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表題作アンフォーゲタブル

和久井冬梧、明光新聞社勤務、25歳~
有村望、真秀製薬勤務、25歳~

その他の収録作品

  • アンスピーカブル
  • アンタッチャブル(とあとがき)

あらすじ

新聞社勤務の冬梧。製薬会社勤務の望と出会いやがて惹かれ始めるが、思いがけなく身体を重ねることになった後、望の電話は繋がらなくなり……

作品情報

作品名
アンフォーゲタブル
著者
一穂ミチ 
イラスト
青石ももこ 
媒体
小説
出版社
幻冬舎コミックス
レーベル
幻冬舎ルチル文庫
シリーズ
is in you
発売日
ISBN
9784344830615
4

(149)

(78)

萌々

(37)

(14)

中立

(9)

趣味じゃない

(11)

レビュー数
19
得点
589
評価数
149
平均
4 / 5
神率
52.3%

レビュー投稿数19

互いの核を信じて

明光新聞社シリーズ、第4弾。
読み始めると文章の一つ一つがひときわ精彩を放っているように思えるのは、
特に好きなシリーズ故の欲目だろうか。

本作を含めてシリーズのうち3作が、長い時を経て結ばれる話で
それも個人的にはツボ!


時は21世紀までまだ3年を残す、1990年代後半。
明光新聞社に勤める和久井冬梧は、ある日証明写真を取っているボックスに
泥酔して飛び込んできた有村望と知り合う。
喪服を着て号泣する、何か訳がありそうな有村。
素はむしろ律儀そうな彼をそこまでにさせたものに、
新聞記者としての興味もあり、何度も会ううちに……

西口(ステノグラフィカ)はまだ菊池さんと結婚・離婚前、20代で社会部にいる。
冬梧はその後輩だったが、
ある事件をきっかけに静(off you go)のいる整理部に移動になっていた。


TVの世界を題材にした『朝から朝まで』を読んだ時から、
一穂先生は報道のあり方に関して一家言あるのだろうなぁと思っていた。
その後新聞社シリーズはこれで4作目となり、更には昨年夏にDear+誌で
『イエスかノーか半分か』というTV局のアナウンサーを主役にした
文庫化が待ち遠しい傑作を発表されている。

そのどれを読んでも、訴える濃度こそ違えど
マスコミや報道のもたらす光と影、そこで働く人の思い……
というものが、滲み出る作品になっているのだが、
この作品は、それが大きな主題になっていたと思う。


自分の気持ちもはっきりしないまま、でも相手にとって必要だったから身体を繋げ
これから気持ちを確かめて行こうと思った矢先、忽然と目の前から消えた有村。
その後冬梧が、社会も自分自身の仕事上の立ち位置をも揺るがす事件に
巻き込まれていく様は、読んでいてゾクゾクするようだった。

タイトルから分かるように、そして別れて17年、
忘れられなかった思いを抱えながら時間が過ぎ、再会する二人の話だが、
何故短い付き合いで、たった一度の抱擁しただけの相手を
そこまで好きになったのか、思い続けていられたのか、
充分に描かれているとは言えない。

しかし、彼らにとってお互いは唯一無二なのだ。
二人の結びつきは、「恋」という言葉で語れるものではなく
性別も共に過ごした時間の多寡をも越えた、
それぞれが生きる根幹に分ちがたく結びついたものなのだろう。
それを「愛」と呼ばずしてなんと呼ぼう?


一穂作品に出て来る女性はいつもとても魅力的だが、
今回も、エピソードとしてサラリと語られる菊池さんも
後半登場する有村の妻と娘も、とても魅力的。

冬梧が乗っていたのと同じ青いゴルフに乗ってみたり、
葉っぱの手紙を送ったり、少女趣味だなぁと思える有村だが
自分が信じたことに向かう時の揺るぎなき勇気と強さ。

そんな社会派ドラマのような硬質なテーマを持ちながら、
時に軽やかに、時に柔らかく繊細に描き出す一穂節は健在。
ちょっと前の時代を描く難しさも、虚実取り混ぜ上手く表現されている。
惜しむらくは、もう少しページ数が欲しかったが。


普通に生きる、時にはズルかったり情けなかったりする男達の
高潔な核……
互いにそこを信じて、運命を預けて預けられて、そして40も過ぎての再会。
普通の恋人のように、日常を分かち合う喜びや、イチャイチャする楽しみを
これから少しずつ取り戻していく二人です。


追記:20代の西口や静(須賀)良時も、活躍しています。
   穏やかなお坊っちゃまに見える良時の凄さも垣間見えて、面白い。
   もうお一方は、親切な良時は立ち止まったのに素通りしちゃう外報部長として
   ちらりと影が見えておりました(笑)
   

19

やっぱり凄いなぁ…

タイトルの感じと、青石ももこさんの挿絵ということで
明光新聞社シリーズとわかる方はわかる、でも
分からないお方にもスーッと読めるんじゃないかなと思いました。
こちらをきっかけに、シリーズ読破も素敵な気がしました。
(勿論、過去作を読んだ方が楽しめるのですけども
シリーズにハマるきっかけはそれぞれだと思いますので)

