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表題作ステノグラフィカ

バツイチの政治部記者 西口諫生 44歳
国会速記者 名波碧 26歳

その他の収録作品

  • アフターグラフィカ
  • ナイトグラフィカ(あとがき)

あらすじ

国会でひっそりと働く碧。がさつで忙しない新聞記者・西口とふとしたことから言葉を交わすようになり、少しずつその素顔に触れて…?

(出版社より)

作品情報

作品名
ステノグラフィカ
著者
一穂ミチ 
イラスト
青石ももこ 
媒体
小説
出版社
幻冬舎コミックス
レーベル
幻冬舎ルチル文庫
シリーズ
is in you
発売日
ISBN
9784344825710
4.2

(251)

(139)

萌々

(65)

(28)

中立

(6)

趣味じゃない

(13)

レビュー数
36
得点
1045
評価数
251
平均
4.2 / 5
神率
55.4%

レビュー投稿数36

人間だもの...

この作品を読み終わったいま、BLの世界に足を踏み出してよかったと心の底から思いました。


碧、西口、すみれ、沙知子、松田...
色んな人がいて、それぞれの人生があって。
他人の人生に踏み込み合い、それを喜ばしく思うこともあれば、そうは思わないこともあって。

自分を構成する要素が自分をどうしようもなく苦しめることもある。
煩わしくて仕方がない、それでも大切な大切なアイデンティティ。
認めてあげられるのは自分だけだけど、それもまた他者との関わりの中で得られるものだったり。


一穂ミチ先生の文章は、本当にこちらの心を掴んで離してくれませんね...
何度も読み返す宝物になりそうです。

0

個性が良い

そんなみんなして男性同士で…とか思わなくもなくもないのだけれど、どちらかと言うとちょっと気になる脇役だった人のこと(この人の恋愛てどんなかな)てのを見せてくれるような感じで面白い

そしてシリーズを読み進めると香港での佐伯のこと、印象が変わってくる
佐伯みたいな博識な、嫌味で悪気があって口の悪い人、どの距離だったら面白く関われるんだろう

西口、仕事をたくさん見せてくれて面白かった
前妻や慕われる部下などもみんな同じ西口を見ているって感じがした
誰も言わない弱みをズケズケ言う佐伯とかひどかったけど、あれを新しい友人と同席させちゃうんだから、器大きいと思うけどな

子供を医者に育てた祖父母から丁寧に家事を仕込まれたってところ変わってるような気がするけれど、子供が勝手に医者になったってことなのかな
碧の作るご飯、本でも出しなさいよってくらい見事なんだよね
俳句も教え込まれていない、進学を強要されもしない、生活を教えて好きにさせたらとても密やかに育ったって不思議
西口が凄く好きになっちゃってるのが可愛くて
明日からまた愛妻弁当なんて、そんなに意識してってなったわ

二人共が意識してて関わったらドンドン好きになって、結果くっついて
良いお話だった

0

惜し〜〜い!

高評価と低評価がばっさり分かれていて、読んだ後にその理由に納得。

確かに、西口さんの態度は大人なのに子供っぽい。
そして私なんかは、前作の佐伯密に完璧ノックアウトされてるので、こういう日向の人の思考回路というか、男性側の気質?的なものが残る物の考え方がちょっと、余計に子供っぽく感じてしまったのかもしれません。
会社の雰囲気の中の話ではわかるんですよ。わかるんですけど、私には無理だな、って思っちゃって。
化粧のこととか、すみれちゃんからの好意についてのこととか。
う〜〜ん。
好意についてのことも、わざわざ口に出して言わなくてもいいじゃな〜い、と思ってしまいました。

あと、碧ちゃん。
碧ちゃん、嫌いじゃないんだけど別に好きでもない。可もなく不可もなく。う〜〜〜ん惜しい……

全体的には、よく纏まっていて思いもよらないこともあって、ドラマが詰まっていて、くっついた後の2人は可愛くて大変良いのですが、期待値が上がってしまったためか、そこまで入り込めず、惜しかったなぁ。

一穂先生の作品は大当たり!か、うん?掠らないぞ?の二極端なんですけれど、私の中で何となく考察した結果、
・子供っぽくて、受けちゃん含む周囲を幼さやおおらかさ?(この場合おおらかと言うより無神経に思えてしまう)で傷つけてしまう攻めが苦手
というのがなんとなく判明しました。

藍より甘くの入江くんも、就職先予定の上司のセクハラに動揺して、受けちゃんのことを散々けちょんけちょんに貶しましたけど、それがどうしても受け入れられなかった。
今回の西口さんは、碧ちゃんに特別酷いことは言ってないけど、言動が今どき珍しいくらい男尊女卑。(言い過ぎかなぁ〜でもそう感じちゃったんだよね)

反面、私の中で、佐伯を受け入れられる理由は、わかっててやってるとこかもしれないですね。

西口さんは無意識に周りを傷つけて知らないうちに受けに甘えられる日向タイプ。
佐伯さんは全方位ツンなので返り討ちも辞さない(タダでやられるハズないんですけどね…)日陰タイプ。
う〜ん、結局佐伯密が好きだ、ってことしか言ってない気も…
と言って現実に佐伯さんと対面しても絶対お近付きにはなりたくないですが笑

また、一穂先生の作中の女性が、どうしても受け入れられない時と受け入れられる時に二分されることも、話を受け入れられるか受け入れられないか、につながっているのかも知れません。
すみれちゃんは嫌いじゃないけど、今は別にすみれちゃんの話はそんなに読みたくないなぁ〜BL読んでるし、みたいな気持ちになっちゃったんですね…ごめんねすみれちゃん。

そんなこんなで評価を下げてすみません。
けれどシリーズとしては読んでいて、あ、いま、ここら辺か、みたいなワクワクとかもあるので読んで損はなかったです。
みんな一人一人に、ドラマがあるんですねぇ。

0

碧が素敵すぎて尊い

一穂先生のお話はいつもどんなドラマが展開されるのかわくわくするんですが、同時にどんな職業が描かれるのかもすごく楽しみにしています。
今回は国会速記者です。この話を読むまで知りませんでしたが、養成所で訓練を受けた人が、国会の討論を特別な記号を用いてリアルタイムで書き留めているんだそうです。時代の流れで音声変換システムも活用されるようになり、碧は養成所最後の代の卒業生で、実質最後の速記者という位置付けです。
この職業の色々な側面が、碧のキャラクターにすごくマッチしている上に、最後の速記者という哀愁がさらに碧の輪郭を補強してめちゃめちゃ趣深くしています。優しく穏やかで言葉遣いは美しく、描かれる行動や思考に心の清らかさが明確で、弱々しそうなキャラかと思いきや芯はしっかりしています。そして慣れない恋心にあれこれ思い悩む様がなんともピュアで可愛い…!!自分のなかでは過去1番人柄的に素敵なキャラでした。
西口さんは「静」な碧と反対で、明るく華やかなまさに「動」タイプです。基本碧視点で、さざ波のような細やかで凪いだ雰囲気の中、軽いテンポと時にスパイス、スピード感を出してくれてバランスがよかったです。

off you goのお二人もちょろっと出てきます!こういうのスピンオフって楽しいですよね~、相変わらずのお二人でちょっと嬉しい。ちなみに本作はoff you go読んでなくても全く問題なく読めます。
他にも物語と二人の関係に厚みを出してくれる脇キャラが数名出てきますが、それぞれ味があって良いです。変に嫌なやつは出てきません。(佐伯さんは通常運転)

とにかく、碧がめちゃ素敵な子なので多くの人に広めたい!

