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作者の作品を初めて読みます。
こちらのレビューを拝見したのがこの本を手に取ったきっかけでした。
帯には「GUSHレーベル屈指のストーリーテラーが贈る最新コミックス!!」とあります。
これはじっくりゆっくり、時間をかけて読みたい一冊かと。
実際いつもの倍近く、読むのに時間をかけました。作者は「言葉」をとっても大切にされている方なのでしょうね。どのページを開いてもそれが伝わってくる。作中、ある本における、例えば一文の表現ひとつについてを何名かで考えてみよう、というシーンがあって。これが面白いんです。私はこの後の読書にますます時間がかかってしまったけど。
キャラの絵柄や古書店の佇まいからか、本の中はどこか日本じゃないみたいに感じて、かえって一気に惹き込まれました。細部まで丁寧でステキな絵、微笑むご老人が印象的です。二つ目の作品『ピロー・トーキング』は読んでいる最中独立していると思っていたので(実際独立しています)、描きおろしでの予想外の深いつながりに胸を打たれるラストでした。どちらももうなんか...しみじみよいです。胸をチクッとやられた部分も含め、私はある意味すべてが愛にあふれる物語だったと思っています。
さて、ここからは余談です。
余談ではありますが、自分にとっては最初から最後まで気になっていたことなので、断片メモのようですが、書いておきたいと思います。読まれた方なら、どこかわかっていただける部分があるかもしれません。
表紙をめくっての美しいカラー口絵。
これがすごいインパクトで、しばらく眺めていて進めなかった。
花のことです。
すずらんの花が、まるで両手のひらのように、あるいはこの作品を読んだ後でたとえるなら、プレゼントにする包装紙のように古書を包んでいる。これは店舗のドアにもあったので店名ロゴなのですね。この口絵にはさらに、主人公たちを囲うようにネコヤナギが(たぶんネコヤナギだと思うのですが違っていたらごめんなさい)。なぜネコヤナギなのだろう、と思っていたのです。春を待つ、とか?いろいろ頭に置きながら読み進めていたのですが、気になったままラストページに到達。
調べてみると...
ネコヤナギの花言葉は「自由」「思いのまま」などとありました。
すずらんの花言葉は「再び幸せが訪れる」「幸せが戻ってくる」。
英語のほうがしっくりきます "Return of Happiness" 。
そして「すずろ」=ぼんやり、なんとなく、というような意味だと今までは思っていたのですが、すずろには、「おもいがけないこと」という意味もあるようです。
101冊の "101" という数字も、
意味を持たせているのかもしれないなぁ。
上記のことから感じたことはあえて書きませんが、花言葉を知ってからの読後の味わいは、また違ったものになり深く沁みました。
自分の中ではここで、萌2から神に。
ここまですべて、私の実に勝手な解釈というか感じたものです。
長々と、大変失礼いたしました。
間違いなく忘れられない作品たち。
ステキな本に出逢えて心からよかったと思います。
すずろ古書店で繰り広げられる、本を介した人々の繋がりを描いたストーリー。オーナーのセレクトが評判で、書店員の砂子(いさご)はこのお店とオーナーとの出会いにより、人生のある局面で救われた人物。オーナーの遊び心で書店に迎え入れた、なかなか売れない101冊に渡る全集の一冊目を手に取ったおばあさんが、砂子と彼女の孫、智果(ともか)を引き合わせてくれます。
智果が体育会系から文学青年に転向しちゃうのがなんともセクシー。砂子さんもその豹変ぶりを目の当たりにして、意識するようになったハズ(憶測)。智果の方も101冊の本とともに砂子に興味を持ち始め、すずろ古書店で一冊ずつ揃えていきます。他方、砂子は智果が一冊買いに来るごとに一つの質問をして、彼の事を少しずつ知っていこうと決める。なんて奥ゆかしい恋の進め方なのっ。
この単行本にはもう一つのお話「ピロー・トーキング」が収録されています。お互い恋愛感情はないけど、同衾すると(身体の関係は無い)何故かよく眠れるので同居している中年ゲイ同士、サエない断食系・犬養と美貌の肉食系・沖の物語。このお話の結末が実に泣けるのですよ。描き下ろしと併せ、思わずエンディングで涙してしまう顛末をここで申し上げたいのですが、ネタバレみたいになってしまうので、気になる方は他の方のレビューをご覧になってくださいね。
この作品を読んで、改めて本を読むことについて考えさせられました。誰かが伝えたいことを物語にする。それを手に取る。読む。何かを受け止める。誰かに伝えたくなる。その本を別の人に託す。会ったこともない知らない者同士が一つの物語を共有することで心のどこかが繋がる。なんだかちるちるさんのサイトみたいですね。
この先生の時間の流れを大事に描くところが大好きで、今回は時間をかけて行う読書という行為に、人物たちの心の変化や成長していく姿が重ねられていました。セリフもモノローグも、全部心に刻みたくなるほど、さりげないのにとても深い。世界観があって、かつ作家さんの思想の片鱗のようなのものを垣間見せてくれる、随所に様々な愛の形が散りばめられた素敵な物語です。繊細系がお好きで、ストーリー重視の方にはご満足いただけるのではないかと思います。
