よりによって、この俺がヤクザの脅しに屈するなんて――!!

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表題作愛の嵐

五十嵐,白根組の経済ヤクザ
美土里,不倫中の捜査二課刑事

あらすじ

同僚との不倫現場を目撃されてしまった美貌の刑事・美土里。
「バラされたくなきゃ、捜査情報と、おまえの体をよこせ」
若くして幹部の座についた頭脳派ヤクザ・五十嵐に脅され、美土里は屈辱と羞恥に震える。
仕事中も常に呼び出され、貪られる日々…。
――必ず後悔させてやる!!
胸中に、激しい憎しみの炎を燃やす美土里だが!?

作品情報

作品名
愛の嵐
著者
水原とほる 
イラスト
嵩梨ナオト 
媒体
小説
出版社
徳間書店
レーベル
キャラ文庫
発売日
ISBN
9784199007668
3.7

(13)

(4)

萌々

(2)

(7)

中立

(0)

趣味じゃない

(0)

レビュー数
2
得点
49
評価数
13
平均
3.7 / 5
神率
30.8%

レビュー投稿数2

ハピエンとは呼べないが

 こんな相手はやめた方がいい、やめた方がいいと思いながらも、はまってゆくのが恋。

 -随分昔の少女漫画にこんな一節があったのを思い出しました。主人公の十乃美土里(30歳)は警視庁二課の刑事。同僚からは「お前の笑顔は半径10メートルを吹っ飛ばす爆弾だ」なんて言われちゃう美貌の持ち主。10代で自分がゲイだと気づいてからは、世間でいう普通の幸せはきっぱり諦め、仕事に打ち込んできた。満たされない身体は、公安部外事課所属の先輩刑事三橋との不倫で埋めて。野心家で、出世のために警視庁幹部の娘と愛のない結婚をしたという三橋は、秘密を守るには好都合な相手だった。お互い割り切った関係。でもいつしか美土里はそれ以上のものを求めてしまいそうになる自分に気づいていた。

 そんな折、2人の関係を最もまずい相手に知られてしまう。暴力団のフロント企業代表の五十嵐。現在二課が捜査対象としている違法献金事件に一枚かんでいるらしい。密会の証拠写真と音声をネタに、美土里を脅してくる。自分の立場より、三橋を守りたい一心で取引に応じた美土里の身体を荒々しく蹂躙する五十嵐。さらに捜査情報を流せと求められて、美土里は次第に追い詰められてゆく。

 ただこの美土里というひと、見かけほどヤワでもしおらしくもなかった。やられっ放しなんて絶対許せない。一発逆転を狙って大勝負に出る。美貌も金もあって自分に自信のある五十嵐のような男は、簡単になびくような安い相手には興味を失う。だったらそこをうまく衝いて、態度で拒みつつ身体の方では甘く誘って、自分の虜にしてやろうじゃないかと。

 ところが作戦を実行しようとした矢先、なんだか雲行きがアヤシイ。これまで鞭でぶったり、平手打ちが飛んできたりと、かなり暴力的なセックスしかしてこなかった五十嵐の手が、妙にやさしいのだ。抱き締められて、股間に濃密な愛撫を施されて・・・「女じゃないんだからやさしく抱くな」美土里は三橋にいつもそう言っていて、五十嵐にも聞かれていた。だけど本心では、心を許した恋人に甘えて、包み込むように抱かれたいと願う自分がいた。身体だけと割り切ったはずが、やさしくされたら心まで持っていかれてしまう。それだけは絶対許せないと、必死で自分を戒めてきたのに・・・

 揺らぐ美土里に追い打ちをかけるように、三橋からは突然別れを告げられる。妻が不妊治療の末妊娠したというのだ。(不仲だのセックスレスだのはただのふれこみで、ちゃんとやることはやっていたらしい)「どうぞお幸せに」と綺麗に身を引いたものの心はズタボロ、仕事も手につかないほど憔悴した美土里を救ってくれたのも、やっぱり憎いはずの五十嵐だった。三橋の前で流せなかった涙を五十嵐の胸で盛大に流す。美土里が言いたくて言えなかった言葉も、五十嵐が美土里に代わって三橋に言ってくれた。ココ、結構スカッとしました。

 五十嵐とラブラブになって、じゃあ警察をやめてヤクザになるのか、と一瞬予想したのですが、ここでもまた美土里にいい意味で裏切られました。そんな甘っちょろいタマじゃなかったんですねえ。美土里は五十嵐の事務所で得たネタを基にガサ入れに乗り込む。スパイとして五十嵐に情報を流しつつ、五十嵐サイドの情報も集めて、虎視眈眈と機会をうかがってたのだ。一方の五十嵐も、間一髪事務所をたたんで姿を消す。その前夜、脅迫のネタにしていた写真と音声を美土里の手に返してー
 
 既婚の同僚の次はヤクザ。つくづく難儀なオトコばかり選んでしまうのは美土里の宿命なのでしょうか。お互いがお互いの道をゆく限り決して相いれないとわかっている相手。けれど五十嵐は言うのです。「俺はお前にずっと追われていたい」だから美土里も応えます。「借りは返す。寝顔は見せない」うん、どっちもイイオトコでした。だからおおっぴらにハピエンとは呼べなくても、私はこの結末を支持します。

8

愛は過ぎ去り、また巻き込んで吹き荒れる

水原とほる先生の警察もの。

既婚の公安所属の三橋と関係している、知能犯部隊所属の十乃美土里。
溺れてない、愛など求めない。
そう決めて三橋との情事を楽しんでいたはずの美土里だが…

…そうはいかないわけだ。
逢い引きをヤクザ者に感づかれ、脅され、ヤクザの情報屋に成り下がる美土里。
その上、ノンケのはずのそのヤクザにカラダまで凌辱され。

…とストーリーが展開していきます。
美土里が脅され続けるのは三橋を愛してるが故で、だが三橋は美土里のそんな心も焦りも絶望も知らず、妻が妊娠したから、と美土里との関係をいとも簡単に清算する。
はぁ〜…
この作品は一貫して美土里視点だから、三橋の「本心」的なものは全く書かれてない。だから、まず美土里を「捨てられる愛人」のように感じて読む場合、三橋は勝手なヤツ、心のない冷たいエリート、奥さんともよろしくヤってたくせに美土里を騙して…みたいな感情が湧くんだけど。
そこは実際は何とも言えないんだよな。
美土里が脅されてしまうタイミング、奥様が妊娠するタイミング、三橋が先を考えるタイミング、それらが美土里にとって不幸にも同時に来てしまった…
そこをただ美土里可哀想で読み進めると、弱ったところに新しい男の温もりが〜みたいになって、三橋どころではない禁忌の相手とのスリリングなラブアフェアを重ねる危うさが強調されるような気がして。
私は美土里をもっと強い男として読みたいから…
一貫した美土里視点よりも、三橋の生の感情、五十嵐の動いていく感情も読みたかった。
「萌」で。

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