1

表紙の記号にも意味が。

stenographyは速記の意味だそうです。主人公が国会速記者で国会議事堂に勤めているのです。
主人公の名波くんのキャラクターが、若いのに老成しているというか、純粋培養の植物のようで、ひっそりしてて芯が強くてプロフェッショナルで、彼の持つ清澄な空気感にとても好感が持てました。
速記というお仕事も古式ゆかしいし、生活もとても堅実だし、休日に口述筆記のボランティアをしているのですが、その相手の松田さんとの交流もやはりとても穏やかで、この静かな時間を生きている人が、ガサツ極まりない新聞記者の西口さんとどういう風に恋愛関係になるんだろうと、楽しく読んでいきました。
もうこのまま、発展しない両片思いのままでもいいんじゃないかな、と思わないでもなかったです。
それだけこの世界観に癒やされてました。

松田さんの過去話にとてもそそられました(過去に無配されたそうですが)。
松田さんと名波くんの静かな交流がとても心地好かったので、正体を暴いた西口さんを恨めしく思ったりもしました。なんてことするんだと。読後の今でも解せないです。

登場する人物それぞれの人生をじっくり読ませていただいた感じです。
西口さんが「off you go」の佐伯と静の同期なので、ちらちら登場するのも楽しかった。私はやっぱり佐伯密が好きだなあ。
それと、女性キャラが光ってます。鉄の女1号2号にもう一度会いたいです。

0

丁寧な暮らしBL!?

新聞社シリーズのうちの一作。

今回の攻めは国会担当の新聞記者西口。
彼のよく通る声をなんとはなしに記憶していた、速記者の碧は、ある日彼の手作りのお弁当が縁で西口と交流を持つようになり、やがて二人は…という。

この作品、新聞社シリーズの中でも好みなのですが、その理由は大きく3つ。

まず、一穂作品の魅力として、登場人物の仕事ぶりが生き生きと描かれていることがあるのですが、この作品も新聞記者や速記者のお仕事というものがしっかり描かれています。
その上で、この作品は西口の部下の女性の仕事ぶりについても脇役だからと雑にせずに触れていて、それが印象的だったんです。

次に西口という男のキャラ造形。
バリバリ働くけれど、生活にはちょっとだらしない。
部下の女性に手を出さない程度には真っ当だけど、平気で下ネタを言う体育会系男社会の悪習には染まっている。
明るく親しみやすいが、デリカシーに欠けるところも。
仕事のできる格好いい女に惚れるだけの度量はあるけれど、そんな女に負けたくないというつまらないプライドは捨てきれずに離婚に至った過去がある。
美味しそうなお弁当を見れば、男ではなく女が作ったと短絡的に考えてしまう古い考えの持ち主で、家事は女の仕事という古い考えから抜けきれていないところがあって、実際本人の家事能力も低いままである…などなど。
欠点の書き込み方が絶妙で、リアルにいそうなダメな男だけど憎めないおっさんなのです。隙があるからまわりが絆される系。


で、おじさんが惚れるのが、碧というひとまわりも年下の男の子。
国会の速記者である碧は、でしゃばらず、でも使命感を持って淡々と仕事をこなし、古風とも思えるくらいに、今時の子のノリに安易に流されず、品行方正に、日々の生活を丁寧にきちんと営んでいます。
名を知らしめるぞ!的な昭和男子の野望とは縁遠いけれど、仕事も生活も自分のスタイルを淡々とつらぬく芯の強さは、そりゃ西口みたいな男にとっては谷間の白百合のようにも見える事でしょう。
西口だけじゃなく読者の私もメロメロです。

そう、この作品の3つ目の魅力は碧の暮らしぶり。
出てくる手料理が全部美味しそう…。読むとちゃんと自炊せねば、と思わせてくれる作品でもあります。

というわけで、水と油のような二人が結びつくまでの恋模様を楽しみながらも碧の丁寧な暮らしぶりに惚れ惚れする作品でした。

3

攻めをめぐる女のバトル

新聞社シリーズ第3作目。本作を最初に読んでシリーズと知ったにもかかわらず、リンク作を読む気になれなかったのが再読してよくわかりました。

本編は国会速記者、名波碧視点のラブストーリー。昼時、議事堂の食堂で頻繁に居合わせる男の声に惹かれ、意識するようになった碧。自分の手作り弁当がきっかけで、声の主、明光新聞記者の西口と言葉を交わします。

西口は前作『off you go』のメイン、佐伯と静の同期。44才バツイチ独身で、碧は26才なので年の差ものです。

前に読んで記憶に残っていたのは、料理上手な碧のお弁当やごはんがどれも嫌味なくらい美味しそうだったことと笑、オースターの小説が出てきたこと。印象としてはしっとりとして静謐なイメージでした。

再読しての収穫は、雰囲気は変わらずに好きだけど碧と西口が好きになれなかったこと、『ムーン・パレス』、次作のメイン候補の目星がついたことと女性キャラが不憫に思えたこと。

碧は作者の描く受け像の中でも個人的に苦手なタイプなので、彼に惹かれる西口とそのキャラにも萌えられませんでした。以下は不愉快になられる方がいらっしゃるかもしれないので、自衛してください。

碧と西口の部下のすみれは互いに尊重しあっているように描かれているけれど、腹の中でマウントの取り合いしながら、あの人にはあなたみたいに品があって家庭的な人がお似合いよ、いいえわたしなんか地味だし家事くらいしか能がないし、男社会で対等に渡り合っているあなたの方が相応しいわよ、的な女同士の静かなる攻防にしか見えませんでした。

このお話、西口が最終的に選んだ、彼にとっての理想的な女性像を描いたものだとしか思えなくて。西口はノンケです。性別関係なく碧だったから好きになってエッチにまで至るのは、西口が男の碧に元妻の沙知子には無かった魅力を見出したからですよね?なのに沙知子と碧が一重まぶたの控えめな顔立ちで、見た目に共通点があるなんて情報を加えた作者の意図がよくつかめませんでした。

読みながらモヤモヤし続けていたのですが、沙知子の顔写真を見て碧が抱いた、そこだけ妙に男目線な感想にモヤモヤゲージが振り切れてしまいました笑

碧が沙知子とすみれに嫉妬できるのは、彼女たちと同じ土俵に身を置いているからですよね?そのくせ自分が男であることに自信のなさを感じている碧には、同性であることを逃げ道にしている一束と同じずるさを感じました。

碧が西口の誤解を早いうちに解かなかったのも理解に苦しみます。好きなら好きと相手に伝えて、ウザがられても仕事ぶりは変わらない、すみれの方がよっぽど好感が持てました。終盤に起こしてしまった業務上の失態は、彼女が女を利用するキャラだとは到底思えなかっただけに残念でしたけど…。

BLにでてくる勇ましい女性キャラは大好きで、彼女たちの役割も承知しているけれど、この作品での扱われ方は疑問でなりません。受けを際立たせるために女性キャラの立場が貶められているように思えて、読むのが辛くなりました。

巻末SSは西口視点。ある意味女性が苦手な者同士、理想的なお相手に出会えた二人を素直に祝福できたらよかったのですが…。

1

静かで優しい雰囲気が素敵

国会記者の年上攻めと国会速記者の年下受けのお話。速記って何か分かりますか?私は知らなかった。国会での議員の発言を話すのと同じスピードで全て書き留めて、議事録を作る仕事なんだそうです。普通の文章だとまず追いつかないから、訓練された速記者だけが使える、暗号のような、速記文字という記号を使うそう。求められるスピードは10分間に4000字。速記者は記録することが仕事だから、議会では何か発言をすることも、書く文章に自分の感情を乗せる事もなく、ただひたすらに黒子として徹して、ペンを滑らせるのみ。

 そんな仕事に就く受けの名波は、普段の生活でも物静かで落ち着いた性格。自分のことを「透明人間」と表現するけれど、仕事に対しては誇りとやりがいを持っていて、真面目に務めていた。そんな名波が少しだけ気になっている人物が、攻めの西口。昼食の時間に食堂でいつも聞こえてくる彼の声は滑舌良く、区切りが明確で、聞き取りやすい。名波は職業柄か、西口の声が聞こえた時、いつも思わず耳をそばだててしまう。けれども直接会話したことがある訳では無いので、一方的に相手のことを知っている、という少し不思議な関係が続いていた。

 ある日二日酔いの西口に、名波が自分で作ったお弁当を食べさせたことをきっかけに、2人は仲良くなっていく。少しずつ会う機会が増え、会話をしていく内にお互い恋愛対象として意識していくものの、西口は名波が毎日持参する手の込んだ弁当を理由に、名波のことを妻帯者だと勘違いしていて…。というお話。
 


 しっとりした大人の上質なBL。あとお料理の描写がとっても魅力的。国会とかほんと全然分からないアホな私だけど、とっても面白く読めました。こんな難しい業界や職種をなんの違和感も感じさせずサラッと書いてしまってる一穂先生はやっぱりすごい。

