新しいマークスには泣かされる 合田雄一郎にも泣かされる

マークスの山(下)

マークスの山(下)
  • NOT BL
  • E-BOOK ONLY
  • R18
  • 神2
  • 萌×21
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レビュー数
1
得点
14
評価数
3件
平均
4.7 / 5
神率
66.7%
著者
 
媒体
小説
出版社
講談社
シリーズ
講談社文庫(小説・講談社)
発売日
価格
¥648(税抜)  ¥700(税込)
ISBN
9784062734923

あらすじ

殺人犯を特定できない警察をあざ笑うかのように、次々と人を殺し続けるマークス。捜査情報を共有できない刑事たちが苛立つ一方、事件は地検にも及ぶ。事件を解くカギは、マークスが握る秘密にあった。凶暴で狡知に長ける殺人鬼にたどり着いた合田刑事が見たものは……。リアルな筆致で描く警察小説の最高峰。
(出版社より)

表題作マークスの山(下)

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レビュー投稿数1

ミステリーとして読む小説ではない

「マークスの山」下巻。

警察を嘲笑うかのように犯行を重ねる殺人鬼〈マークス〉。四方八方からの妨害で遅々として捜査が進まない刑事たちですが、徐々に事件の真相が明らかになっていきます。私立大学理事長、建設会社社長、弁護士、検事…。各界を代表する男たちが大学時代に結んだある盟約が連続殺人を呼び寄せたのか?一方、3年周期で訪れる〈明るい山〉と〈暗い山〉に苦しむ青年・水沢はある行動を取っていて…。
事件を追う刑事・合田雄一郎と都会でひっそりと暮らす青年・水沢裕之、二つの視点で進んでいた物語は、水沢の恋人が銃弾に倒れたことを契機につながります。

実は「マークスの山」は直木賞のみならず、1994年度の「このミステリーがすごい!」国内編第1位に選ばれた作品でもあります。しかしミステリーとして優れているかと言えば疑問符が。殺人事件の真相は陳腐だし、殺人鬼〈マークス〉の犯行動機は明確にされていません。また物語の構成上、〈マークス〉の正体は上巻の段階で明らかにされているので犯人が誰かというドキドキ感はありません。つまりミステリーとしての楽しみは皆無。ミステリーを期待して読むと辛いものがあります続き。ではどこを評価すればいいのか。私はこの本を一般視点から「警察小説」、腐女子視点からは「匂い系小説」として傑作だと思いました。

まず「警察小説」として優れていると思った点は、リアルな警察内部描写と警察という特異な世界で生きる人間の心理描写です。上巻の感想でも述べましたが、同じ犯人逮捕という目的に向かいながらも一枚岩ではない警察社会が描かれていました。彼らが昼夜問わず休日返上で捜査にあたるのは正義感からではない。「仕事」として熱と諦念を持って事件を追っているのだ、という刑事の心理も硬質な文章で綴られます。合田は捜査情報の共有ができない状況に苛立ちながらも、そんな警察内部の事情を諦念を持って受け入れています。合田含め警察のあり方に否を唱える刑事はいません。正義感や正しさだけで突っ走るドラマや小説では決して描かれない、リアルな警察の姿です。
しかし架空の物語としての面白さも忘れていません。物語の終盤では合田と警察組織が対立し、あたかも〈マークス〉の抱える〈暗い山〉のように、合田の前に組織という〈山〉が聳え立つのです。どうやって合田は〈山〉に挑むのか?嘘で固められた小説の枠組みの中だからこその展開で、リアリティと嘘が上手く融合しています。

次に「匂い系小説」という面からの楽しみもありました。合田と義兄・加納祐介の関係性が興味深いのです。加納は義兄という名称に拘ったり、情報を流して合田を陰で助けたりといろいろするのですが、合田に対してどのような感情を持っているのかは具体的に描写されていません。合田も現在の状況や離婚に苦悩し、加納に対しても思うところがあるようなのですが明示されていません。しかし意味深な台詞や場面、二人の結びつきが強いと感じさせる部分もあって、読者としては二人の間に語られていない何かがあることを強く感じさせて、もどかしかったです。
合田と加納、お互いへの感情は一体どんな言葉で表せるのか?海岸で貝殻を拾うかのように、少しでも二人の関係を読み取ろうと物語の隅から隅まで味わって読む楽しみがありました。はっきりとした答えは最後まで出ませんが、読者によって多様な解釈が可能です。著者が意図していませんが、読者は様々に妄想してしまう。これこそ「匂い系小説」と言われる所以でしょう。

この小説をミステリーという視点からみたらつまらない。警察小説として読んだだけでは物足りない。腐女子視点があるからこそ楽しめました。下山(読了)は大変でしょうが、腐女子の方にこそ広く読んでいただきたい本です。

3

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