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表題作雨だれの頃

同時収録作品春の息

その他の収録作品

  • エンゲージキーホルダー

あらすじ

優と美市は、優の引っ越しが決まるまで毎日のように一緒にいたご近所さんだった。中学に上がり、約束どおり美市のとなりへ戻って来た優だが学園の高等部には上がらず、外部受験を考えているという。ずっと一緒だと思っていた優の目には、別の何かが映っている。そのことが腹立たしくて、寂しくて、羨ましい。自分の胸はこんなにも、優でいっぱいなのに――。表題作[雨だれの頃]、二人のその後を描いた[エンゲージキーホルダー]に加え、優の友人・宿崎の淡い恋[春の息]を描き下ろしで収録。

作品情報

作品名
雨だれの頃
著者
桃子すいか 
媒体
漫画(コミック)
出版社
一迅社
レーベル
gateauコミックス
発売日
ISBN
9784758074261
4.3

(82)

(53)

萌々

(14)

(10)

中立

(3)

趣味じゃない

(2)

レビュー数
17
得点
354
評価数
82
平均
4.3 / 5
神率
64.6%

レビュー投稿数17

あのころ、ぼくらは

中学生の頃、友人との別れ際
当たり前のように「バイバイ」という言葉を使っていました。
今も、当時の友人と会って別れる際にそう言うけれど、
それが昔と比べてどれだけ不確かなものになったか
大人になった今、ひしひしと実感しています。
”バイバイ”は、本当のさよならになるかも知れないし
”またね”は、一生来ないかも知れない。
それでも、”また会える明日”をまっすぐに信じていた時があったことを、
この作品を読んでいて、思い出しました。

優と美市、
ふたりはどこにでもいそうな幼なじみ関係にある中学生。
彼女にフラれたり、下ネタを言ったり、エッチな本やビデオを見たり...
そう、ふたりはどこにでもいる、
とても繊細で多感な、瑞々しい14歳の男の子なのです。

それぞれの心に落とされた暗い影、
それを振り払うかのように一緒にいて笑うふたりの姿が
とても健気で、儚く、そして美しかった。
他の友達でも、彼女でも、家族でもだめで、
優にとっては美市、美市にとっては優でなくてはいけなかった。
泣いて、笑って、暗い影ごと抱きしめ合える存在ー
彼らにとってそれこそが、恋だったのだろうと思います。

コミックス冒頭と中盤に挿まれたモノローグと
ふたりが旅をするために使った青春18切符の日付が
平成18年となっていることから
約8・9年前の回想として本編が描かれていることが予想されますが、
そうするとふたりは今、22~23歳でしょうか。

現在のふたりの様子は描かれていないけれど、
読後、ぎゅっと抱きしめたくなった事実は、
あのころふたりは、確かに恋をしていたということ、
そしてその懸命な姿を、わたしたちは物語を通して
見守ることができたのだということなのだと、そんな風に思いました。
(もうひとつ、彼らと同じ学校に通う男の子のお話『春の息』も
とても素晴らしい作品でした。タイトルも秀逸です。)

抒情的で美しく、心を打つ十代のひたむきな恋の話。
あのころを振り返るには、ちょっと大人になりすぎた方にこそ
おすすめした一冊です。
たとえば、こんな雨の日、ショパンの『雨だれ』と共に是非。

最後に
今作とめぐり合わせてくださったユーザーさま、
ありがとうございました。めいっぱいの感謝を込めて。

12

あしあと ふたつ どこまでも..

思春期の幼馴染の優と美市
エスカレーター式の学校で同級生
早くに親を失くして、祖父と暮らす優
エリート両親と希薄な親子関係の美市
二人は互いに思いやり、必要とし側にいる
美市のひとりぼっちの生活から救おうと駆け落ちを提案する優
少しの現金と美市のお父さんのカードを持って
魔法のカードは出すだけで何でも買えちゃう
『カードを持たせるだけで親になれるなら、それこそ魔法だ』と美市
『こいつのまほうをといてやりたい..』と思う優
二人の想いは友達の域を越してきている
自覚があるような、無いような..
そんな時、居眠りしている美市を死んでるのかと錯覚し、両親を突然失った過去のトラウマを思い出し、過呼吸に陥る優

