• 電子書籍【PR】
  • 紙書籍【PR】

表題作ココロニイツモ

東海林唯 中古レコード店店長兼便利屋
タイ (律果)

その他の収録作品

  • bonus track(描き下ろし)
  • あとがき

あらすじ

商店街の片隅に建つ中古レコード店・きつね屋。そこには店長の東海林と、彼に拾われた青年・タイが暮らしている。タイには拾われる前の記憶が一切ないかわりに、一度聴いた旋律は忘れないという能力があった。生活力が低くあぶなっかしいタイの世話を東海林はマメに見ているが、二人の関係は店長と店員、それ以上でも以下でもない。だが近頃タイは、東海林に触れていると胸がくすぐったいような気持ちになる自分に気づき……?

作品情報

作品名
ココロニイツモ
著者
たうみまゆ 
媒体
漫画(コミック)
出版社
新書館
レーベル
Dear+コミックス
発売日
ISBN
9784403665271
3.9

(38)

(11)

萌々

(17)

(7)

中立

(2)

趣味じゃない

(1)

レビュー数
12
得点
146
評価数
38
平均
3.9 / 5
神率
28.9%

レビュー投稿数12

このままがよかったな。

お店ものが好きなので、特に期待しないで(すみません)購入。
作家さんも初めての方だし……と思ったら、以前「恋と罪悪」読んでました。ああ、あの方か。
中古レコード店を営む東海林と記憶喪失のタイ。加えて、上の雑貨屋のサトコさん。
この三人の関係が、とても好きでした。
最後はタイの過去絡みで色々ある訳ですが、ここらへんがちょっと微妙だったような。
とんでも設定がいきなり出てきます。まあ、それでタイの能力の説明も付きますが、ここまでなくてもよかったような。
加えて、最後のエロも個人的にはなかった方がいい気がします。

独特な雰囲気で、次回作も楽しみになりました。


 

3

恋を知った「アルジャーノン」

前半が重く苦しい。
後半、記憶が戻って、謎解きとタイちゃんが自分の生き方を自分で決めて終わるのだけど、オペラの「恋とはどんなものかしら」の歌詞や『アルジャーノンに花束を』を読むと、深みが増します。
久しぶりに凄く面白いと思った作品で、謎解きの読み返しを5回してしまった。

★この作家は、背景など余計なものを入れず、暗示を込めた台詞や小道具を読んでくれ!と意図を込める手法で描いている人なので、台詞の中の言葉を掘り下げると、先の暗示まで理解できます。
残念だけど、タイちゃんの未来について、悲しい暗示がさちこの台詞に出されていた。
『アルジャーノンに花束を』のアルジャーノン。

東海林さんが世話をしている、行き倒れをしていたタイちゃんは、記憶喪失。
音楽を聴いて、映画を観て、キスをしてもらったら、記憶を取り戻してしまい、
タイちゃんは夜半にママを訪ねて住所を調べ、「鬼畜」な(親)の元に戻って行った。
去る時に一枚だけレコードを持ち出していた、タイちゃん。
タイちゃんは、サヴァン症候群。父親に薬物投与されて脳を育成した実験体。本名は律果。

タイちゃんの素性が分かった後、東海林にさちこさんが言う。
・・鬼畜な親が運営する研究所の「タイちゃんは、秘密のアルジャーノンなのね」

東海林がタイちゃんに会いに行く。
「好き」を知って、脳の雑音が増えてしまったと言う律果の父親。雑音とは、「思い出」のこと。
研究所がいう「つまらない人間」として生きることを選び、律果は東海林とススキ野に戻る。
薬物投与を止めた後の後遺症の心配もあるけれど、東海林と恋を始めた「タイちゃんの今」は幸せ。

---
▶一枚だけレコードを持ち出していたレコードの曲。
Voi che sapete:
オペラ『フィガロの結婚』「戀の惱み知る君は」ケルビーノのアリア。
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト作曲
K.492/opera 《Le Nozze di Figaro》 Voi che sapete che cosa è amor

▶アルジャーノン(Algernon):『アルジャーノンに花束を』
①ダウン症の胎児を出生前に治療できると期待される化合物の名称。
②ダニエル・キイスの小説『アルジャーノンに花束を』に登場する脳手術を受け「天才」になった白ネズミの名前。飛びぬけた知能を持つ「天才」になるが、手法に「欠陥」があった為、不幸な結末に至る。

タイちゃんの少し先に起きることを暗示している?

1

音楽の天才

中古レコード店を営む東海林(攻め)は、ある日ゲイバーのママから記憶喪失の青年(受け)を預かる。1年前にひどい様子で行き倒れていたというその青年にタイと名を付け、共に暮らすようになるが、タイには記憶がない代わり、一度聴いた音楽をすべて記憶するという能力があった。


記憶喪失の受けと、中古レコード店店長の攻めの話です。
受けには聴いた音楽をすべて記憶する能力があり、その能力を使ってレコード店の客の「こんな曲を探している」という要望に応えています。
攻めはレコード店とともに便利屋もしています。やや無愛想ながらも、音楽以外には圧倒的に知識が足りない感じの受けの面倒もよく見ています。
夜には店舗兼住居でくっついて眠っています。