最初はですね、正直言って、西口に憧れていただけあって
フランクだけど気持ちが真面目で純粋な和久井、
敬語で丁寧に話すし気配りも出来るし控え目そうに見えて頑固な有村は碧に、
若干かぶり気味じゃないかなぁ…?って思ってしまいました。
西口と碧は歳の差カプ、和久井と碧は同じ年でしたけども。

読み進めると、それも違うし(そもそも出会いからすっとんでたし!)
そんなのが気にならない程物語にのめり込みました。
自ら望んで抱かれた有村、その後姿を消した理由と
断たれた二人で過ごす未来がツラかったです。
事件の後、和久井に差出人の名前もなく送られた銀杏の葉に
こちらも涙がこぼれました。

どれだけの覚悟をしての行動だったのか、
読んでいるだけではたぶん理解しきれないのです。
自分の身を危険にさらしても、だなんて。
そこまで思い切らせてくれたのは、相手が和久井だから。有村だから。

17年、忘れられずにいられるだろうかと自分におきかえてみても
やっぱり想像でしかないのですが
魂を揺さぶられる者同士というのは、年数なんて関係ないのかもしれません。
“オリンピックが巡ってくるのが早すぎます”
とおっしゃるミチさんのように(違うか?w)

最後は出来すぎ感が否めなくてもしょうがない気もしますが
出来すぎ上等!!というよりも
あのツライ別れの後を想像すると(やはり実感はわかないかもだけど)
うまくいってくれなきゃ困る、本当に好きな人と結ばれないと
生きている意味もきっと半減してしまう、
頑張って誠実に生きている人が幸せになって報われてくれなきゃ!!って
単純に思ってしまいました。私は。

そして、個人的にミチさんの作品を
以前と違って心の底から楽しめない時期がありましたが
そんなイザコザなんてちっちぇーわ、と思うくらい素晴しい作品でした。
やはりミチさんが大好きです!!!

新聞記者としての自分、人間としての葛藤、
和久井の譲れない想いに胸が熱くなりました。
なりたくてなった仕事でも神経すり減らして
納得のいくような部署じゃなくてもその人の生き様って出るんですねぇ…。
そこに背中を押されるように行動を起こした有村もすごい。

すごい、しか言えないんですが、
(すごさが伝わらなくて申し訳ないのですが是非読んでいただきたい!!)
静がより一層魅力的に思える作品でもありましたw

16

葬られた関係と消せない想い

明光新聞社シリーズ四作目。

本シリーズでは、今までも社会問題に対する報道の在り方についてさりげなく問題提起がなされてきました。
(個人的には『is in you』のセルドナ王国の話が特に印象深い)

そうした、過去作ではサイドストーリー的に
語られることの多かったテーマが
本書ではメイン二人の恋愛に、人生に大きく絡んでおり
問答無用の迫力で読者にも迫ってきます。

17年前、まだ携帯も普及していなかった時代。
証明写真ボックスという辺鄙な場所で出会った冬悟と望。
冬悟はスクープを夢見る記者だったが
ある問題を起こして社会部から整理部に飛ばされる。
製薬会社勤務の望は、好きだった先輩を亡くしていた。
二人の過去の詳細は明かされぬまま
仲良くなっていく二人の日常が淡々と写され
中盤、望のある行動により物語は一気に加速を見せます。

望が冬悟に先輩を重ねた理由は顔だけではない。
報道の名の下に一般人を晒し者にしたくない、
青い理想を捨てきれない姿に、自分の計画(内部告発)を託せる、このネタで再び社会部へ戻って欲しいと願ったためでした。
自殺に追い込まれた先輩の意志を継ぎ、情報を渡した後、冬悟の前から消えた望。
冬悟は薬害問題を記事にするも、製薬会社の身内から殴られたことで外報部に回される。
自分達の行動は正しかったのか、答えは出ぬまま時は流れ…。

過去編は最高に盛り上がったところで唐突に終わり、
17年後の穏やかな冬悟の文章で現在編へ移行する。
たえず流動し、古い情報はどんどん淘汰されてしまう
社会の常を象徴しているようで侘しいです。
それでも互いに忘れられない二人は
望の娘(先輩の忘れ形見)が結びつけた縁で再会し…。

ツッコミたい点もいくつかあります。
17年間も好きでいられたことや再会できたこと、
ノンケの冬悟の順応性の高さ等はやはりファンタジーに感じる。
過去作の主役は、葛藤もあれど仕事に何らかの誇りやポリシーを確立していたが、冬悟や望は17年後もそうした変化が見えにくいのが惜しい。
若き日の望のイラストが幼すぎるのも気になりました。

それでも、上記のような点を越えて
伝わってくるものがあり、評価は「神」以外にないと思いました。

最も印象的なのは、望の原動力が正義感より何より
大切な人の意志を継ぎ、それをもう一人の大事な人に託すという
シンプルかつ真摯な想いであったこと。
17年後も、ただ身近な人のため頑張っていること。