目が覚めて、倒れる優を発見した美市は、優が過呼吸になってることに気づき、自分の口で優の口を塞ぎ息を送る。
呼吸を取り戻した優に泣きながら告白する美市
そして、駆け落ちとゴールの優の両親の墓で美市への愛を誓う優
透明で穢れなく真っ直ぐに互いを思う気持ちに涙が止まりませんでした。
この僅かな思春期の期間に間違いなく二人は恋をしていたのです
親不孝かとも自問自答しながら..
それでも、幼いながらに互いを必要とし合う二人の恋が胸を締めつけました

ラストは読者に任せられてたのではないかと思います
私は今も彼らが一緒に居ると思いたい
もし、違う結末だったとしても、あの頃のあの真っ直ぐな想いがあれば幸せなんだと思いたいです

打算やリスクを考えもつかない真っさらな二人に幸あれと願います
心が温まる涙を流せる作品をありがとうございます
今後も期待の桃子すいか先生です

11

前奏曲

そっとしまっておきたい一冊を見つけたと思いました。
雨とピアノと心臓のドキドキ音がすべて重なって聴こえるような描写と、透き通るような「好き」の気持ちが複雑な心情の中でしっかりと伝わってくるすばらしい作品だと思います。

先にレビューをされている葡萄瓜さん(ネタバレなしでレビューされているのでぜひお読みになってください)も書かれていますが、ストーリーそのものは、絵柄のようにほのぼの可愛いお話です、というものではありません。それでも私は、読み終えてなにかシアワセな気持ちなんです。彼らそのものは、ほのぼの可愛いですしね。

できれば詳細をあまり知らずに読まれることを、私はおすすめしたいです。以下、段階を追っては書きませんがネタバレを含みます。

※※※ネタバレ※※※

主人公どちらかが抽斗(ひきだし)の中から古びた写真を見つけ、「あのころ」を振り返るところから始まります。この記憶をたどる展開のしかたが、そこに並べられるモノローグのせいでしょうか、実に感慨深くて作品自体を大人っぽくさせるように感じる。言葉の使い方などからして、振り返っているこの日というのは、かなり、かなり大人になってからなのかな?と私は勝手に思っているのですが、実際のところはわかりません。

【表紙ふたりの紹介】
表紙右の優(すぐる)は天真爛漫タイプで、両親は世界中を飛び回り、父親は建築士、陶芸ろくろを回す母を小さな頃から見ていた。家族には面倒見のよさそうな姉と、笑顔を絶やさない祖父がいる。

表紙左の美市(よしいち)の母は検察官、父親は事務所を構える弁護士。小さいころから家政婦のいる家で育つ。親の帰宅は月に1、2度。秘密主義ではないが、辛いことや欲するものへの気持ちを内に秘めてしまう。

幼稚舎からの幼なじみで同ミッション系の学校に通う、思春期真っ只中、中三の男子ふたり。クラスメイトに、いい加減子離れしたら?と言われるような仲です。優は美市のことを、あいつは自分に言わないことなんてないはずだ、と思っているんですよね。あるとき相手に覚えた違和感、惹かれているんだと気づいた瞬間、止まってはいられないが放ってはおけない...そんな描写がピアノの音のように強弱をつけ次々と迫ってきてとても印象的でした。

悲しみを知らない人はおらず、だからこそ人は誰かを励ましたり元気づけることができるのだと、あらためて気づかせてくれた作品。けれど、この話のなかで彼の不安を払拭することができたのは、いつであっても彼以外にいなかったのだろうし、逆もまた同じなのだと私は思います。切なく、激しく、しみじみと読み終えて、そして"魔法"は確かにとけて。気づいたら自分も一緒に泣いていた最後の数ページ。このとき彼らは皆14-5歳か、魔法がとけて、旅はここから始まるのですよね。最後にもう一度、拍手をしたい気分。私にとってはそんな幕引きでした。

読後にしみじみと思いを巡らすのがお好きな方に
ぜひおすすめしたいと思う作品です。

8

冬草

詩雪さん

コメントありがとうございます♪
レビューをUPした後、桃子すいかさんのブログを覗いてみたら、今作について、”9年前(2005〜06年)を振り返る、というお話”と書かれているのを見つけました。
同時に、優と美市が辿った(北への旅の)ルート等が細かく設定されているのを知り、その緻密さに、作品に対する桃子さんの熱意と愛情を感じました。