一般常識もなく、言葉も知らず、「好き」という感情も理解できなかった受けが、周囲の人々との交流や、音楽を聴いたりして、攻めに対する気持ちが他の人に対する気持ちと違うことに気づいていきます。
そんな穏やかな日々が、受けを探していた人物によって壊されます。

じんわりする、いい話でした。でもちょっとわからなかった点がいくつかありました。
なぜ受けは、自分から元の居場所に戻ろうと思ったの? とか。探されていることがわかったとは言っても、自分から逃げ出した場所に自分から戻る意味がわからない。攻めの安全を盾に脅された、とかならわかるんですが。
あと、攻めがいつ受けを好きになったのかもよくわからなかった。
それから、悪役というか受けの元保護者の設定がよくわからなかった。出てきたのも突然すぎたし、受けに執着していた割にあっさり手放すし、そもそもなぜ攻めと会ったのか。受けを取り戻そうとしている攻めとわざわざ会うなんて、危機意識が足りないと思う。

受け攻めのレコード店の上で雑貨屋を開いているサトコさんというキャラがすごく好きでした。三十路なのに受け攻めのお母さんみたいでした。
サトコさんはじめ、いろんな人に可愛がられてる受けは微笑ましかったな。

8

意欲的で魅力的だが、今ひとつまとまり切らず?

札幌のちょっと中心から外れた商店街の片隅の中古レコード屋。
その「きつね屋」の店長・東海林に拾われた、記憶のない青年タイ。
一度聞いた旋律は忘れない、音楽の生き字引のような彼だが
好きな音楽はないという……


たうみまゆさんは好きな……というか、とても気になる作家さん。
この新作も、そのひと味違う独特の味わいは健在。
CD屋じゃなくてレコード屋というところもいいし、
商店街の彼らに関わる人たちもとても味わい深い、
人の感情や記憶と分かちがたく結びつく音楽というモチーフも、
一話ごとに一つの曲が当てられている構成も秀逸……

だったのだけれど、テーマが結構大きかった為か
今ひとつまとめきていない感じが残念だったかと思う。

  浮き世離れした子どものようなタイ。
  無垢な彼が「好き」という感情を知る。


後半、え?そういう背景でしたか?という
少々トーンの変わった感じについていけなかったこともあり
すごく感動的なテーマと結末に
個人的には浸りきることができなかったのが残念だか、
登場人物達も暖かく魅力的で、テーマや構成も意欲的な作品。
今後もますます楽しみな作家さんだなぁと思った。

5

じんわりとやさしい温度感で沁みるラブストーリー。

良い意味で恋愛至上主義で雑多感のないストーリーラインを売りにしている印象の強いDear+に、たうみまゆさんの人間ドラマ色の強い作風は合っているんだろうか・・・と思うのですが、今んとこディアプラからのコミックが何気に冊数出てるんですねぇ。
個人的には何となくゼロ年代のマーブルコミックスの印象がつきまとう作家さんです。


札幌の商店街で中古レコード店を営む〔ユイ〕は、一度聴いた音楽を忘れないかわりに自分のことを何も覚えていない青年〔タイ〕と暮らしている。
特殊な能力以外はまるで小さな子供のようなタイが、ある時何気なく口にする問い。
──「好き」ってなに?

最初はタイちゃんが「好き」を知っていくお話なのかなと思ったんです。
でも、読み進めていくとどうやらそうではない。
タイちゃんを通して、すでに「好き」を知っているはずの周りの人間や読者が改めて「好き」に向き合わされるお話なんだなと考え直しました。
タイちゃんの言葉も、ユイの言葉も、さとこちゃんの言葉も、達郎ママの言葉も、読者を少し立ち止まらせてくれます。
やさしい温度感でじんわりと沁み込んでくるお話でした。

※この先ネタバレありです。ご注意ください。




私が子供の頃、飛び抜けた暗算力や暗記力を持った天才児たちがテレビでもてはやされていて純粋に「凄いなぁ!」と思いながら見ていたのですが、大人になってからその子たちが披露していた“凄い能力”は「サヴァン症候群」の能力なのだと知りました。
その時「天才って何なんだろう?」と思ってしまったのですよね。
タイちゃんの頭の中に一体何千曲、何万曲の音楽がインプットされているのか分からないけれど、その旋律も歌詞も全てがただの「データ」でしかないならそれらを覚えていることに何の意味があるでしょう。

タイちゃんは、記憶を失ったんじゃなくて、そもそも記憶が“無かった”。
「音楽データ」以外のものは全て「ノイズ」。
タイちゃんが脳にノイズ(=記憶や思い出)を残すことは許されなかった。
そんな脳でタイちゃんは毎日どんな風に生きていたんだろう。
何も考えられないだろうし、何も思い浮かばないだろうし、「空っぽ」の頭の中。

タイちゃんはなんで逃げ出せたんだろうなぁ。
そこら辺は少しフィクションの世界での都合のいい展開だったかもしれないけれど、なんとなく希望的観測も込めて、人間の高性能な脳は人間がそうそう完全に操り切れるものではない、という風に解釈しておきたいです。

「ココロニイツモ」、いいタイトルです。

【電子】ひかりTVブック版:修正-、カバー下なし、裏表紙なし

3

この作品が収納されている本棚

マンスリーレビューランキング(コミック)一覧を見る>>

PAGE TOP