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王道少年漫画展開をBLとして見事に昇華

2015年11月25日に発売された『マザーズ　スピリット』（作エンゾウ）は、12月8日にちるちる1ヶ月ランキングで1位を獲得しました。

それからこれまでずっと1位をキープ。途中で2位に後退してもすぐに浮上！その強靭さにはびっくり、まるでカルタカさんのよう。

有名作家作品でも、ちるちるでは、なかなか長期間1位をキープするのは難しいのですが、『マザーズ　スピリット』がここまで支持された理由はなんだったのでしょうか。

エンゾウ先生は、2010年に『かわいさ余って何かが百倍』

で商業デビュー。その時の評価はちるちるでもかなり高いものでした。エンゾウ先生のの初レビューはこのようなものでした。

素晴らしいサディズムとマゾヒズム！

この作家さんの商業デビュー作ですが、画力もすごいものがありますが、その性格の描写もすばらしい！！

久々に大興奮の新人作家さんの登場だと思います！！

茶鬼さん

その後デビュー作に賞賛するレビューアーが続きました。

評価ポイント数は少ないながらもレビュー数が多い作品。売上的には人気作家作品にかなわないものの、作品性が高くされていることが多い漫画なのです。

ちるちるのコアユーザーは、BLだけでなく、少女漫画、男性漫画まで幅広く読みますが、コアユーザーの眼鏡にかなった作品だったわけです。

そして上下巻に別れて発売された

『さよなら、愛しのマイフレンド』でも

BLというより、少年漫画のキャラらしいダイナミックな心理変化の過程を丁寧に描いて人気を博しました。

巧みなキャラ造形、魅力的な表情、ユニークな設定ながら手堅い筋書き、すべらないギャグ、ラブシーンがなければ少年漫画、青年漫画といっても差し支えないテイスト。

そんなエンゾウ先生らしさがぞんぶんに発揮され始めたのが、ギャグをふんだんに盛り込んだ『不幸中のしあわせ』でした。

幼い頃から類まれなる幸運に恵まれるサラリーマンの八百富永寿が、ある日を境に、不幸に見舞われるようになってしまう。その理由は疫病神に取り憑かれてしまったからなのだが…

というあらすじ。

少年漫画テイストに、さらにむかしばなしの要素も入ってきて、現代版「貧乏神と福の神」を思わせます。

ギャグテイストで引っ張りながらも要所でラブを匂わせるので、ギャグ漫画まではいかずにギリギリでBLとして踏みとどまっています。しゃべるお地蔵さんや、ラスボス的オヤジ登場しても、しっかりBLとして読ませ、最後に甘いラブを期待どおりに盛り込んでくるところが見事です。

その手法をさらに巧みに進化させたのが

『マザーズ　スピリット』です。

未開の地に住む超エリートのネイティブ留学生の世話を理事長から突然押し付けられるさえない大学職員。最初はとまどうが、そのうち留学生のカルタカがかわゆくなりはじめて…

というあらすじ。

表紙からイメージするのは、褐色、筋肉、民俗モノというジャンルで、第一印象では絶対にトンデモBLでしょ、となるはずです。

設定も、「オバケのQ太郎」や「ドラえもん」といった押しかけ居候スタイルで古き好き少年漫画要素を感じます。

絶対に裏ではなにか怪しいことをしていそうな教育機関。いかにもラスボスっぽい理事長まで登場して、これではBLとしてまとまるはずがないように思えます。

しかしエンゾウ先生は、この異物達を、力技ではなく自然に融合して、ラブに持っていくわけです。

自分の首を占めるようなおもしろアイテムをバンバン登場させ、かつ少年漫画的な展開を敷いて、ものすごくハードルを高くしてしているにもかかわらず、最後のラブいHに違和感なく結びつけるバランス感覚。

これは相当困難な仕事だと思われます。エンゾウ先生はそれを見事に成功させたからこそ『マザーズ　スピリット』はヒットに繋がったのでしょう。

すべてが手堅く、そして王道どまんなかに見える『マザーズ　スピリット』ですが、難易度の高いダンジョンくぐり抜けてゴールまで辿りつけた稀に見る快作なのです。