命を懸けた、せつない片想い。

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表題作天球儀の海

地元名家の息子で海軍軍人 成重資紀 23歳
出撃を待つ予科練出の特攻志願兵 琴平希 19歳

その他の収録作品

  • サイダーと金平糖

あらすじ

希は特攻に行くことを決めた。
町の名家の跡取りの、1人息子である坊ちゃん、
資紀の身代わりとして――。
幼いころ、希は危ないところを資紀に助けられた。
資紀が現れなかったら
自分に命は五歳で消えていた。
坊ちゃんとお国のために死ねるなんて、
なんと幸せなことだろう。
希は十数年ぶりに坊ちゃんと再会するが……。

(出版社より)

作品情報

作品名
天球儀の海
著者
尾上与一 
イラスト
 
媒体
小説
出版社
蒼竜社
レーベル
Holly Novels
シリーズ
天球儀の海
発売日
ISBN
9784883864164
3.7

(169)

(80)

萌々

(39)

(12)

中立

(12)

趣味じゃない

(26)

レビュー数
28
得点
604
評価数
169
平均
3.7 / 5
神率
47.3%

レビュー投稿数28

電車の中で滂沱。なのにページをめくる手を止められない

 待ちに待っていた、尾上さんの新作。
 ちるちるさんから本が届いた日、上京せねばならず後にしようかと思いましたが我慢できず、新幹線の中で読み始めました。
 相変わらずの不穏な始まりと、美しい情景描写に胸がときめきます。
 あとはもうこの作品の世界に没入していました。
 大宮駅について、ギリギリに気が付いて慌てて降りましたが。
 乗り換えで湘南新宿ラインの電車を待ちながら、彼らの佳境へ。
 なぜ資紀は希にあんなに辛く当たっていたのに急に…と思っていたら…
 ええっ!ええっ!ええっ!
 ああ、そうか、そういうことか。
 早く気が付け。希ちゃん!!
 そう思っていたら電車が…
 乗り込んで、我慢できずに続きを読み始めて。
 滂沱…おばちゃんが恥ずかしげもなく電車の中で泣きながら本を読んでいる。
 どれだけ周りの方を恐怖と嫌悪のどん底に突き落としているかわかっていても。
 やめられない。とまらない。
 池袋につく頃にはもうすぐエンディング。駅の近くの喫茶店に入り短編を読んで。
 もうしばらく呆然…。陶然…。
 この作品の世界から抜けて仕事するのが嫌で…(笑)

 ネタバレ以下します…



 ネタバレオッケーでアンハピ苦手で、ジュネ苦手な方。
 安心して お読みください。
 皆様おっしゃっていますが、三作目にして尾上さん、ばっちりボーイズラブに仕上げてきています。わかりやすくてけれど深い。
 ちゃんと幸せになるけれど、カタルシスもあり、ドキドキもあり、謎もある。エッジもきいていて、個性的。
 ラブもエンタメの要素もばっちりです。
 

 物語の奥行きとは…作品には描かれなかったけれど作者の頭の中にはしっかりあるエピソードの数と表現されなかったけれど作者が読みこんだ資料の多さと取材と思案にあるのではないかと思います。
 尾上さんのキャラクターには脇役一人一人に人生を感じます。
 ストーリーの為だけの当て馬ではなく、それぞれのキャラクターにそれぞれのエピソードが作者の中ではいろいろあるに違いないと感じます。
 気になるキャラもいっぱい。なのにそれをばっさりと切り捨てているからこそ、生まれる奥行きにうっとりします。

 これを読まずして2012年を終えるのは大損ですよ!!
 ぜひお読みください!
 
