イラスト入り
少し読んで、あっこれ私の大好きなやつだ…とわかり、もう夢中で一気に読んだ。イケメンチャラ男が純情な真面目くんにマジ惚れしちゃうやつ。全編攻め視点。政治家の一人息子×訳あり風の苦学生。
女の子と経験豊富な花塚は、自分にだけ態度の違う昴が気になる。経験豊富ゆえに、「俺のこと好きなんじゃないの?」「お試しで付き合う?」とか言っちゃう。
で、いざ付き合ってみると欲しがってるのは自分ばっかり。好き好き言ってるのも自分だけ。昴からはその言葉は聞けない。なのにキスしたり、触り合いは許してくれる。
その上昴はお金に困ってるようで、夜はバイトばかり。体を壊すのではと心配な花塚は、お金を貸すようになってしまう。
それで少しは気を許してくれるかと思ったのに、お金が必要な理由は教えてくれないし、エッチも最後まではさせてくれない昴。そんなままならない関係に、ますます夢中になっちゃう花塚…。
好きだ好きだ好きだ、と繰り返す花塚に、嫌だ嫌だ、と返す昴。ここまで読んで、昴はただ素直になれないだけだと思ってたんで、このシーンはもどかしくて苦しくて。そんなある日、昴の妹が寮に現れたのをきっかけに、昴の嘘と秘密が明らかになる。
今まで見えていた花塚と昴のキャラクターのイメージが、これによってそれぞれまるっきり、真逆になってしまう。非常に鮮やかな展開。攻めも読者も騙された形になるわけだけど、伏線もちゃんとあって、心理描写もしっかりしているので納得できる。
そこからの、引き延ばして焦らされてようやくやっと、といった感じのエッチシーンで、とうとう涙腺が大決壊。もうここの濡れ場は、名シーンと言っても過言ではないのでは?
自分の思い上がりや愚かさに気づいた花塚と、すべて暴露してようやく本音を言えた昴の、気持ちを確かめあうためだけの交わりがもう…本当に、本当によかった…。
多感な少年時代の、親や学校に縛られている閉塞感や無力感、焦燥感などもよく伝わってきて、切なく甘酸っぱい気分になる。嘘と秘密を壁の中に置いてきて、壁の外で新しい関係を始めよう、というラストの、なんとも言えない清々しさ。
秘密の屋根裏部屋、天体観測、流星群、と物語を盛り上げる舞台装置もロマンがあって、すべてが私好みの良作。実は本当に純情なのは攻めの方だった、というオチも含めて。
男子高校生が壁の中でいろいろする話(言い方)
山奥の名門男子校に入学した香司の父親はある有名政治家であるが、本人は自他共に認めるチャラ男。
以前、同じ学校に通っていたいとこに教えてもらった秘密の部屋に女の子を連れ込んだところ、先客がいた。
その先客は、学年一の優等生昴で、彼はその部屋で天体観測をしていたという。
その出会いがきっかけで秘密の時間を共有するようになる二人。
香司にだけそっけない昴が時々見せる無防備さに惹かれていく……
という話でした。
実は、二人には香司の知らないつながりがあるのですが、それは二人にはどうにもならないにも関わらず、二人の関係にマイナスでしかないつながりで、あー……残酷だなあ……って思いました。
個人的に世の中で一番残酷なのは、自分ではどうにもできない出自だとか、血のつながりに関わることだと思うんですよね。
こればっかりは自分で断ち切って乗り越えたつもりでも、その事実は消えないから、枷でしかない。
自分でやったことの責任を取らされる方がよっぽどましだよね、といつも思っています。
とまあさぞかし「しんどい本」みたいな感想書いてますけど、安心してください。なんのことはないハッピーエンドです。
まあちょっとハッピーエンドに行くまでにもうひと盛り上がり作れそうなあっけなさだったような気はしますが、それをやると収まりきらないんだろうな……と思うので、致し方ないですね。
ちょっと切ない寮の中の青春物語を読みたい方にはオススメします。
全寮制の学生寮を「壁の中」と表現するだけあって、閉塞感がつきまといます。
陽キャでどこかチャラさを漂わせた香司と、学年トップの優等生・昴という正反対の二人が、屋根裏部屋で夜な夜なこっそりと天体観測をする仲になる。
陸の孤島にある学生寮という閉ざされたちっぽけな場所から眺める宇宙の広大さ。
その対比が印象に残りました。
外とは隔絶された学生寮という環境、そしてだいぶ大人に近づいてはいるものの親の庇護下にある学生という立場。
守られているけれと同時に閉じ込められている彼らの恋の行方が苦しい。
香司はやがて昴のことを好きになるも、昴はキスは許すもののそれ以上は頑と拒むし、そもそも「好き」と返してくれない。
そしてお金を必要としている理由も明かしてくれない。
昴は単なる意地っ張りとかクーデレ・ツンデレではないんですよねぇ。
これ昴視点だったら、もっと苦しいものになっていただろうなぁ……。
私は香司が「いつかさ、壁の外で会おうぜ」「貧乏で、何も持ってなくて、でも今より少しは自由で」と言うシーンがやっぱり好きですね。
香司の語る「いつかの話」がまるで異国のお伽話のようにすら感じて、その切なさが私の琴線に触れます。
不自由さを感じながらも今すぐどうこうできず
「いつか」としか言えない歯がゆさ、不確かな将来に望みをかけるしかないままならなさ。
「早く大人になりたい」と子供である自分に歯がゆさを覚える攻めが好きなので、この作品もそこがツボでした。
ーー
スピンオフの「君は僕の初恋の人」を先に読んで、そっちがあんまりツボらなかったのでこっちも読む気が失せて積んでいたけれど……。
うーむ。
二作品とも、苦しい関係でしたね…。
というか、意味ありげな仲で登場する教師の棚橋と朝倉は、「君は僕の初恋の人」の攻め受けかー!!と読後にようやく気付きました。(遅すぎ!)
