれを語り合う。
 息苦しさをビールで飲みこんでいると、話にノってこない森屋にほかのインターン生が絡んできた。いじりは嫌な方向に進んで、いつしかゲイなんじゃないかとからかわれた。冗談に済ませられればよかったのに、アルコールと、フツーの奴らからの理不尽なフツーへの強要、こいつらともう二度と会わないということ、そして、「キモい」と投げかけられた言葉に箍が外れた。
「ゲイの何が悪いっていうんですか! そもそも誰がどんな人を好きになろうが、それをキモいとかいう道理はないんですよ。ノンケだっておっぱいが好きな人が大多数でも、尻や脚が好きな人もいるでしょ。じゃあその人をイジメるんですか?
 それにゲイだと知った瞬間どうして自分の貞操を気にするんですか、自意識過剰ですよ。ノンケは女って聞いただけでランドセル背負った小学生から年金もらう老人まで全部すべてが恋愛対象なんですか? 女だったら誰でも襲ってしまうんですか? 
 仮に好みだったとしても、いきなり襲うんじゃなくて、普通に連絡先交換して、ご飯いって、デートして、仲良くなってから告白するとか手順踏むのが当たり前じゃないですか。ゲイだってそうですよ。ダメならそのとき断ってくれればいいんです。男女とどこまでも同じなんですよ。それを勝手に面白がって、気持ち悪がって、まるで異常で特殊な人間みたいに扱いやがって。なんでお前らフツーのやつらの常識にこっちが合わせなきゃいけないんですか!!」
 啖呵をきった森屋に、静まり返ったテーブル。唖然とした視線。
 事の重大さに気付いて、そのまま逃げるように森屋は店を飛び出した。

 悔しくて、恥ずかしくて、感情が高ぶっていて、涙が出そうだった。鼻をすすりながら、金曜の人ごみの中をかき分けていく。
「おい、森屋!!」
 振り返ると、高遠が肩で息をしながら追いかけてきていた。逃げようとする森屋の腕を高遠が掴む。
「なんで追いかけてきたんですか」
「そりゃ部下があんな風に店でてったら追いかけるだろ―――いや、そんな表向きの理由はどうでもいいか、とにかく今からラブホいくぞ」
 唐突で冗談めいた言葉のようでいて、けど、森屋を掴む腕は振りほどくことすら許さない強さがあった。
「な、に言ってんすか、チーフは合コンだって行く『フツーの人』で、結婚したいんでしょ、それに、職場ではバレたくないってあのとき……」
 だから、あの日のことをなかったことにした。インターン初日、教育係の高遠武史と自己紹介された。知りたくない形で彼の名前を知った。高遠が女の人の話をするたびに、「会社に隠してる」と言った言葉を思い返して、森屋もフツーのふりをした。やさしい言葉も、揺れた気持ちも。全部ポケットの中のそれに押し込めて、お守りにして、ずっと。
 抗議する森屋の視線に、高遠は苦しそうに眉根を寄せた。
「だってお前がさ、あの時、キスしてくれないから」
 掴まれた腕が強く引っ張られた。その勢いで高遠の胸にぶつかる。ポケットのなかで、ミントタブレットがかしゃりとなった。それは自分のか高遠のものなのかはもうわからなかった。
「頼む。キスさして」
「……ほんと、ひどい人ですね、あなたは」
 笑ってやろうとしたけど、我慢していた涙が、そこで流れてしまった。あの夜みたいに、慣れた仕草で、まつ毛の涙のかけらを拭われる。
 目を閉じたら、あまりにも自然に、唇が重なった。きっと通行人の誰も気が付かないくらいの一瞬。でもその一瞬が、森屋の体に火をつけた。

