イラスト入り
木原さんの作品なのに、これは痛くない!
そう思ってしまう私は立派な木原ジャンキーかもしれません。
辛いだけのお話ではなく、くすっと笑えたりほっこりする箇所もある。
そういった意味では、「こどもの瞳」「薔薇色の人生」なんかとひと括りにしたいなと。
中2の路彦は、同級生から夜の公園で激しい暴行を受けているところを、4つ年上のチンピラの信二に助けられる。
そんな出会いから10年間にわたる二人のお話。
真面目で勉強ができ、体が小さくてひ弱な路彦。
学校と自宅の往復の毎日で、どこかに行くとしてもせいぜい塾か図書館。
中学生なんて、狭い世界でしか生活をしていないのですよ。
それなのにクラスでいじめに合うなんて、逃げ場もないし孤立無援で、相当キツイだろうなあ。
そんな風に精神的にかなり参ってるはずの路彦の前に、不意に自分とは毛色の違う人種の信二が現れたわけです。
憧れと好奇心と依存心がない交ぜになって惹かれるってのも、よーくわかります。
タバコや酒、家を抜け出しての夜中のドライブなどの、ちょっとした悪い遊びを覚え、次第に成長していく路彦は、大学生にもなると背も信二を追い抜き、様々な知識を得て大人の男になりつつある。
その間信二はといえば、田舎の小さなヤクザの組から東京の組に移り、スーツを着込み、組長の息子の秘書もどきの仕事を任せられと、表面だけは出世したようには見えるけど、下っ端ヤクザという地位は変わらず、実はなにひとつ成長してはいない。
臆病なのは信二のほうで、強かったのは路彦。
人の心の弱さや本人さえも気づいてなさそうな脆さ、窮地に追い込まれ、誰も味方になってくれないとわかったときの敗北感や、なんとかならないかと必死に足掻く焦燥感。
こういった感情を、巧みに描いて愉しませてくださるのが、木原さんなんだな~。
読み終わって、上下巻の表紙を見比べると、またじわりとした感動が。
おそらく10年経った二人なのかなと思うのですが、信二が同じスタジャンを着ていることに泣きそうになったりして。
梨とりこさんのイラストは、これ以上ないと思うほどのイメージどんぴしゃな二人でした。でしゃばることなくお話を引き立てて素晴らしかったです。
イラストってほんとに大事だなあ。
ヤクザといじめられっこか… 痛みの予感に身構えていたら、
あれ? 痛くないぞ。 しかしBLにおけるヤクザって大体
インテリヤクザで派手にきったはったを繰り広げるのに、
妙に地に足のついたチンピラに毛が生えたようなヤクザで
苦笑を禁じえない。 木原音瀬の作品に共通するテーマのひとつに、
どうしようもないひとを好きになっちゃった苦悩があると思う。
皆が彼を悪く言う、でも俺にとっては彼は宝物なんだ、という
開き直りが私は凄く好きで、この作品にもそのテーマは流れている。
でも『HOME』や『黄色いダイヤモンド』と違って優しく流れる。
刑事に向かって、路彦がタンカを切るシーンが好き。
路彦の成長が嬉しい。 お互いがお互いの居場所になる、
大事に関係を育んでいくその経過を丁寧に追っている。
上下巻のボリュームは納得。下巻まで読み終えるとタイトルの意味が
ストンと落ちてきて爽やかな読後感に浸れました。
社会から捨てられたようなチンピラヤクザの信二と
いじめられっこの路彦は、同じような劣等感や孤独を抱え
つながっていくお話でした。
私には、信二が猫のようで路彦が犬のように思えて
猫なのに犬に発情することに戸惑いを覚える信二。
猫に育てられた犬は、その違いに戸惑わない路彦。
そんな風に感じました。
ガツンと暴力的な文字と文字の間に
どこか心温まるような雰囲気が漂っていて
ちょっとかっこ悪いところが愛しいと思える登場人物たち。
挿絵を担当されている梨とりこさんのイラストが妙に色っぽくて
人生の底辺の血なまぐさいところを生きているのに
どこかクールで無臭な感じが私には後味がよく、心地よく読めました。
人が生きていくうえで必要なものは、人のぬくもりなのかもしれない。
でも人が死ぬ原因になるのも、やはり人なのかもしれない。
けっこう考えさせられます。
(ヤクザ)や(事件)などの系統が、あまり好きではないので
読み始めるまで時間が掛かりましたが、めちゃくちゃ良かった。
中学生~大学生までの、路彦の視点は、成長と見事に横並びしていて
切り替わっても違和感を全く感じない。自然に変っていくのですごく読みやすかった。
背伸びをしながら、大好きな信二を、追いかけてる路彦はすごく可愛い。
信二の視点でガラッと雰囲気が変り驚いたけど、
言い回し、表現、文句までもが、いちいち面白しろかった。
ただ今、木原先生の作品群を読み漁っております。今回も電子書籍化されている未読の作品の中から、「月に笑う」を選びました。まず美しいタイトルに心惹かれ、次に梨とりこ先生の表紙イラストに魅せられました。温もりのある暖色系の柔らかなトーンが私好み。加えて二人の男の子たちがまったりと可愛いく一目惚れしてしまいました。
目次
月に笑う1(加納路彦(攻)視点)上巻(55%程)
月に笑う2(山田信二(受)視点)上巻(30%程)
月に笑う3(山田信二(受)視点)上巻(15%程)+下巻(100%程)
