電子限定描き下ろし付き
これは、ハッピーエンドを諦めなかった人魚姫(ある男)の物語。
上野ポテト先生の作品は登場人物がとくかく現実的。それなのにほかのどの作品にもキャラクターがかぶってない。今回は童話のような語りで雰囲気がぴったり。
受が攻めより背が高いのが良い。攻が暴力的ではないサイコ味があって最後まで何を考えているのは、本当はこうだったとか詳しくは描かれていないけど物足りない感じはまったくない。読者は登場人物の「本当の気持ち」をしっていてヤキモキするのが楽しいところはあるけど、現実はそうではなくそれが漫画で味わえるのが楽しかった。
『向こうの人』『ノイド』を読んでそこまで相性の良さは感じなかった上野ポテト先生。どちらかといえば好きな雰囲気の作風のはずが、そこに一滴苦手ポイントが垂らされているという印象。今回は半滴ぐらいだったのでうまいこと消化できたかな。
半滴は潮くん…すみません。性格とビジュアルの抽象的すぎることは承知の上でややぬるっとした感じが苦手だったり。主役にはあまりいない顔立ちな気が。そうだ、レビュー冒頭に出した2冊も、作品の演出や構成は好みなんだけど、登場人物に今一歩心惹かれなかったんだよなってことを思い出した。「居そう」な感じが強すぎるのかも。良さでもある。
裏表紙で信章を「ドライなイケメン男子」としているところ、違わないか?と思ったり。どうも軽い印象ではないか?そういう類の男だっけ信章は。
信章が、心の悩んでいる時間が減ることを是としているというのが、なんともツボな描き下ろしだった。
とても面白かった。
家族に愛されて優しい男の子に育った心くんが長い初恋に粘り勝ちする話。
プロローグ的な語りの部分が優しくて可愛らしくて好きだった。
中学一年生の時に出会って高校で再会して、でも仲良くなるわけでもなく。その後大学生になってバッタリ出くわして流石に運命だし頑張るしかないって頑張るけどそう上手くはいかなくて。数年毎に信章と再会しては去っていく展開が斬新で面白かった。
高校時代、信章を見かけただけでヤッターっと満足しちゃってる心が可愛かった。
信章は他人の気持ちを察したり言葉にされない感情を読み取るのが苦手なタイプ。あと多分曖昧な表現とかも嫌いそう。だから心の反応や返事に対して結論や理由を追求してくるんだけど、本当にわかんないから聞いてくるだけで別に他人に関心がある訳でもない。でもそのフラットさが繊細で内気な心にはちょうど良くて。心の気持ちを説明している時の心の「感情の話を感情抜きで話したの初めて…」とういセリフが印象的だった。それにしても宇宙人すぎる信章の思考回路に何故??と心と一緒にビビっちゃう。「笑っている方がいいんだろ」とか「優しくないより優しい方がいいんだろ」とか人間社会を学習した宇宙人のような物言いをするのも印象的だった。信章がたまにゾッとするような未知の存在として描写されているのも面白かった。
最後、心は俺とどうなりたいのかと聞かれた時の返事がとして好きだった。
その後も信章なりに心を愛しているようで、なんだかんだラブラブ同棲生活をしていて良かった。
素晴らしい構成力です。
絵本感覚で読むBLですので、満足度に個人差が凄く出て当たり前なんですが、この唯一無二な作品は私に突き刺さりました。やられた!と思った作家さんも結構いらっしゃるかもしれません。もう同じ作風の作品は発表し辛いですから。
物語を読むと少しだけ、恐怖を感じてしまいました。
自分の中では理解できない感覚に触れたときに感じる恐怖です。
受けの年季が入った片想いは、その想いの強さに感心するとともに、再会するたびに新鮮な恋心を抱くところが少し怖い。
想いの強さは彼にしかわからないところですが...諦められないほどの強い想いが怖かったです。
攻めが行っている、相手の感情を理解するのではなく頭で推理していく行動。そういうところは恐怖を感じました。
そして目に光がないところも怖い。
攻め受けの両方に怖さを感じたところはあります。
けれど、受けは自身の気持ちに”諦め”をつけることにより一歩前進。
攻めは受けと接するうちに、情緒の成長を見せていきます。
2人の関係としてはまだ途中。
でもあまりに綺麗に終わっていて、とても満足感の高い物語でした。