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BLでは数少ない“リアル”な学園ラブストーリー ウン十年前の甘酸っぱい気持ちが蘇ります 『セブンティーン・ドロップス』

2009/01/27 00:00

誰かを可愛いと思ったのはそれが初めてだった。江里口侑、小学校四年の始業式で広久の前に立った少年。すぐに彼は転校してしまうが、時が経ち、進学したばかりの高校で、広久は江里口と再会する。女の子より可愛かった彼は、背も伸びて見違えるほど男らしくなっていた。人気者の江里口。誰とでも仲良くなれる江里口。高校二年生、同じクラスになった江里口と、広久は初めて親しくなるが…?七年目の恋物語。

 BLに興味を抱いて、試しに買ってみようとはじめてBLコーナーの前に立った時、あふれるほどのBL本を前に目眩を感じたかたは少なくないと思います。

膨大なBL作品のなか、背景の想像しやすさから、はじめて手にとったみるのは学園ものではないでしょうか。

 しかし、背景が学園であるというだけで、高校生らしくない美形キャラが、華麗な高校生活をおくり、ありえないような事件に巻き込まれちゃめちゃな展開を繰り広げる物も少なくありません。アラブのBLや大富豪のBLと同じ展開だったりします。

 BLの導入口として、それはそれで軽い読み物としての役割をはたしているでしょうし、ある意味夢を売るBLという世界観を端的に表現しているともいえますが、もっと現実味をおびた高校生活を背景にした作品が読みたいという読者には、物足りないでしょう。

 作家さんもリアルな学生生活を送った時代からある程度時間が経過しているので、自分たちの描く世界が高校生活のリアルさをつかむことができるか、不安なところもあるのだと思います。リアルさを追求して描かれた学園ものは、あるようで意外と少ないのです。

 そんな中、背景のリアルさから、現役高校生から多大なる支持を得ているのが、砂原先生の代表作の一冊で「セブンティーン・ドロップス」です。

 主人公奥村広久(おくむらひろひさ、通称ヒロ)は、母親を亡くし家計を助けるためにアルバイトをしている高校2年生です。小柄な受けキャラという設定ですが、魅力なのは思春期らしい潔癖さです。融通のきかない不器用さにじれったさを感じますが、そこに思春期の高校生というリアルさを感じます。

 小学生の時好きになった江里口侑(えりぐちゆう)と同じ高校で再び出会いますがそこはかとない恋心を抱きながらも積極的にアタックするどころか、同級生の女生徒に頼まれて、間を取り持ってしまって自己嫌悪に陥るヒロ。

逆に侑は母親が水商売で、その寂しさを紛らわすために今まで何人もの女性と関係を結んできたという人物で、恋愛感情と肉体の欲望と別に考えるところがあり、その当たりの考え方の違いから、ヒロと侑はすれ違います。

侑の行動に嫌悪感を抱かれ、ヒロから避けられはじめてヒロへの気持ちがはっきり恋だと気づく侑。侑にとっても、ヒロにとってもこれは初めての恋だったのです。

 冒頭ヒロは、携帯電話を持っていないのですが、携帯電話は誰かとつながるための道具だと気づいたときの寂しさ、侑とつながり会いたいと思う切なさが、とてもうまく表現されています。

そしてこっそり侑の写真を盗み撮りしていたことが、侑に知られて告白の切っ掛けになった場面。恋心が上昇していく様が、携帯電話という高校生になくてはならないアイテムで表現されていて、とても効果的でした。

 初めての恋の戸惑いが細やかに描かれ、夕焼けのなかお互いの心を通い合わせるラストは、現役高校生には、やっと成就した恋のときめきを、現役を引退して十数年の読者には、高校時代の恋愛の切なさと懐かしさを思い出させてくれます。

恋愛感情に揺さぶられ、臆病さや、戸惑いを感じながら成長していく等身大の高校生を青春のほろ苦さを噛みしめながら味わってください。

紹介者プロフィール:はる
木原音瀬、榎田尤利の小説をこよなく愛するお年頃の主婦。運動不足解消を目指すべく犬の散歩にせっせと歩いているが、考えているのはBLの事。 精神的な痛みが伝わる描写に激しくもだえる“精神的”鬼畜な性格。バッドエンド、死別、カップルになれないまますれ違って終わる作品がもっとあってもいいじゃないか!とハッピーエンドオンリーのBL界に憂いを密かに抱く。六青みつみの自己犠牲の受け、真瀬もとの痛さも大好物。

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