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表題作子爵と冷たい華

穂積,28歳,涼花の手助けをする花街の客
野波志季(涼花),18歳,出生に秘密のある花街の芸妓

同時収録作品華の枢

嵯峨野経行,19歳〜,嵯峨野家の跡継ぎ
清澗寺貴久,13歳〜,清澗寺家の当主

その他の収録作品

  • あとがき

あらすじ

自分と母を捨てた父に復讐するため、性別を偽り花街で芸妓として暮らす志季。
一振りの短刀だけが父を探す手がかりだった。
ある夜、穂積という男に躰の秘密と復讐心を知られてしまう。
穂積はなんの気まぐれか、復讐の手助けをしてくれると言うが、その代償は…躰。
目的のため、志季は己の身を差し出すが―――「子爵と冷たい華」
兄が急逝し、跡継ぎとなった嵯峨野経行。
家のしきたりでいわくつきの一族に仕えることになるが、
その若き当主・貴久との出会いは運命的なものであった―――「華の枢」
淫靡な時代浪漫2編。

作品情報

作品名
子爵と冷たい華
著者
和泉桂 
イラスト
円陣闇丸 
媒体
小説
出版社
海王社
レーベル
ガッシュ文庫
シリーズ
この罪深き夜に
発売日
ISBN
9784796409452
4.1

(22)

(13)

萌々

(4)

(2)

中立

(2)

趣味じゃない

(1)

レビュー数
5
得点
89
評価数
22
平均
4.1 / 5
神率
59.1%

レビュー投稿数5

予想外のシリーズ着地点

この作者さんのこのシリーズは、濡れ場が濃厚過ぎて、正直途中でお腹いっぱいという感じもあったのだが。今回の同時収録作品『華の柩』は、個人的にシリーズ最高傑作だと思う。とても余韻のある素敵なお話だった。
表題作『子爵と冷たい華』は、このシリーズのカップルとしては、健全というか、まずまず穏当な二人。
勿論、この作者さんらしく、その手のシーンはそれなりなのだが、主人公二人の性格設定諸々は、シリーズの中ではかなり健全だと思われる。
多分にこれは、彼らの年齢や社会的地位が、シリーズの他の登場人物たちに比べ、それほど高くないせいだろう。
攻受ともに、年相応の若さや青臭さ、傲慢さや一途さはあるものの、彼らが背負っているものがそれほど大きくはないため、とごか可愛らしささえ感じられるカップルであり、攻の執着具合はかなりのものがありつつも、全体的には甘酸っぱく可愛らしい話だった。
対して、同時収録の『華の柩』。
これは、何というか。いってみれば二人の男の数十年に渡る至上の純愛なんだけれども、ただそれだけでもなくて。
登場人物(主に受け?)の傍迷惑さ、自分勝手さは、このシリーズを通じてピカ一かもと思われるが、その根底にあるものが、ただの淫欲や独占欲ではなく、冷徹過ぎる理性ってところが、何とも悩ましく萌えてしまう。
思うに、この貴久さんって、清潤寺シリーズの存在感ありありなご当主三人(貴久・冬貴・和貴)の内でも、もっとも自らの身体に流れる清潤寺の呪われた血に対して、絶望的ともいえる諦観を抱いているのではなかろうか。
冬貴はそもそも淫欲の意味や穢れた血筋自体を頓着していないし、和貴はどうにかしてそうした血の呪縛から逃れよう逃れようと喘ぐのだけれども、この貴久さんは最初からすべてを諦めている。
清潤寺の「千年の孤独」の呪いからは、自分達一族はけして逃れられない、自分は生まれながらに禍々しい存在だと信じていて、そんな自分の望みは末世、この世を混乱と恐怖に彩られた世界にすることだと頑なに信じ込んでいる。
だから、貴久は嵯峨野に向かって、自分には人の世の情も理も判らない、端から自分の中にはそんなものは存在しないと嘯く。その身を案じる嵯峨野の想いなど知らぬげに、混迷を極める幕末の京都で、喜々として自分の淫蕩な身体を餌に討幕派佐幕派双方の陣営で暗躍するのだ。
そんな貴久に対して、当初は驚愕と困惑、そして焼け付くような独占欲しか感じられなかった嵯峨野だが、やがて貴久の中に巣くう諦観の深さを憂い、自らの一生を賭けて、貴久に人としての情を感じさせてやりたいと希うようになる。
その為に、異形である貴久が心穏やかに生きていける箱庭=貴久の為だけの新しい世を作ってやると決心した嵯峨野は、見事その目標を達成。明治の御代では、押しも押される老獪な政治家としての地位を確立するに至る。
激動する時代のうねりの中でただの一度も身体を重ねることなく、化生でありながらも聡明すぎるがゆえに自らの破滅の欲望にも溺れられない愛する者(貴久)のため、此岸の戯れの遊び場を作ってやろうという、嵯峨野の懐の深さ。これには本当に参りました。
そして、シリーズ通して濡れ場がちょっと濃い過ぎるよな~とおもっていたけれど。どうしてどうして。外伝とはいえ最後の最後で、この究極なプラトニックラブ。
最期の貴久の死の床でのシーンでさえ、互いに手を握り合うだけという、究極の純愛っぷりが、切なくて胸を衝かれる。
死の淵に至り、自分がこれまで好き勝手に翻弄してきたと思っていた相手から、実は自分こそが掌中の珠の如く愛され守られてきたと悟る貴久。その貴久の、嵯峨野を残して身罷らねばならないことへの未練、それでも愛しい者には少しでも長く、彼(嵯峨野)が自分(貴久)のために作ってくれた箱庭を見守って欲しい、一族(冬貴ら子孫たち)の行く末を見届けて欲しいと願う一途さに、涙腺決壊。
外伝とはいえシリーズの見事な着地点。本当に素敵でした。恐れ入りました。