 受けの名波碧がとっても健気でいじらしいくてかわいい。料理上手。家事全般もできる。そして相手を立てながら聞くのも上手という、少し女性的な、不思議な魅力を持っている受けです。でも仕事はバッチリこなすし、しっかり自分の考えを持っているので決して女々しい訳ではありません。話の中で、この子が攻めの帰りを待って1人で眠る描写があるんだけど、すんごい広いベッドなのに、壁際にちいさくちいさく丸くなって寝てるんですよ。こういう、わざとらしさとか押し付けがましさのない健気さが物語の端々に自然に組み込まれてて、この子のことがとっても好きになりました。

 攻めは40代既婚者バツイチ。大人の魅力たっぷりで、受けと違って社交的で、記者という職業柄、とても華やかな人物。普段は堂々と構えているけれど、受けのことになると動揺してわたわたしてしまったり、悶々としたり…。と、とても見ていて可愛らしかった。普段は受けのことを「名波くん」て呼んで、年の差を意識せず気さくに話すんだけど、大事な時に「碧」って呼び捨てにして年上らしく振る舞う所がずるいしかっこいい。あと絶対受けのことだけは「お前」って呼ばずに「君」って呼ぶんです。そういう丁寧な部分も素敵だなと思いました。

 好きなシーンは自己嫌悪と疲れと受けの健気さに我慢がきかなくなって思わず受けを呼び捨てにして無理やりキスしてしまう場面と、思いが通じあって、攻めが受けに優しく語りかけるところです。

全体的に静かで優しい雰囲気が漂う素敵な小説。とってもオススメです!

4

恋をして、仕事をして、生きていく。

面白かった〜‼︎

大きな声で一言、初めに書きたかったのです笑
『is in you』シリーズ3作目、今作のカップルはかなりの年の差ということで、読む前は若干尻込みをしておりました。
44歳は、一般的におじさんと言うのでしょうか?私見ですが、30代後半からは印象によりけり、その人となりによると思っています。結論からして、西口さんは私にとっておじさんではありませんでした。壮年期真っ只中の、魅力的な大人に見えました。

今回も舞台設定が本当に見事でした。遠い記憶ですが小学生の頃、国会議事堂見学に行ったのを思い出しました。行った人はわかる、あの独特の雰囲気、周囲から逸脱した世界観が大変面白いので、まだの方は見学ツアーがオススメです。
また碧の速記者という職業ですが、知ってはいたものの深く考えたことがなかったので、すごく興味深い内容でした。碧は、速記者は透明人間、影側の仕事という風に捉えているのですが、本当に一種の特殊能力のような職業でした。一穂先生にはぜひ、一般誌でノンフィクション系のお仕事小説も書いて欲しいです。


私事ですが、ここのところ心から揺さぶられる!という作品がご無沙汰でしたので、興奮しております。今作の特に惹かれた部分は、登場人物を多面的に描いているところと、碧の初恋の、片想いのみずみずしさが文を通してありありと伝わってきたところです。

多面的、というと特に西口さんの性格付けが好ましく思いました。
グイグイ来るけど基本的に優しくて、優しいかと思えば、優しさ故に冷酷で。彼の、悩ましいが切り捨てたくない過去が、心の強弱のバランスが、最高でした。

そして、碧が西口さんに恋をしていく様子。美しささえ感じるほどにみずみずしくて、涙が出そうになりました。碧は四角四面とは違うけれど、すごくそれに近い真面目で、生きる喜びもまだ知らないような、無垢な印象を受けました。自分で丁寧に生活をする姿、布巾を縫ったり、お料理をしたりする彼には、私が持っていない物を持っている人だ、とめちゃくちゃ癒されました。家事の合間に布巾を縫う26歳、最高に可愛いです。

碧が西口に対して、すみれという女性の存在を通して、好意から来る怒りの感情が発露する場面は特に圧巻でした。
普段冷静な彼が、冷静でいられなくなり、そんな自分を、ああ、恋をしているからだとやはり冷静に見ている。その辺りの表現が秀逸でゾクゾクしました。

碧のモノローグに

『あなたと出会ってから、僕はすこし変わったような気がする。透明だったはずの僕を見ていてくれたと知った時から』

という一文が、ぽつりと出てきます。この言い回し自体は、特段珍しいものでは無いと思います。ですが、そのタイミングと一連の流れが本当に良くて、一気に心を持って行かれてしまいました。
最後まで勢いを落とさず読ませてくれる作品です。
今のところシリーズ内ではこちらの続編が1番読みたいです。

とっても面白かったです!

6

「萌✕2」+「趣味じゃない」=「中立」

一人で評価下げてすみません……
序盤と終盤は「萌✕2」だったのですが、中盤に引っ掛かりを感じる描写が数多くありまして……そのせいで評価低めです。

何に引っ掛かったかというと、攻めの西口の言動(と、それにまつわる受けの反応)。
本作の攻めは、「大人と子どもが互い違いに噛み合ったような男」で、「年甲斐がな」くて、「切羽詰まるとつい物言いが無神経になる」人なので、国会議事堂の食堂でAVの話をしちゃったりする。
そんな攻めのことを序盤は憎めないヤツと思って読めていたのですが。

最初に引っ掛かりを覚えたのは、攻めと受けが親密になってきて、初めて二人で飲んだ場面でした。
離婚したさみしさを攻めが語った直後、酔っ払って足元もおぼつかない攻めを心配した受けが「送ります」と言った時の攻めの返しが、「何で」。
……心配して送るって言ってくれてる相手に、「何で」って返すかな普通、ってここでまず思っちゃったんですよね。
地の文には「いいよ別に、とか気にしないで、じゃなくてどこか、責めるような、響きのきつい問いかけだった。さっきの言葉を西口がもう、後悔し始めているのを知った。」とあるのがまた納得いかなかった。
勝手に長々と語っておいて、勝手に後悔したからって心配してくれた相手に責めるようなきつい言葉言うのってどうなんだろう。
そんなふうに、このあたりで私の攻めに対する評価が一段階下降しまして。

さらに大暴落したのは、攻めに想いを寄せる、攻めの部下の女性(すみれ)のまつげについて
「いや、マスカラ変えたのか知らんけど、先週あたりから濃すぎたからさ。ノーマルヒルのジャンプ台みたいになってんぞって言っといたんだけど、あれだよね、レギンスといいネイルといい、女のおしゃれとか身だしなみって、こっちのまったく望んでない方向に走ってる時があるよね」
などと言ったことを、失礼だと受けに批判された時に返した言葉。
「やりもしない女、ちやほやしたってしょうがないだろ」。

…優しい受けは、そんな攻めに対しても「軽べつの念が起こらない」らしく。
その理由は「本気じゃないとすぐ分かったから。西口がひどい言葉を使えば使うほど、すみれを大切に思っていることが。応えてやれないのが心苦しい、脈もないのに想い続ける女の真剣が煩わしい、できればつめたくなんてしたくない……。」と思っているのがわかると言うのですが。
いやいや……相手の想いに応えるとか応えないとか以前に、「こっち」の望むような形でおしゃれしろという発言自体、彼氏でもないのに何様のつもりなんだ、っていう話じゃないですか。
なのに攻めは、彼氏じゃないからこそ何言ってもいいんだ、っていう発言したわけですよね? 彼女なら機嫌損ねたくないから(ヤるために)褒めるけど、そうじゃない女だから何言ってもいいんだ、って。
それでいて、想われるのは煩わしいとかもう……身勝手すぎる。
百歩譲って、本気の発言じゃないからと大目に見たとしても、でもやっぱり「ヤりもしない女」呼ばわりはないと思うし、また「言葉は命」「言葉は武器」である新聞記者(44歳の大ベテラン)であることを思えば、本心じゃないなんて言い訳にもならない。
また、この発言に対する受けの反応もまた奇妙で、「西口さんが言うとさまになっててよかったな、と思い返し」ていて……なんかもう…

