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取り立てて大きな事件があるような話でも、
由利先生のような設定からして魅力的な話でもないのだが、
切なく静かな余韻が長く続く、個人的にはかなり好きな一冊。
表題作は、亡くなった国文学者の息子と助手だった人の話。
葬儀の日にひっそりと訪れた小野寺。
彼は好きだった人と同じ声で言葉を紡ぐ息子の大和に、惹かれてしまう。
故人の残した原稿と資料の整理に家に来るようになった小野寺と、
やがて大和は身体を繋げるが、小野寺の思いを知って、身代わりなのかと傷つき……
最後に登場する和歌は、伊勢物語より。
梓弓引けど引かねど昔より心は君によりにしものを
(昔から私の心はあなたに寄り添って離れないでいたのに)
同時収録のもう1編『スロウバラード』は、再会もの。
高校時代に付き合っていた同級生との10年ぶりの再会。
当時相手の気持ちが重くて別れたのだが、大人になった今……
どちらも静かな夜の空気の中、密やかにでも消える事のない恋心の様が
木下さんの絵ととても似合っている。
再会、喪服などのモチーフも好み。
こころが絞られるように切なく、大人の色気があって、萌えます。
個人的な好みにもよると思いますが、この作品は私の中では「神」です。
木下けい子さんは「雰囲気BL]というか、直接のエロより雰囲気を楽しむ作品が多いと思います。この「君によりにし」もそんな作品の一つです。
以前に関係を持っていた先生(征一)に声がそっくりな息子(大和)と話しているうちに、受け(小野寺)は何度もフラッシュバックしてしまいます。無口で感情の薄そうな小野寺が「呼ばないでくれ!」と感情的に大和に叫ぶところは、思わずキュンとなりました。
そして、少ないエロシーンをよりエロくみさせる、小野寺が我を失い大和に跨るシーン…見ものです。『畳+受けのネクタイ』がおいしいと思いました。また大和が、自分は親父の代わりだと気づき…見ものです。やはりネクタイは大切だと思いました。
他のかたのレビューにもあるように、ここ読みたかった~という場面もあるのですが、巻末の「我が恋にし君」を見て救われました。
同時収録の「スロウバラード」は、以前から木下けい子さんんが描きたがっていた「十年愛」です。感情まかせになっていたあの頃とは違う、十年たって大人になった。十年分想いが強まり、またやさしくなれた…と感じました。
う~ん、文句なしに神評価です。
「君によりにし」
医大生・大和×大和の父の大学の助手・小野寺
大和の父のお葬式に小野寺がやってきて、でも家の中に入るでもなく帰っていく小野寺。が、2人の出会いです。
なんか、小野寺さんが大和のお父さんの事が大好きで、っていう空気がね。凄い。木下さんの描写が素晴らしい。はっきり口に出して「先生が好き」って言っているわけではないのに、小野寺さんの気持ちが伝わってくる。
小野寺さんが大和に大和の父親を重ねて、大和と事を致すのが切なかった。顔が似てなくても、親子だと何となく似てるっていうのって良くあると思うし、声とか、背中が似てるっていうのが小野寺さんにしたらぐっときたんだろうな、と。
最初は先生の姿を大和に探していたんだろうけれど、大和と関わっていくうちに大和自身に魅かれていって。でもこんな関係は大和にとって良いこと無くて。先生のことも忘れたくて。で、田舎に帰ったのかなあと思うのですが。
大和は大和で最初から小野寺さんが好きだったんですね。きっと。小野寺さんに「先生の身代わりだった」みたいなことを言われて酷く傷つくんだけれども、思い返してみれば小野寺さんが自分を気遣っていてくれたことに気付いて、忘れられない。
数年たって、二人が再会できて、私もすごく嬉しかったです。
