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表題作太陽の下、風に吹かれ

アル 森林管理の見回り役
ジーン 19歳

同時収録作品ザ・ホイール

寺田ミノル、大学生、友也の下の階の住人
友也、中3

同時収録作品充たされる砂漠の夢

善泰、高校生
砂生、同級生

同時収録作品KISS THE CHROME

吉野、レーサー仲間
後藤徹、バイクのレーサー

同時収録作品サヴァービアの飛沫

丸山忠也、大学時代の友人、既婚
山田哲志、会社員

その他の収録作品

  • あとがき

あらすじ

捨てられて、ジーンは崖から飛んだ。「俺は、死に損ないを拾っちまった。縁起でもねぇな、おい」言葉とは裏腹に、アルが笑いかけた。草原の外れにある小屋で、アルと二人で暮らすうちに、ジーンの中の「何か」が少しずつ変わっていって…。言葉の彫刻のような西条公威の作品世界は、芸術性において他の追随を許さない。表題作の他4編を収録した注目の作品集。挿画は人気耽美漫画家初田しうこが担当。

作品情報

作品名
太陽の下、風に吹かれ
著者
西条公威 
イラスト
初田しうこ 
媒体
小説
出版社
芳文社
レーベル
花音ノベルス ~Hanaoto Novels ~
発売日
ISBN
9784832212091
3.7

(4)

(1)

萌々

(1)

(2)

中立

(0)

趣味じゃない

(0)

レビュー数
3
得点
15
評価数
4
平均
3.7 / 5
神率
25%

レビュー投稿数3

ビザールな短編集

五編収録されていますが、「ザ・ホイール」は『夜は凍る道』に続編が収録されています。個人的には『夜は~』よりも、こちらの短編集の方が断然好み。てくてく歩いていたら、突然道が消えて不意に落下するみたいな、読後感の放り出され方がクセになる。そして初田(鹿乃)しうこ先生の挿絵が素晴らし過ぎます。

「ザ・ホイール」

入退去が激しい古いアパートの一室に、母、姉、母親の愛人と暮らす中学生の友也。階下に住む大学生の寺田と顔見知りになり、束の間、男は友也に継父の暴力から逃れる安息の場を与えてくれた。現状を変えたいけど変えられない、現実から逃げ出したいけど逃げ場がない。荒んだ思春期の閉塞感を切り取る…というより抉り出した物語。中学生だった友也が高校生になってどのように成長したかは、「鋼鉄都市破壊指令」で読むことができます。

「充たされる砂漠の夢」

わたしにとって最も印象的で忘れられない作品。主人公の善泰と「砂生(すなお)」という名の幼馴染の間に起こった、不思議なお話です。

砂生は幼い頃から自分の名前に憑かれていた。彼が高校生になった時、運命に導かれるかのように、善泰の前からまるで砂のようにサラサラと消失してしまう。神隠しといってもいいのかも。現実的な表現でいえば失踪、あるいは…なのだろうと思いますが、その理由はBLとして読むにはあまりにも悲しすぎます。個人的には殿堂入り。

「KISS THE CHROME」

レース中に転倒し、大ケガを負って入院中のオートレーサー。彼のもとに見舞いにやって来た同期との官能的なやりとりを描いた超短編。事故の傷跡を見せてくれと同期に頼まれた先に…短いのに満足感タップリです。キスシーンの挿絵がエロいのなんの。

「サヴァービアの飛沫」

主人公のもとへ転居葉書が届いた。差出人は大学時代の友人。新築祝いのため、郊外にある淋しい新興住宅地の新居を訪ねると、彼は家に一人ぼっちだった。妻子に逃げられ、孤独に耐えきれず正気を失いかけた友人がいきなり主人公を襲う。狂気と対峙した時の恐怖感がエロスに転化し、狂った他者に支配されていく様を描いたお話。

支配/被支配の関係は作家さまのテーマの一つ。こういう雰囲気もたまらなく好きです´д` ;

「太陽の下、風に吹かれ」

表題作。自分が買った娼婦とヒモ生活をしていた19才のジーン。彼女に捨てられ居場所を失ったジーンが恰好の身投げ場所となっている崖から衝動的に飛び降りると、周辺で見張り番をしているアルという男に助けられる。怪我が治るまでアルの世話になっていたジーンは、いつしか彼に思いを寄せるようになり…。

生きるだけで精一杯だった若いジーンが二度も生かされたのなぜなのか。その意味を問いたくなる、絶望と希望の狭間を描いた物語。

各話、幻想的な印象が強かったり、不条理文学みたいな余韻を残してくれたり、今のBLじゃなかなか見られない作風が逆に新鮮です。何冊か先生の作品を拝読しましたが、短編~中編のものばかりで、長編は未だ読んだことがありません。実はこの本が西条先生の初読みで、他の作品集と比べると少々テイストが異なることが後からわかりました。

「言いたいことがあることが偉いと思わない。万人に受け入れられようとは思わない。どうぞ私でいさせて下さい。」あとがきを読んで惚れちまいましたよ。前々から見聞きしていたように期待を裏切らない、骨太な作家さまでした。

2

いにしえのBLにはLOVEは無い

1996年発表の短編集。
良くも悪くも、今の小説とは全く異なる味わい。
重く、救いがなく、恋もなく。
BL小説というよりも、傷だらけの心を乾いたタッチで描く純文学系に近い。そこに男を犯す男や男に犯される男が出てくる、という感覚。