 近くのラブホには、男同士の利用を断られた。次に電話したビジネスホテルはすぐにツインが取れて、世間なんてそんなもんだと笑った。
 森屋がチェックインする間に高遠にコンドームとローションを買ってきてもらう。先に部屋にあがって、すぐにバスルームで準備をした。男の体は、セックスしたくてもすぐにできないのがもどかしい。それに女性しか抱いたことがない高遠に、すこしでも気持ちよくなってもらいたった。
 裸のままノックされたドアを開ける。扉が閉まるなり、熱い舌がねじ込まれた。
さっきの触れるだけのキスとは違う。舌の根を強く吸われて、息ができない苦しさに高遠の腕に縋ると、ベッドに押し倒された。
 二人分の体重をうけて、スプリングが跳ねる。高遠は自分の着ていた服を乱雑に床へ投げ捨てた。電気を消す暇すら惜しいと重なってくる高遠にはもう、フツーの人のかけらなんてなかった。男の体を見て欲情する、フツーじゃない本能にまみれていた。
 やわらかさの微塵もない胸に吸い付かれて、思わず口を塞いだけど、かすれた声で「聞かせろ」と言われる。羞恥心に堪えていたが、しつこく舐めしゃぶられて、陥落する。
「っんぁ、はっ、」
 摘ままれて、噛まれて、赤く腫れぼったくなるころに、下半身にも触れられた。まるで男とセックスしていることを確認するように勃起したものに触られる。弱い所を弄られて、さらに声をあげさせられる。先を欲しがる手に、すこしも濡れない穴を撫でられて、悔しくなる。
「ローション、貸してください」
 パッケージされたローションの封を切って、手のひらに垂らす。指先でその液体を体内に入れ込んでいると、高遠の手に阻止された。
「俺がやるから」
 風呂場で慣らしていた場所に、高遠の固い指が入る。最初は入口を探っていた指が、中がやわらかいのを知ると、ローションを足してもっと奥に入ってきた。早く繋がるために、性急に解される。
「も、大丈夫ですから、はやく、」
 セックスする準備はできていた。森屋の言葉に、高遠はコンドームをつけて、そこに先端を当てた。熱いそれが体内を貫いていくすこしの傷みと圧迫感。
「あっ、あぁあ――」
 男を知っていてよかったと思いながらも、この人が初めてじゃないことに苦しくもなる。本当に自分はこの人を好きなんだなぁって実感して、そんな相手と今夜しか愛し合えないという事実に泣きたくなる。
「チーフは、っあ、気持ち、いいですか……」
 きっと、気持ちも性欲も伴ったこんな気持ちいいセックスなんて、もう二度とできないんじゃないか。そう悟った瞬間、森屋は高遠の背中を抱きしめた。
 今夜が最後の日なら、いっそ明けなければいいのに。
 明日になれば、飛行機で雪の国に帰らなければならない。夜明けが寂しい。
 今更に、夜明けを恐れた高遠少年の気持ちがわかる。
 朝になれば、フツーの人のふりをしなければならない。
 でも、今夜だけは、

 目を覚ますと、体中が傷んだ。
 体を起こすと、高遠がミントタブレットを口にした瞬間が見えた。うつろにそれを眺めていた森屋に気付いて、高遠がタブレットを口移しする。
 場違いなくらい爽やかで辛いミントの味に、2人で笑った。
「やっちゃったなぁ」
「やっちゃいましたね」
 笑う瞳の奥は、暗い。その表情に、心臓が傷んだ。
「男とセックスは絶対しないって、決めてたんだけどなぁ。でも、最初で最後に男を抱くなら、お前がよかった」
 この人のフツーの人生に、ただ唯一の染みを残した。その罪悪感のなかに、すこしだけ優越感のかけらを見つけて、自分のあさましさに苦しくなる。あなたの長い人生のなかでの唯一になれたことが、こんなにも苦しくて嬉しくて、申し訳なくて。
「なんで、僕だったんですか」
「泣きそうな顔してたから。カウンターに座ってる時も、喋ってる時も、ずっと泣いてませんよ的に我慢しててさ。だから気になった。たぶん、俺も泣きたかったんだろうな」
 彼がフツーでいるために、自分自身にすら気付かないように何重にも蓋をして押し隠していた部分に触れてしまった。せめて、冷たい孤独は、すこしでも癒えたのだろうか。
「もう、帰るのか」
「そうですね、午前中の飛行機なんて」
 ベッドから出ようとする森屋の腕を、高遠が強くつかむ。
「飛行機、間に合わなくなります」
「逃がさねぇよ。――智仁」
 ベッドに引き戻される。うつぶせに抑えつけられた森屋の体に性器を押し付けられる。昨晩から濡れたままだったそこは、簡単に高遠の熱量を受け入れた。
 高遠がゴムをつけてないことに気付いた時には、はしたない声を上げるばかりだった。
 抱きながら高遠はひたすらに森屋の名前を呼んだ。こんなにも、求めるように自分の名を呼ばれたことなんてない。



 空港の売店で、のど飴を買った。
 だってそれはもう、ひどくされた。言葉にできないくらい、すごかった。30年近く抑え込まれていた性欲をぶつけられたのだから。
 やさしくて、激しくて、一生忘れることのないセックスだった。
 それはきっと、高遠にとっても。
 いま、彼は、この世の終わりのような顔をしている。
 たぶん、おそらく、明日からのフツーの生活を考えているんだろう。
 いっそふたりきりでずっと、夜明けのない極夜の世界にいたかった。
 でも、そんなことは出来ない。
「もうだめですよ、僕みたいな男にひっかかったら」
「俺、大丈夫かな、明日から」
 今まで見たこともないくらい、弱弱しい顔をしていた。守りたいと思った。でも、守るためには、自分がそばにいてはいけなかった。
大好きだった。幸せになってほしかった。
「きっとたくさんの女の子の中には、あなたを分かってくれるひとがいます。あなたが愛せるひとも。チーフは、見た目がさつですけど、気遣いできるひとですし、パソコンは苦手かもしれませんが、企画営業のチーフで実績もあるじゃないですか。ねぇ、インターン生の中に、あなたを好きな女の子もいたんですよ? ……だから、きっと、大丈夫です」