その後も、仕事終わりの飲み会で、女性社員が同席していても彼女を除け者にして攻めは男性陣と「キャバクラぐらい」ではない店(ソープとか?)に行くのが恒例だという話が語られたりして、なんだかもう、攻めを素敵な優しい大人の男だとは全く思えなかった。
終盤になると攻めは受けとくっつくのですが、しかし、ちょいちょい攻めの身勝手さは垣間見えて。
(受けが初めて作った手作りごはんも、冷める前に食ってあげてほしかった。セックス優先するんじゃなくて)
なんだかとても、残念な感情を抱えたまま読み終わりました。
攻めの部下の女性は本当に可愛くて健気だったし、受けも真面目な人で好印象だったので、本当に残念。
いや、攻めもいいところはいっぱいあるんですけれども、でもなぁ……

4

約束で結ばれた二人が素敵

一穂さんの職業ものが大好きで、本作品は新聞記者と速記者という組み合わせに大いに興味が湧いて読みました。新聞が好きだし、速記は昔、漫画雑誌に通信添削の広告が載っていたのを思い出しましたので。年代がわかってしまうかしら(笑)。

新聞記者の西口(攻)は、明朗快活だけれど、自分の器の小ささから妻と別れた過去が未だ傷になっている。国会速記者の名波碧(受)は、自分の仕事が時代の流れに消えゆくことを受け入れながら、研鑽を怠らず、日々を静かに丁寧に暮らしている。
そんな対照的な二人が、ふとしたことから友人のような付き合いをすることになり、やがて互いに強く惹かれていきます。

碧が、その職業ゆえに身についた観察力で、明るい西口の寂しい部分に気づき、自分もまた寂しいのだと気づく描写が、しみじみと胸に沁みて、上手いと思いました。西口が碧に、「最高の、最後の速記者だ」とエールを送る場面にも胸が熱くなります。
言葉を扱う仕事に真摯に打ち込んでいる者同士だからこそ、響くものがある。二人が惹かれ合うのが納得できるし、かれらの職業設定がすごく効いていると思いました。

西口と妻が結婚時代に読んでいた文庫本『ムーン・パレス』が、碧の気持ちの変化、西口と妻の年月を表すのに、大きな役回りを果たしているように感じました。言葉に関わる仕事をしている彼等らしい知的な描写がとても好きです。この小説、実在するものなのですね。
碧は、西口が貸してくれたその本を読み、最初は二種類の傍線に二人の仲睦まじい姿を思い浮かべて、その別れに胸を痛めます。そして、二度目は、二人の痕跡に胸が苦しくなって、西口への想いに気付きます。
西口は、傍線のことなどすっかり忘れています。
今は国会議員となった西口の元妻は、かつて西口が激しく嫉妬するほど有能な新聞記者でした。執務室に新たに買った『ムーン・パレス』を置いていて、それが今も大切な本であることが分かります。しかし、昔読み流していたところに小さな発見や感動を感じると話す彼女に、碧は西口の妻だったころの彼女はもういないのだな、と感じるのです。
なんとなくですが、『ムーン・パレス』は、人の出会いの不思議さとか、年月の流れをモチーフにしているのかもしれないと感じました。

西口と碧が惹かれ合うのも、出会いの不思議さゆえなのでしょう。西口のセリフ「恥ずかしいよ、俺。こんなに夢中になっちゃって」が、すごく可愛いです。掃除や洗濯はしないで、と碧に言うのも、好きな気持ちだけで一緒にいたいという純粋さを感じます。愛する人を得て、西口の心の傷は癒えていくのでしょうね。

碧が定年退職したら、最後の速記者として西口が取材する。約束で結ばれた二人は、それぞれの仕事を全うするのでしょう。素敵だと思いました。

この作品を読んだ後、国会中継等で速記者の方に目がいくようになりました。本当にチラッとしか映らないし、碧が言っていたように地味な服装をしていらっしゃいます。日本の議会政治を見守ってきた大切なお仕事、どうぞ頑張ってほしいと念を送っています。

4

居住まい正しく、静かで美しい。

なんとなくレトロな雰囲気のただよう物語。
新聞記者である西口とその周囲の人々の描写は生き生きとしたリアリティがあります。
それに対して「国会速記者」である名波は生活・仕事両面において妙にファンタジーめいている…というか。地に足はついているのだけど、現実にはいない感じの清々しさに溢れています。
個人的に想起するのは(あまりに古いですが)「東京物語」の原節子演じる紀子だったりして。……アパートの小さな部屋で居住まい正しくささやかに暮らしている…派手ではないけど、とても美しい!

BLとしては、物足りないと感じる方もいるかな?という感じですが、これはこれでよい塩梅。

小さく静かなファンタジー、という趣の一冊でした。

3

碧の作るお弁当が美味しそう

作家買いです。
年の差カップルってあまり興味ないはずなのに萌えました。
男らしくない受けも好みじゃないのに……
やはり一穂先生だからでしょうか。
キャラクターの魅力に引き込まれます。

エッチシーンはつまんないんだけど
二人が魅力的で愛し合ってるからいっかーと
読みながら妙に満足してしまいました。

3

国会関係のニュースを見ると思い出す

作家買いで一穂さんの作品を手当たり次第に読んでいた時に出会いました。
一穂さんの新聞社シリーズ(?でいいのかな?)の中で一番好きなのがこれでした。
攻めも受けもキャラクターがいいです。バツイチ国会記者の攻めと古風で番茶の茶殻を床にまいて掃除しちゃう家事が得意な国会速記者。
夜討ち朝駆けの仕事をしている記者と判を押したように決まった生活をする速記者。
最初は受けが声から惹かれはじめるんですが、お互いに惹かれあう流れが実に自然で納得がいく。
受けが毎日手の込んだお弁当を持参することから、攻めは既婚者と勝手に誤解するのですが、それを否定できずにそれでも近づいていく過程が秀逸です。
攻めは(俺の気持ちを)
「もうわかってんだろ?」
というんですけど、そのあと思いが通じ合う場面よりそのシーンの方がキュンとしましたね。
この作家さんの作品は大好きです、言葉の使い方も好きです。描写はしつこいところがあるけど、それが後で必要だったと感じることもあるので上手だなと思う。
でもHシーンが物足りないなって感じることが結構あるんですね。これもそのひとつかな、と思います。
受けが意外とすんなり受け入れてうまくできちゃうところもちょっと戸惑ったし、本当ならもう少し回数を重ねて慣れていく過程とか感度があがっていく感じが欲しかったな~と。
ただ、そのほかは私の中でトップクラスに好きな作品なので、☆5で。

8

snowblack

acopさま、はじめまして。
私もちょうど今現在紛糾している国会のニュースを見ながら、
西口さぞ大変だろうなぁ……、
碧は揉みくちゃにされちゃわないかしら……、
いつも規則正しい生活なのに、超残業?とかあれこれ思っております。
実は私にとってはこの作品は、ちるちる初レビューの作品。
そんな思い入れもある作品なので、ついコメントをさせて頂き
失礼いたしましたm(_ _)m

秀逸なおしごとBL

中堅新聞記者(バツイチ)西口氏×国会速記者の碧くん

ふたりとも自分の仕事に拘りと誇りを持っており、あまり色恋に夢中になることなく、生活の一部として恋愛してる感じに好感が持てます。

西口氏の「こういうオッサンいそうだな~」感と、碧くんの「こんなやついねーよ」感がアンバランスなのに不思議と相性がいい。

ただ、お互い一人の人間として興味が湧く過程はとても自然でしたが、恋に落ちて恋愛に発展するまでがあまりに薄味なような気もします。ふたりともまっさらノンケなのに、ことに至るのに戸惑いや葛藤もあんまり。

おしごと小説としては100点、BLとしては70点で、わる2して85点て感じです。

3

お弁当男子

明光新聞社シリーズ4冊をまとめて読みました。
話題だったし高評価なのでずっと読みたいと思っていました。
シリーズ3冊目は、新聞記者と国会速記者の恋物語です。

あまりなじみのない職業の人を題材にする作家さんというイメージがあるので、来た来たという感じです。

国会速記者の名波(ななみ)くんはとっても家庭的な男の子です。
男の子、といっても26歳の立派な成人男子なのですが、読んでいると可愛くて小柄な子がちょこまかと家事作業にいそしむ図が浮かんできます。

