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ゆっくりと落ちてゆく心を計る砂漏の恋。 その後の二人を描いた「hello,again.」も収録。
「雪よ林檎の香のごとく」に出て来た非常に印象的な人物、栫(かこい)史朗。
彼は人並みはずれて整った容姿と明晰な頭脳を持ちながら、どこか空虚な
というより、底なし沼のような得体の知れない人物……
彼が主人公と知った時、まず思ったのは栫と恋愛ということのあまりの馴染まなさだった。
一方の町村嵐は、大学の生協でアルバイトをしながら
砂時計職人の父の仕事を手伝いつつ修行中の、ごく普通の青年だ。
実はその心の中に、決して誰にも告げられない苦く悔いに満ちた秘密を抱えているとしても。
学生に混じって参加したある飲み会の席で嵐は栫と知り合い、
たまたまの行きがかりで一緒に深夜映画館で一晩明かすことになる。
*二人が見た映画は、キューブリックの「博士の異常な愛情」なのだが、
これは非常に暗示的だし
その挿入歌(Vera Lynn – We'll Meet Again)の一部が、タイトルになっている。
その後二人は「ともだちのようなもの」になるが、
栫のどこか間に一枚膜があるような、丁寧だが素っ気ない態度は変わらない。
しかし、折りに触れそっと差し出される「やさしさのようなもの」に、独特の空気に、
次第に嵐は心を許し惹かれていく。
二人はそれぞれ、ちょっと他人から見ると現実離れした秘密を抱えていた。
その秘密を巡って、実は浅からぬ因縁がある二人だったが……
そうしてある日、栫はコツコツと作り上げてきたジグソーパズルを容赦なく崩すように
嵐の心を、栫への心を、一辺の迷いもなく小気味いいまで残酷にぶち壊す…!!
:
ストーリーは一言で書けるようなものでもないし、このやり切れなさと切なさは
読んで貰わないと分からないと思うけれど、
これは生きていたようでいて、本当は時計の止まっていた栫の時間が再び動き出す物語だ。
深い眠りから冷めた栫は言う、
「あなたが確実に存在する世界なら、まあ、起きてもいいかと思った」と。
まるでおとぎ話を現代風な解釈て再構築してみせたかのような物語、
「眠り姫」か、あるいは「雪の女王」か……
「雪の女王」のカイみたいに、鏡の破片が取り除かれたから優しい人にすぐなる訳でもないが、
でも、彼の時間は確実に今までと少し違うベクトルに動きだしたのだと思える。
栫が聞きたい事を嵐が喋らなかった時に、彼が自分の腕に熱湯をかけて脅す場面があるが、
その後に部屋をメチャクチャにして暴れる嵐が好き。
すんなり上手くなんかいかないのだけれど、
そういう真っすぐな熱を持った嵐にこそ、栫は救われるかもしれない…、と思うから。
決していわゆるハッピーエンドではないし、そもそも恋愛の話というよりは、
存在そのものの、世の中との絆の話だと思う。
栫の存在が不気味で息苦しく、でも惹き付けられずにいられず読み進まずにはいられない。
そうして読み終わってみると、重く立ちこめた雲の間からかすかな光が差し込んだような、
やるせなく美しい読後感が残る。
BLの枠に留まらない傑作だと思います。
*仁摩サンドミュージアム http://www.sandmuseum.jp/
『雪よ林檎の香のごとく』が大好き過ぎて、スピンオフ(と言えるかどうかはわかりませんが)のこの作品のレビューって難しいなと放置していました。
内容も一般的なBLとはかけ離れていますし。
でも、あらすじを書くという自分のスタンスから離れ感想という形ならば書くことができるかなと。
攻めは『林檎』で壊れっぷりを披露した栫。
『林檎』を読んでこの作品を読まれると、「ああ、だからなのね」と納得する部分も。
『林檎』からは時間が進み大学の研究室に在籍していまが、外の顔と中身の病みっぷりのギャップは相変わらず。
受けの嵐は大学生協で働く青年。
父親は砂時計職人で、母親は事故で亡くなっています。
一見普通の青年ですし、愛想も良い。
しかし、母親の死は確実に彼へ影を落としています。
嵐と栫はコンパで偶然知り合いますが、その後も微妙な距離感で仲を継続させていました。
しかし、栫は人の秘密や心の闇にひじょうに鼻が利く。そしてそれを暴く。
それは自身も秘密や闇を抱えていることに他ならず、その闇は確実に彼を蝕んでいるけれど、自分の価値に無頓着な栫はそれを放置し続けています。
反面、嵐はひじょうにまっとうな青年。
母の力のことがあっても、死があっても、栫に出会いさえしなければきっと自分の後ろにある影には気づかぬよう蓋をして幸せになれていたかもしれない。
でも、嵐は栫に出会ってしまったから。
栫は知らぬふりはさせてくれない。
まるでそんなことは罪であるかのように。
いつでも目の前に見たくない己の闇を具現化してくる…そんな栫から嵐は逃れられないのです。
しかし、嵐はきっと後悔はしないであろうと思います。
そこが彼の強さだから。
『人間は考える葦である』という言葉がありますが、嵐は葦なのだと信じます。
強風に倒れても、また、起き上がることができるのですから。
『林檎』の主人公の志緒も大学生で登場しています。
志緒はとあることで嵐と距離が縮まり、栫と関係している嵐を気にかけています。
自分の世界の中以外の人間への興味が薄い志緒でしたが、キャパが少しは広くなったんだなあと本編とは関係ないですが、志緒も成長したのねと感慨深かったです(笑
普通のハッピーエンドとは違うかもしれませんし、たいていの方が栫より嵐に同調して読まれていると思いますので、栫が嵐を傷つけると同時に読み手にもダメージがきます。
再読するのには体力がいる作品ですが、そういう意味でも得難い作品だろうと思います。
買って1ヶ月ぐらい忘れてました。
どうなんでしょう…好みが分かれる作品、ということになるのか、これ?