「梓弓~」の万葉集の歌がこの作品の空気をうまく作っていて良かった。
「スローバラード」
新太×優矢
学生のころからの10年越しの再会ものです。
学生(多分高校生…)の頃、新太のアプローチで恋人同士になった二人。けれど若さゆえに、また二人の愛情の不バランスゆえにお互い傷つけあって別れた二人。でも新太はずっと優矢の事が好きだったんですね。共通の友達の結婚式で再会して、「友達」として関係を再構築しようと試みるも、またも新太の思いの深さに均衡が崩れかけてしまう。
でも優矢も本当は新太が好きで。ハッピーエンドで良かった。
新太が自分の感情をうまくコントロールできずに、優矢をまた傷つけることを恐れて別れを決意するところがキュキュンときました。
木下さんは一番最初に読んだコミックスがいまいちツボに入らなくて(失礼!)ずっと読んでいなかったのですが、この作品は表紙が素敵で手にとってみたのですが、ほんとにアタリでした。
今頃ですが電子書籍で初めて読み
何度となく読みながらふと気が付かなかった表紙の美しさに心が惹かれました
月の下で、人物の白と黒の対比に赤い椿の花
父のお通夜に現れた見知らぬ美青年が
まさかの教授だった父の助手であり情人だったとは
まだ若い息子にはわからなかったのでしょうね
お節介な身内がいれば何となく秘密が暴かれてしまったと思います
教授と助手と言う関係だけで有れば葬儀のお手伝いなり身分を明かしさよならを告げる事も出来たのであろうに
さらには家族ぐるみで付き合いのあった出版社のおじさんですら教授と助手の関係を知らなかったのかなあとも思いました
教授も小野寺さんの思いに気がついて身体の関係になったのではないかなと勝手な妄想が
お母さんも亡くなっているみたいな感じだし
小野寺さんはいつから大和君を好きになったのか
優しいと笑顔を見せたあたりが答えの様な気がします
医師になるための勉強も有り思いはあっても日々忙しい時間の経過が良かったのでしようか
素敵な作品でした
すごく良かった…
…でもこの設定は決して好みじゃない…
だって死んだお父さんの代わり、だなんて。
寂しげに、通夜に家に上がりもせずに帰る小野寺。先生によく似ている、と呟く彼は、多分「声」の事を指していたのでしょう。
そして多分、小野寺の先生に対する想いは心の中だけの一方通行。でも、その先生は亡くなり、同じ声を持つ彼の息子と対峙するうち想いが溢れ出て。
続くセックスシーンは、小野寺にとっては切実で、大和にとっては嵐のようで、でも大和にはその衝動が自分に向けられてはいないことがわかってる。
そしてすぐに別れがやってきて……
数年後、街中で再会。(ここは随分駆け足な展開だなぁと、少し残念)
雅やかな伊勢物語の一節『梓弓引けど引かねど〜』が引用されて、タイトルの「君によりにし」につながるのですが、これはどちらの心情なのでしょうね。小野寺の方が初めての夜から大和を想っていたのに、なのか、大和が小野寺に伝えたいことだったのか。なぜ大和はラスト優しく笑うのか。
小野寺と一緒に『どうして笑うんですか』って聞きたい。
全体的にしっとりした印象の物語でした。
「スロウバラード」
10年前に付き合っていて別れ、友人の結婚式で再会する二人。お互い消化しきれない想いが燻って、結果的に再会愛。
「友達」として一緒に飲んでるうちに、10年の空白がまるで無かったみたいに視線が絡んじゃう。この辺リアルです。
受けの優矢の方がいつまでも罪悪感を抱いているのに、言葉では『お前をもう傷つけたくないんだ』と言う新太の方が結局余裕で。新太はもう少し葛藤する方が好みの展開でしたが。
「我が恋ひし君」
大和x小野寺のその後。友達も多くて快活な大和に引け目を感じてしまう小野寺。大和は笑ってやり過ごしてるけど…(こういうのは後々関係性を危うくするもんだと思うのですよね。危険危険。)