9

自立する厚み!読み応え!

あ"あ"あ"あ"ぁ"ぁ"……。
これ読めただけで幸せです、書いて下さってありがたや、ありがたや、と五体投地礼したいくらい感動に打ち震えました。

もう何だかどこから書いても何言っても最大級のネタバレになりそうなので、清澗寺家シリーズ好きな方は是非何も考えずに兎に角買って読んで下さい!! という気分です。
清澗寺家好きなら寧ろ買わずしてどうするというくらい、すんごい大事な部分がいろいろ詰まってました。
勿論、シリーズ未読でも単体で十分楽しめますので、清澗寺家読んでみたかったけど、冊数多いから躊躇ってる……という方にも是非おすすめしたい。

表題作はツンデレ気味不憫健気が一生懸命頑張る編です。
受の不幸は蜜の味な私には最高の旨味でした。
後半の花の枢は、何かもう言葉に出来ない……。
胸がいっぱいになって、たくさんこみ上げてくるものがあって、貧困な語彙力ではうまく表現できそうになく、でも素晴らしいの一言でした。

とりあえず読んでみて下さい、という言葉しか出てきそうにありません。

5

まさかのスピンオフ

ネタバレ含んでいます。苦手な方はご注意を。









和泉さん×円陣さんのコンビ。という事で既視感ありありの組み合わせ。でもガッシュ文庫だしなあ、まさかねえ、と思いつつ読み始めたら、そのまさかの『清澗寺シリーズ』のスピンオフ。他社でスピンオフ出すとか思いもしなかったので、正直ちょっとびっくりしました。

で、ですよ。
分厚い。何しろ分厚い。通販で買ったので届いて実際手に取った時びっくりしました。

読んで納得。前半と後半、二つのお話が収録されてます。正直、前半と後半、それぞれで2冊で出版しても良かったんじゃないのかと思うくらいの分量&内容でした。

前半は表題作『子爵と冷たい華』
表紙の二人のお話。
自分と母親を捨てた父親を探し出し、復讐したいと機会を狙っている志季が主人公。
教養もなく自分を守ってくれる保護者もいない志季にとって、世間と闘える武器は自分の麗しいビジュアルだけ。それを武器に性別を偽り芸妓として成り上がり、ゆくゆくは父親を探し出そうとしている少年。

そんな志季がピンチにさらされたときに、さりげなく助け、守ってくれるのが穂積。志季の父親に復讐したいという思いや出生の話を聞き、志季の父親が誰なのか瞬時に悟り会わせてあげるという穂積をうさん臭くもいつつ、ほかに手立てもなく彼のもとに身を寄せる志季なのですが…。

志季の父親は誰なのか。
穂積の正体は。
そして志季は父親に復讐できるのか。

という所を軸に、徐々に近づいていく二人の距離感も交え進んでいく展開にページを捲る手が止まりませんでした。

『清澗寺シリーズ』といえば、どろっどろの昼ドラのような展開が身上ですが、このお話は割とさわやかなお話だったんじゃないでしょうか。

志季は薄幸な身の上で、同居している男にいいように扱われているという世間知らずちゃんな面もあって、今までの『清澗寺シリーズ』の受けさんたちよりもおぼこい感じ。
一方の攻めさんの穂積も、強引なところがあったり、ちょっと意地悪なことを言ってみたり言葉攻めのようなことをしたりするツンデレな面もありつつ、基本的に志季を大切にしている感はありあり。

穂積の素性や、志季の父親の正体が分かったところで、やっと『清澗寺シリーズ』なのか!と気づいたおまぬけなワタクシなのでした。

後半は『華の柩』
貴久と嵯峨野経行のお話。
時系列でいうと本編の前にあたる部分。彼らの出会い編になります。
「清澗寺貴久」という男の、人を惑わす魅力が存分に描かれていました。
前半が割とさわやかな雰囲気で終始していたので、このドロドロ加減がまさに『清澗寺シリーズ』っていう感じ。

身体を繋げることもない彼らの、すごすぎる純愛というか執着の基盤が描かれていました。なんだかとっても切なくて、胸が痛くなりました。

『清澗寺シリーズ』はいくつもスポンオフ作品が出ていますが、すごいのは順番通りに読まなくても理解でき、話に入り込めるところだと思うのです。
勿論順番で読んだ方が話は分かりやすいと思うのですが、『清澗寺シリーズ』未読の方がこの作品を単品で読んでも理解できるかと。むしろ、『清澗寺シリーズ』の本質が読み取れておすすめかも。冬貴が生まれたところが描かれていたのも良かった。

完結したと思っていた『清澗寺シリーズ』を再び読むことができて、とっても満足です。

そして円陣さんの挿絵は、相変わらず神でした。
とにかく美しかったです☆

あ、そうそう。
帯についている応募用紙+82円切手で、全員プレゼントの折本が応募できるようです。『清澗寺シリーズ』ファンの方、2017年4月20日までですのでお忘れなきよう!

