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表題作甘えんじゃねえよ

店長 他
青(赤羽) 他

その他の収録作品

  • 地下生活者の手記(抄)
  • いずこへ
  • 黒山某の話
  • NKエリア共同溝シールドトンネル工事見学会
  • デレリクツ
  • 空の空、空の空なり
  • 感受性応答せよ(前編)
  • 感受性応答せよ(後編)
  • ええ、もう絶好調で!!超バリバリ進んでます!!!
  • 男の食彩
  • 不在者の誕生

あらすじ

孤独で病んだ男たちのモノローグで全編構成された、救いを求めてあがく男たちの物語。
鬼才・ルネッサンス吉田が送る衝撃の単行本第二弾。

作品情報

作品名
甘えんじゃねえよ
著者
ルネッサンス吉田 
媒体
漫画(コミック)
出版社
茜新社
レーベル
EDGE COMIX
発売日
ISBN
9784863491175
3

(11)

(3)

萌々

(2)

(2)

中立

(1)

趣味じゃない

(3)

レビュー数
5
得点
30
評価数
11
平均
3 / 5
神率
27.3%

レビュー投稿数5

病んだ作者による、病んだ登場人物たちによる、病んだ世界のカオスでした。

「茜新地花屋散華」に続く第二作、作品的にはその前後の短編集ですが、全編とおして孤独と病んだ心を中心に描かれています。
実際、この本は自分でも5回ほど読みなおしました。
「茜新地~」ほど明確なストーリーはありませんので、理解しようとはしないほうがいいです。
ただ、心を病んだ経験のある人には、その哲学的な恐ろしくネガティブな思考はおぼろげながらわかるものがあるかもしれません。
多分、作者自身も病んでおり、その気分のアップダウンが作品にもあらわれています。

「デレリクツ~」「空の空~」意外は作家(文章もしくは漫画家)を主人公にしており、作者の投影された姿と思われます。
また全編をとおしてイメクラで体を売るという職業と仕事場が舞台になっており、主人公が現場を通してかすかにリンクしています。
「不在者の誕生」で登場するイメクラの女性”はるか”は「デレリクツ~」「共同溝トンネル~」にも登場しており、彼女の存在も訪れる男性を癒す立場でありながら、本人自身も病んでいる設定になっています。
ちなみに、多分”共同溝トンネル”とはケツの穴の事を指しています。
体を売る仕事を全てに絡めてもっていっている部分からこの比喩がきているのだと思われます。

近親のタブーやら、ままならない過去の関係にどんどんと自分自身で貶めていく男たちの姿が哀れでなりません。
漫画である以上ある程度のストーリーになってはいるものの、起承転結になっているかというとそれはなく、後読感は自分もメンタルテンションが低ければ、登場人物のネガに引きずり込まれて這いあがれなくなる可能性もあります。

表紙の絵は「甘えんじゃねえよ」と殴られる絵ですが、作品の描けない作家にたいする”編集パンチ”のことです。
作品中でも、その言葉は主人公が自分自身に叫んでおります。
自分自身に叱咤する題名になっているのですね。

実に難解な作品で、殴り書きのような絵で、読者を選ぶ作家さんではありますが、精神病理やら精神世界、そして自ら病んだ経験のある人ならきっと理解と親近感を抱く作家さんにちがいありません。
自分的には、ますますはまってしまう作家さんです。
本当は一押しなんですが、万人向けでないのが辛いところです。

8

読むの大変だけど面白い。

苦悩する人間の思考回路をよくここまで文章化できるものだなぁと苦労しながら読破しました。
全体的に暗く、割と底辺な描写が多い作品ですが、ざっくりと荒廃したタッチの絵でどんどん読み進められます。

ときおり入る捨て身な感じのブラックユーモアも面白かったです。
前作「茜新地花屋散華」よりも個人的にはこちらの作品のほうが好きです。
(あくまで推測ですが)作者の自己投影が激しい分、読み応えがありました。
一部、同一作者さんの版権同人誌で読んだものと似通ったエピソードのものがあり、そのあたりも含めて面白かったです。

4

鬼◯ちひろの『月光』に近いものを感じる

 分かりやすくBLらしいのは最初の短編くらいで、あとは時折BLっぽいシーンや好きでもない男に犯されるシーンがありつつも、どちらかというと主人公1人の心の中で完結してしまう作品が多かったように思います。テーマも恋愛がメインというよりは、小説や漫画を生み出す際の苦しみや、自分がこの世の誰よりも地位が低いように感じてしまう生き辛さなんかがフォーカスされていた印象が強いです。

