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絵画をめぐって巻き起こる人間ドラマ 愛憎をみつめる卓越したエピソード 『胡桃の中』

2008/07/15 00:00

坂を登った突き当たりにある、さびれた画廊――…”
その画廊の店主・谷崎は、実は…
だらしないその風貌はどう見ても人間嫌いの変わり者だが、天然系の中居が傍に来てからは、彼の周囲が一変して…!?谷崎と中居の出逢いを描いた「マイビューティフル・ワールド」と、描き下ろしも収録したファン必読のコンプリート新装版!!
BL抜きでも楽しめるエピソード。作者の美術品への造詣の深さも伝わってくる。

 普段、ほとんどが文字で埋められている小説とは違い、マンガは買ってすぐ読みきるのが心情の私。しかしその私が何故か買ってしばらく暖めていたマンガが川唯さんの書いた「胡桃の中」だ。
読まずに置いておいた理由は特に無いのだが、何故かずっとそのままにすること数ヶ月、思い出し引っ張り出して読んでみると、これが痛いほどツボに嵌った。
このコミックスは2002年に出版された後、当時の出版元ビブロスの倒産によってそのあおりをくらい一時絶版となった。そして、2007年に2冊同時に再出版。現在もリブレ出版のクロフネZEROという雑誌で連載をしている。もとはBLコミックスだったものが、オールジャンルコミック誌に移った経緯は定かではないがおそらくこの物語の流れが、BLに特化したものではなく、胡桃の中という画廊に持ち込まれた絵を巡り巻き起こる数々の愛憎ドラマだからだろう。
主人公は谷崎英生という、もさい男。祖父から「胡桃の中」と言う名のわけありな画廊を譲り受け経営している。そしてその相方で映像作家を目指す中居草平。
中居と谷崎の関係は、二人が在籍してた美大学時代にビデオのモデルにと、中居が谷崎をスカウトしてから始まった。
「胡桃の中」と言う画廊がワケありなのは、持ち込まれる絵画が全うなルートをたどってきた物ばかりではないからだ。
そんな曰くつきの作品を扱うのは、普段はあまり何も考えていないような、何処かひょうひょうとしたひげ面の男・谷崎。だが彼は驚くほどの鋭い鑑識眼で絵画に隠された裏の顔を暴いていく。
谷崎の相手役の中居の存在がまた良い。
彼は谷崎と同じ大学の出身だが、学部は違い絵に関しては全くど素人。しかし、普段カメラのレンズを通して対象物を見つめている彼は、物を見るという点で何処か谷崎と共通するものがあるのだろう。独自の価値観と鋭い視点で、窮地に追い込まれた谷崎を救ったりするのだから侮れない。
コミックに収録されたストーリーの中に印象深い1作がある。
ある日、谷崎の画廊にひとりの女性が現れるのだが、彼女は、亡くなった父親が大事にしていた絵を売りに訪れたのだ。
しかし、その絵は少し前に有名コレクターから修理を依頼された絵と同じものだった。谷崎は後に持ち込まれた女性の絵を贋作と判断するが、なぜ実の父親の絵が贋作なのか、いぶかしく思う。
そして谷崎は、女性所有の偽絵が一度だけ美術館に貸し出された事がある事実を知るのだが…
ここからネタバレ
彼は、そのとき本物と偽物が摩り替えられたのだろうと気づき、彼は巧妙な手口で再び贋作と本物をすり替えるのだ。
すり替えた偽物をコレクターの元に届けたとき、本物を持ち込んだはずの男が、谷崎に追い詰められ、ぐうの音も出せなくなる様が小気味良い。
結局その女性は売ろうと思っていたその絵を「25年間の大事な思い出だから」と家に持ち帰えることにした。それがたとえ偽物だとしてもその絵に込められた父親の想いを大事にしたいからと。
目の前にあるものが本物なのか偽物なのか、それを決めるのは本当は持ち主の心の持ち方一つなのかもしれない。

紹介者プロフィール:高坂ミキ
好きな作家は、英田サキさん、ひちわゆかさんなど。Hシーンよりストーリーの濃い作品が好き。 30の後半を過ぎてからヤオイに嵌った遅咲き腐女子。似たような内容のストーリーが溢れているBL海で、本当に萌えられる自分好みの作家さんやお話を今だ探検中。

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