国会速記者という職業は聞いたことがありましたが、消えゆく職業なんですね。
名波が最後の世代で養成所もなくなったとか。それは知りませんでした。
また衆議院と参議院など組織によって記号が異なるというのも初めて知りました。
BLとは関係ないし知っていても役に立たないけど、知識として知って面白いことに出会えてよかったと思える種類の作品でもありました。

主役カップルの相手として登場したのは、前作の静×密の同期生でもある国会担当の政治部記者 西口でした。
バツイチですが、その離婚に訳ありそうで気になりつつ読んでいきました。
出来過ぎる妻を持った男の悲哀とでも言いましょうか、西口としてはもっと可愛く文化部で『今日のお料理』なんかの記事を書くような男と対等に立たない妻がよかったんでしょうね。
差別するとか女を下に見てる訳じゃないから、他人だったら応援できても自分の妻には夫を立てる家庭的な女を求めていたようです。
要するに甘えたさんなんですね。

そんな人には、女相手ではだめですよ。
自立していながら強くて優しい面のある、でも家庭的でお料理上手でそのうえ仕事で対立も競争もしない・・・となったら男です。
西口氏にぴったりのお相手を探そうとしたらもう彼しかいません。

というわけで、議会後にちょっと言い過ぎた発言を削除したいと恫喝してきた議員に絡まれていた名波を助けてくれた新聞記者というのが出会いです。と言ってもそれまでお互い食堂などで見かけてちょっと気になる人みたいに意識していた相手なんですけどね。

でも、名波は自分がお料理や縫い物をする女々しい自分がちょっとみっともないかも、と思ってるところがあり、西口が素敵なお弁当をみて妻帯者と勘違いするのですが間違いのままにしてしまうことから、恋の成就に遠回りしてしまうんです。
遠回りといっても1作目が13年目の再会でしたし、2作目が出会いの小学生から数えたら30年以上かかるのと比べたらあっという間なんですけど。

細かな心理描写と静かで淡々とした流れで、このまま大きな事件も障害もないまま出来上がるのかな、でも、ここで一つ何かないと距離を縮めるのは難しいなと思っていたところに事件発生です。
功を焦った西口の部下の取材方法に問題があり責任を追及され危うく左遷という事態に直面したとき、離れ離れになるかもしれないと思ったらお互いの大切さを実感するのです。

切なさや燃え上がるような恋心といった派手さも華やかさもありませんが、意地らしくて可愛いい名波が西口に見つけてもらえて、幸せになっていくのを見守るのが楽しかったです。

前作の佐伯と静は相変わらずで、佐伯を指して「こいつ悪気があって口も悪い」の台詞に笑えました。

4

碧が可愛い…!

新聞社シリーズ3作目になる今作品。3作目ではありますがそれぞれ独立しているお話なので、これ単品でも問題なく読めます。新聞社シリーズは今現在4作品出ていますが、私はこれが一番好きです。なんといっても碧が可愛い!

この作品を読んで初めて「国会速記者」という仕事を知りました。なじみのない仕事ゆえに非常に興味深く読みました。目立たず、影のように表に出てはいけない仕事。それにうってつけのような地味な碧。これと言った趣味もなく外出と言えばボランティアで年配の方のところに出かけるくらい。家事は完璧で、すごくおいしそうなお弁当まで作れる。こんなお嫁さんが欲しいなあ(自分がなろうとは決して思わないけどw)。

お弁当って料理を作れるってことももちろん大事なことだけれど、それ以上に、あるものをうまく組み合わせて作るとか一度にたくさんの種類の料理をパパッと作れるとか、いつもきちんと食料品を管理しておくとか、いろいろな要素が組み合わさってないと毎日作るって大変なもの。碧のきちんとしていて、整理上手で細やかな性格を表すのにとても効果的な表現だと思いました。

対して攻めの西口さん。彼もとても好き。個人的に、ああいうさっぱりしていて頼りがいのある年上の攻めが好きということもあると思いますが。普段はざっくりしているのに、碧のことが絡むと途端にワタワタしてしまう西口さんもとても可愛らしいと思いました。

性格が真逆だったり、西口さんの前妻さんのことがあったり、碧に奥さんがいると西口さんが勘違いしていたりとバタバタするところもあるのですが、根本のところに二人がお互いを思う気持ちが溢れていてほんわかと読むことができました。

それと、「off you go」の佐伯さんは出てくる作品ごとに印象が変わりました。今まではあまり好きなキャラではなかったのですが、今作品の佐伯さんはいい味出してます。スルメのような…(噛めば噛むほど味が出る)?イヤ、失礼。

一見良妻賢母のような碧ですが、自分の仕事に誇りを持っていたり、人に対する気持ちも一本筋が通っていたり、非常に男前な性格なんじゃないかなと思いました。

11

アンチスーパー攻め

珍しくレビューを書きたいと思えた作品です。
一穂さん初めて読みましたが、いいですね。他のも読みたくなりました。

個人的に見た目も仕事も完璧な登場人物(所謂スーパー攻め)にはあまり惹かれないので
本作の西口には大変惹かれました。
うまく表現できませんが、人物の作りこみが自然で、どこかに実在してそうなのです。
「仕事はできるが、子供っぽさを残したいい大人」西口を一言で表すとこんな感じでしょうか?
自分の周りにこのタイプ多いんです。でも、仕事はできるんですよね。不思議です。

対して碧は女性っぽい印象です。
本当にこんな人物が男女問わずいるのか?
人の良さが出ていて、料理も上手で、女性ならお嫁さんにしたい人No.1ですね。

物語は、優しく静かな雰囲気で大きな事件も誤解もなく進みます。
でも、どんどん引き込まれ読み進めてしまいました。


4

見出された美しい化石

◆あらすじ◆

主人公・名波碧(ななみ へき 26歳)の仕事は、国会速記者。華やかな政治の舞台の隅で裏方に徹する速記者は、今や機械で代替できる消えゆく職種でもあります。
弁当男子の彼は、毎日、昔ながらの和の惣菜を詰めた自作弁当持参で通勤。弁当に限らず、彼のライフスタイルは、古き良き時代の日本人のそれそのものです。
公私ともに、ともすればアナクロで、否定的に見られがちな彼の生き方ですが、彼自身は自分の立ち位置を弁え、そこに満足を感じながら生きています。
そんな碧に惹かれる某新聞社の政治部記者・西口諌生(44歳)。優秀な女性記者との結婚に失敗した傷をひきずる西口にとって、碧はやすらげる存在。碧もまた西口に惹かれますが、成り行きから、彼に既婚だと嘘をついてしまいます。
折しも西口の部下・すみれのスキャンダルが発覚。西口も責任を問われ、左遷が危ぶまれますが、意外な人物に救われて…?
西口と碧の恋愛を通して、人と人との相性や出会いのタイミングについて、考えさせられる作品です。また、古き良き生き方、裏方の果たす役割の大きさについて見つめ直した作品でもあります。

◆レビュー◆

碧の作る、心身ともに癒されそうな料理の魅力にも惹き込まれましたが、個人的には何と言っても西口と碧の相性の良さ、二人が結ばれる必然性に、説得力を感じました。

キャリアウーマンとの結婚に失敗した反動か、女性蔑視ではないものの、女性に対する考え方は古いタイプの男性に見える西口にとって、家庭的で、黒子に徹するタイプの碧は、まさに理想のパートナーなんじゃないでしょうか。
碧の、融通が利かなかったり面白味に欠けたりする部分は、同世代には引かれても、18歳年上の西口なら、余裕で許容できそうだし。
二人とも同じ「書く」職業で、お互い「言葉は命」。でも、新聞記者と速記者では、求められているものが全く違っていて、その違いが二人の性格にもきれいに投影されているんですよね。
「新聞記者らしい男」と「速記者らしい男」の二人が、丁度それぞれの凹凸の部分で相手を補完しあう関係にハマるという…似て非なるこの二つの職業の相性に着目したのはGJだと思います。
ただ、二人が結ばれたのは、やはりタイミングも関係しているんでしょうね。
西口が結婚に失敗していなければ、彼はすみれを選んだかもしれない。
迷いなく真っ直ぐに生きている碧と、心にどろどろした妻への敗北感を抱え、大人の狡さも身につけた西口という、今の二人だからこそ。
そういう意味で、人と人の相性と、巡り合わせの不思議を見事に描いた作品に思えます。

