老いもせず、死にもしない。 そんな死神の恋―― 切なさが美しく心に響く、連作落語シリーズ。

コミック

  • 年々彩々(表題作 デラシネの花~落語「寿限夢」より~)

年々彩々(表題作 デラシネの花~落語「寿限夢」より~)

nennen saisai

年年彩彩

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表題作年々彩々(表題作 デラシネの花~落語「寿限夢」より~)

ホスト 寿限無(中略)長助 200歳くらい
貧乏神から転職した死神

同時収録作品金魚すくい~落語「貧乏神」より~

怠け者の与平
貧乏神

同時収録作品小向家の事情

その他の収録作品

  • 描き下ろし(デラシネの花)
  • カバー下表紙1【表】:キャラクターも登場のあとがきマンガ
  • カバー下表紙4【裏】:裏話[文字のみ]

あらすじ

【金魚すくい】
怠け者の与平と彼に取り憑く貧乏神。
二人はいつの間にか夫婦のような間柄になるが……
~落語「貧乏神」より~

【デラシネの花】
長寿を願い名付けられた寿限無(中略)長助さんは
幕末をむかえ、文明開化の音を聞き、二つの大戦を生き抜いて現代を生きていた。
そんな孤独に生きる彼の心の拠り所は、昔みた“死神”だった。
~落語「寿限無」より~

落語シリーズ二作ほか、短編一編&描き下ろし収録!

作品情報

作品名
年々彩々(表題作 デラシネの花~落語「寿限夢」より~)
著者
秀良子 
媒体
漫画(コミック)
出版社
祥伝社
レーベル
on BLUE comics
発売日
ISBN
9784396783389
4

(200)

(106)

萌々

(34)

(38)

中立

(8)

趣味じゃない

(14)

レビュー数
27
得点
788
評価数
200
平均
4 / 5
神率
53%

レビュー投稿数27

読むたびに沁み入る……

déraciné
根無し草。転じて、故郷や祖国から切り離された人。

年々歳々、来る年も来る年も淡々と時間が流れていく。
古今東西、人が望んで止まぬ長寿。
でも、知る人が皆死んでゆき、一人生き続けて行く事は苦しいだろう。

落語の「貧乏神」と「寿限無」を題材にした作品。
最後に関係ない小品と、寿限無の書き下ろしが加えられている。
サラリと描かれた、深くて物悲しく、そして暖かな物語。


『金魚すくい』
時は江戸時代。
貧乏神(びんちゃん)は、取り付いたグータラ男・与平になんだか振り回されている。
甲斐甲斐しく生活を支えながら暮していたびんちゃんだが、
やがて与平に愛想を尽かし彼のもとを離れる。
時は巡り、桜の候、死神に転職したびんちゃんは与平の最期の時に訪れるが……


『デラシネの花』は、「寿限無」の名を付けられて200年も生きている男の話。
子や孫は勿論知っている人は皆死に、特攻隊で命を散らそうとするが失敗し、
山奥で暮したり街中で暮したり、名を変え転々としながらいつしか時は平成。
ホストとして刹那的に生きる寿限無。

実際の落語では「貧乏神」同様、前座噺として扱われる事が多い「寿限無」だが
この本の中では、落語に秀流オチをつけた『金魚すくい』を前座としながら
続く『デラシネの花』では斬新な発想で、
切なくも優しく愛おしい世界を描き出している。

平成版死神(びんちゃんのその後)は、長髪でクールななかなかのイケメンだが
昔出会ったダメな男の優しさを心の隅で引きずって、またこんな男に引っかかり……
浮世離れしたちょっとずれた淡々さと(そりゃ神様だしね!)
妙に人間臭い死神がいい。

年々彩々……
淡く色がついた彼らの時間は、今後どんな風に描かれていくのだろうか?


最後の短編『小向家の事情』は、短いが読み応えがあり読後感のいい話。
回想されるエピソードの挟み方が秀逸。
ラストシーンの「ざまぁ」が、落語のオチに似た味わいか。


本自体も細部まで何気なく世界観に彩られ、読むたびに静かに沁みる一冊でした。

14

落語が漫画になるとこうなるのね。

読んで初めて落語からの作品なのだと気がつきました。
初めの金魚すくい、これって落語作家の小佐田定雄さんの作品なんですよね。
知り合いが落語をこよなく愛しているので、桂枝雀さんのテープを聞いたことがあり、
秀良子さんの手によってコミックスになるとまた違う味わいがあると
かなり心惹かれてしまう最高な作品に仕上がっていますね。

