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表題作眠れる森の博士

瀬野康太郎,死んだ筈の恋人?,30歳
白石修士,本の装丁デザイナー,30歳

その他の収録作品

  • 目覚める海の博士
  • あとがき

あらすじ

一週間前、恋人の康太郎が交通事故で死んだ――。深い喪失感に襲われ、虚ろな毎日を送る白石修士。人嫌いな康太郎は孤高の天才科学者と言われていたが、その研究については何も知らない。思い出を求め、修士は康太郎の残した私設研究
所に。しかし、無人のはずの研究所で出迎えた男を見て、修士は驚愕に息を呑む。「驚かせてごめん。俺死んだんだろ?」なんと変わらぬ笑顔の康太郎だった――!?

作品情報

作品名
眠れる森の博士
著者
いおかいつき 
イラスト
小山田あみ 
媒体
小説
出版社
徳間書店
レーベル
キャラ文庫
発売日
ISBN
9784199008641
3.5

(13)

(2)

萌々

(5)

(5)

中立

(0)

趣味じゃない

(1)

レビュー数
4
得点
45
評価数
13
平均
3.5 / 5
神率
15.4%

レビュー投稿数4

愛のありか

愛の対象は、いったいどこにあるのかを探す物語。

帯でほぼネタばらしされているけど、SF的設定の作品です。
こういうSF的設定のある作品って、その設定の前提の科学的根拠が、どれだけ納得できるか、その説得力みたいなもの次第で、上手くのれなかったりすることもあるのだけれど、この作品は、その大前提の設定や説明が上手かった。
実際にどうやって身体を培養したかは重要じゃなくて、それより、記憶の更新についてすんなり納得できたのがよかった(実際に科学的にどうなのかはここでは関係ない)
「過去の記憶」と「今の感情」、その間で本当に大事な物を見つけて、これからも二人で生きていく。
それでいいのよ。

2

死んだ筈の恋人が…

あらすじ:
恋人の康太郎(攻め)を交通事故で喪った修士(受け)。
天才学者であった彼の私設研究所を訪れると、そこに死んだ筈の康太郎が現れて…

※攻めの正体等について言及してるので、未読の方は閲覧にご注意下さい。

修士と康太郎は高校の同級生で、卒業後偶然再会したことがきっかけで恋人同士に。
ゲイであることで肩身の狭い思いをしてきた修士ですが、康太郎に愛されるようになり幸せな日々を送っていました。
しかしある日、康太郎は交通事故に遭い亡くなってしまいます。

失意の修士は康太郎が建てた私設研究所(別荘)を訪ね、そこで人の入ったカプセルを発見。
その中から、なんと亡くなった筈の康太郎が出てきます。

康太郎は何者なのか?という謎は物語開始後20数ページで、彼の口から明かされますが、それは本当なのか?という疑いは残ったまま読み進めることになりました。

彼が言うには、彼は康太郎が生前作り出したクローン。
姿形も性格も、全て康太郎そのもので、修士に対する愛情もあります。
どうしてもクローンを康太郎本人と思えない修士ですが、一緒に生活すればするほど、かつてのクローンに亡き恋人の面影を見つけてしまい…

と、修士が思い悩む展開。
クローンを本物の恋人と同じように愛せるのか?というテーマを淡々と描く内容です。
恋人がクローンとして蘇った、という掴みの部分から何かもう一展開あるものと思っていましたが、その予想は外れてしまいました。

やがてクローンの康太郎を受け入れ、愛するようになる修士。
しかし社会的には死んだことになっている康太郎を表に出すわけにはいかず、常に世間の目を意識して暮らすことに…
という感じで、クローンと生きていく上での現実的な問題も描かれています。

単にクローンを愛してハッピーエンド、とならない点は良かったですが、自分のクローンを作った本物の康太郎のエゴについてはもう少し掘り下げて欲しかった気も。
また、オリジナルの康太郎が元々できすぎた人間で、クローンもその性格を受け継いでいるため、修士がクローンを愛するのは展開として当たり前すぎて、面白みに欠ける感じもありました。