社会派ドラマを描くでもなく、メッセージ性をもたせるでもない。
ただ答えのない問題の前で足掻き支え合う人間の姿が
ありありと描かれ、小説という枠を越えて
人生とは何か、読者に考えさせる示唆に富んだ一冊でした。


キャラとしては個性に欠けるかもしれませんが
誠実で懸命に生きている姿を応援したくなる二人です。
脇には、西口や静が冬悟の良き先輩として登場していました。
佐伯さんは名前こそ出てきませんが
素通りするだけで流石の個性と存在感を見せていますv

8

人ってそういうものだよね、と感じるお話でした

新聞社シリーズの第4弾目も切なさと優しさに包まれた作品になっています。

物語の初めは、証明写真ボックスという狭い場所でびっくりするようなきっかけで出会う冬悟と望。
新聞記者として、自分はもっと何かできたんじゃないかという思いに葛藤している冬悟の前に自分は何もできなかったと喪服姿で涙を流す望。興味をひかれた冬悟が声をかけ二人は親しくなっていきます。

冬悟が新聞記者になってやりたかったことや、現場でやっていくなかで折り合っていかないといけないどうにもならないこと。冬悟のまっすぐな性格や、その行動力が良くも悪くも冬悟の夢にとっての障害となります。そんな冬悟の葛藤を見守る静や西口と一緒に自分ももどかしく感じながら、だからといって折り合いをつけて世渡り上手になることで何かを諦める冬悟にはなって欲しくない・・・矛盾が人のあり方なのかもと考えさせられるところでした。

望は、見た目の印象として穏やかで優しい性格をしているのかなと思っていたら直情型で行動力のあるメリハリのはっきりしている人でした。
その思いの強さや優しさから、冬悟がやつあたりされるようなことがあれば怒りをあらわにし、冬悟の迷いや葛藤を肯定して勇気づけてくれる。
冬悟と向き合う中で、望の中にも勇気や覚悟が決まっていったんだという過程が丁寧に描かれています。

1度だけの身体の関係と、忘れないと告げて会えなくなった望。そこからなんの約束もなく会えない日々が続いていきます。

そして、望が抱えていた秘密が冬悟の夢を後押しし、二人の間を絶つことに。
こうしたきっかけがないと冬悟の夢はかなわなかったかもしれない、と思うと人は誰かと関わっていくことでいろんな可能性を生んで自分1人では出来なかったことをやり遂げたりするんだなと、そんな姿に感動しました。

ただ、ここで良かったねーといった展開にしないところが一穂先生。
望が勤める製薬会社の内部告発を冬悟が記事にすることで冬悟の身に危険がおよんだり、そのことで苦しむ製薬会社の社員、その家族への影響。正しいことを訴える記事を書いたのにその裏で苦しむ人にまた悩み、なにをどうすれば良かったのかに悩む冬悟の姿は印象的でした。
冬悟1人の力でなんとか出来ることではなく、冬悟1人が悩むことでもないけどそこに心を痛めるのが冬悟なんだなぁと。
世の中は正しいことだけが求められるものじゃなく、グレーでいることが1番楽なのかもしれない。けど、そうしたことに甘えていることに耐えられない人もいる。冬悟も正義感で正しいことをしようと思っているわけじゃない。そうした葛藤を飲みこみながら、自分に正直であれる道を前に向かって歩いていく強さが大切なのかもしれないと思いました。

そして過ぎた17年という時間。外報部員として海外に転属になって17年ぶりに日本に帰ってきた冬悟の前に、望の娘が訪ねてきます。
2人の間にはなんの約束もなくて、いつかまた再会して一緒になれるわけでもない。だけど、17年という時間が流れても望を忘れられなかった冬悟は、望の娘や奥さんと会う中で自分の今の思いや望の思いを知ることになります。

2人が再会して、これまで冬悟が望に対して抱えていたさみしさを甘えるようにぶつけるシーンには感動しました。望のやりかたは冬悟をたくさん傷つけたかもしれない。それでもそれが望だとわかっていても大好きな思いを手放せない冬悟が愛おしかったです。

たくさんの後悔と涙があった。けど、時間はとまることなく流れていくからこそ、人は変わりまた立ち上がって進んでいく姿にほっとしたり、感動したり、人ってそういうもんで、それでいいんだよねと思ってしまう作品でした。

4

レビュー書きたい!

新聞社シリーズ4作目?!おお~!!総て買ってるはず。通して読んでからレビューしようと…が、一穗先生のボックスが掘り起こせない!蔵書整理を…腐海をなんとかしなくては!!一穗ミチ先生も作者買いのお方です(*⌒▽⌒*)
人の心の襞をサラサラと、さわさわと揺すり、擽られる様なお話しを追いかけて。今作、深く潔い。…こんなに、再会まで年数かかったカプいたかたな~?(SF、伝奇、ファンタジー以外)…また、マンボウの脳内検索に有りません。ここまで思い合ってたなら、これから先も幸せに過ごしているに違いない二人の行く末に幸あれです♪

4

この作品が収納されている本棚

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