上下巻とも読了!最高に面白かったです♪9年に渡る2人の愛の軌跡を描いた超大作。上記目次をご覧になればお分かりの通り、長さから言ってもメインは「3」。「1」と「2」を上回る面白さです。もちろん「1」と「2」も大変面白く、これらを読まずして「3」を読むなどあり得ません。
「1」と「2」は比較的スローペース。対し「3」は、後半どんどんハイスピードになります。ハラハラドキドキと手に汗握り、ページをめくる指も速まります。レビューも興奮のあまり長くなり過ぎました。よって、上巻であるこちらに「1」と「2」のレビューを、下巻に「3」のレビューを書かせて頂きました。
●「月に笑う1」のあらすじ(路彦14-16歳・山田18-20歳)
深夜の学校で偶然クラスメイトの女生徒の転落死を目撃する路彦。その女生徒の交友関係を探ろうとする4歳年上のチンピラの山田。二人は偶然の出会いから交流を深めることに…。
実はヤクザものってちょっぴり苦手だったりします。平気で人殺しをするなど凶暴なイメージがあるからです。それになかなか小説のヒーローにはなり得ない職業だと思うのです。しかも山田はヤクザの大物ではなくただのチンピラ。大抵は小説の脇役として「覚えてろよー!」の捨て台詞を吐いたまま消えていなくなる存在。
ところがこの小説は、そんなヤクザでチンピラな山田を主人公の一人に据えるのです。やっぱり木原先生はただ者ではありません。路彦も、ヤクザに関しては一般人と同様のイメージを持っています。でも本人に向かって直接「ヤクザって、人を殺すの?」と聞くあたり肝が据わっているなと思いました。こんな事言ったらぶん殴られそうと思うのは私だけ?
イジメから救って貰い、喧嘩の仕方やHなことを教わり、だんだんと山田を好きになっていく路彦。小さくて喧嘩が弱くて、でも頭が良くてお金持ち、厳格な医者を父に持つ路彦。普通だったらこれ程の優等生がヤクザと交わることはないと思うのです。でも路彦にはお友達がおらず、山田が唯一のお友達です。
そして路彦と言う人間はとても意思が強く、一度こうと決めたら誰が何を言おうと変わりません。今のご時世、平気で裏切り嘘をつく人間が多い中、路彦の決然とした信念は目を見張ります。路彦が良いです。どんどん好きになっていく自分を止められません。特にラスト近くは感動。
山田の兄貴と称する男は、例の転落死した女子高生と関わり合いがありました。ある日、路彦のせいで山田がその兄貴からフルボッコにされます。警察に助けを求めたものの、あまりに無残な山田の姿。路彦は大人たちから、山田が死んでしまったと思い込まされました。そして歳月が過ぎ、高校進学。入学式を目前に、偶然デパートのトイレで死んだはずの山田と再会。嬉しかったです。
タイトルの意味が分かるくだりがあります。山田はTシャツを捲り上げ、路彦に背中を見せます。まだ塗り絵のようで色がついていない刺青で、龍の絵が描かれています。山田自身は「月に吠える龍」がカッコイイと思っています。でも路彦は正直に自分の感想を述べます。「…この龍、笑ってる」と。そう、「月に笑う」と言うタイトルはこの山田の刺青の龍のことだったのです。その何気ない会話にほっこり。
●「月に笑う2」のあらすじ(路彦17歳・山田21歳)
山田と、山田を「兄ぃ」と慕う良太と、路彦は待ち合わせ場所から海を目指してドライブ。花火遊びをして、バカ騒ぎをして楽しみました。山田が久しぶりに組事務所に赴くと、他の構成員たちは辞めた後で、早くも若頭となるのですが…。
山田は身長が170cm。そして路彦は山田の背丈を抜かし、なんと数cm高くなったのです。私はこの小説は路彦の成長物語だと思っております。出会った頃は小さくて、喧嘩が弱く、泣き虫だった路彦が、だんだんと大人の男になっていきます。その変化が楽しくて、まるで母親の様な気持ちで見守ってしまいます。
ある日とうとう山田の所属する組事務所が解散。山田は東京に進出することに。けれどもなかなかそのことを路彦に切り出せず…。ようやく東京に向かう車の中、パーキングエリアで告げます。「そんなの聞いてない」路彦は怒り、泣き出してしまいます。ホント!なんでもっと早く告げてあげなかったのでしょう、路彦を不憫に思いました。でも山田には自身の過去や故郷への想いがあり、それに訣別するための時間が必要だったのだろうと思いました。
そして路彦とは、永遠の別れと言うわけではなく、今まで通りメールや電話で交流を続けていけるのです。山田は路彦から「学校が休みになったら会いに行く」という言葉を引き出すことに成功。ようやく生まれ育った街への未練を断ち切り旅立つことが出来ました。
山田の生い立ちを読むと結構壮絶で、胸にポッカリと穴が開いたような虚しい気分になります。こんな愛のない家庭に育ちながらも、一時は叔母の愛を浴びたことのある山田。だからこそ山田は心底悪人にはならず、情のあるチンピラになったのでしょう。それにこれからは路彦がいます。路彦の愛が山田の人生を救います。そう言えば、「1」では路彦が、山田を「守りたい、守りたい」と言っておりました。この路彦の守りたいという気持ちが、「3」での活躍に繋がるのです。