テーマとしては面白い作品だと思います。

8

設定は面白いのだけれど

小山田さんの美しすぎる表紙と、「死んだはずの恋人に再会する」というあらすじに惹かれ購入。内容はすでに書いてくださっているので感想を。ネタバレを含んでいます。ご注意を。







設定は非常に面白い。
6年間かけて愛をはぐくんできた恋人を事故で急に失った修士。仕事も何も手につかず、かつて恋人と共に過ごした彼の所有する別荘に赴く修士。するとそこには死んだはずの恋人がいて…。

というお話。

帯に、

死んだはずの恋人が帰ってきた⁉
天才科学者の最高傑作としてー

という文句が書かれていて、なので読み始めたとき一人の天才科学者の手によって、生き返る意思のなかった恋人・康太郎が、彼の意思に反して無理やりクローン人間として生き返らせられた、という話だと思っていたんです。が、この「天才科学者」というのは康太郎本人。

なので何の後ろ盾もなく、死んだはずの人間が通常の生活を送れるはずもなく、というちょっと切羽詰まった話なのかなあと思っていたのですが、危機感は全く感じない。

本体の康太郎が自分の意思でクローンを作っていたわけですし、そもそも本体の康太郎自身が、ちょっと変わりものというか、俗世間にまみれてないというか、そういう性格であることも大きかったと思います。

自分の恋人の修士以外の人間には全く興味がない。
親とも確執があって疎遠になっている。
頭が非常によく、職場でも他人となれ合うことなく自分の仕事を黙々とこなすタイプである。
といったバックボーンがあるためなのですが、それゆえに話がさらりと進みすぎちゃってストーリーに起伏がない。

亡くなってしまった康太郎こそが自分の恋人で、クローンの康太郎は偽物で受け入れられない。
という修士の恋心がメインで進んでいきますが、顔も性格も「康太郎」なわけですから当然受け入れてしまう。するんと話が進んでしまって話にリアリティがないんですよね。

終盤、康太郎の存在に不信感を抱く病院の医師が現れて、一気にピンチに陥るかと思いきやその先生も死んだはずの人間がここにいる、という所にこだわりを持つこともなく。就職、病院にかかるとき、等々、本来ならもっと困った状況に陥るものだと思うのだけれど、そういう流れにならないので話に入り込みづらい。

設定は非常に面白いのですが、はっきり言ってしまうとただそれだけ、というか。

正直評価は中立なのですが、設定の面白さと小山田さんの美麗な挿絵におまけして「萌え」で。

3

錯覚が現実となったような感覚

皆さんは睡眠中に、縁のあった故人が夢の中にひょっこりと出てきたことがあるだろうか?
自分は霊感といったものは無く、過去に何度か亡くなったはずの人が生前同然の佇まいで出てくる度に、えっ!?って夢の中で無駄に戸惑って、目が覚めるとそんな錯覚の落差にどっと疲れたものだ。

天才科学者である攻めの忘れ形見として遺された”彼”。
本来、この話の設定では『現代科学の常識を覆す存在』な訳だが、私が連想したのはそんな錯覚がまさかの現実となったような感覚だった。

話のほうは、前半、後半と視点の違った構成となっている。

前半『眠れる森の博士』では、受け・修士側の視点。
亡くなった”康太郎”と、いきなり目の前に現れたもう一人の”康太郎”を同一視出来るはずがないという意識や戸惑う点には納得できた。
修士にとっては放っておけないってのもあるだろうが、いざ腹を括ってもう一人の康太郎を受け入れるのがあっさりしていて、葛藤の区切りというか、前向きになるのが早かったような気もする。

後半『目覚める海の博士』ではもう一人の”康太郎”側の視点。
修士と共に、新たな地で第二の人生を歩んでいる様子が書かれている。
元の康太郎の遺伝子・知識・性格を受け継ぎながらも、別人として堅実に生活していく中で出てくる些細な不器用さを実感するのを読むと、もはや”彼”が立派な一個人に見えてくる。

この話を読んでみての感想を聞かれると、正直返事や評価に困るものがある。
BLに求める萌えを直球で刺激する内容ではないが、『どちらかの相手が欠けた時の不安が身に染みる』ってのはしっかりと書かれているとは思う。
所々に共感できる、不思議な感覚のある貴重な一冊となった。

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