大学の学食でバイトをしている正太郎は、いつも素うどんを注文する学生、蓮のことが気になっています。蓮はいつも素うどんばかり注文するので、こっそり揚げ玉をサービスしているのです。
正太郎はオメガの診断を受けていますが、大学生になってもヒートが来ず、本当にオメガかどうか調べるために、同じ大学内の理学部を訪ねます。
蓮が正太郎の相手をするのですが、正太郎のことが好きなあまり、蓮は自分がベータにもかかわらずアルファだと嘘をつくのです。
蓮は嘘をついていますが、それ以上に正太郎が明るくコミカルで、あまり気にならなかったです。
オメガ作品はアルファとオメガの番が一般的ですが、このお話はヒートや番よりも好きな気持ちが強くて、アルファ、ベータ、オメガの区別をあまり感じさせないところが良かったです。
後藤くんが間違って渡してしまったラブレターがきっかけで古川くんとの交流が始まる『古川くんのとなり』もコミカルで面白かったです。
このお話は、七原さんご自身が経験されたことのお話で、絵はつきづきよしつきづきよし先生が描かれています。
小さな時に女の子っぽいことを理由でいじめられたり、クリスマスプレゼントには魔法のスティックが欲しかったのに、親から男の子らしい無線セットを親からプレゼントされたり、髪を伸ばすことを反対されたり等、読み始めて数ページで胸が痛くなりました。
今は当たり前になったことでも、当時は周囲、社会の無理解があり、生きづらさがたくさんあったことがよく分かります。
七原さんご自身の体験の中で「まず自分が自分で認められない」との体験を書かれていましたが、それは今現在悩んでいる方への温かいアドバイスのようにも感じました。
多様性を認める社会や思い込み等、どんどん世の中が変わっている中で、七原さんが体験された辛い体験ももうしなくてもよい時代になってきた感じもします。読んで良かったと思いました。
小さな頃から柔道をやっている佐倉と女性のような顔立ちの木村とのお話です。佐倉は周りに可愛い物が好きであることは隠していますが、今日のお供の小さな人形を拾ってもらったことをきっかけに距離が近くなっていきます。
佐倉はかわいいものが好きなのに、父親の影響でそれを周囲に話せないこと、ひとりでコラボカフェにいけないこと、家でも堂々とグッズを出せないことが気の毒だと思いました。木村と一緒にいったコラボカフェでは、念願叶ってかわいい限定グッズが手に入りましたが、お気持ちはとても分かります。
木村はかわいい、かわいいものには興味がないので、猫のことは豚、カワウソのことは鈴カステラ等と言う始末ですが、これはかわいさが分からない、気にしない人のあるある言動なのでしょうか。
木村の母はコミックの中に登場しませんが、ずっと女の子が欲しかったのに、男の子が4人だったので、家族の中でも少数派で大変だったと思います。
佐倉が木村の家にお泊まりに行ったときに、木村はTシャツと下着姿で出てきましたが、木村の母はどう思っているのかが気になりました。
イケメンの茶道家涼輔と、大学生のゆづるとのお話です。ゆづるは、大学の先生からお茶会の手伝いを依頼されて、そのお茶会で涼輔と出会います。涼輔は、家元の次男なのですが、茶道に関わっています。
ゆづるは小さな頃に茶道を体験しただけでお稽古はしていませんが、涼輔といっしょにお茶碗を見たり、掛け軸の意味を考えたりと、茶道に親しみを覚えていきます。
涼輔の所作、佇まいがきれいなのがとてもよかったのですが、ゆづるの自分の性的指向が分からない悩みがとてもリアルだと思いました。何となく感じていた疑問が輪郭を帯びてきた感じだと思いましたが、人の感じ方や向かい合い方はみんな違うことがよく分かりました。
佐賀県出身の美容師のトーリと、北海道出身のITエンジニアのテツは、トーリの家族に自分たちのことを紹介するべく、北海道から佐賀までを旅行します。新幹線や飛行機を使えば一瞬ですが、ふたりは電車、JR最長の片道切符の旅をします。
テツの鉄道好きから、最長の片道切符の旅が実現するのですが、駅弁、電車の名所、旅人との出会い、風景など、見所がたくさんあります。
この旅はただ楽しいだけではなく、これまでのテツの生き方、後悔、これからトーリ、トーリの家族とどう付き合っていくのかに答えを探すための旅でもあって、テツの人生を考えるシーンにジーンときました。
自分の性的指向を家族や周囲に伝えているトーリとは反対に、テツはオープンにしていません。トーリの家族の迎え方は、読んでいてとてもよかったです。
JR最長の片道切符の旅は、まとまった日数、お金が必要ですが、一部の路線に限定すれば追体験ができます。ふたりがどんな気持ちで通り過ぎたか、どんな駅弁を食べたのかと想像するのも楽しいです。