寂しい金魚

寂しい金魚
  • NOT BL
  • E-BOOK ONLY
  • R18
  • 神3
  • 萌×21
  • 萌1
  • 中立0
  • しゅみじゃない1

--

レビュー数
2
得点
22
評価数
6件
平均
3.8 / 5
神率
50%
著者
 
イラスト
 
媒体
小説
出版社
白泉社
シリーズ
花丸ノベルズ(小説・白泉社)
発売日
価格
¥781(税抜)  ¥843(税込)
ISBN
9784592862529

あらすじ

無為な日々を過ごす女子校教師の八尋匡は、教え子の柴崎沙耶とその恋人で下っ端ヤクザのヨシに騙され、大病院の院長である沙耶の父親を恐喝した罪を被せられた。
組にとらわれている沙耶を取り戻そうとする八尋だが、カラスと呼ばれるヤクザ幹部・新堂九郎のとある計画のため、組の売春婦たちと同居させられることになる。
売春婦の一人とともに逃亡を企てる八尋だが、失敗し、その罰として新堂に抱かれ囚われの身に…。

表題作寂しい金魚

昏い過去のあるヤクザ新堂
生きる気力のない高校教師八尋

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レビュー投稿数2

なかなか壮絶でした。

女子高の講師をしていた八尋は、ある日、教え子とその恋人でヤクザの下っ端に騙され教え子の父親への恐喝の罪を被せられた。
教え子を取り戻そうとするが、幹部である新堂のある計画のためにヤクザにとらえられ売春婦たちと暮らすことに。
売春婦の1人と逃亡を試みた八尋は、その罰として新堂に抱かれとらわれることに…。

一教師からヤクザにとらわれるというと、表から裏へ反転するように世界が変わるわけですが、八尋にはそれに対する恐怖みたいなものはあまり見られない。
泣き喚くような感じでもなくどこか淡々と受け入れているように見えるのは、「生」に対する執着が薄いからでしょうか。
男に抱かれるのは死ぬほど嫌だと、窓から飛び降りるようなことをしてみたり。
ヤクザ、しかも幹部を相手にしているとは思えない落ち着きというか。
それでも、教え子のことを思う気持ちはあるわけですが。
近くにいるうちに新堂にいろいろな部分を見せられて、見せつけられて。
時には自分の義務として自ら見てみたり。
新堂が抱えている深い闇に囚われていくことになるのですが。

この現在の新堂を形成している昏い部分というのが実に続き根が深い。
最初にチラリと別の登場人物がほのめかす過去でもちょっと嫌な感じなのに、事実はもっと嫌な感じ。
全ては新堂の父親から始っていて。
妹が父親に性的虐待を受けていると知って周りに訴えるものの父親の権力もあって全てが潰されていく。
母親は最初からなかったこととし、頼りにした教師も父親の権力の帰り打ちにあって。
それでもどうにも許せなくて許せなくて。
賢い少年はある計画を妹のために実行してしまう。
本来なら愛情を得るべき両親から愛情をもらえず、逆に憎しみを植え付けられた新堂。
それは父親の死をもってしても留まることを知らず、墓に入ったあとの父親にも散々にぶつけられる。
残された母親にも憎しみが募り、儀式のようなソレは毎月繰り返される。
一歩間違えば死を招くソレを、あるいはそれでもいいだろう、と新堂は享受しているようにも見える。

後半、次々と明かされていく新堂の過去は何故、今、八尋がここに必要かを氷解させていくものでもあり。
そうして、その計画の先で得た人物に復讐するに値する理由とも言えるのだが。
新堂の過去も過去ならば、その復讐の仕方も復讐の仕方でえぐい。
ひどいというよりえぐいのだ。
BL業界ヤクザものなんて数あれど、私はこういうヤクザらしいというか容赦のない報復とでも言おうかを今までに読んだことないように思う。
廃人寸前というか。
相手を内側から壊すようなやり方。
まあ、1人は社会的地位を失う程度にとどめられたとも言えるけども。

基本的にはわりと淡々とそういうシーンが語られていた印象。
その中で、八尋と新堂との間に何かが生まれていて。
はっきりと明確に語られてはいないけれども寄り添っていける雰囲気は感じられる。
最後の教師を続けろと言った新堂がとても印象的でした。

えぐいなーと思うシーンもあったのに読後感はといえばどこかスッキリとした清涼感さえあって。
静かな物語のようでもあって私は好きです。

3

凄絶

ヤクザの裏取引に巻き込まれる高校教師。組の幹部に拉致られて軟禁されてしまいます。

その組幹部、新堂九郎は裕福な代議士の家に生まれたのに、妹に性的虐待を繰り返していた、モンスターのような父親を11歳の時に殺してしまうんですね。
父を今でも憎んでいるばかりか、父の虐待を許した母親のこともひどく憎んでいる。
でも、あまりにも長い間続く憎しみはほとんど執着のようになっていて、ひどく乾いた、静かな狂気と、深い底なし沼のような暗い穴が、九郎の心の核になっています。

定期的に廃人になった母の首を締めに行き、父の遺骨を墓から出してまで踏みつぶす。
自分の育った家はあえて売りもせず、廃屋にして朽ち果てさせる。
自らの過去を何もかも呪う、淡々とした様子にぞっとします。

一方の八尋は、売春婦すれすれのアル中だった自分の母親を憎んでいて、自分にもその淫蕩な血が流れているのでは、という恐れを抱いている。
生きることに意味を見いだせず、「死にたくないのは、もっと何かを手に入れたい人間だ」という。

何かが止まってしまっている同じ心を持つ二人。

九郎の過去を八尋がだんだんと知っ続きていく下りは、静かながら鳥肌が立つような恐ろしさがあって、暗く冷たい海の中に沈んでいくような、そんな感覚。

九郎との情交と、知った壮絶な過去、知り合った売春婦の、優しさと明るさ、強さ・・・
そうしたものが、生きる意味を見失っていた八尋に、他人に対する感情や、欲求を思い出させていきます。

性的虐待をしていた父に買収されて証拠を握りつぶした柴崎を殺そうとする九郎に、「あんたはモンスターにならないでくれ」と止める八尋。

そんな八尋を「わがままなのさ・・・」と許す九郎の心も、変わったのかどうか・・・
九郎視点がほとんどないのでわからないのですが、ラストシーンで「金魚を飼ってきた」といいながら、買い方は何も知らない八尋に、「帰っておれがやる。おまえはなにもしないで待ってろ」というくだりでは、何かが二人の間に生まれたような余韻が。

「ひとつきりより、ふたつがいい」最後の八尋のモノローグがふっと胸に落ちる、そんな終わり方です。
何かが欠けている男に凄く惹かれてしまう羊。
この「寂しい金魚」は、そんな二人の男の心の悲しさがひどく胸に迫ってくるだけでなくて、ストーリー自体もいろんなエピソードがきちんと練られていて、登場人物の一人一人がリアルで、物語の中で存在する意味をきちんと持っています。

まさに羊の中では「傑作」なのです。

5

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