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表題作甘い手、長い腕

理一,27歳,鳴子縫製(シャツ工場)の息子
春日真尋,22歳,春日繊維(毛糸工場)の息子

その他の収録作品

  • 長い腕
  • 悪い唇(あとがきにかえて)

あらすじ

入院中の父を見舞うため、両親の離婚以来四半世紀ぶりに故郷を訪れた理一。
一人暮らしの父の世話をかいがいしく見てくれていたのは近所にある毛糸工場の息子・真尋だった。
なりゆきから父の経営するシャツ工場を手伝うことになる理一だが、真尋と頻繁に顔を合わせるうちに……
上記雑誌掲載作『甘い手』に加えて、真尋視点の続篇『長い腕』も収録。

作品情報

作品名
甘い手、長い腕
著者
一穂ミチ 
イラスト
雨隠ギド 
媒体
小説
出版社
新書館
レーベル
ディアプラス文庫
発売日
ISBN
9784403523496
3.3

(51)

(10)

萌々

(13)

(18)

中立

(6)

趣味じゃない

(4)

レビュー数
11
得点
162
評価数
51
平均
3.3 / 5
神率
19.6%

レビュー投稿数11

日常の中の深い愛情、でした。

何もかもが好きでした、この作品。

地方都市の町工場の跡取り息子同士。
大きな事件が起きるわけでもなく、華やかな場面があるわけでもなく。
そんなBLなんて地味だと思うじゃないですか。
地味なんですよ、実際。
でもね、そこが良いんです。

町工場経営の現状だったり、田舎特有の人間関係だったり。
シビアな部分があるのですが、敢えてサラッと書くことで、読者に色々な意味での余白を残しているようでした。
一番は奮闘する二人を応援したくなる余白ですかね。

東京でスーパーエリートサラリーマンだった理一は、やっぱりどこでどんな状況でもカッコいいんですよ、…メガネだし。
でも、最初はただのほわほわした男の子だとしか思わなかった真尋が、しっかりと芯のある男なのが、意外でしたが良かったです。
この二人の距離感が、淡々と話が進んでいく中で徐々に近づいていくんですよ。
途中途中で胸がグッと詰まる切なさを伴って。
あーたまんない。

あ、あと大事な登場人物として、真尋のお姉さん。千鶴さんが好きでした。
強引で大胆な反面、神経細やかで愛情深いというなんとも魅力的な女性でした。


読み終わって一番印象的だったのは、文章の中に手触りや温度があったなー、ということでした。
舞台がしっくりと馴染む、というか。
だからキャラが生き生きしているのかな。
改めて一穂先生の凄さを感じる1冊になりました。

0

読ませるお話しです。

幼少期に両親が離婚し、父の元を母と去ってから四半世紀振りに生まれ故郷を訪れた理一。入院している父を見舞うだけのつもりが、小さなシャツメーカーの社長である父の代理として一時的に何故か働くことに。父のことをしたっている近所に住む毛糸工場の息子の真尋とその姉と交流しながら過ごす父の家での生活が、いつの間にか東京での生活よりも落ち着くものに。
特に度々父へ見舞いに訪れる真尋と過ごす柔らかな居心地の良さ、それでいて家業を継ぐことへのためらいのない強さに、惹かれていき…。
でもあまりの父を慕う姿から2人の関係を疑い…。

今回は街の工場です!
いつも特殊な職業が多い一穂作品。
表面をなぞるだけではなく、しっかりと街の工場の内面まで掘り下げて、でも難しくない、読めるお話しの作り方は流石です!!
悲しくなりません。感動しません。お父さんも死なないし、大きな出来事もないです。だって街の工場ですから。小さな出来事一つ一つが薄い人間関係しか築いてこなかった攻めには人間味溢れるエピソード。だってその肩には従業員の人生がかかってるんですよ?東京で大きなお金を動かすよりよっぽど責任重大。そんな中何か大きな事件が起きたらダメでしょ!だから物語はたんたんと進む。けど、面白い!!

でもその分今回は萌えポイントは少なかったかも?
2人のエピソードがもうちょっと欲しかった!
でもこの攻めだと寡黙か甘々かの両極端になりそう(笑)

6

その手が紡ぐ、愛。

毎回ミチさんの新刊はどきどきして待たせていただいております。
この度はギドさんが挿絵ということで
ふわふわしたイメージが若干あったのですが
工場存続等の内容はやはりリアリティがあって、
そちらの面でも心配になりながら、
登場人物達の想いや頑張りに胸を打たれました。

母親に似たとも言える、すっぱりきっぱり、情とは縁のなさそうな性格の理一が
物心つく前に別れた父を見舞う為、生まれた地を訪れ
これまでの大手企業で消耗された身体、
彼女(元)の心無い言葉に傷つけられ
父親のお人好しな面にイライラしながら
出会った年下の真尋にこころをほどけさせられるというお話。

毛糸の工場も、Yシャツの工場も
正直どんな風かなんて考えた事がありませんでした。
ただ、今の世の中は安価で品質は二の次という風潮があって
海外の工場で作らせてコストダウンさせたり
そういう品はいくらももたないし心地よいものとは程遠いのはわかります。
でも、気持ちも込められていて、
身に着ける人の心まで包んでくれるような毛糸やシャツは
こんな人たちが携わっているんだろうなぁと
BLでの萌えとは違う視点でもグッときました。