 そして、尾上さんのHPにて番外編が読めます。
 できれば本編読後にどうぞ。

 尾上さんの新作が読めて本当に嬉しい。

 ゆっくりでいいから、じっくりと。
 こんなに素敵な作品をまた読ませてほしい。
 大好きだ…
 
 読者への誠実さと小説への尊敬と情熱とこの男同士の世界への愛情を心から感じさせてくれる尾上与一という作家さんの世界を早く早く経験してください。

 
 
 
 
 
 
 
 

18

だが、それがいい。

初のレビューです。
よろしくおねがいします。m(_ _)m

尾上さんの作品ははじめて読みましたが、いやー、よかったです。
皆様がビシッと懇切丁寧にレビューを書かれていらっしゃるので、(私の文章力がショボいので)
そのへんはこれ以上は書き込みは必要ないかと。

でも私の感想をちょっとだけ書かせていただくと、皆さんと同じく資紀の希に対するはじめての出会いからそこまで執着する経緯というか、決定打がはっきりしないのが残念でした。
ひょっとしてページ数制限で削られちゃったんじゃね?ぐらいスコーンと無いんですよね。文章きれいだし、グッとくるポイントがちりばめられてるし、、、そこがあればもっと脳汁がジュワッと出るのに。
だが、それがいい(花の慶次風に。)
タイトルで使わせてもらいましたが、大事なことは二回。
10ではなく9.5くらいが読み手の後を引く感じが残って。ま、いっか。

作品の不満は作者さんのせいではなく、出版社と編集者がビシッとしていないのがいけないんだと思うので。 えっ?

BLというファンタジーな世界、なんでもありな設定。
こんな素晴らしいBLがあっていいんじゃないでしょうか。
平和と自由という麻薬に浸りきったこの時代、極限の生と死、あの戦争を生きていた人達がどれほどの思いをされていたかは絶対私達には理解出来ないでしょう。
そんな時代背景のなかの命を賭した資紀と希のお互いの思いを未読の方には是非是非読んでいただきたいです。

最後に
引用するのはアウトなのかもしれませんが(アウトならごめんなさい)、某本に載っていた神風特攻隊の軍神、関行男という方が最後に海軍報道班員のインタビューで話した言葉をこちらに書き込みさせていただきます。

「僕には体当たりしなくても敵空母に500キロ爆弾を命中させる自信がある。日本もおしまいだよ、僕のような優秀なパイロットを殺すなんてね。僕は天皇陛下のためとか日本帝国の為とかで行くんじゃないよ。妻を護るために行くんだ。最愛の者のために死ぬ。どうだ、すばらしいだろう!」




14

お互いを想い合う熱い心

楽しみにしていた尾上さんの新作。
でもその時代背景と特攻の文字に、ちるちるさんから届いた本を開くのがためらわれ、タオルを用意して思い切って読み始めたのを思い出します。あれから二週間、何度この本を読み返したでしょうか。そのたびに、希と資紀の一途さに心を打たれ涙が出てきて、タオルを手元に引き寄せています(笑)