国会議事堂の珊瑚石灰岩の壁にひっそりと埋もれたアンモナイトの化石は、碧の存在感のメタファーでしょうか。
この本の表紙絵にも、碧がうたた寝するテーブルにアンモナイトが描かれています。長い時を経て西口に見出された碧…そんな構図にも見えますね。

松田(杣友)老人と城崎代議士のエピソードも、効いてます。
城崎の死後松田が後を追いたくなるほどの二人の関係がどういうものだったのか、それについては一切触れられていませんが、西口と碧の、光と影のように寄り添いながら共に生きて行く未来を予感させる挿話でした。

ただ、碧は古き良き日本人という意味でとても魅力的なのですが、それだけに意外性や面白味に欠けるんですよね。
クライマックスまでの、西口の気持ちを量りかねて揺れる碧はBLの主人公たりえても、恋が実った後の彼は、魔法がとけたように退屈に感じました。何かやることがいちいちイラッと来るというか(苦笑)
いい意味でも悪い意味でも、彼は古き良き日本女性なのかも。

ともあれ、新聞社三部作では一番好きな作品でした。(←多分少数派)
「off you go」の静―佐伯も、西口の同期として登場します。

9

snowblack

yoshiakiさま、こんにちは。

新聞社三部作は一穂作品の中でもとりわけ好きなシリーズですが、
この「ステノグラフィカ」は、昨年初レビューしたということでも
個人的に思い入れ深い作品です。

アンモナイトの化石が、西口に見いだされた碧のメタファー、
人と人の相性と、巡り合わせの不思議を見事に描いた作品、
など、頷きながらレビューを拝見致しました。

恋が実った後に関してですが、同人誌を読んで頂けるとこれが案外面白いですw
そして、是非お読み頂きたいのが、同人誌というか無料配布本の「2012 summer」。
若き日の松田老人の話です。
機会がありましたら、是非お読み下さいませ。


作品が受けの地味さに侵食

ネタバレなしで書きたいと思います。

『is in you』『off you go』と同様の新聞社が登場する作品。
今回は、政治部記者×速記者。


攻めは新聞社の記者で40代のバツイチ、西口。
わざとチャラチャラ見せている部分がありますが、年相応の大人さや狡さも持っています。

受けの碧が国会の速記者。
時折見かける西口の声を記憶に残していました。
毎日、自作のお弁当を持参しています。


その自作お弁当のせいもありやたら料理の表記がありますが、わたしにはいらなかったです。
それを西口が美味しそうに見ていた描写があるため仕方ないとしても、そこまで細かくする必要性がわかりませんでした。

三作の中でわたしには一番地味だと感じました。
かなりの年の差カップルではありますが、碧が若者特有の勢いや無神経さがないためあまり年齢の開きは感じません。
せっかくここまでの年の差ですから、もう少し甘さが欲しかったかな。
お互いの職業が職業ですから、無理だったのかなあ。

『is in you』は先輩後輩のせつない甘酸っぱさともどかしさが、『off you go』には強烈な佐伯と十和子が……と、二作品には心に色々な意味でガツンとくるものがありました。
しかし今作は碧の性質上、淡々と静かに進むので若干物足りなさを感じたのかもしれません。
三作に繋がりがなく独立していたなら、一穂さんの作品らしさでその静かさが魅力になりましたが…

西口自体は好きなキャラで彼の部分は読んでいて楽しいのですが、碧がこの一本を牽引するには弱いかなあ。
一穂さんが描かれる、大人側として登場するキャラの葛藤や狡さや傷はひじょうに魅力があり共感できます。
しかし今回は碧の雰囲気がまとわりつき過ぎて悪い意味で地味になってしまった気がしました。
チラッと『off you go』の佐伯と静が登場しますが、なんだかそちらに持っていかれた感も(笑

7

ハードルを上げすぎたかな

そろそろ新しい作家さんの作品も読んでみようかなとレビューで高評価だった一穂さんの作品に初めて挑戦してみました。
が、ちょっとがっかりです。
確かに言葉遣いも丁寧で書き込んでいらっしゃるんですが、それが周りくどくて私には合いませんでした。
高評価の作品だから面白いだろうという前提で読み出したからかもしれませんが、なかなか萌にいきつかず疲れて読むのが嫌になりそうでした。
違う作品も読んでみて無理だったら、私には合わない作家さんなんでしょう。

4

料理・ご隠居老人・心理描写が秀逸でした。

『ふきのとう、みそを入れたおにぎり、甘くない玉子焼きと、だしがらの煮干を天日で干してからしょうゆで炒りつけたもの。しょうがをきかせて煮つけた金目鯛。ほうれん草のピーナツ和え。梅酢につけた大根。』
昼ごはんにこんな気の利いたお手製弁当を持って来ている碧(受け)に対して軽くムカついた。
男のくせにこんな手の込んだ料理を作るなんて女子として負けた気がして許せないっ、今すぐ私のところに嫁に来なさい!!←

という話ではなく(笑)
今作でまずこの文章はいいなぁ~と思ったのは料理の記述です。
その書き方がとても素敵なのです。想像しながら読んでいると楽しかったです。

また、もう一つ抜きん出て秀逸だった部分があります。
碧がボランティアで隠居老人の口述小説を書き取ってあげているのですが、
この老人が実は政界とのつながりのある重要人物で、皆が探していたけれど見つけることができなかった伝説の人物であったというお話、この作品の中で一番素晴らしい内容だったと思います。
なぜなら、碧(受け)が速記者であるということ、西口(攻め)が記者であるということ、これらの設定がものすごく活かされている。それと同時にただのおじいさんだと思っていた人が実はすごい人だったという面白みもある。
また、そこに政治的な話が適度に絡み、程良いリアル感があるのが良いです。

他にもリアルさを引き出すためでしょうか、実在の人物名が出てきたのも面白かったです。
超有名な政治家、故・田中角栄さんのことですが、まさかご本人さまもBL小説にお名前が出てくる日が来るとは思わなかったでしょう(笑)

そして毎度のことですが、一穂さんの人物の心理描写や細かな設定は丁寧で読んでいて心地よいです。


が・・・しかーーーし!
受けさんの性格が、とにかく「女の子」を感じてしまう点が私には合わなかったです。あとは「女の子の声」を代弁しているかのような立ち位置。
例えば西口(攻め)が部下の女の子のマツゲが濃いことをからかったのを碧(受け)が「無神経だ!」と怒るシーンなんかもそう。
普通、男同士なら冗談を言い合って流す会話です。そこに突っかかって部下の女の子の味方をして、「女の子の化粧を笑いものにするのは失礼だ!」と怒る碧には正直怒っている意味が分かりませんでした。ここはもう女の子の気持ちの代弁者として碧が語っているような、そんな感じがしました。
他にも碧が西口に「僕とふたりで食事をする時は、三十回噛んでほしいんです」というセリフ。お前はオカンか!(笑)この時点で碧の男の魅力メーターがゼロになりました…。

これってむしろ女の子の気もちを代弁したようなセリフ等、それが良いと感じる人には問題ない部分だと思います。でも私は逆にその部分に引っかかってしまう。

もしこの作品が男女ものの作品であったなら、
西口と碧のやりとりはそんなにおかしく感じなかったなと思います。
むしろ萌えたかも。西口が碧に思わずキスしてしまうシーンも男女ものとして見たらそんなに変に感じませんでした。でもやっぱり男同士だから、あのキスシーンは私には唐突に思えました。

気持が通じ合ってからのHシーンは流れ的には違和感を感じませんでしたが、
しかし最中のセリフに色気がなくて萌えられなかったです。
ここはNLに置き換えてもやっぱり萌える気がしないです…。

こちらの作品も、BLというよりは一般書で読んだらすごく良かった気がする内容でした。
しかもH部分はできれば抜いたほうがいい気がします。
なんとなく、そのほうが素敵な作品になったような気がして。

一穂さんは繊細な心理描写が上手だと思うのです。
心の襞を丁寧に書く技術は「感性」の部分が大きく左右すると思うので、一日二日で習得できるものじゃないと思います。
その点、一穂さんは誰もがすぐに真似のできるようなものじゃない、素晴らしいものをお持ちの人だと、素直に尊敬しています。