「ザ・ホイール」
母が父を裏切り、母の男は隠れて姉を犯している。
だから友也は今日も家に入れない。犯されている姉の声がするから。
下の階の男が部屋に入れてくれる。だけど、その男は上の音に煽られて、興奮して、俺もやりてぇと友也を無理やりに犯す…
姉と同じく犯される存在になった友也だが、犯した男が友也の居場所になっていく。
そんな時、母が父の元に戻ると言う。男と離れがたい友也だが、男の部屋にはもう女がいるのだった。
耳に障る貨物列車の車輪の音。子供で無力な自分はまた母について。運ばれていく自分は回る車輪…
救いのない諦観の物語。

「充たされる砂漠の夢」
幼い頃から砂に執着していた幼馴染の砂生。高校は別の学校になって、どうやら先輩たちに目をつけられて女の代わりをさせられているらしい。
だが砂生はモノとして扱われて砂になれた、と言う。そんな砂生を抱きしめて「俺がいる」と伝えた途端、腕の中で砂生は砂になって崩れて散ってしまった…という非常に幻想的で不思議な小編。

「KISS THE CHROME」
レース中にクラッシュしたバイクのレーサー。
大怪我をして肩に金属のプレートを入れる手術をしたが、生身の肉体と金属が融合する感覚に全身が囚われていく。
この話は個人的に大好きな作品。というのも私の大好きな「身体改造」のイメージを思い出させるから。それは例えばボディピアッシングだったり、金属やチップを埋め込むインプラントだったり。
人間の能力を超える義手や義足だったり、脳波とコンピューターをつなげることだったり。
ただ、このレーサーは1人の男とのこれ以上ない肉体の接触、つまり性交によって自らの皮膚感覚、骨と肉の感覚を取り戻すのだ。

「サヴァービアの飛沫」
郊外にファミリーで家を買ったという友人の忠也を訪ねる哲志。だが行ってみると忠也は妻に出て行かれひとりきりだった。
その夜「誰でもいいんだ。今はお前と寝たい」と犯され、翌朝から忠也の家に監禁される日常が始まる…
日常に突然現れる恐怖の亀裂、といった物語だと思う。

「太陽の下、風に吹かれ」
養ってもらっていた女が家を出て行った。ジーンは行くあてもなく衝動的に町外れまで何時間も歩き続け、気づくと崖の上。落下の誘惑に駆られ、崖を蹴った…
アルは崖のパトロール員。落ちて大怪我をしたジーンを家に入れ看病してくれる。次第にアルに惹かれていく。アルも治ってもここにいて欲しい、と言ってくれて何やら甘い空気になる2人。
ある日、リハビリがてらアルのパトロールに同行したジーンだが、崖下に怪我人がいて…
そこから全てが変わってしまう。恐ろしいくらいの反転。
ジーンはアルの元にいられなくなり町に一度は戻るが、再び崖から飛ぶのだった…
最後の表題作も悲劇で終わります。
この作品だけは男に対しての「恋」があったように思う。それなのに。
恋した男の胸の中で終わっていくジーンは。

0

孤独の観念的世界

日常の情景を一部分切り取って、そこに孤独を見る描写がこの本の作品全般に渡ってとられている。
果てしなく観念的な手法は、一時の幻想小説の流れに近い作りであり、読み手を選ぶ一冊になっている。
そこには、切なさとか淋しさとか、寂寥を生む感情は存在しなくて、ただ、登場人物の感情に映るデフォルトされた風景が印象的に孤独を語るのです。

表題
家出をしてから放浪し、人種の違う国にやってきたジーンは現在は彼女のヒモとして生活している。
彼女が出て行ってしまった時、ジーンは崖から身を投げるのだが、運よく途中で止まり、森林管理局の見回りをしているアルという男に拾われる。
ジーンは絶望してしまったわけではないのだが、きっと何もかも面倒くさくなってしまったのだろう。
そこには、たった一人でいる孤独が付いて回る。
温もりを求めても、自分の求めるものとアルの求めるものが違うと思うジーンは色々なものを最初から諦めている人なのだと思う。
だからラストの選択も、あまりに自虐的な諦めの選択。
アルに自分を刻みつける一番印象的な方法をとったのだと、
そこには、せつなさよりやりきれなさが溢れているのです。

『ザ・ホイール』は『夜には凍る道』に掲載されている「鋼鉄都市破壊指令」の前振り話となる。
母の男に犯し続けられる姉に、どうしてあげることもできず、居場所もなく、シェルターとなった男との出会いと別れ。
子供であるがゆえに、大人に翻弄されて自分では何もできない子供の悔しさと絶望がにじみ出ている。

『充たされる砂漠の夢』友人を失う話。
いなくなった砂生は、砂になって舞って行ってしまった。
一見幻想風の展開を見せるが、これは多分に現実として、彼の自殺を示唆するものかもしれない。
たった15、6歳の子供であるだけに、思い込みは自分を追い詰めていくのです。

『KISS THE CHROME』バイクレーサーの話。
『サヴァーヴビアの飛沫』孤独から壊れてしまった男。

ちょっとホラーめいた表現だが、怖いのはなにものでもない、生きている人間なのだと、どれも思わせる作品ばかりで、トーンは暗い。
唯一『KISS~』が救われる話で、閑話になるかもしれません。
この作者あとがきは、とても独特です。
ここまで赤裸々に自分の気持ちを吐露した文章に、今はもう筆を置いてしまったのか、現在の気持ちで作品を読んでみたいという欲求を起こさせるのです。

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