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全体的な出来がいいだけに残念なこと

数少ないシリアスな医療モノドラマCDとして人気も評価も高い作品の後編。

本作の聞き所のひとつは、のじ健さんの微妙な演技により、水斗がゆっくりと(時に樋口にも気づかれないほどのゆっくりとしたスピードで)自分を取り戻していく過程が的確に表現されている点ではないかと思う。
水斗の状況が刻々と変化する中、ラブシーンも(1作目のものも含め)それぞれ雰囲気が全く異なっていて、全体としては決して濃厚ではないのに満足感がある。

しかしやはり前作同様、医学用語の明らかな読み間違いが散見される。
このせいで、シリアスで重厚な作品世界からふっと現実に引き戻されてしまうのが、非常に残念なのだ。
TVドラマにたとえるならば、『ナー○のお仕事』のようなコメディ作品であればまぁ許せても、『白い○塔』だったら絶対許せない、私にとってこれはそういう種類の間違いである。
あまりにも気になりすぎて、普段はアンケートハガキなど書かない私が思わず「続編をCD化することがあるなら台本の医療監修させてほしい」などと書いて送りつけてしまったのも、メーカーが倒産し続編の可能性がなくなった今となっては甘酸っぱい思い出である。

そうはいっても、声優さんの細やかな演技と全体的な世界観は、他の作品では得難い貴重なものなのもまた事実であり、おそらく大多数の人はこの作品を聞いて私のような苦々しい思いはしないであろう。
本作を楽しみきれないのが何とも残念である。

いい作品だが、音声ドラマとして決定的な不満あり

シリアスかつどこかロマンティックな雰囲気漂う医療モノ小説のドラマCDで、他レビューを読んでもわかるように、非常に人気も評価も高い作品である。
ただ医療モノというだけでなく、どろどろとした人間関係、記憶喪失・幼児退行、子育てモノ(若干の性教育含む)と、様々な要素がありながら決して散漫な印象はない。

メインは野島健児さんと小西克幸さんという安心のペアであり、小西さんは尊大なところのある天才心臓外科医というまさに得意分野といえる役どころ(後半の子育て部分でちょっとあわてたりするあたりの変化がまたいい)、対するのじ健さんは自分の置かれた状況に絶望する研究メインの心臓外科医を、他作ではあまり聞けないような少し意志の強さが感じられるトーンの芝居で聞かせてくれる(だからこそ中盤での心底絶望した場面の弱々しさが引き立てられている)。
後半ではのじ健さん演ずる水斗は幼児退行してしまうのだが、声のトーンは大人のままに子供の無邪気さを巧みに表現していて、つくづく技巧派だなぁと唸ってしまう。
ナレーションの担当も前半はのじ健さん、後半は小西さんで非常にバランスがよく聞きやすい。
長山教授役のうすいたかやすさんの何とも言えない人間的な厭らしさ、海堂役の千葉一伸さんのひたすらに甘く優しい雰囲気も素晴らしい。

しかしドラマCDとしての完成度を考えると、私は本作を手放しでほめることはできない。
それは本作の重要な要素の一つである「医療ドラマ」の側面が、少々疎かだからである。
といっても、物語のベースである大学病院や学会の雰囲気が前時代的であるとか、学会・論文発表のあり方が現実的ではないとか、そもそも水斗が医師であるにもかかわらず外科医である樋口に「死んだら解剖して下さい」と言うなど絶対あり得ない(解剖を専門としない外科医にこんなことを言うなど、どう考えても異常)とかいうことは、原作側の問題であるからここではあまり重要視しない。
リアリティの有無と物語の良し悪しは必ずしもリンクするものではないからだ。
ここで私が取り上げたいのは「音声ドラマ」としての側面であり、医学用語の明らかな読み間違い(アクセントや区切りの間違いも含む)が多すぎることと、手術中や集中治療室の場面のモニター音や人工呼吸器作動音が状況にそぐわないことの2点である。
もっとも後者については実際のところ、医療従事者であってもモニターを直接見ずとも音で聞いて判断する習慣のあるごく限られた職種の人以外にはおそらく全く気にならないであろう。
だが読み間違いの多さはひどすぎる。
声優さんたちが真面目に丁寧に演技しているのがわかるからなおさらである。
たとえ素人がちょっと聞いたくらいではわからないことであったとしても、原作を脚本に起こした時に、不明な用語はきちんと洗い出しておいて欲しかった。
本CDのような雰囲気の作品はなかなか少なく、出演者の演技や落ち着いたBGMなど全体としての出来がいいだけに、あまりにも惜しいのである。