あと「花塚」というのを「花嫁」と読み違えちゃうの!!
ここがとにかく残念でした。
花塚という苗字と出会った事もなくこの作品がお初だからか、それよりも馴染みの深い「花嫁」に勝手に目が変換しちゃうの……。
だから、いいシーンなのに「花嫁」と読んでしまう自分にガッカリしまくり。
全寮制の男子校を舞台にした物語。
しかし、そこに普通に想像するようなBLの世界はなく、終わりは壁の中にいた時の子供だった自分達から少し脱皮して大人になろうとしている主人公達が今度こそ真っ直ぐ向き合うという場面で終わっておりました。
受け視点で物語が進む事が多いのですがこの作品は攻め視点。
これが逆転していたらものすごく切なく苦しい物語になっていたかもしれませんね。
この攻め視点であることが「嘘と秘密」をクローズアップさせて痛みを軽減しているかのようでした。
合コンで知り合った女子をこっそり持ちかえりして寮の立ち入りが出来ないようにしてたる部屋でこっそり頂こうとしていた香司だが、その部屋の天窓の外に人がいて連れ込みをみられてしまい結局おじゃんになる。
その天窓の外にいたのは同級生で優等生の青山昴でした。
その晩の出来事を黙っていてもらうために、バイト帰りの昴をこっそり寮に上げる手伝いをするようになり、学校で認められた以外の深夜バイトもしていることを知り、そこでわかった昴が金を必要としている事実。
女子を連れ込んだ事をだまっていてもらう、代わりに金を貸すから深夜バイトをやめてくれと、そして昴がしている天体観測を一緒にさせてくれと。
こうして、一緒に天体観測をする時間につれて昴に沸き起こる香司の好きという気持ち。
しかし、昴はキスは受け入れても激しく拒否をするのです。
今まで話した事のない人物と会話をする、興味が動く。
彼の秘密を知る(それは一部だけだが)、更に興味がわく。
一緒に過ごす、そしてそれは好意へ変化していく。
親が政治家でそんなものには関わりたくないと、自分の事だけ考えて適当に普通に高校生活を謳歌していた香司ですが、それは枠からはみ出るほどのものではない。
親から与えられた充分すぎるほどの金を持ち、それは使うあてもないし、目標もあるので貯金をしてはいるのだが、恵まれた彼はまだ親の庇護の元守られた存在の子供。
「好きだ」という感情も、昴に金を貸しているだけの金づるかと気がついても、一方的に押しているようなところがある。一途ともいうのだろうが。
昴のそこまで拒否する姿に、その心の描写はないので推測するしかないのだが、決して100%拒絶しているようには見えない。
何となく迷いのようなものが見える気もするのです。
その理由が夏休みに明らかになります。
結局、彼は逃げてしまったけどそれは葛藤したからだと思います。
ラスト再会のシーンは昴視点で描かれます。
それによってその想像は間違ってなかったのだと答え合わせができました。
昴の抱えるものが深刻だっただけにやりきれないものがあったのですが、彼等なりにそれは消化できたというより、真正面から受け止めたということになるのでしょうか。
星空効果なのか、どうなのか、香司の好意が持続するそのパワーがすごいと思いました、
普通なら、あれでサヨナラだよね~って思ってしまうのです。
高遠琉加さんは、雰囲気が好みで作家買いする作家さんのお一人。
その新作。
「これ書くより、皆が待っている続きをさっさと書いて下さい!」と思わなくはないが、
それはともかく、タイトルのつけかたも高遠さんらしいと思いながら手に取る。
壁……といえば「刑務所」だが、今回の壁はさにあらず。
山の中にある寮制男子名門高校の壁。
高遠作品らしい、切なさはある。
まぁ、悪くないけれど、ツボの真ん中にはこなかったかなぁ。
寮物なんだけれど、主な場面が夏休みなので、寮は人口密度が極めて低い。
主人公達と、教師が二人。
夏休みだから私服でいるものなので、制服の描写もない。
ちなみに教師二人は、なにやら気になる感じなので、
これはスピンオフの伏線かもしれない。
(彼らの高校時代から始まる話だろうか?)
チャラチャラしているようで、実は純情な攻めも
真面目で優等生で心に思いを秘めている受けも、
自分たちがまだ子どもで何もできないことを分かっていて、口惜しくて、
あがいている感じがいい。
親同士の経緯は、途中からそうかなぁ?と予測はついたが
これを全く知らなかった花塚は、ちょっと脳天気過ぎるのでは?と思った。
彼は交友関係も広くて、そういうことに疎いとは思えないのに。
学校の中でも噂とかにならないのかなぁ〜?
あ、最後の舞台になった、T大学。
来年から掲示板発表を取りやめるようですね。
掲示板発表をしているうちで良かったね?花塚くん。
絵師の小椋さんは、時折私の好きな作家さんの挿絵を担当されるが、
どうも今ひとつ好みではなく、やはり今回もイメージにピンと来なくて
星空とか屋根裏部屋とか美味しい題材なだけに、個人的には残念でした。