ネタバレ有りで。

幼い頃自分の命を救ってくれた名家の坊ちゃんである資紀をずっと慕い続けていた希は、喜んで資紀の身代わりとして特攻に出ることを承知します。けれども再会した資紀は希にそっけなくて。しかし特攻に召集されるまでの間、時折見える資紀の優しさを、大切に拾い集めるようにして過す希です。
そして正月を境に、資紀は希にひどく冷たくなり、八つ当たりのような暴力までふるい出します。読んでいる私も、希と同じく坊ちゃんの気持ちがわからなくて、思い出のトンボ玉まで砕かれた時は、辛くて苦しくて。やっと心が通じたとのかと思った後のあのショッキングなシーンでは、心の中で悲鳴を上げていました。結局操縦桿を握れなくなった希の代わりに、資紀は特攻に出撃してしまいます。
・・・その胸に希の右手を抱いたまま。
この後はもう怒涛の展開へ。
どうして資紀は希に冷たい態度をとったのでしょうか。なぜ、希の右手を切り落とす暴挙にでたのでしょうか。謎が一挙に解けていくと同時に、資紀の深い愛に涙が止まらなくなりました。
すべては愛する希の命を救うため。あの海岸での出会いからずっと希が資紀を慕っていたように、資紀も希を愛していたのです。
“予科練卒は最も特攻に近い位置にあり、希の出撃を回避するために自分の身代わりとして希を大分に呼び戻す。そしていよいよ大分の部隊に出撃命令が下れば、操縦桿を握れないよう希の右手を切り落とし、彼の出撃を阻止して自分が特攻に出る”
資紀は考えに考え抜いて、この計画を立てたのでしょう。自分の死後に希が未練を残し悲しまないように、わざと希に冷たく当たりちらし、希の恋心を砕くためにトンボ玉を割った資紀。右手を切り落とすという冷徹で一見狂気ともとれる行動も、ただただ希の命を救うという目的から出たものだったのです。
こんな計画を抱く資紀が、再会した希に「坊ちゃんのためなら喜んで、俺は特攻に行きます」と言われ、「坊ちゃんの指揮下で活躍をしたいから予科練に進んだ」などと応えられて・・・そんな希に、わざと冷たく当たらなくてはならなくて・・・希も辛かったけれども、資紀の気持ちも苦しくて泣けてきます。
資紀の本当の想いを知った希。自分が資紀のシリウスだったことを知った希。
けれどもその資紀は、特攻で散っていってしまいました。
もう、悲しくて悲しくて、用意したタオルがびしょびしょで(苦笑)

でも、尾上さん、やってくださいました!!おおおおおお、資紀が生きていました!!ありがとうございます。

ここからはまた、歓喜の涙がドバっと。どれだけ泣いてるんでしょう(笑)資紀が死んであのまま物語が終わった方が、物語の完成度は高かったのかもしれませんが、それは辛すぎて私はちょっと浮上できなかったでしょう。“東映動画の西遊記”(古っ)でリンリンが死ななくて本当によかった派としては、このラストで一気にテンション盛り上がりました↑↑↑
その後のお話“サイダーと金平糖”の二人は、甘く優しくて。酔った資紀が次々といかに昔から希を想っていたかを披露していくのが、すごく微笑ましくて。家の前の餅のエピソードには爆笑しました。資紀、可愛い!!

本当に何度読んでも心にしみる素晴らしいお話です。希が小犬のような健気で一途な愛情を示すのに対して、一方の資紀は表面冷静で中身は愛の炎がゴーゴーと渦巻いているという・・・耐えて耐えて耐え抜いた資紀の愛に、読み返すたびに涙が出ます。大好きな本がまた一冊増えました。

(せっこさんが教えてくださっているように、尾上さんのHPにはssが二編、そしてイラスト担当の牧さんもピクシブに美しい絵をアップされています。この絵見たさにピクシブに登録した私(笑)牧さんのイラストもこの話の世界を深めています。海に映るオリオン、ジャノヒゲの実、希のてのひらのトンボ玉など、作中のキーワードとなる小物が澄んだ青の世界に並べられた表紙。その中に尾上さんの名前だけが鮮やかなオレンジから青へと溶け込んでいて。このあたたかいオレンジ色は、ルリビタキの脇腹の色なのかも・・・と、一人想像して楽しんでいます)

9

不器用だけど精一杯の愛情を捧げる

天球儀、右手のホクロ、シリウス、片思い、反転、いくつかのキーポイントの言葉が
後半に怒涛のように押し寄せてきて唐突に真実が降り注いでくる。
う~ん、訳が分からない滑り出しですが、読み終えると浮かんでくる言葉の数々。
幼い日の二人の偶然の出会いが、その後の二人の一生を左右する事になります。