逆に、医療に明るくない人が重厚な雰囲気を求めてこのCDを聞くならば、かなり満足できる作品であろうことは間違いない。

バランスのいい会話劇

前作に続けて久々に聞き返した。
原作シリーズ通じてそうなのだが、物語の中で仕事(≒事件)と恋愛(…というより関係の変化)と過去話のバランスがよく、読んであるいは聞いて単純に楽しめる作品である。
また、ドラマCDでは会話劇中心の作品が特に好きなので、そうした点においても必然的に評価は高い。

前作に引き続き、近作でも芽吹は相変わらず踏んだり蹴ったりのひどい目に合っているのだが、自立した大人の男としての自覚や誇りといったものが平川さんの演技からもしっかりと感じられるため痛々しさや悲壮感がなく、安心して「ひどい目」を傍観することができる。

そして本作も兵頭役・子安さんがいい。前作よりも一層芽吹に対する執着をあらわにするシーンが多いのだが、その態度がなんとも子供っぽくていいのだ。
個人的ベストは、溝呂木と手錠でつながれた芽吹をいたぶろうとして途中で放り出すシーン。自分でやっておきながら逆切れして「乳首出してんじゃねーよ」と言う、吐き捨てるようなあの言い方。直後の平川さんのおいてきぼり感満点の返答も相まって、ひどいシーンなのに笑えてしまう。
メインの二人がただ甘いだけの関係ではなく、こうして時折(結構?)こじれるのに、全体を通じては決して嫌な感じには聞こえないのがなんともいい。

そして本作ラストでは、ついに芽吹の「貫通式」が描かれるが、この場面の芽吹の照れから来る色気のなさ。
平川さんの好演により、兵頭の「あんたには情緒ってもんがないんですか」という言葉(ちなみに子安さんのセリフ回しも絶妙)に、深くうなずいてしまうのである。

原作が元々一人称形式で書かれており、さらにドラマ性もしっかりしているので音声化には向いているシリーズであると思う。一応切りのいいラストではあるが、メーカー倒産により続編の出ない状況が何とも悔やまれる。

子安さんの「センパイ」の破壊力

交渉人シリーズ最新刊読了後、久々にCDを聞き返してみた。
この作品は恋愛一辺倒ではなく、主要人物の社会的立場や過去の状況がバランスよく描かれているが、ドラマCDではメインキャストもいちいち適役で非常に聞き心地がいい。

芽吹役の平川さんは、人の好さと芯の強さ、軽口なおやじノリの裏に仄見える不穏さが感じられる好演で、私の中では平川さんメインではベスト作品(シリーズ)と言ってもいい評価だ。
見た目はいいがとことん色気のないキャラクターである芽吹に対し、絡みのシーンで若干サービス過剰ぎみなのはご愛嬌…というか平川さんのお人柄ゆえだろう(個人的にはもっと色気がなくてもいいかな…と思わないでもない)。

子安さんの兵頭もまた、いい。のらりくらりとした態度、全体には自然な発声だがピンポイントにしっかりとドスを利かせ、しかも「センパイ愛」に満ち溢れたちゃんと後輩らしい雰囲気。上手なベテランがいい配役で使われるとやっぱり違うなぁと思い知らされる。
そう、この作品ではとにかく兵頭が芽吹を変に親しく名前で呼ぶことはなくずっと「センパイ」と呼び続けるこの距離感がいいと思っているのだが、ドラマCDだと小説で読むよりもそうしたところが強調され印象的である。子安さんの「センパイ」だけで、ご飯が何杯でも食べられそうだ。

キヨ役の日野さんのぽそぽそとした喋りも(そういえばこのCDを初めて聞いた当時は、日野さんが後にBLCDのメインを務めるようになるとは思いもしなかったなぁ…)、智紀役の梶さんの何とも生意気でとんがって見せる風の芝居もいい。梶さんは声自体は少しハスキーでいかにも少年らしいので、BLでは若くて素直な可愛い役に配されることも多いが、こういうひねくれていたり裏があって少し芝居がかったキャラクターのほうが断然光るなと、今回聞き返して改めて思った。

2枚組ではあるがテンポと程よいコメディ感で、何度でも楽しめる作品だ。

あたかも吉野さんの一人芝居(いい意味で)