 飛行機の中で、泣きそうになる涙をこらえた。後悔と愛しさと贖罪と。
 すべてのはじまりのミントタブレットは、泣きながら食べてしまった。
 味の記憶は、しょっぱさにかき消されてしまった。せっかくの東京限定だったのに。
 食べ終わったミントタブレットのケースも捨ててしまおうとした。でも、できるはずもなくて。
 ただ、空っぽを握りしめるだけだった。



 冬が来て、春が来て、インターンの会社から社長面接のメールを断り、北海道の一般企業のシステム課に就職が決まって、大学を卒業して、就職して、びっくりするくらい忙しい一年が過ぎて、社会人二年目になった。あの時の味はもう販売すらされてないから、もう、どんな味だったのかも思い出せない。
 昨夜、付き合っていた彼氏に、空のケースを捨てられた。
 「だって、空だったから」と言われたら、何も言えなかった。言えないままお別れをした。価値観の違い、なんてもっともらしい理由をつけたが、自分の恋愛が長続きしない本当の理由なんて、森屋には痛いほどわかっていた。
 そろそろ、潮時なのかもしれない。あのひとを忘れろと、言われているみたいだった。
 ……あのひとは、いま、しあわせだろうか。すこしでも、孤独じゃなければいい。



 彼氏と別れた翌朝だって、森屋には仕事はある。そもそも、自分にとって人生は、大きな出来事もなく平凡でありきたりなものだった。あの二週間だけが、刺激的で、恋に溺れて、苦しくて、愛おしくて、特別だった。だからもう、何事もなく、穏やかに暮らしていくだけなんだ。そうだったはずなんだ。それなのに。
「なんで、彼方が、ここにいるんですか」
「逃がさないって、言っただろ」
 会社帰りの北海道。まだ桜には遠い冬のここに、彼はいた。
 スーツを着た高遠はまるであの時出会ったときみたいで、こみあげてくる様々な感情に、何も言えなくなる。
「業務連絡を先に言う。株式上場するための一歩として会社にシステム部を作るから優秀な人材を雇えって社長命令。ヘッドハンティングだし、給与面に対して相談できるってさ。……こっからは個人的な話」
 彼が一歩近づく。あたたかい手が、冷えた頬に触れる。
「今すぐ、お前とセックスしたい。体だけって思われるかもしんないけど、そうじゃないから」
「だって、お母さんは? 結婚とか、孫とか」
「人生って、思ってたより長いんだなってわかった。余命3年だって言われた母親ももう8年も生きててさ。この前医者に、癌の進行が止まってるみたいなことも言われたよ。ほっとする気持ちとぞっとする気持ちがあった」
 頬に触れていた手が、そのまま体を抱き寄せる。ぎゅっと苦しいほどに抱きしめられて、この人のにおいでいっぱいになる。
「俺は、ひどい人だな。母親の余命と、自分の残りの人生を天秤にかけた。いつか母親が死んで、でも俺の寿命は何十年も残ってて、残りずっと俺のこころは独りなんだって考えたら、こわくて。そしたら、ここに来てた」
 切実な声と、体を抱きしめる強さは、このひとの葛藤とやるせなさだ。フツーに結婚して子供をつくることが、孤独をいやすことなのだと、家族を安心させるものなんだと。そう、彼は願っていた。森屋も高遠のしあわせを願った。だから、目の前からいなくなった。フツーの人生にとって異性愛者の森屋は雑音だったから。
「好きなんだよ、智仁。逃がしたくない、ひどくするかもしれない。それでも俺と一緒にいてほしい」
 この人の中で、男を好きな自分とフツーでありたい自分とがずっと葛藤していたんだろう。それでもここに来てしまった理由を考えると、森屋は嬉しくもやりきれなくもあった。
「……あなたはやさしいひとです。でも、もっと自分にもやさしくなっていいんですよ。それでも、良心が咎めるんなら、僕も一緒に、ひどいひとになります」
 気づけば、泣きそうだった。でも高遠も泣きそうな顔をしていた。でも、大人だから泣けはしないから、お互いに涙の表面張力ぎりぎりで、キスをした。ひどくしょっぱい、再会のキスだった


 この先のことはわからない。
 けど、キスをした後は、
 これから頑張るために、新しいミントタブレットを買ってもらおうと思った。
 ふたりで一緒にいるための、お守りに。





イブキサトウ
グッジョブ
2
見本 16/12/09 19:41

タグからとても印象的だったのがミントタブレットでした!
物語の細部もこだわっていてとても面白かったです。
応援しています!

ミントタブレット買って食べようと思います笑

ちくすけ 16/12/14 01:10

すっかりこの物語の虜になってしまいました。もう何回読んだかわかりません笑
「既に投票済みです」のメッセージを何度見たことか!
応援しています。

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