時代は戦時中、終戦間近の年代の神風特攻隊と言われていた航空特攻を背景にしてる話で
村の旧家で地主でもあり名門の家の一人息子のお坊ちゃまの代わりに、航空特攻に
いく事が決まっている受け様とそのお坊ちゃまの攻め様との愛の物語。
子供の頃に攻め様に助けられた時から攻め様に憧れ、軍の中尉でもある攻め様の父親から
攻め様の身代りに特攻に行く事を打診され、恩返しをしたかった受け様は喜んで引き受ける。
でも攻め様はそんなことは望んでいなくて、受け様に対して冷徹な態度をとるのです。
それでも、昔から憧れていた受け様は攻め様に嫌われていたとしても、攻め様の
身代りでお役に立てる事が幸せだと思える程攻め様に心酔してる受け様。

それに、攻め様が昔の事を思えていて、自分の右腕にある星座のようなホクロの事まで
しっかり覚えていてくれた事が更に受け様を幸せにする。
しかし、そんな幸せな気分も次第に攻め様の理不審な態度や言動に落ち込むようになる。
更には、攻め様に無理やり抱かれ、言葉も無く凌辱されるようになり、あれ程攻め様に
憧れ心酔していた受け様の心に困惑や戸惑い、理不尽さに対する怒りを思える。
そして、最後には、凌辱された後で星座をちりばめたような天球儀みたいだと言われた
右手を攻め様に鉈で切り落とされてしまう。
そこからは、攻め様に対する憎しみで、二度と飛行機に乗れない、操縦桿を握れない事に
絶望し、攻め様への思いが粉々に崩れ落ちてしまうのです。

そして、受け様は長く寝床に着く事態になり、攻め様は初めから決まっていたように
特攻へ任命され、飛び立つ事になり、別れの日がやってくる。
受け様は飛び立つ攻め様に対して憎悪を抱きながらも、気が付けば目で追ってしまう
自分に呆れながらも、何故か微妙な違和感を感じ始める。
攻め様の特攻服の胸元のシミ、奇妙な膨らみ、自分を見つめる穏やかな目。
そして唐突に目に前に見えなかった全ての事が・・・
不器用すぎる程の愛情を受け様に抱きながらも決して己の心を見せることなく、
過去の思い出や尊敬や優しさ絆、全てを受け様から断ち切るように冷徹に接した攻め様。
自分の狂おしいまでの愛情を隠し、酷い仕打ちをし、憎まれるように仕向け、
それでも成し遂げたかったのは攻め様の命を、愛する者を守る事、その1点だけ。
ヤンデレにも見える程の強い思いを感じる作品で、戦争の理不尽さを背景にした
物語は心を打たれる素敵な作品になっていました。

6

光の射す方へ

同人誌「葉隠否定論」の感想も含みます。

この作品に惹かれた方は是非とも「葉隠〜」を読むのをオススメしたいのですが、現在は手に入りにくい様ですね。いずれは商業誌になったりしないのかなー。
本作「天球儀〜」は希目線のストーリーなので、希がどれほど一途に資紀を想い、身代わりに死ぬことを待ち望んだかが描かれています。資紀が飛び立った後、希が資紀の母親から責められるシーンは、胸が痛みます。殴られながらも、資紀が母親に愛されていたことを教えに行きたい、というんですよ。
ただこの作品だけだと、資紀の真意までは推し量れない気がします。
「葉隠〜」は同人誌として発行された資紀目線のストーリーです。正直これを読むまでは、希を特攻に行かせない為とはいえ、なにも手首を切り落とすまでやらなくても…。と思っていました。しかし、ただの骨折や怪我だけだと、治ってしまえばまた特攻に行く羽目になるし、身代わりができなくなった後の希が周りに責め立てられる。一見非道とも思える行為は、後々のことまで考えた上での苦肉の策だったんですね。冷たい態度をとり、傷つけながらも、身を引き裂かれる様な痛みに耐えていたのは資紀の方だったんだろうことがうかがえます。自分を憎み恨む様仕組んだ資紀の綿密な計画は、賢しい希には見抜かれてしまうわけですが。
二人が生きていてくれたことに涙が止まりませんでした。
私的には「天球儀」と「葉隠」両方対で神です。

6

この作品が収納されている本棚

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