今月の新作のうち、最も楽しみにしていたCDのひとつである。

原作の発行は2008年夏であったが、当時読みながらイメージしたモモの配役は中井和哉さんであった(ロンちゃんは正直イメージがわかなかった…)。
なので、配役が発表されたとき、吉野さんは確かに感情の起伏の激しいチンピラ役ははまるだろうが、モモの年齢からすると声質が少し若すぎるのではないかと考えた(ロンちゃんは、前野さんと言われてもやっぱりよくわからなかった…)。

実際に聞いてみると、吉野さんのモモは変に声色を使うことなく実年齢を自然に表現し、「バカでダメだが情に厚い30男」として実に的確かつ魅力的であった。
前野さんは作品により声色をかなり変えてくる(そしてそれが時として作品に違和感をもたらすこともある)が、本作に関しては硬質ではあるが冷たくはない印象で、ロンちゃんの「心から真面目だが不器用」な人物像がよく表現されていた。
結果としてメイン二人の声や演技は、キャラクターによくマッチしていて相性もよく、ストレスなく聞くことができた。

一聴しただけなので不正確かもしれないが、本CDは小説原作・2枚組の作品であるにもかかわらず、明らかなナレーションはなかったように思われる。
つまり状況は台詞としてしか語られていないのに、決してわかりにくさは感じられなかった。
さらに、ナレーションがないために吉野さんの発する膨大な言葉は全て台詞であり、登場人物が多い物語であるのにあたかも「吉野さんの一人芝居」の様相を呈していた。
吉野さんの演技を堪能するのには最適の一枚ではないかと思われる。

前作よりぐっと万人向け

アユヤマネ氏の作品の特徴は、児童まんが風のかわいらしく個性的な絵柄で大人っぽく余白のある物語を見せるというギャップである。
とはいえ第1作品集である『泣くのはおよしよ仔リスちゃん』では、その収録作の多くが「こども」主体の構図で語られていたために、絵柄にマッチしすぎた「ショタっぽさ」が一部の読者の苦手意識を喚起したようで、「読み手を選ぶ作家」として認識されてしまったように思う。
約4年半ぶりとなる第2作品集の本作では、主人公はおそらくみな成人と見られ(少なくとも前作のように明らかな児童は登場せず)、苦さと優しさの塩梅の利いた巧みなストーリーテリングはそのままに、前作よりぐっと万人向けに仕上がっている。

収録作はどれも好きなのだが、中でも一押しは“ユニークフェイス”を真っ向からしかもさりげなくとりあげた『花桃花火』だ。
主人公は顔面をはじめ体表のかなり広範囲に“赤あざ(おそらく単純性血管腫)”のある青年である。
決して卑屈になることなく、至って真面目に真っ当に暮らしており、勤務態度もよいのだが、その外見による差別を受けることがある。
そんな彼に、もしかしたら初めて差し伸べられた救いの手。
男女によるラブストーリーに当てはめるとあざとくなってしまいそうなところ、BLだからこそ核心に迫る内容に仕上がっているのではないかと感じられる良作である。

余談であるが本作は、12月10日配信番組『オリエンタルラジオのマンガ・アニメの日』内の『今週の一冊』(オリラジの二人+場合によってはゲストが、オススメのマンガを持ち時間各5分間で紹介するコーナー)において、突如として紹介された(メインの紹介作品である河内遙氏の『オーミ先生の微熱』1巻が同性愛を扱っている流れでの紹介)。
オリラジの二人によれば、「表紙の二人(表題作カプ)が自分たちに似ているという理由でジャケ買いしたのだが、読んでみると面白かった」ということである。
彼らはジャンルを問わない結構なマンガ読みのようだが、同番組でBL作品が紹介されたのはどうやら初めてのことらしい。
直接的なシーンがなくBLを読み付けない人でも比較的読みやすいであろう作品集とはいえ(ただし事後のカットはある)、もしかしたら自分たちをモデルにしたかもしれないBL作品(実際にはアユヤマネ氏が自身のサイトで、似ているのは偶然であると表明している)をあっけらかんと受け入れ紹介してしまう彼らの度量には脱帽する。
3ヶ月間視聴可能らしいので、興味を持たれた方は早めにチェックすることをお勧めしたい。

『同級生』のエピソードがしっかり回収されているのが嬉しい

『卒業生―冬―』『―春―』コミックス同時発売記念を記念した小冊子で、12Pの短編『はつ恋』、OPERA誌上で募集した内容に基づく『Q&A』とゲスト原稿からなる小冊子。

