★作品発表★ 著者:藤堂
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○○……タクト ××……ユウ
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金曜日の午後。終礼とともに、ようやく一週間が終わる。
すぐに鞄を取って、教室のドアを開けて、部活のことも完全に忘れて、一刻も早く学校を出なければ。早く学校を出ないと、あいつが--
「タクト先輩っ、部活行きましょう!」
勢いよく教室のドアを開けたそこにいたのは、今年の天文部の新入部員のユウだ。こいつに捕まらないために、早く学校外へ出るシミュレーションをしていたというのに。今日も、間に合わなかった。
「俺は帰る」
振り切ろうと大股で歩いて行くが、ユウの方が背が高いし体格もいい。ぴったりと後ろをついてきて、覗き込んで嬉しそうに言う。
「じゃあ俺も部活サボります。一緒に帰りましょう」
「お前なんで俺のこと迎えに来たんだよ。部活行くためだろ」
「先輩と一緒にいるためです」
ここしばらく、毎日しているやりとりが続く。いつもなら適当にいなして帰るのだが、この日はちょっと虐めてやりたい気持ちになった。
「なんで俺に付いて回るわけ。だいたいお前中学までバスケやってたんだろ、なんで天文部なんて入ったんだ。その体格あるんだったら運動部入れよ、転部届申請してやる」
「先輩……」
その瞬間、にこにこと俺に付いてきていたユウが、しゅん、と悲しげにうなだれる
意外な反応に驚いて、なんだかものすごい罪悪感に襲われる。
少しの間悩んで、俺はユウに声をかけた。
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「あー、もうそんな顔するな。一緒に帰ってやるから」
飼い主に叱られてしょんぼりとした子犬をなぐさめている気分だ。
仕方なくユウに言葉をかけると、間髪容れず体格の良いユウが思いっきり俺を全身で抱き締めてきた。
「バカっ、やめろ!」
「誰も見てないですよ♪」
全くもう…とため息をつきながら、じゃれる後輩と他愛のない会話をしつつ校舎を後にする。
「タクト先輩、明日は何してますか?」
「明日?」
ニコニコと無邪気な笑顔を向ける後輩に、わざと怪訝な顔をつくり、そっと顔を見上げる。
実を言うとコイツのことが嫌い…という訳では無く、こんな風に付きまとわれることも、最近ではなんとなく嬉しいような気さえする。
「明日、映画を観に行きませんか? チケットをもらったんです」
「映画?」
たまには付き合ってやってもいいか。と思い、ああ、いいよ…と頷くと、ニコニコと嬉しそうに微笑んでいるユウの顔が、ニカッとした満面の笑みへと変わった。
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「なんだ…この席…」
翌日。映画館で待ち合わせをし、案内された座席は…「カップルシート」と呼ばれている座席だった。
「なーんで俺が…お前と…」
「すみません。俺、普通の座席だと足がキツイんです」
自分より頭1つ飛びぬけた長身のユウをチラリと見る。
「仕方ない…我慢してやるよ」
「よかった」
にっこり、と楽しそうな笑顔を向けられ、何となく心の奥がくすぐったい様な不思議な気分になりそっぽを向く。
程なくして始まった映画は、大人には言えない秘密を共有してしまった幼馴染の少年同士の切ないラブストーリーだ。
「幼馴染…か…」
そう言えば俺も子供の頃、家の新築だとかで少しの間だけマンションの隣室に住んでいた同い年くらいの少年を好きになったことがあった。
奇しくもそれは、自分にとって初めての恋だったのだが…。泣きながら必死に追ってくる姿が可愛くて、意地悪を言ったり、無理やりキスを迫ったりしてその少年を良く泣かせたものだったが、家の新築を喜ぶ親たちには、別れがつらくて泣きじゃくっていた俺たち二人の真意はわからなかっただろう。
(なんて名前だったかな…)
激しく愛し合うスクリーンの中の二人を眺めながらふと思い出す。
ユウ…ああ、そうだ、ユウちゃんだ。
「ユウ…?」
どこかで聞いたことがある名前だと思い、ふと、自分の隣にいる後輩を見る。
「なんですか先輩、もしかして反応しちゃったんですか?」
「アホか。お前こそこんなもん見て反応してるんじゃないだろうな?」
「そりゃ…してますよ。俺も目の前にいる幼馴染とこういうことしたいなぁって…」
あっけらかんと答えるユウに、少々面を食らってしまう。
ふっ…と、距離が近くなったかと思うと、後ろから腰に手をまわすように体の中に引き寄せられた。
「お、お前何して…んっ…!」
「何って…貴方が昔…俺にしてくれた事をしてるだけですよ…。たっくん、まだ俺のこと思い出してくれないんですか?」
ドクン…。
懐かしい響きに心臓が大きく飛び跳ねる。
「お、おい…やめろ…んッ…」
舌を腔内に捻じ込ませると無理やり唾液を絡めてくる。
くちゅっ…という響きに、映画に煽られて気配を表した下半身が一気に反応を速める。
「口ではイヤだって言いながら、こっちはこんなになっちゃってますよ? 俺、めちゃくちゃ嬉しいです」
ユウの手が、俺の下半身にそっと触れる。
唇を離れたキスは耳を擽り、そしてゆっくり首筋に降りる。
大きな手がいつの間にかファスナーを下ろし、窮屈から解放され更に硬さを増した俺自身をリズミカルに弄った。
「これ、いいんですか? ほら、もうこんなに…」
するりと下着の中に忍び込んだ指が、タクトの先端から染み出してくるトロリとした液体を敏感な部分に器用になすりつける。
そして、更に強弱をつけていやらしくこねくり回し始めた。服の裾から忍んで来たもう片方の手指が、胸元にある小さな突起をクリクリと弄んだ。
「うっ…」
思わず声が漏れそうになると、「声はだめですよ」と、優しく言いながら唇をふさぐ。
「お前…どうしてこんなこと…」
「貴方が好きだから…欲しくて仕方ないんです」
ストレートな言葉を浴び、益々鼓動が速くなる。
「俺は、子供の頃から…ずっと貴方が好きなんです」
「まさかお前、あのユウちゃん…なのか…?」
目の前でほほ笑みながらコクリと頷く相手が、まさか自分の初恋の相手であったとは…。
「先輩、家に来ませんか? 懐かしい写真がたくさんありますよ。それに、もう…俺、これ以上我慢できそうにないんです」
切なそうに自分を見つめる瞳。太ももにあたるユウ自身の硬さを感じ、胸の奥がキュンとなった
「や…やましい気持ちは無いんだからな。ただお前がほんとにあの時のユウなのか…確かめたいだけであってな…」
「俺は貴方の事が好き過ぎて、いつも下心でいっぱいです」
すがるような目で自分を見つめるユウに、今度は自分の意思で唇を重ねた。
もう、出ましょうよ…と、ユウが強く俺の手を握る。俺も握り返す。
突然目の前に現れた初恋の相手の誘惑は強大で、俺は何故か…コイツになら思い切り翻弄されても良い様な気持ちになった。
おわり