わたしも、読後はばっちり『雨だれ』をBGMに想いを巡らせましたよ♡
よい作品に出会えて、ほんとうに嬉しい。
何度も言うけれど、詩雪さん、ありがとう。

冬草

雨が止んだ先には青空がある

14歳。中学3年生。
自転車で行ける範囲だけがすべての狭い世界の中で、色んな悩みを抱えながらも一生懸命生きていた“あのころ”が、主人公の回顧録という形で描かれています。
奇しくもおげれつたなかさんの「エスケープジャーニー」を読んだ数日後にこちらの作品を購入して似通ったお話を立て続けに読むことになったのですが、またこれ系かと思うこともなくやはり迷わず「神」の1冊。
この手のお話に惹かれるのは作家様の人となりが自然と表れる題材だからかもしれません。

家族や将来のことで悩む美市(よしいち)を、小さい頃から一緒にいた優(すぐる)が「かけおち」と称して逃避行に連れ出すお話です。
これが優と美市どちらの回顧録なのかはハッキリ描かれていませんが、一人称(=僕)とストーリーの内容からして、おそらく美市の回顧録ではないかなと思っております。
美市にとっての優は、ただ特別な関係だっただけでなく、雨降りの中にいた自分に青空をもたらしてくれたこの上なく大切な存在となっているでしょうから、より一層鮮やかに残っているのではないかなと。
読み終わる頃には、この主人公と一緒に、自分の記憶の中にも残っている“あのころ”が自然と呼び起こされていました。

大人になった2人はどうしているのでしょうか?
作品内では明かされませんが、もし離れ離れになってしまっていたとしても、『エンゲージキーホルダー』で2人が交わした“約束”はきっとふとした瞬間に2人の心を結びつけることが何度もあるはずですよね。

2人の同級生の少年の恋を描いた『春の息』もまた、思春期特有の息苦しさと強さが詰まった心にぎゅっとくるお話でした。

このコミック自体は描き下ろしを除いて全編同人誌からの再録ということで、商業1作目となる次をとても楽しみにしている作家様のお一人です。
現在フルールで連載されている作品も絵、ストーリーともに吸引力があって素敵なので、興味を持たれた方は是非見てみてくださいませ。
連載が終わるまでは無料で読めますよ♪

6

過ぎ去ってもなお。

フォローユーザーさま方がレビューを挙げていらして読みたくなった作品です。少年を主人公にしたコミックスでは暫定一位!の大好きな作品です。

「少年」は萌えるモチーフの一つですが、「ショタ」と呼ばれるものとは違う萌え方をしているような気がしています。ショタはあくまで男性目線の性的指向のような気がしていて、わたしは妄想であれ少年とどうこうなりたいわけでもないし、少年が性的に開発されたり弄ばれる姿を見て萌えるわけでもありません。「少年になりたい」という願望を伴うのであれば話は別ですが。

少年が大人の男性に憧れてどうこうなるのが見たいわけではなく、同じ年頃の少年に憧れる姿に惹かれます。オレがアイツでアイツがオレで…。(なんか聞いたことがあるぞ。)それは、アイツになりたいくらいの羨望や嫉妬でもよかったりしますが、このお話にはそんな黒い感情すら登場しません。自分を思うとことと相手を思うことが等分に大事で、全ての感情がそこに向けられている、まだ青春ともいえない短い一時期。その思いとは何なのでしょう。友情なのか恋なのか、どう名付けていいのかわからないあやふやさが、女であるわたしには計りしれないなぁと美化してしまう、男同士が育んでいる特別な繋がりに思えてならなかったりします。いや、この年頃に限っては男同士だけじゃないかもしれませんね。

主人公はミッション系私立中学校に通う優と美市(よしいち)。優はおじいちゃんと二人暮らし。一方美市は、両親が弁護士と検察官というハイソな家庭。二人は幼稚舎からの仲良しでしたが、成長し、お互いの家庭環境を知るうちに、相手が置かれた状況を我が身のことのように思いやっていきます。優は学費の都合で公立高校に外部受験することになり、二人は離ればなれに…。その後二人がどうなるのかは読者の想像に託されているような描かれ方がなされていますが、だからこそ二人で一緒にいられる「今」が輝いて見えます。

優と美市が「かけおち」と称して、北へ向かって旅に出るエピソードがとってもお気に入り。一ページを使って描かれるシーンに胸を掴まれます。冬の北海道がロマンチックに描かれていて、とても素敵です。

5

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