『はつ恋』は遠恋中の二人の話で、『同級生』で佐条が原センに「草壁はそうじゃないよ」と言われたエピソード、及び草壁が谷君に「これがお前の初恋」的なことを言われたエピソードへのアンサーとも言える内容。
幼い佐条の初恋も可愛いくてよいのだが、ラスト2ページで、佐条はほんとうに草壁に愛されているなぁとしみじみ感じられた。

『キャラクターQ&A回答集』は草壁・佐条・原センの3名のイラストの周囲にOPERA誌上で募集した質問と回答を配置され、本編では語られなかったキャラクターが明かされるという趣向。
どうでもいいが、佐条の大学(または大学院)卒業後の就職先は小○製薬に間違いないと思う。

『ゲスト原稿』にはOPERA関係者以外の、普段BLを描かない作家の原稿も含まれており、興味深い。
内容もイラスト・ショートコミック・エッセイコミックとバラエティに富んでいる。
マイベストは雁須磨子氏のショートコミック(キーワードのリバ失敗は、個人的にかなり好きなシチュエーションである)。
裏表紙のnakamura[YMCK]氏(中村明日美子氏の兄上)によるファミコン風ドット画もとにかく可愛く、この絵だったら、どんなクソゲ―でも許せそうな気がする。
中村氏の兄上がチップチューンミュージシャンだということは知っていたのだが、このイラストを見てYMCKのサイトで実際にPVを見てみると、音楽もアニメーションも非常に心地よく、こちらもファンになってしまいそうだ。

最後に、この欄に書くべきことかどうかは迷うところだが、中村氏の休筆について一言。
このところ活動範囲がぐんと広がり、執筆ペースが増しているにもかかわらず、原稿に殆ど荒れた印象がないのが逆に少々気がかりだった。
どうかゆっくり休養して欲しい。
彼女なら、たとえ復帰がずっと先になったとしても、発表の場は必ず与えられるはずである。

おなじ名前を持つ二人

前作『同級生』の読後、そして『卒業生』を連載中には全く気付かなかったが、本作のコミックス2冊をまとめ読みしていて気がついたこと、それは他のいくつかのレビューでも触れられていることだが、本作の主人公・佐条利人と草壁光は、実は同じ名前を持っているということである。
『同級生』の作中でも語られている通り、「利人」の由来はドイツ語のLichtすなわち光だからである。
さらに『卒業生』物語の終盤で、草壁のプロポーズを佐条は涙ながらに受け入れる。
つまり彼らは成人したら入籍し、同じ姓を名乗る約束をしたということである。

同じ姓と、同じ意味の名を持つふたり…、ここに私は中村氏の『ダブルミンツ』との相似を感じずにはいられない。
近しい時期に連載されていた、表面的にはまったく異なる2作のテーマが実は非常に似通っているということが、意図的なものであるかは知らない。
だがそう考えることで、卒業式で心も身体も最高潮に寄り添ったとはいえ、進路の違いによる別離があと1カ月もしないうちに訪れることが明らかとなっている二人であるが、きっと添い遂げられるであろうことを確信することができるのである。

ところで、本シリーズはキスシーンが非常に印象的な作品であるが、特に『春』では二人の関係がさらに進んでいく様子を見ることができるのが嬉しい。
個人的にはラストよりもむしろ、疑問を持つと中断しながら進行する京都の夜(あるいはツルの恩返し)の場面が好きである。

『同級生』『冬』のレビューでも触れたことであるが、草壁目線の描写が多い本作では、身内の重病そして難関校受験という高校生にとってわかりやすい「敵」にまっすぐに立ち向かう佐条の姿は、凛として本当に男前に感じられる。
『春』ではまさに受験当日の朝の様子がそうであるが、こうした場面でただ佐条を送り出すことしかできない草壁を「攻め嫁」と見做して萌えるのは、ちょっとずれているだろうか?