一冊に【すずろ古書譚】と【ピロートーク】という二作品が収録されていて、書き下ろしでそれぞれの登場人物が絶妙に絡んでいます。
【すずろ古書譚】
古書店で働く店員の青年と店にやってくる少年とのお話です。
101巻全巻揃うことが稀な古書を欠けなく一揃い入手したオーナーとそれが誰の手に渡っていくのか見守る青年店員。そしてその一巻目を祖母にプレゼントされた少年。
当初、全く本に興味を持てない少年でしたが、あるきっかけを経てやがてそれを自分で買い揃えるようになります。
本棚の陰から見つめる少年の視線の意味に気づいたのか、その本を一冊売るたびに一つの質問を少年(今や成長して高校生)にする事を決めた店員さん。101冊と101個の秘密というのが何とも素敵で、彼の手元に本が揃っていくにつれて二人の仲が深まっていくなんてロマンティックです。
本の中身を読むことだけが本の全てではなく、本そのものが人と人を繋いでお話を紡いでいく、そして本に魅せられた人々が集まって物語を織りなしていくというストーリーとなっており、本好きには堪らない作品だと思います。また、この本を手に取る事で、まるで自分もこの古書店のお客さんとして片隅に加わる事が出来るような気分になれるのです。
そして舞台となる古書店はヨーロッパのようなアンティークな佇まいのお店で、入り口ドアのエッチングガラスは蔵書票のような模様だし、プレゼント用のラッピングも洒落ているし、紙袋も素敵。細部に至るまでいちいち素敵なんです。興ざめさせられる事がない。
BLとしての恋模様ももちろん描いてあるのだけどそれだけに終始せず、物事に対する視線や捉え方、そういったものが端々に書かれていてハッとさせられます。
なかでも埃について語る一節がとても好きです。
全てのものに物語がある、それに気づくか気づかないかは自分次第でありそういう目を持っていたいなと思わせる作品でした。
【ピロートーク】
ゲイ同士の二人。お互い好みとは全く異なるし、お互いに理解できないと一定の距離を保つ二人だが何故かそばにいると安眠できるという理由でベッドに一緒に寝ている。そして一度も過ちはなかった二人。
そうやってなんと25年もの年月が経ったある日、何故か安眠できなくなってしまい別々に寝たいと申し出て…。
そして書き下ろしがまた絶妙!
【すずろ古書譚】と【ピロートーク】の登場人物達が本を仲介役として交差しており、読後感がなんとも素晴らしかった。
答姐の「ちるちるのランキング圏外だけど、心の琴線に触れた作品を教えてください」で教えていただいたのが、こちらの作品です。
伊東七つ生さんの作品を四冊読みましたが、こちらの一冊がまさに好みにどんぴしゃり!で感激しました。教えてくださり本当にありがとうございました。
古書店が好きです。
少し埃っぽくて、黴臭さが漂っているところも
そこに通う人たちが大切そうに本に触れるところも
それを、気にも留めないような、でも
実は見守られているような感覚さえ覚えるような
店主さんのまなざしも。
伊東さんの新作は、そんなイメージが浮かぶ古書店を舞台に
長い年月をかけて丁寧に繋いで、紡がれた
本と人との優しい物語です。
とある作家さんの奇書本をきっかけに繋がった
古書店店員の砂子さんと、高校生のトモくん。
年月を積み重ね、本を通して触れ合いを深めていく描写は
ロマンティックでほのぼのしているけれど
『できること』『やりたいこと』について、
ふたりがそれぞれの成長段階で思い悩んでいる姿は
しっかりとした読み応えがあり、そこから一段ステージアップする際
お互い(+本への愛情)が支えになっているところがとても素敵でした。
このお話は、おそらく、BLがメインではありません。
季節や歳月と共に、誰かが人や本と巡り会い繋がって、
小さな物語が点々と紡がれていく。
そんな中で、たまたま男性が男性に恋に落ち、大切に温めていく、
長い年月をかけて―
そういう物語なのだと思います。
もうひとつの収録作『ピロー・トーキング』も、
長い年月を重ねて(30年!)紡がれた一組のCPの物語です。
年を重ねることで、好みが変わることもあるように
元々の知己が、時を経て、居場所(眠る場所)としてだけではなく
ようやくたどり着いた最愛の相手として、これからはじまる人生の話。
じんわり、良いなあと思えました。
描き下ろしの、上記ふたつの物語の絶妙なリンクも素晴らしかった。
やはり繋げてくれるのは本、そして、紡がれていく物語。
この本は、BL色全開のストーリーがお好きな方には
あまり向かないのかも知れません。それでも、
この丁寧でやさしい物語を多くの人に是非手に取って頂き、
ちいさな、そしてあたたかな感動を共有したいと思うのは
わたしが本を通して誰かと繋がりたい所以なのでしょう。
万人の方におすすめ!とはいきませんが
静かに評価したいです。
この作品はわたしにとって『神作品』であることを。
読み終えて、まさに今の自分の好みを体現している作品だと
萌えだけでは表せない満足感を抱かせる一冊でした。
表題の作品のほかに一編『ピロー・トーキング』という作品が入っているのだが、これがまた秀逸!!