 BL作品として萌えるかと問われれば、『茜新地花屋散華』シリーズ同様、正直私はまだこういった作品に萌えるほどの余裕はありません。ただ、BLも絡めつつ、この世に生まれ落ちた不条理を自虐的に且つ暴力的に曝け出すような作品を描けるのは、吉田先生の唯一無二の感性だと思うんですね。相変わらず長文で綴られるモノローグは、そのあまりの熱量にどっと疲れを覚える瞬間もあるのですが、純粋に読み物として非常に面白いなとも思うんです。ここまで落ちていなくても、現代の日本といういろんな柵のある空間で生きている私達には、どこか共感できる部分もある。普段は表に出てこない自分の深層心理を言語化したら、こんな感じになるのかもしれません。それを言語化できるという経験値と執念を、私は評価したいです。

0

BLと言うには場違いな作品

BLというジャンルは基本的にエンターテイメント(ときどきポルノ)だと私は思っているのですが、ルネッサンス吉田の描くものは間違いなく「文学」です。なぜなら登場人物が二次元の身体しか持たない「キャラクター」ではなく、生身の人間を想起させるものだから。太宰治とか大江健三郎とか中上健次を読むようなつもりで、生まれたからには死ぬ運命にある命の中でもがく登場人物を追う、そんな読み方が似つかわしい気がします。

はっきり言って、ストーリーはよくわかりませんでした。というかそれよりも、漫画の向こうに透けて見えるはずの「ルネッサンス吉田」の物語、心情に目を凝らしたくなりました。この人が何を感じ、考えて生きているのか、そういうものが表現された漫画です。
というとなんだかものすごくつまらない漫画のように聞こえると思うのですが、いや実際これが面白いんですって。少なくとも私は、しょっちゅう「あーもーやだ人間やめたい生まれ変わってスーパー攻様の背広の内ポケットの万年筆になりたい」とか思っているので、痛いくらいに共感する部分がありました。
タイトルも秀逸です。『甘えんじゃねぇよ』と、BLにどっぷりつかって現実逃避しがちな私も、しょっちゅう自分に投げかけています。

この本は、BLたることを期待して読むと、「どこが?」ってなってしまうと思います。なので、茜新社さんの文学的実験漫画なんだと思って読むことをおすすめします。

6

広大な迷路を探索する楽しさ

BLには珍しくちゃんと病んでます。

おかしな日本語ですが、病んでいるという設定であっても、それはある一定方向のみに向けられていたり(つまりは性行為や相手に対する気持ちのみにおいて)、ヤンデレとはこういうものであるという定義にのっとった役割としての病みがほとんどだったりする中で、ちゃんと病んでいます。

人間には自然治癒能力があって、どんなに病んでいるときでも無意識に回復の方向をむこうとしてしまうものだし、一定の限界を超えてしまうと死んでしまったりするので、この病んでいる状態を長く続けるということがそもそも難しい。そしてたいてい、病んでいるときの記憶は驚くほどあいまいで呼び戻すのが難しい上、回復した思考は病んでいるときの思考を過ちや恥ずかしいこととして手心を加えたくなってしまうので、回復後にそれを描くのがまた難しい。そして病んでいる最中に書くのも、描くための気力が乏しいので難しい。

そういったトラップを潜り抜けて微妙なバランスの中、世に出された貴重な作品だと思います。

短編集ですが、どれも同じことが繰り返されており、登場人物は違えど一つのまとまりをなしています。独特の文法をもって書かれているので、それに慣れるまでは読みづらさを感じるかもしれませんが、セリフや出来事の奥にあるものを見ようとしているとわかってくると思います。言葉や絵柄や設定や、それらはすべて修飾に過ぎないので、それらに惑わされてはいけません。
表現されているものは、実はとてもシンプルじゃないかなと思いました。

こういうBLもありだと思います。とっかかりにくさはありますが、切り口も独特さはありません。答えにたどり着くまでの迷路・トラップをあえて複雑に見えるようにしてみただけで、トラップ自体はさほど難しいものではありません。やたらと広大な迷路だから、時間はかかるけど要するに通り抜けるだけ、という。迷路の中で道を探すことを楽しめる作品でした。

おもしろかったです。

3

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