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ラブっていうより、サスペンス、ヒューマンドラマ的な印象強めでした。
数年前の事件の復讐のため、その対象人物に接触し、観察していくうちに、果たしてこの人が、本当に自分が思っているような人なんだろうか…?と主人公が葛藤する様子が丁寧に描かれていて…適度な緊張感と読み応えがありました。あるべき善意や優しさってなんなんだろ?と考えさせられました。
ただ、主人公(攻め)がそこまで近所の”ジジィ”の復讐にこだわった動機がいまひとつ見えにくかったんですよね。でも、BL的な読み方をすると、なんとなく、これは”ジジィ”の復讐というより、公判の際に忘れられない表情をしていた志田という人物への執着だったのかなと思ったり。そうなると、なんとなく個人的にはしっくりくるんですよね。
脅迫のように送られるメールの謎があるんですけど、これはネタバレなしで後々”なるほど”って思ってほしいかもです。さらに、ちょっと”税理士のおしごと”ものとしても面白かったです。最後に、やはり砂原先生のキレのあるエロ描写は素晴らしいです。
電子で読みました。挿絵なし。九號さんの絵が好きなので拝めなかったのは残念。
物語は主人公、真岸悟の子供時代の回想シーンから始まる。彼は弟の徹と交わしたとある約束を果たすため、前職を辞し、ある男の税理士事務所で募集されていたアルバイトの面接を受ける。徹の子どもらしい好奇心が縁となって兄弟二人が小学生の頃に慕っていた、隣家のゴミ屋敷に住む「ジジイ」。ある日、車の轢き逃げ事故に巻き込まれ、亡くなってしまう。その加害者が真岸のバイト先の雇い主、志田智明だった。兄弟の約束とは、彼をジジイと同じ目に遭わせてやるという復讐だったのだが…。
真岸は志田と接するようになり、この事故がきっかけでそれまでの安泰な生活を失い、感情すら無意識に殺して生きている男であること徐々に知る。次第に志田へ抱いていた思い込みが払拭されていくのですが、真岸が復讐に徹しきれないのは、彼の記憶の奥底に残っていた志田の姿があったからだというタネがさりげなく仕込まれていました。
真岸の復讐を忘れないようにという五年に及ぶ執念は、法廷で志田の姿を初めて見た時から、既に彼に何かしら惹きつけられるものがあったからなのではないかと思わせます。真岸視点で描写される志田の第一印象がなんとなく色っぽい。志田の方にも大学時代の男子学生との他愛のないエピソードが描かれており、二人が同性なのに惹かれ合う不自然さはあまり感じさせませんでした。(お互い目覚めちゃったってことで。)真岸の人好きのする性格や、脇を固める登場人物のおかげか、深刻になり過ぎず読みやすかったです。孤独な志田がベランダで一人、天体観測をするシーンが印象的でした。
物語序盤は作家さまに抱いていた作風のイメージとはちょっと異なる、意外なトーンのツカミでしたが、最後まで安心して読ませていただきました。うーん、砂原先生の描く濡れ場はツボです。
真岸(攻め)が復讐をするために、志田(受け)に近づくのですが、志田のあまりの不憫さに驚き、復讐する甲斐がないと嘆きます。そして、自分を好きにならせてから捨てることで、復讐しようとするのですが…と、ここまで書いたところで、復讐する理由が人の死じゃなかったなら、コミカルテイストにもできた作品じゃないかと思いました。男が男を好きにならせようとしている時点で、既にちょっと面白い。
でも、読んでいる最中は、そんなに違和感も覚えませんでしたし、笑いもしませんでした。
志田が落ちたおにぎりを買う様を、眺めている真岸の表情が眼に浮かぶような、情景が浮かびながらすんなり読んでいけました。安定の筆力です。
徹底的に不幸な人はいないので、安心して読んでみてください。風で春の訪れを知るような後味だと思いました。