落語でも貧乏神の可愛らしさを感じたのですが、画でみると一段とですね。
内容的にはミイラ取りがミイラになったような話ですが、これが心に染み入ります。
落語家さんの話で感動もしたのですが、この作品でも視覚から感動を得ました。
これも画力と作家さんの解釈のたまものですよね。
是非皆様におススメしたい1冊だと思います。

表題作は寿限無寿限無でおなじみですが、長生きしすぎて現代ではこうなりました!
とんでもなく奇想天外であり面白くも切なくもありでしょうか。
200年生きたらどうなるのか?長寿を願う親子愛の落語がこんな風になるのだから
面白い、それに出てくる死神も心惹かれます。
この作品は取りあえず騙されてもいいやのつもりで読んで下さい。
高確率で面白いと思えるはずです。

10

死神の恋

onBLUEでの連載「落語シリーズ」2作に、drapからの短編と、描き下ろしを加えて構成された一冊。
落語シリーズは既読でしたが、その2作品とも切なさや、恋焦がれる気持ちが溢れて涙なしに読めなかった!

【金魚すくい】
怠け者すぎて女房に逃げられた大工の与平の元に現れたのは、家に取り憑いている貧乏神。
彼が言うには、取り憑いた家の人間が働いた儲けを養分にして生きているのだとか。
全然働かない与平によって貧乏神を失業してしまう為に、「働いてください」と言いたくて出てきたのです。
仕事道具も質に入れた与平は貧乏神に金を貸してくれと頼む始末。
日銭を稼いではすぐ使ってしまう。腰が痛いと言っては休む。
貧乏神も働いて、そんな二人の奇妙な共同生活が始まります。
そんな与平が貧乏神の為に買ってきた金魚。
食べられないけど綺麗だった。そして与平は寂しがりの甘えん坊だった。
どんなに健気に尽くしても、与平の怠けグセは治らずとうとう貧乏神は与平の元からいなくなる。

食べ物じゃなかったけど、金魚をプレゼントされてきっと貧乏神は嬉しかったのだと思う。
私といるとこの人は駄目になる。
そんな男も世の中にはいるもので・・・貧乏神を失業して転職した彼がなった職業は・・・その再会はとても悲しいものだが、「金魚ありがとうございました」この言葉に与平への愛は感じられないだろうか?
或る意味バッドエンドなのだけど、貧乏神がいなくなって彼はきっと金魚をその代わりにかわいがったのだと思う。
駄目な男の末路にザマァという気はおきなくて、やっと訪れた彼の平穏と会いたかった人との再会が果たせて彼は幸せだったのだと、思えるのです。

【寿限無】
初めて出来た子供はめでたくて、長寿になれる名前をと付けられたその名前のせいで、死ねなくてずっとずっと生きて、都会の街にまぎれてホストとして生きている寿限無。
彼はとうとう見つけるのです、その昔特攻隊の飛行場で見た死神を!
人としての限りある命に憧れる寿限無は、ひょっとしてその時に死神に恋をしたのかもしれません。
そうして、メールで呼び出しては会う仲になり、その執着は身体の関係にも発展し。

寿限無は取り残される寂しさをずっとずっと味わってきたんですね。
自分に死を告げる人、そして彼も死なない人。
寂しくて、人恋しくてそんな彼の想い人は待ち人でもある存在。
死神だってひょっとして同じかもしれません。
そしてやっと訪れる死の宣告。だけどその時残るのは未練。
この終わりはハッピーエンド。
でも、何故かちょっぴり切ないのです。

この「寿限無」が始まった時、与平さんは?ってとても気になりました。
死神は与平さんを好きでなかったの?死んでしまった人とは生まれ変わりで再会してそれで、とかそういう展開じゃないの?って、全く独立した別モノの展開になったことに、ちょっぴり救われない気がしたのですが、でも、別の話し!と割り切りました。
コレはコレ。アレはアレ。

そんな二人が仲睦まじくしている描き下ろしに、少し癒されて、死神はツンデレクーデレだと認識するのでした。
愛されて幸せ。

【小向家の事情】
drap掲載の1本です。
少年の頃知ってしまった父親の事情。
自分の家は普通のお父さんお母さんのいる家と違うのは、父親だけだからじゃない。
父親に恋人がいるからだ。
それを受けれて7年後、自分も男の恋人ができました♪

落語シリーズだけの掲載でもよかったのですが、ファンタジーでない現代モノが入ったことで、口直しな役割をしているかもしれません。
秀さんの作品は、これまでどれも全部はずしてない(自分的)今回も素敵でした。
萌えを超越して心を揺さぶります!