あえて谷君押しで

なかなかレビューできずにいたが、小冊子が届いたまさに今が適時と、約半年遅れでレビューすることにする。

前作『同級生』ですっかり中村明日美子にはまってからというもの、『OPERA』で本作の一部始終を追いかけていた。
連載途中、すでにページ数は十分であるにもかかわらず、どうして単行本化しないのだろうと考えたこともあったが、こうして『冬』『春』の2冊を通して読むと、当時の私の浅薄さが思い知らされる。
『冬』のあのラストで数カ月以上も待たされるなんて、単行本派からしたらまさにとんでもない仕打ちのはずだからである。

さて『同級生』の時点で、佐条は京大をめざしていることがすでに明らかとなっていたが、『卒業生』の始まりは、いよいよ入試シーズンが近づいてくる初冬の頃である。
卒後の進路が全くの未定に見えた草壁にも、ようやく何らかの動きが見え始める。
ある意味型どおりの受験の波に身を任せればいい佐条と異なり、状況的には草壁の周囲のほうがずっと浮ついてもよさそうなものなのに、いい具合にことが動き出さないので、結果的に二人の関係は、(原センによる)多少の横槍(あるいは後押し?)が入ろうとも、この時期にしては恐ろしく安定した雰囲気なのである。

草壁の佐条への思いやりがあってこそ、佐条は安心して勉学に勤しむことができる、といった理想的な関係に波を立てるのは、意外にも佐条の身内であった。
気丈な佐条がふとした隙にみせる弱さが醸し出す色気は自覚がない分壮絶である一方、いかにも男の子然として突っ張ったり格好つけたりする姿もまた非常に凛としていて美しい。

また、『冬』だけでなく『春』においてもそうなのだが、本編の間に挟まる『Short Piece』がまたポイントである。
こうした遊びの部分があるから、キャラクターに奥行きが生まれる。
私は個人的に、草壁の友人である谷君の佐条に対する距離の取り方が気に入っている。
谷君により佐条に明かされる事柄が、心からどうでもいい内容でしかない点が、日常感をより増幅する。
このシリーズでは基本的に「草壁から見た佐条」が描かれており、草壁の背景については実はあまり語られることがないため、谷君は案外貴重な存在なのである。

CDではじめて、この物語の普遍性に気付かされる

原作は以前レビューを投稿した頃にはかなり読みこんだが、ここ数カ月は読み返すことがなかったので、「あらすじは把握しているが、細々したところは忘れている」状態で聞いた。

原作を読んだときとの比較で一番強く感じたのは、本作が実は非常に普遍性のある物語だという点であった。

少年期を脱するためにわざわざ「旅」に出たり、何ということのない「旅」から帰ることで図らずも大人になっていたりということは、おそらく誰しもが経験的に共感できる事柄であり、これまでにも小説・漫画・映画等々、様々な媒体で繰り返し取り上げられてきたテーマである。
作者・松本ミーコハウス氏の個性的な絵が排され、まるで少女のような容姿に描かれていた主人公の一人・一之瀬司が武内さんの声を得て少年らしさを強調されたことは、このドラマの普遍性を際立たせる大きな要因と言えよう。

本作のキャストが司役に武内さん、松原千歳役に鳥海さんと聞いたときには、二人ともBLCD出演作が非常に多く演技も上手い声優さんであるということは理解していたものの、10代半ばの主人公を演じるにはいささか薹が立っているかなとの不安があったのだが、蓋を開ければそれは杞憂だった。
司のキャラクターは無理なく武内さんの得意範疇であったし、鳥海さんのトーンも「10代」として聞き手に疑問を抱かせることのないほどよい高さであった。

本作において質も量も重要である濡れ場についてもあからさまなカットは見あたらず、息詰まるような環境の中、セックスを通して二人の関係が変化していく様子がよりわかりやすく表現されていた。
単に濡れ場が多いだけ・べたべたと甘いだけの作品も数多くある中で(もちろんそうした作品もそれはそれで楽しめたりするのではあるが)、本作のそれは聞き手には満足感が高いものと思われる。

そして他のレビューの評価とは真逆となるのだが、私はむしろCDの方が原作よりも、暗さや痛々しさは緩和されているように思った。
おそらくそれは主に鳥海さんの演技によるところで、千歳の本心が(自覚しているか、また司に届いているかはさておき)聞き手にはだだ漏れなので、一方的に千歳が司をいじめているわけではなく互いに必要としているのであって、二人で閉じている分には案外平和だということが明確だからだ。
主人公たちを取り巻く環境は確かに悲惨ではあるのだが、その恐怖や不快感の音としての表現も、私には適度なものに感じられた。

原作コミックを読んだ際にやや蛇足と感じた後日談『2匹の伴侶』は音声化されていない。
本編部分のみの音声化による余韻の残るラストシーンを、私は高く評価したい。

それにしても、物語ラスト近くの司の台詞、
「こんなわたしに、あなたがしたのよ」
武内さんの言い回しの可愛らしさは、なんだろう…。