警察小説の金字塔、21世紀、33歳の新生・合田雄一郎、登場

マークスの山(上)

マークスの山(上)
  • NOT BL
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  • R18
  • 神2
  • 萌×21
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レビュー数
1
得点
14
評価数
3件
平均
4.7 / 5
神率
66.7%
著者
 
媒体
小説
出版社
講談社
シリーズ
講談社文庫(小説・講談社)
発売日
価格
¥648(税抜)  ¥700(税込)
ISBN
9784062734915

あらすじ

※非BL作品
「俺は今日からマークスだ! マークス!いい名前だろう!」――
精神に〈暗い山〉を抱える殺人者マークス。南アルプスで播かれた犯罪の種子は16年後発芽し、東京で連続殺人事件として開花した。被害者たちにつながりはあるのか?
姿なき殺人犯を警視庁捜査第1課第7係の合田雄一郎刑事が追う。直木賞受賞作品。

合田雄一郎は音一つなく立ち上がった。
33歳6ヵ月。
いったん仕事に入ると、警察官僚職務執行法が服を着て歩いているような規律と忍耐の塊になる。
長期研修で所轄署と本庁を行ったり来たりしながら捜査畑10年。
捜査1課230名の中でもっとも口数と雑音が少なく、もっとも硬い目線を持った日陰の石の一つだった。――(本文より)

表題作マークスの山(上)

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匂い系小説の金字塔

匂い系と言えば必ず名前が挙がる高村薫作品。本作「マークスの山」は高村薫氏の代表作・合田雄一郎シリーズの第1巻にして第109回(1993年上半期)直木賞&第12回日本冒険小説協会大賞W受賞作です。

合田雄一郎シリーズとは、そのシリーズ名の通り刑事・合田雄一郎を主人公とし、殺人事件の真相を探るミステリー小説のシリーズ。捜査の過程で警察の内部抗争や現代社会の暗部が顕在化して、犯人当て推理小説の枠に収まらない重厚な物語となっています。2013年2月現在、合田シリーズとして「マークスの山」(早川書房/講談社文庫/新潮文庫)、「照柿」(講談社/講談社文庫/新潮文庫)、「レディ・ジョーカー」(毎日新聞社/新潮文庫)、「太陽を曳く馬」(新潮社)、「冷血」(毎日新聞社)の5作品が刊行されています。

何故直木賞受賞作がBLレビューサイトに登録されているのか?理由はこの本を読めば分かります。かく言う私も中学生の頃読んだときはぴんとこなかったのですが、ちるちるに登録されているので再読したところ「これは…!」と思いました。

「マークスの山」の物語は北岳(山梨県南アルプス市)で始まります。北岳の続き麓で泥酔した男が誤って登山者を殺害した事件と一家心中事件。それから十数年後、北岳で見つかった白骨遺体。奇しくも3つの事件に関わることになった山梨県警の刑事・佐野は容疑者確保の為、東京へ。東京の容疑者宅へ行くと、別の案件でその男を訪ねていた警視庁の刑事がいました。その警視庁の刑事こそ、本作の主人公・合田雄一郎。合田は「未だ青年の匂いの残る清涼な面差し」と「無機質な石を思わせる眼光」の持ち主で、「すっきりと伸びた背筋がなかなか凛々しい」のだそう[文庫版、pp.83-84]。佐野は合田に気圧されながらも心惹かれます。
月日は流れ、北岳の白骨遺体事件から4年。合田はノンキャリアながらエリート路線を進み、33歳で警部補にまで昇進して警視庁捜査第一課に所属しています。都内で元暴力団員と検事の連続殺人が発生し事件の真相を追う合田たち刑事ですが、事件解決の糸口すら見つけられません。それどころか事件の隠蔽を図る警察上層部、政財界、法曹界の圧力が圧し掛かり…。16年前の北岳の2つの事件、数年後の白骨遺体事件、そして現在の連続殺人事件…。事件と事件が共鳴しあい、新たな殺人を呼び寄せます。

特筆すべきはリアルな警察の内部描写でしょう。現在のドラマや小説で描かれる刑事同士は協力し合い、「警察の部活化」と揶揄されるほどチームワークが良いです。しかし「マークスの山」は異なります。同じ警視庁捜査第一課に所属して事件解決に奔走するものの、個々人がそれぞれ出世欲や名誉欲を満たすため少しでも周囲を出し抜こうとしています。合田が主任を務める強行犯捜査第7係もしかり。仲間を妨害することはないけれど、手を貸すこともしません。軋轢とせめぎ合いの人間関係の中、それでも事件解決の為に協力し合わなければならない…。矛盾で構成された警察社会のリアルな姿です。

合田も警察という社会の中にいて一種の諦念を抱えています。合田の抱える諦念は暗い情熱と結びつき、いつか暴走してしまうのではないか。石のように硬派な合田の持つ闇が垣間見える場面が何度かあって、読みながらやきもきしました。ところが合田の脆さをフォローする存在が登場しました。合田の義兄・加納祐介検事です。
加納は元々合田の大学時代の友人でしたが、合田と加納の双子の妹が結婚したことで関係が変化。合田の義兄となりました。しかし合田は妻と離婚したので、義兄ではなく元義兄へ。加納からみれば合田は妹の元夫となって、普通ならば一歩線引く間柄です。ところが現在も加納は合田の「義兄」と名乗り、手紙のやり取りや合田の部屋を掃除したりします。実は妻との離婚や加納との微妙な関係も合田に翳りを落とす原因なのですが、加納はお構いなし。加納の心理描写はないので彼の気持ちはさっぱり分からないのですが、加納がいることで合田が悩むと同時に救われていることも確かです。合田にとって加納は良くも悪くも必要不可欠な男なのかもしれません。
加納が勤める検察庁も警察庁と同様権謀術数に満ちた場所です。しかし合田と似た状況にありながら、加納は合田のように闇を抱えておらず、上手く立ち回っているように見えます。現状を受け入れながらも時には反発して、自分の信念を曲げることはしない(ように見える)。反発しても非難されないだけの能力がある。誰だって苦悩するよりはそうなった方がいいです。仮に合田もそういう人間になりたかったのだとしたら、加納は合田にとって「なりたかった姿」=「ありえたかもしれないもう一人の自分」です。合田は加納に会うことでもう一人の自分に再会して精神の均衡を保ち、加納は合田に会って自分の中の闇を覗き込む…。二人はお互いの欠けた部分を補い合うために友人から義兄に、義兄から元義兄に関係が移り変わっても会っているのかもしれません。
実際のことは本人たちしか知りえませんが、匂い系としてここまで考えさせられるお話でした。

4

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