更にこの2作品がコラボして表題の主人公たちのその後を知ることもできるという素敵な描きおろしがついてとても充実したものとなっている。
店主の品ぞろえが支持されている古書店で働く砂子と
その店に101冊ある全集を1冊ずつ買い求めていく客の高校生・トモとのお話。
一冊ずつ買っていくたびに一つ質問をする砂子。
そうして互いを少しずつ知り、季節は巡り
その101冊の全集が店主語るところの、読むためでなく、物語が生まれていく為の本という役割を果たして二人の結びつきとなっている。
それがこの古書店という舞台であるところの意味をもなしていて、その雰囲気が好きだ。
そこで訪れる転機。
店主が倒れたことで、二人が付き合うきっかけになるのではあるが、それは二人の進む道とあり方を見直させるきっかけにもなる。
これが、この二人の物語の一番の本題となるべき、自分がとても好ましいと思った展開です。
片や社会人、片や学生でありますから、その差も当然あらわれて
特に、トモがただ砂子さんといられれば砂子さんがいれば、と、砂子さん基準でしかなかった自分を突き放された時に得られた時間により、一体自分は何が好きなのか、何がしたいのか、手探りながらそれは流され的ではあるが、物事をよく見るということを学んだことで、改めていろんなものと向き合える一つ大人になってきちんと気持ちを認識できる展開というのが漫画のコマやページ数という制約の中にうまくギュっと濃縮されて表現されてきっていると感じれられう点がとても自分の心に響くものがあるのです。
もう、書ききれないくらい、登場人物たちの会話や言葉、かみしめてしまうくらい。
熱い熱はないけれど、キス止まりのとてもプラトニックな展開だけど、
その心が訴えるものが舞台とマッチしている点が雰囲気含め素晴らしいと感じるのです。
同時収録の『ピロ-トーキング』
不眠のイケメン沖ちゃんが偶然拾った男にフラれた犬養と一緒に寝たら(ホントに眠っただけ)久々に6時間眠れたと、眠りの相性がよいからと同居して25年。
趣味もなにも全然違うし、タイプも違うのに、そこまでいた理由は「眠り」
そんな彼らが25年目にして気が付く互いの、自分の・・・という
熟年カップルのお話は、これまたいいんだ!!
もうっ!!思いっきり遠回りだけど、本当の絆ってこうやって作られていっているのかもしれない、と思わせる真の男夫夫物語。
このさいどっちが受け攻め関係ないの。
とってもとっても心があったかくなる。
そして描きおろし・・・
1読目・・・神をつけようかと思ったくらい
心に残る作品です。
冬草
詩雪さんへ
詩雪さんの花言葉の解釈がとても素敵で
思わずコメントさせていただいています。
すずらんの花言葉はちょっと有名ですが、
ネコヤナギの方は存じ上げませんでした。
こちらの物語にぴったりの花言葉たちで、
わたしもこのことを念頭に
もういちど読んでみたいと思いました♡
あと、店名のロゴも、
Exlibris(蔵書票)風になっていて素敵ですよね。
わたしもおすすめいただいたのですが、
伊東さんのひとつ前の作品『花とスーツ』も
とっても素敵な作品なんです。
もし機会があれば、是非ご一読ください。
(そして詩雪さんのレビューが読んでみたいです♪)
長々と失礼いたしました。
冬草より