読み出したら、お!新しいな…BLに東野圭吾ばりのサイコ・サスペンスですか!?ワクワク
・・・と思った自分は甘かった。
読んでいるうちに自己の「存在理由」とは何かというのをジワッと感じるようになりまして、うわ、キモチワリー!(←褒め言葉)なんなんだこのカコイって加賀乙彦の「フランドルの冬」に出てくるようなヤツ!?
それとも安部公房の「砂の女」の男ヴァージョンか!?とへんな汗出てきた。
ストーリーのレジュメはほかのレビュアーさんをご参照いただくとして、感想としては、これがBLという枠でなければよかった!
出てくる男性がどれもこれも草食的で、そこに社会的な視点も感じたり、一方で無機物愛かと思うような(でも異様にドキドキする)展開があったり、自分としては結構面白く読めたんですが・・・・がしかし!!!!セックスシーンが作品の質からするとどーにもこーにも陳腐で激萎えた。
というか、セックスシーンいりません。足舐めシーンはかなーりドキドキしましたが、そこから先がですね…こんだけクオリティの高い作品に、BLテンプレな喘ぎ声はないだろ。
BLではなく、同性愛シーンも出てくるある種のサイコサスペンス?または、より現代的解釈のポップな実存主義小説といったところまでいったら純文学の領域に入っちゃうのかな。
また、商業的理由なのか、わざとなのか、「匂わせる」だけにとどめ開示されてない部分がいくつかあるのが残念。
栫(かこい)が成長するプロセス、誰彼かまわずセックスするようになったプロセスなんかはサラッと流しすぎていて…そういや、「フランドルの冬」にも精神科医と患者の少年がデキてるシーンあるんだけど、ああいう感じとも違うし。
あるいは、あえてそういうショッキングなところを淡々と流すことで、読者の自由にまかせているのだろうか…。
というわけで、今からこの先生の作品、全冊発注してきます。
一穂さんの作品らしいといえばらしいですよね
雪よ~ででてきた栫。
栫ってめちゃくちゃ気になってたんですよね雪よ~の時点で。
読み進めていくうちにやっぱり泣いちゃいます
栫にいらだったり、嵐がとってもかわいそうに見えたり
でも私は読んでて栫を嫌いにならなかったです
むしろ読んでいくうちに栫が好きになって
嵐も栫も重たい過去があるじゃないですか
読んでてつらいけど、読み終わってみると暖かいです。
後半で栫が動揺したときとかはじめて栫の人間らしさを知った時
なんかホッとして。
ほんと文章かくの上手じゃなくてあまり伝わらなかったかもしれませんが
これはほんとにおすすめです。儚いですが、あったかいです。前半はちょっとこわいけど。
よんでいくうち栫が好きになります。浅い意味じゃなくて。
ほんっとおすすめなんで!
はじめは「meet,again.」という題名にオシャレだなあという思いしかなかったのですが、紙をめくって、この本の中の世界に引き込まれるにつれて、この題名の意味がわかってくるようで、胸が痛くなると同時にとてもぞっとしました。
このお話は、少しだけ人とちがった、いわゆる「超能力」をもった母親を交通事故で亡くしてしまった嵐くん(受)と、失踪してしまった一卵性双生児の兄を持つ機械のような栫(攻)の話です。
本の中では「meet,again.」「hello,again.」という二つに分かれていますが、前半部分では正直ぞっとする部分が多かったです。(いい意味です)
そう言った部分からいえば、ある意味ホラーのように取れると思います。「実験」と称した栫の行動に、ヤンデレというよりも機械的で、なんとも言えない寂しい気持ちと、恐怖のような感情が浮かびました。
後半部分では、そんな機械的かつ非人道的な栫に恋をして、ちょっとづつ変わっていく嵐の様子が描かれていました。それはいい意味ともとれますし、悪い意味にも取れました。傷つくとわかってて、栫に没頭していく嵐くんの姿は、読んでいるだけでも苦しくて、息が詰まりそうでした。
決して幸せな話ではありません。
目に見える幸せのカタチは一つもありません。
でも、とても暖かくて、優しくて、人を好きになるということの儚さ、
感情や気持ちという心の脆さがとても丁寧に描かれていて、ページをめくる手が止まられませんでした。
とても素敵な作品です。
萌え、といわれたら、うーん、と答えてしましそうですが、イラストや題名に惹かれたのなら、買って損は絶対にないです。
作中の世界観とイラストの竹美家さんの雰囲気がとてもあっていて、鳥肌が立ちそうでしたし、題名については本当にそのままで、「また逢いましょう」というお話だったからです。それから、作中で何度か「超能力」という言葉が出てきますが、これは現実離れした「超能力」ではなく、ごくありきたりな、日常にありそうな「超能力」のようなものなので、違和感やSFチックな描写はあまりなかったです。ちょっとだけ悲しい手品のような感覚でした。
最後に、「雪よ林檎の香のごとく」のスピンオフということでしたが、知らなくて読んでも問題無いと思います。私は知らずに読んでしまったので、今度はそちらを読んでみたいと思います。
ぞっとするほど美しく儚いお話をありがとうございました。