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待ちに待ったたうみまゆさんの新刊。
時代物ということでしたが、どのお話もまるで短編映画を見ているようで、その世界観に惹き込まれました。
とにかくセリフが素晴らしいです。きゅっと心臓を掴まれるような粋なセリフ回しが堪りません。
表題作「このよのはじまり」「このよのおわり」そして描き下ろし「おまえ百まで」。
主人公・佐根市は、役者(女形)を目指しているものの、色恋や艶もまだわからない16歳。
「このよのはじまり」では、幼馴染・善介に抱いていた想いが「恋心」なのだと初めて自覚します。
この様がなんともかわいらしい。
その10年後、「このよのおわり」では、その恋心を芸の肥やしに人気女形となった佐根市。
実らない想いを芸にかえ、この10年で「いじらしく慕う恋心・女心」を完璧に演じきれるようになっていた。
しかし、恋心を隠し通すことで芸を磨き、不仕合せであることが良い役者の条件だと思っていたけれど、そういうわけでもない。
「自分の心ととことん付き合う覚悟が足らねぇ。芸に逃げるな。」
とは、助六を演じる先輩役者・喜蔵さんのセリフ。
佐根市の演じる助六のお相手・揚巻は、今まで自分が演じてきたいじらしい娘とは違う。
助六のために自分の心も身体も投げ出せる覚悟を持った、肝の据わったいい女なのです。
その女の艶を演じきるには、自分の気持ちに向き合い、隠してきた想いを伝え、この10年を終わらせる。
清水の舞台から飛び降りる覚悟で、善介に気持ちを打ち明けようとする佐根市ですが、善介の方が一枚上手でした。
なぜなら、描き下ろしの「おまえ百まで」で善介が言ったセリフが佐根市の人となりを上手く表していて、
「遊ぶもとことん、惚れてもとことん、ゆえに芸もとことんだがね。」
だからこそ、佐根市は恋心もとことん芸に変換して、女形という自分を作り上げてきた。
そういう彼を近くで見てきた善介が、佐根市の想いに気付かないわけがないんです。
早くから佐根市の気持ちに気付いていた善介が、その想いを芸の肥やしにする佐根市にとことんつきあうと決めた覚悟。
愛する男のために、身も心も投げ出さん覚悟を持った善介の漢気は、まさに佐根市が思うところの揚巻そのものだったのです。
今風に言えば、佐根市はヘタレ攻めなのかもしれませんが、芸の道に生きるその姿は男らしいですよね。
そして善介は、清廉として初心に見えて、いい塩梅のわかる魔性の受けです。心は佐根市一筋ですが。
余談ですが、「おまえ百まで」に出てくる勘弥の艶話も読んでみたいなあと思いました。
同じように「いずみの如く、」と「龍の引越」も、駆け引きと目線、セリフ回しが素晴らしい。
「いずみの如く、」では、惚れることで湧きあがる欲を、短い話に上手く織り込んで描き切っています。
舞台は吉原。惚れた腫れたはまやかし、真の言葉なんてものはない、この世の全てがなぁんでもいいと思っている見世の番頭。
その番頭に惚れた遊び人の若旦那の、ことばの裏に隠された本気とおおらかさが堪らないです。
「龍の引越」では、一度は生きることを諦めた男の再生を、火消しの仕事に絡めて描いています。
麗人さんのレーベルにしてはえろさが少ないですが、江戸・明治・大正・昭和と、バラエティに富んだ内容です。
現代モノでは味わえない粋な駆け引きと、セリフの端々に見え隠れしている本音の部分とのバランスを楽しんでいただきたいです。
あと、たうみさんのお話には、必ずといっていいほどイイ女が出てきます。
今回も素晴らしい女性陣に脱帽です。男前過ぎます!そちらも必見です。
個人的には、「硝子哀歌」「カラスの名前」「カムバック・スイート・ホーム」が泣けました。
私の泣きツボは人様と違う気がするので、あえてここでは書かないでおこうと思います。
全部善かった、絵が綺麗。
ほくろや流し目など、歌舞伎の佐根市シリーズは、体の描写、全体のデッサンが正確で、演技の決ポーズが綺麗で楽しめます。
背景の描き込みは、ほぼ省略されていますけど、背景より人物の視線や仕草、さり気無い台詞に重点を置いたのだと思う。「カムバック・・」の東京タワーなんて、三分の一しか描かれてない。
他の短編も、筋書きが人情味豊かな内容で、胸が詰まります。
特に切なかったのは、死んだ兄の秘めた恋を描いた「カラスのなまえ」。
19才で亡くなった兄は、恋人がいることを弟にだけ少し話していた。
兄の葬儀に、舞台衣装のまま駆け付けた兄の恋人が訪れる。
弟が「小さなカラス」に気付いて短い挨拶を交わす。
その後どうなったか気になるけど、ここでオシマイだから、惹かれる。
次に印象深かったのは、「龍の引っ越し」
火消だった男の背中の入れ墨は、龍の姿にかぶさる火傷の跡がある。
火事で亡くした妻の最期の言葉が辛くて、火消の纏を持てなかった男が、生き直す話。