でも…うーん。受けさんのキャラが私には合わなかったです。
これで受けがもっと男らしいキャラクターだったら、文章の相性も良いので、神になっていたかも!と思うのです。
あ、ちなみに攻めのキャラのほうはそこまで違和感は感じなかったです。

10

大人しい大人、落ち着いた大人

 国会で議員などの発言を書き留める速記者をしている碧と、新聞記者の西口のお話です。

 判で押したような毎日がずっと続けばいいと願っている碧ですが、碧とは対照的で、明るく、何か人を惹きつける何かを持っている西口と出会うのです。碧は真面目で、自分で家事炊事全般をこなしてしまいます。そして、西口はそんな彼の作った手作り弁当を見てすでに結婚していると勘違いするのです。

 最初は気になって、話すのが嬉しくてなんて、すごく初々しい恋愛模様が繰り広げられるのです。一方、西口側からは、世間すれしていない碧に気を遣うのです。西口は平気で下ネタも言うし、決して紳士ではないかも知れないけれど、彼は懐が深いのです。

 かつて結婚していた西口ですが、妻にいろいろな意味で追いつけないと悟ったりする姿は、物語を超えて、一人の人生を魅せられたような気がしました。西口の妻である沙知子との関係もしっかり描かれているので、西口という人間をいろいろな方向から見られるのです。
 切ないお話で、苦しいほど相手を求めるというほどではないけれど、静かな大人の世界が好きです。

6

この声が聞けて、わたしも嬉しかった。

一穂さんの本はこれが4冊目。
一穂さんの書かれる言葉の数々は、わたしの心を強く掴む。
時々それが強すぎて、深く爪を立てられた跡のように少々の傷になって暫く心から消えていかない。
よかったとか、好きだとか、共感したという気持ちと一緒に、ダメージまで残していく。
この本は、今まで読んだ本の中ではそのダメージが一番少なかった。
なので、一番楽しく読めたと思う。

人の声や話し方、
それは外見よりもその人の印象を左右するほど、実は自分には大事な注目点。
なので物語の冒頭、碧が西口の声に集中している様子はちょっと分かるような気がした。
気になる声、聞いていたい話し方って、確かにある。
そういう面でも、この物語にとても興味を引かれた。
もちろん、国会速記者という仕事にも。

仕事場のテレビで国会中継がかかって、手を動かしながらその議論を聞くことが時々ある。
攻撃的なやり取りが好きではなくて、耳を塞ぎたくなる時もしばしばで、
テレビに映らない、もしくは映っても決して注目はされない、速記者という仕事があるなんて、
いままで考えたこともなかった。
世界が少し広がったようで、単純に嬉しかった。

この本の主要な登場人物の人柄も、皆とても魅力的。
メインのふたりは、どちらも自分に自信が持てないところがあり、
でも相手からしたらそれが素敵だったり羨ましかったり、愛おしさにつながったり。
碧が、大人しそうに見えて、ちゃんとハッキリと時に手厳しく主張をするところとか、
そんな碧を、西口がちゃんと尊重しているところがいいなと思った。
西口のプライドは、きっと男なら普通の事だと思うけれど、
それを自分の弱さと認めているところが、きっと彼の優しさに繋がるのだと思う。
男性として、とても心惹かれる人だと思った。

すみれと西口のやり取り、碧と松田のやり取りも、すごく好きだ。

多分少数派だろうけれど、松田の過去は、あんなにドラマチックじゃなくていいのになぁ、
なんて実は思ってしまったり。
この本は、ごくごく普通にありそうなこと、いそうな人達の描き方が、とてもしっくりきていて、
なんだかそれだけで十分という気がしてしまって。

最後の方で西口によって語られる、碧の声の感じ。
自分がずっと頭で鳴らしていた声と結構近くて、それもとても嬉しかったことのひとつ。


読めてとてもよかったと思う、一冊でした。

9

機械化の波に呑まれて消えていく職業

is in you、off you go、そしてステノグラフィカと三作続けて読みました。
なんか、もうどっぷりこの世界観にハマってしまいました!
一穂ミチ先生の本は他にも何冊も読んでますが、
このシリーズが一番好きです。

私は「国会速記者」という仕事は全く知りませんでした。
国会中継自体、見る事無かったですし。
でも読んでると、なんとなく国会に興味も湧いてくるし、
議事堂にも行ってみたくなる。ほんと、野次馬ですが(笑)
壁のアンモナイトの化石や、郵便ポストの描写の部分とか、すごく好きです。

この本で一番の見所は、もちろん碧のお弁当でしょう。
本当に美味しそう!毎日これだけのお弁当を作ってる碧はすごい。
西口じゃなくても、一度食べてみたくなります。

碧と西口は、議員に無理を言われて困っていた碧に、
西口が助け船を出した事がきっかけで言葉を交わすようになります。
でも本当は、知りあうずっと以前からお互いに意識しあってたんですよね。
碧は、西口のしゃべっている声を聞いて。
西口は、碧のお弁当を食べている姿を見て。

二人が惹かれあいながらも、碧には妻が、西口には元妻がと、
それぞれ愛する人がいると勘違いして一歩を踏み出せずにいる様子は、もどかしいです。
(碧の「妻が居る」説が、訂正出来ぬ間にどんどんドツボにハマっていくのは
可笑しくもありましたが)
碧の「あの日、あなたに見つけてもらえて、どんなに嬉しかったか」
が、なんかすごくいじらしくて切なかったです。

大磯の松田老人、存在感がありました。
西口がすみれの事件の責任を取る事になった時に、碧が松田の前で泣く場面、
松田の懐の大きさを感じました。碧と松田の関係も、すごく好きです。
最後に松田の過去が少し明かされますが、これがまた痛い話でした。
ある意味で本編よりインパクトがあったかも・・・

「off you go」の佐伯と静も登場しますが、
佐伯、さすがです。チョイ役でも相変わらずブラックで(笑)
初対面の碧に「こいつ悪気があって口も悪い」
と紹介されてしまう佐伯は、ある意味大物かもしれません。

三作読み終わると、また最初から読みたくなってしまいます。
無限ループにハマってますね。

11

一穂先生がさらにパワーアップ、しかし濡れ場はいらん

meet,againで「うわ、こんな緻密な描写するBL作家さんいるんだ」と思ったんですが
あいかわらず、文学の香りがする一穂先生。

以前よりもさらに空気感が増した感じだし、
まわりくどさも落ちて自分好みの文体に。

テンポよい会話の応酬に引き込まれた!

そうそう、フト前から気になってたんですけど、
一穂先生て短歌をやってらっしゃるんでしょうかね?
文章のはしばしに短歌に似たリズム感があるのは気のせいでしょうか。

今回の注目はコレ!
主人公、碧(へき)の作る料理の数々。
淡々と料理名を並べるだけで、彼の生活や価値観がにじみ出ている。

なぜかワタクシ、小説の中の料理描写はつい気になってしまうタチなんですが、
どうもこの作品中の料理って、なんだか池波正太郎級のインパクトがあるんですよ。
描写というほど細かい描写はしていないんですが、これだけで相当な説得力がある。

また、唯一の女性キャラ、すみれの描写が非常にいい。
安曇モヨコの「働きマン」的なちょっとした共感が持てます。

しかし…
アレですな
一穂先生、こんだけ書けるのに、
相も変わらずベッドシーンはナニコレ!?レベルなんですけど…。
ラストのセックスシーンで盛大に萎えたよ…。
萌×2にしたのはそこがマイナス。
この流れから言ったら陳腐なセックスシーンいりません!_| ̄|○∠゙ダムダムダム

12

snowblack

あれ?濡れ場なんてありましたっけ?…という位の印象(>o<;)
まー、お約束ってことなんでしょうねぇ。

一穂先生は何かのインタビューで、ご自身も短歌を詠まれるとおっしゃっていました。
時々詠むけれどおそろしく下手です、と言っていらしたような気がする(笑)

食べ物の描写、いいですよね!
女性キャラもいつも魅力的です。

暗号解読

一穂先生の作品は独特の文体(体言止め、修飾語が若干多め)から今まではちょっと避けておりました。
(先生の大ファンの方、申し訳ございません!あくまでも私独自の感想なので許してください)