都会にはなんだってあるし、歯車に絡んでいてさえすれば成功とも言える。
それで自分の価値判断が可能で、周りの評価も得られるけれど
それとは全く無縁の、真尋の純粋な家業への想いが
短い時間の中で理一を変えてくれる事に私も救われるような気がしました。

父をどこかで情けないと思っていたのに、
その人柄が本人からも“鳴子縫製”の工場の従業員からも伝わって
真尋が父を大好きで何でも自分と比べてくるあたりにズキッときました。
それが面白くないのは、ただの自尊心だけじゃなくて…。

真尋の喜ぶ顔が見たいと思ってイタリア行きを手助けしたのに
どんどん夢に向かって自分のやりたい事を具体化されていく事で
おいてきぼりをくらったような焦りを感じて真尋に暴言を吐いてしまうのも
言い方は冷たかったし酷いけれど、とても人間味を感じました。
いつも素直で、大事なことからは決して逃げない真っ直ぐすぎる正直さ、
これと思ったら譲らない頑固さ。
自分にはない強さに理一が惹かれるのも無理はありません。
誤解も重ねながら、体を繋げたシーンでは
「良かったねぇ…」と色っぽさとは違う感慨にふけりましたw

『長い腕』では真尋視点で
想いを遂げて付き合っている筈なのに思うように会えないし
相手が理一だから甘い言葉も熱い熱もあの日だけで
不満と不安が募るあれこれが綴られています。
すっごく共感しちゃいました!!
だって、ちゃんと好きでいてくれるなら
それなりのアクションして欲しいですもん!w
理一はそういうキャラじゃない、仕事が忙しいってわかってたとしても。
姉の千鶴との噂がたってしまったり、ホントにそんなの本意じゃなくて
おもしろいわけがない。
けど、自分に今出来る事といったら、落ち着くまで待つしかなくて。

ようやくひと段落した時の、焼肉店のやりとりに思わず涙してしまいました。
千鶴が理一と真尋の仲を簡単に許そうとしない時、
つい口が滑ってしまった真尋の
「自分なんか、結婚失敗したくせに──」。
私もバツイチ子持ちなので思わずグサッときましたが
理一の「失敗なんて、軽々しく口にするな」の言葉に救われました。
あの、最初は情なんてなさそうだった理一が。
父と重ねられる事を嫌っていたのに、結局そんな父を嫌いになれなかった理一が。
自分の失言を素直に謝って
理一に頬をごく弱く叩かれた事も受け入れて
姉に「理一さんのこういうところが好きなんだ」と宣言できる強さ、
ここは繰り返し読んでも泣いてしまいます。(そこかよ!!)
簡単なようで、言えない言葉だと思うんです、どちらも。

そして、好かれている実感が湧かない真尋が受けたサプライズ!
こういうのはやっぱりいつもだと効力無いから
特別だから良いんだよね!!!
ちゃんと愛して愛されてて、時にはまた不安になっても
また温もりを伝えあえる距離だから、
目指す将来はきっと同じだから信じられるって素晴らしい!!

大きな事件とかあるわけじゃないのですが、とてもじわじわきました。
毛糸もシャツも奥深いなぁ……。
どう転んでも、情が溢れているミチさんの作品、たまりません!!

6

少女マンガの方のギドさん

内容に関しては既にしっかりレビューが上がっているようなので、イラストの件。
個人的に、どうも雨隠ギドさんの画風を誤って認識しているようで、一穂さんの本にギド先生って???な気分で予約していたのですが、、、
まずカバーのカラーイラストからして、いかにもDEAR+な甘い色遣い。
キャラクターも、真尋はふわふわと実にかわいらしく、理一はまじめで融通聞かなそうだしで、お話の雰囲気にとっても合ってて、読んでいる最中はこのイラストの絵師さんが誰なのかすっかり忘れていました。
読み終わってから、
ああ、そういえば、雨隠さんって少女向けの非BLでもたくさん描いてらしたっけ、そっちは読まないからすっかり忘れてた。
と、再認識した次第。

この作品、真尋を弱ぺだの山下君、理一は最近引っ張りだこの小野友君で音声化してくれないかなあ。
そして太一は代永君でお願い。



それにしても、私、雨隠さんと誰を混同しているんだろう。

2

ニットの秋に向けて

溶けそうに灼熱だった暑さも過ぎましたようで、雑誌の中は早くも秋服ですね。秋に向けていいbl小説はないかなと探している方、一穂ミチ先生は有名だから読んでみたいけど、小説あんまり読んだことなくて〜と迷っている方に私がオススメしたいのが、「甘い手、長い腕」です。
攻めは一流企業を辞めて、約四半世紀ぶりに再会した父親のシャツ工場を手伝う、理一。受けは毛糸工場の息子で編み物男子の真尋です。
真尋は素直で人懐っこく、理一にとっては他人同然な父親(入院中)とも息子のように親しくつきあっています。
シャツとセーターのようにタイプの違う二人の微笑ましいラブストーリーで、視点が理一の「甘い手」と、真尋視点の「長い腕」に別れています。
全体的に会話が多いので読みやすいと思います、かといってスカスカのへぼさは微塵もありませんし。
個人的に真尋がとても魅力的に感じました、彼は毛糸をこよなく愛して、オリジナル毛糸を作り出すために奮闘します。編み物教室もやっているんですよ。
イラストは雨隠ギド先生、可愛い表紙がストーリーとマッチしてます。
¥605のお値段より遥かに楽しめる一冊ですよ!

2

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