3

『清澗寺家サーガ』の全体を貫く物語

表題作も清澗寺家シリーズのスピンオフです。
でも、この本は何と言っても同時収録作品の『華の柩』がメインのお話でしたよ。少なくとも私にとっては。
……なるほど。
読み終えて、更に『清澗寺家シリーズ』の深みが広がりました。
以下は『華の柩』の感想です。

『肉を喰って滅びの道を進む』『人の情を持たない』というさだめの清澗寺の血。
実は私、どうもこれが良く分からないまま読み進めてきたんですよ。
いや、そういう設定であるということは解るんです。
ただ実感が沸かない。
だから冬貴の孫世代が活躍する第二部(太平洋戦後編ですね)の方がしっくり来たんです。
でも、これを読んだ今、少し分かったような気がしています。
このシリーズって、世間というものに違和感を抱いているが故に孤独である者が、同じ様な孤独を抱える者と心を通わせる話だったんですね。

冬貴の祖父と言うか父と言うかの貴久と、本編では政界の黒幕として登場した嵯峨野が主人公なのですけれど、実にこのお2人は知的なんですね。だから解ることが出来たんだと思う。
2人とも社会に対してとてもシニカルなんですね。
そして今までの社会を形作ってきた『家』というものに倦んでいる。
貴久は特殊な自分の血に対して。嵯峨野は家を継ぐそのしきたり的なものに。
時代も幕末の混乱による閉塞感が強く、物語の始まりはとてもニヒルです。
でも、嵯峨野は別宅に育ちながらも自分の父に愛情を感じていたんですよ。
そしてそれを『良きもの』だと思っている。
だからこそ、人に非ざる美しさを持つ貴久が「自分は人の情を持たない」と言うこと、つまりそこまでの孤独に置かれていることに寂しさを感じたんだと思うんです。
そして貴久が自分を削らずとも生きていける場所を作ってやろうと決意する。

ここがはじまりだったのかー!
この話によって清澗寺家サーガは、それぞれの時代に抱えるそれぞれの孤独について書かれたお話だったということが、クッキリと浮かび上がります。
本編終了後に全体の構造の種明かしと言うようなこの物語、素晴らしいとしか言いようがありません。
良いものを読みました。
もっと読まれるべき一冊だと思います。

3

父への復讐のために頑張る受け

円陣先生loveでget。
あまり調べもせずに読んだところ、なんと!
他社さんの某シリーズのスピンオフ? でした!
心構えしてなかったので、びっくり!
某シリーズは、何代かにわたる怨念めいたドロドロっぽさを感じてしまって
未だに読み切れていなかったため、うーん、しまった読む順番間違えた。
という感じ。
某シリーズが大好きな人には、たまらない内容ではないかと思います。
そして 某シリーズ本編よりは、ドロドロしさが軽減されてる気がする。
本編全く読んでない方は 当作の面白さが少し減るかも・・・です。

お話は2作入っていて、おおよそ半分ずつ、400P越え(笑)。
作者様が「この本、自立します!」とつぶやいておられましたので
ええ、試しました。立ちました(笑)
お値段上がったのを気にしていただいて、
応募者全プレをやっていただいてます。
ええ、もちろん、申し込みます。

前半は 遊郭もの。孤児の受けさんがみじめに捨てられた恨みを晴らすべく
父を探すために入り込んだ遊郭で、攻めさんに出会い、
幸せになるってなお話。
後半は 某シリーズの貴久と経行の出会いと今生の別れまで を描いた話。

前半は、どうにもこうにも受けさんの性格が今一つなじめず、萌という印象。
気が強い?父親への恨みが強い? んだけど、
最初はどうでもいいような男に惚れて
甘えた風で、私との相性が悪かった・・・・
途中で受けのおとん(魔性)がわずかに
出てきますが、その一瞬で、受けの印象がぶっとんじゃいました(笑)
父の勝ちーといった感。

後半は、やっぱり今一つ入り込めなかったのを、最後の最後に貴久が
経行の愛を実感したシーンで もらい泣きしたので 神に近い萌2.
総合で 萌2.

それと!後半の方には 十代?の貴久の図が!神!魔性!
やっぱ円陣先生、透明感ある魔性の図、最高!
最後の 今生の別れに近いシーンの図も、本当に泣かされました。
先生、素敵な絵を今回も有難うございましたです。

しかし、予想外のスピンオフにびっくりした本でした。
そしてタイトルにも悩んだ本でした。なんというタイトルにしたらいいのか難しい。

7

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