どれも綺麗すぎる展開で、遺される人が抱える悲しみが沁みて、泣けます。
思い切りよく余分を削り落とせる短編の良さを生かした構成で、結末を読んだ後の余韻が良いです。こういう造り込みを耽美風というのかな。
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内容:*は、善介と佐根市の話。
このよのはじまり*
このよのおわり*
硝子哀歌
いずみの如く
カラスの名前
カムバック・スイート・ホーム
龍の引っ越し
おまえ百まで 書下ろし*
あとがき
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美しい表紙がなんとも魅惑的だった一冊。
表紙の二人の表題作は江戸の時代物ですが、
他に江戸〜昭和30年頃まで、様々な時代が舞台になった作品達が納められた短編集。
雰囲気に味があり、やるせない中にあたたかな光がさすような読み心地の一冊でした。
:
『このよのはじまり』『このよのおわり』、最後の『おまえ百まで』が表紙の二人の話。
簪を咥えている男は女形で、幼なじみの手習い塾の息子・善介に長い恋心を抱いている。
芸の肥やしと数多の女を抱けども、芝居に深みが出ないのは本気で惚れたことがないから、
大決心をして善介の元を訪れると……
この幼なじみがなかなか一筋縄ではいかない性格で、いい。
「よろしい、抱かれてしんぜよう」が、ツボ真ん中だった。
10年後も二人は一緒にいるが、尻にしかれているのもさにあらん。
大正時代の『硝子哀歌』の『イズミのごとく』と続いて、
『カラスの名前』の舞台は明治。
個人的にはこの雰囲気がとても好きでした。
若くして死んだ兄の、たった一度の恋を知った弟……
『カンバック・スイート・ホーム』は東京タワーを建設中、
戦後を抜けて時代が高度成長に向かう頃。
幼馴染みの二人のけなげであたたかな話。(これも善さんなのは何かあるのかな?)
ベタなんだけれど、最後に男を見せたテッちゃんにグッとくる。
『龍の引っ越し』は辛い過去を持ち、その記憶とともに背に大きな傷を負った火消しの話。
いつ死んでもいいと思うが故に、火消しとしてカリスマ的な男が
一人の男と巡り会って、新しい生き方を見つけるまで。
刺青の使い方が格好いいかな。
良質の短編集。
どれも強いインパクトはないけれど、うまくまとまっているし
読んでいて読後感も悪くなく好き。出てくる女性もまたいい。
ただ個人的には、以下の点で☆ひとつマイナス。
作品によって新鮮みに差があること、そして
願わくば、もうひとつ重さや暗さがあった方がよりこういう世界は生きるかな〜と。
平成の空気が一切漂わぬ短編集です。
巻末によれば一番新しい空気でも(昭和の)第二次大戦直後
辺りですとか。
それならば評価が綺麗に分かれるのも無理はないでしょう。
短く見積もっても都合百年程度の感覚を行ったり来たりしないと
収録作総ての気持ちを追えない訳ですから。
ただ一つ、その中でも一本ピシッと通った筋はございます。
それは『演じる』という一点です。
受けも攻めも素直に恋の手練手管に溺れていれば良いものを
そこに幾許かの演じる心なんぞ入れるものですから、
在って視える筈の誠が不意と見えなくなって途方に暮れ、
堂々巡りをした挙句に舞台から降りた瞬間にやっとこさ
惚れた腫れたに気付く。
そう言う不器用なお若いのがうろちょろしてるのが
この一冊でございます。
まいど、この作家さんの描かれる雰囲気が好きで衝動買いしてしまうのですが
今回は時代物でしたね
表紙を最初にみたときから楽しみにしていたんですが
なんで時代物BLって少ないんだろ。。と思うくらい良かった
髷が折り重なっている様はなんだか無性にときめきましたヽ(・∀・)ノ
え?そこじゃないって?
表題作、「このよのはじまり~」な表紙のカップル。
女遊び上等の役者な攻。女はよく知っているけれども色気は皆無
女形であるものの、本当の色恋を知らない。
そんな攻が~なお話ですね。
本当に好きな相手は怪我したくない、いつまでも綺麗なママで大事
なんだかそういうのが可愛いなと思うのでした。
また、その受に教わる、芝居のヒントとのリンクがわかりやすくて
読み手としても気持ちよく読めたのが好印象。
嫁さんのが強いっていうのはやっぱりオイシイですな。
>いずみのごとく
娼館で使用人を水揚げwww
設定はともかく、最後の「まいりました」に思わずグッときた
気持ちの動く瞬間が好き
>カムバック スイートホーム
最後の言葉にガツンときました。
ストレートな言葉と裏腹の赤く染まった耳たぶ
それが相まって思わず可愛いと男らしいと妙な感覚がマル
ほか短編。
最後の火消しの話。言葉にするのが難しいので省きますが
好きです。なんだかんだで最終的にケンカップルな雰囲気が良かった。
なんだか吹っ切れた。それがイイ