高潔であろうとするあまり人から疎まれて利用されまくった男の恋物語。読んでいる間は受に同情して泣きっぱなしだったのですが、感想を書こうとしたら受の不幸っぷりが笑えてくる不思議な作品です。萌えたかと聞かれると微妙ですが、心を揺さ振られました。
攻は感受性が強い青年(転職前の臨時アルバイト)。
受はコミュニケーション能力の低い税理士。
攻は幼い頃親しくしていた老人の命を奪った相手(受)に復讐することを誓います。社会人になった攻は不幸のどん底につき落としてやろうと受に近づきますが、受は既に幸せとは縁のない生活を送っていることを知ります。攻は自ら受に幸福を与えてやり、それを奪うという復讐を思いつきます。
受は自分を冷たい人間だと思い込んでいます。自分を捨てた母親や自分に愛情を注がなかった父親を恨んでいないし、浮気した挙句他の男との間に作った子供を養育費目当てで自分の子だと言い張る元妻を責める気もない。しかし、ロボットのように見える受にも心がないわけではなく、誰からも愛されないことに傷ついて苦しんでいます。感受性の強い攻は受の脆い部分にいち早く気づき惹かれていきます。
攻は憎悪と恋心の間で揺れますが、最後は愛が勝つ!罪を憎んで人を憎まず。天国のジジイも可愛がっていた攻の恋が叶って喜んでいることでしょうと勝手に結論づけました。
受についてはこんな無欲な人間いないよ!とツッコミを入れつつ、本当にいたらいいなと思いました。言った者勝ちの現代で生きている身としては沈黙の美徳は目に眩しく映ります。受のネタ元は砂原先生のお父様だそうです。萌え×2と中立どちらにしようか迷ったのですが、あとがきのお父様エピソードに萌えたので萌え×2にしました。
それにしてもレビュー数多いですね。さすが砂原作品。レビュー数が神評価の数を上回っている作品は面白いと感じることが多いです。
真岸悟は、今、ある作戦を決行しようとしていた。
それは――復讐だった。
昔、真岸の家の隣に住んでいた老人がいた。
老人は、どこからともなくごみを集めてきていて、家はごみ屋敷となっていた。
そこにおいてあったものに興味を惹かれた弟に付き添うように、真岸は、その老人の家に出入りするようになった。
ところがある日、その老人が轢かれて殺されてしまう。
ひき逃げだった――
酔ったまま路上で寝ていたところを轢かれた不幸な事故だったが、相手の男が三日経って出頭してきたこと。
その直後に週刊誌に男が酒を飲んでいた、と居酒屋の店員が証言したことから事件はワイドショー等で大きく取り上げられることになった。
当初は、老人に同情的な報道が相次いだけれど、老人の家がごみ屋敷だったこと、普段から泥酔状態で路上で寝ることを繰り返していて、近所でも迷惑に思われていたこと――が記事になると、今度はその老人ばかりが悪くかかれるようになった。
真岸は弟と一緒に裁判を傍聴し、判決が言い渡されるのを聞いた瞬間、男が笑ったのを見た気がした。
相手の男に下されたのは、執行猶予付きの判決。
そして真岸は、男に対する復讐を決意する。
という感じのストーリーでした。
実際は、そんな後ろ向きのドロドロした話ではなくて。
真岸は、たまたま相手の男・志田智明がアルバイトを募集している記事を見て、彼の税理士事務所にアルバイトとしてもぐりこむことに成功する。
けれど、そこにいたのは真岸が長い間思い描いていたような男ではなくて、うまく感情表現ができない不器用な男であり、今となっては何も持っていない男だと気がついて、真岸は逆に志田に惹かれ始める。
そんな話でした。
正直、賛否両論あるなー……と思うんですよ。
何かそれによって被害を受けたことのある人からしてみれば、到底受け入れられない話だろうし、かといってこれが「ダメ」っていうわけでもないなとは思います。
でも結局のところ、理想論だなー……と思うんですけど、その理想論が文学を作っているのも確かなので、それはそれでありだなー……とも思います。
悪い話ではなかったですが、テーマがテーマなだけによしあしです。