8

落語はよく知らないけれど、ガシガシと涙腺をやられます

秀良子さんは私の中でとても神率の高い作家様なので好きな作品はたくさんあるのですが、本作はその中でも特にお気に入りの作品。
強く長く心に残り続けるような神中の神作品です。
貧乏神ビンちゃんのダメンズウォーカーっぷりに乾いた笑いをこぼしつつ、デラシネ(根無し草)の孤独感と心の拠り所(救い)を描いたストーリーにガシガシと涙腺をやられます。



落語をベースにした「金魚すくい」と「デラシネの花」は、2人の根無し草のお話。
「根無し草に花は咲かない」と、かの経営の神様(松下幸之助氏)は仰っているわけだが、さてさて「デラシネの花」とはなんぞ?と。
この洒落のきいたタイトルに惹きつけられて読み始めてみれば、これがあとでグッと効いてくるキーワードだったことに気付かされる。
秀良子さんの描くお話にはいつも素敵なアンサーがあるのだ。

怠け者で貧乏神にすら見放されて独りぼっちになった「金魚すくい」の与平が最期にポツリと漏らす「さみしいなぁ…」
何百年も死ねずに独りで生きてきた「デラシネの花」の長助が死神に懇願する「傍にいてくれよ なぁ… 頼むよ…」
孤独の限界点を超えた2人の主人公が口にする言葉の先にある結末の差こそが、秀良子さんの提示するアンサーなのだと思う。
同じ根無し草でも、長助のように掴むべきものをしっかりと掴み自力で根を生やすことが出来ればいつか「花」は咲くのだろう。
だけど、「さみしいなぁ」と呟くことしかできなかった与平は根無しのまま死んでいく。

「デラシネの花」の対比として描かれている「金魚すくい」には教訓が詰まっている。
与平はビンちゃんに喜んでもらいたくて買ってきた2匹の金魚をビンちゃんが愛想を尽かして出て行った後も大切に育てているんだけど、そのうち1匹いなくなり、やがて残りの1匹もいなくなって…
一つの桶の中で飼っていた2匹の金魚は与平の理想の無意識の現れだったのだろうと思う。
だけど怠け者の与平は理想を眺めているしか出来なかった。
理想と現実のギャップを埋められないまま、公園でボンヤリとよその母娘を眺めている与平の視線が哀しい。
結局怠け者の与平が掴めた救いは、死ぬ瞬間のあの一瞬だけ。
与平の最期に再び現れて、金魚のお礼を言うビンちゃんの心を思うとやるせなさがこみ上げる。

この落語シリーズは、一つ一つは与平と長助の話なのだけど、二つが合わさるとお話の主人公がビンちゃんになるところもまた面白い。
「神様」という存在だったビンちゃんが一気に人間臭くなる。
与平を心にずっと住み着かせたままでいるビンちゃんが切ない。
長助と一緒に生きていくことにしたみたいだけど、ダメンズウォーカービンちゃんは果たして無事幸せになれるのか?!
「金魚すくい」の頃のビンちゃんが端々にデジャブる描き下ろしの長助との生活に一抹の不安が拭えません><
頑張れビンちゃん!!



タイトルの「年々彩々」というのは、禅語の「年年歳歳花相似 歳歳年年人不同(年々歳々花相似たり 歳々年々人同じからず)」をもじってあるのだと思いますが、「諸行無常の世界に彩りを添えられるかはその人の心次第」というふうに解釈しています。

最後にひとつ入っている現代モノの短編は、とても秀良子さんらしいクスリと笑えるオチ付きでほっこりしました。

【電子】レンタ版:修正◯、カバー下×、裏表紙×

6

和のミニマリズム

3つのお話が入っていました。
あらすじは割愛します。

3つとも、オチがよかったです。やはり、落語はオチが秀逸であってこそ。
1つ目は切ない余韻の残るもの。
2つ目は明るさを感じるもの。
3つ目はどんでん返し。
あいかわらずうまいなぁと思います。

秀さんはもう世界が確立してらっしゃるので、あとは読む側の好みの問題。
秀作品の中では、これはスタイリッシュな方ではないでしょうか。必要な部分だけ描いて(画面上もお話上も)あとは余白にして、和のミニマリズム、という印象。
これを狙ってこう出されたのでは、うならざるを得ません。うまいなぁ、としか。
これまでの作品もよかったですが、ぐうの音も出ない作品はこれが初めてです。

4

この作品が収納されている本棚

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