しかしこの作品、読んでみると…高評価も納得です。

ステノグラフィカは暗号という意味を含むそうです。
国会速記が暗号のようだから、ということと、
「人の本当の想いはまるで暗号のように隠れて見えず、解読して(心を通わせて)初めて理解できるもの」であると、ダブルミーニングを持たせたタイトルではないか、と思います。
顕著に感じたのは皆様も書かれている、あのご老人のくだり。
本編もさることながら、萌え心を多いにくすぐられました。

この一作で一穂ミチファンになりました。

12

可愛らしいお話を読みたい方にはうってつけ

一穂ミチ先生の本はどれも優しい雰囲気で、今回もなんだか
ほっこりした気分になりました。
碧はとにかく大人しくて慎ましやかで可愛らしいです!
西口も優しく甘くてとてもいい中年だったと思います!
それだけではないのですが。
内容は結構出来事がとんとんと進んでいくイメージだったのですが、
一穂ミチ先生独特のゆったりとした空気が漂っていました。
二人がくっつくまでの間はなんだかちょっともどかしいです。
展開もちょっとひやひやしたり。
でも一穂ミチ先生の書くお話は大抵ハッピーエンドなので、安心して読めました。

可愛らしいお話を読みたい方には、うってつけだと思います。

5

穏やかな気持ちになれます

はらはらドキドキなBLにちょっと疲れている時…そんな時におすすめの作品です。

碧は純粋で真っ直ぐで素直で、、その上、家事万能で…本当にいい子なんです。どうしたら今の時代にこんな子が…って思いますよ。

対して西口は、一見すると飄々として軽くて、なのに実はプライドが高くて、煩悩まみれで……
その上、部下から好意を寄せられているのを知りながら、面倒くさいと言ってしまうような男なんです!!
離婚歴があるんですが、なんと元奥さんは副大臣…プライドの高い男ですから、仕事のできる奥さんに過去はそれはもう嫉妬しているんですよ。…本当にダメ男。

……なんですが、碧が困ったときには、スッと助けてくれたり、仕事には本当に一生懸命で、仕事大好きなところとか、憎めないんです。
その上、碧のために元奥さんに頭を下げてくれたりもして……ダメ男なんですけど、芯は通ってるんです。

ある意味対極とも言える二人ですから、お互いに惹かれあうのは必然なのかなと思います。

文章がきれいでゆっくりとした展開なので、静かに物語に引き込まれていく感じが凄く良いです。

激しく萌えるわけではないし、このゆったりとした世界にはこのくらいの方が…と思って、控えめに評価させて頂きました。

5

ラブ控え目。 一穂先生のオヤジは良い!!

受け様(碧)の「国会速記者」という職業ですが、何とも地味なお仕事でして…。
国会議事堂の会議場における発言を 話すのと同じ速度で逐一書き留め、議事録として記録に残す作業をするお仕事。
勿論、発言者の妨げにならぬよう、ひっそりと目立たず、透明人間のような存在でなければいけません。

速記者の心得―
いかなる時にも不偏不党、公正中立であれ―
この職業が、受け様の気質をよく表しています。

国会議事堂の食堂で、いつも見かける攻め様(西口)にずっと憧れていた碧。
自分とは真逆の、明るく人好きのする見映えの良い男。

ある日、碧が思い上がった新人議員に絡まれている所を 西口が助けた事から二人の交流が始まります。

実はこの西口ですが、そんなにカッコイイ・オヤジではありません。
自分より仕事が出来る妻に嫉妬して離婚された過去あり。
想いを寄せられた部下の気持ちを上手くかわせず、その部下のしでかした不始末によって異動の危機に!
まぁはっきり言って情けない男です。
脇キャラの女性達がカッコイイから、余計にそう思うのかな?
でもそんな不器用なオヤジ……好きかも!?

物語の序盤から登場している松田老人、この方は後々 話のキーマンになると予想しておりましたが…。
(ウフフッ)
議事堂見学に来た一般来場者で、碧の手作り弁当が縁で親しくなり、今は老人が趣味で書いている小説の手伝いをしている、という関係なのですが…実はこの老人は…!?。

ここは読んでみてからのお楽しみ、という事で。
作中でも謎解きのようになっておりますので、御自身でじっくり堪能して下さい(←焦らしプレイ?)
この老人の話で一本書いちゃって下さい!!、と叫びたくなりますからっっっ!

BLラブラブパワーにお疲れの気味な、そこのアナタ!!にお勧め。
ラブ度控え目なのが、逆に良い!
ラブ以外で十分楽しめる作品だと思いました。
(^O^)

8

相変わらず文章が好みです。

久し振りに一穂先生のを読みました。
前関連作は未読です。
タイトル、意味分からないけどカッコイイです。
一穂先生の、ちょっとした仕草や背景や音が、読者の頭にちゃんと広がってくる文章が好きなんです。
本作もちゃんと一穂節だなと安心して読みました^^

44才×26才で、政治部記者×衆議院記録係です。
西口、仕事に前向きで部下に頼られ、あちこちにソツなく顔の利く人。
碧、炊事も生理整頓も家事全般プロ、裏方の仕事にプライドを持っていて、静謐で1本筋がある人。
観音様かヤマトナデシコか。
もちろん、内面の隠したい部分もちゃんとあってキャラも良いんですよ~
西口からの何にでも過敏になる碧や、恋心をパッチンと自覚して動揺?したり、意見がかみ合わないところとか、好きな文章や場面があって、青石先生のイラストもよく合っていると思います。

だけど、少し気になった事があります。
それぞれの不安や自己嫌悪も、相手の好きな部分ヘタレ部分も、仕事柄でも、2人の違い「真反対な自分とあの人」が、最初から最後までハッキリとまたは暈してずっと紙面に載っていたことです。
違う人の差は当たり前なのに、又言っている未だ言っているって、ちょっと飽きちゃった。
それと、読み終えた時、西口を慕っていた部下の女の子や元妻、碧の知り合いの爺さん達が目立って、BLカプが掠れちゃったような気がします・・・;

大好きな一穂小説は、萌え2以上ばかりです。
自分でもちょっとビックリの「萌え」で、すみませんです。
あっ!3段目の感想は自分だけかも知れないです!
一穂先生らしい大人同士のマジメなBLでした!

5

一昔前の花形職業ですねぇ~

今回は国会内が舞台のお話、でも直接政治とは関係ない裏方的な仕事のお話ですね。
一昔前は速記の習い事が流行った時期がある程人気の職業だった覚えがある速記者。
今でも通信講座でやっているのでしょうかね?なんだか懐かしく感じてしまいました。

今回の受け様はそんな職種の国会速記者、まさに目立たず黒子と称した職種ですね。
そして攻め様が政治部記者で、年の差カップルの恋愛ものでもあります。
二人の恋愛はもちろんですが、主役二人の仕事内容も丁寧に描かれているのでホント
飽きのこない内容構成ですよね。
この作家さんの細やかな描写にはいつも感心させられることが多いです。
淡々と派手さがない内容なのに小さな事柄の日常が違和感なく積み重なっていて
読み進める程に味わいが出てくる気がします。

いつから互いに気になる存在になったのか、いつから気持ちが恋になっていたのか。
あまりに自然な流れで進んでいくので、人と人の出会いって素敵だな、って思うのです。
激しい恋愛の駆け引きが無いのに、素敵な大人の恋をしてるって純粋に感じる。
シリアスな設定なのに、人の温かさが感じられてほっこりしてしまうのです。
ホントに、人の心情描写をさせるのが抜群な作家さんですよね。

7

碧のお弁当~

一穂さんの描く年の差カップルが結構すきです。
シュガーギルドもそう。
職業や仕事の描写がかなりリアルできちんと描かれているところや独特な表現の上手さにいつも脱帽です。
しかも今回は主人公碧の作るお弁当ったら!
本人は至って普通のどこにでもある珍しくもない弁当と謙遜していますが、主婦歴だけは無駄に長い私にとってはもう、参りました〜って感じです。
家事も淡々とソツなくこなして、それが全く当たり前で特別なことと思っておらず、全てにおいて几帳面に丁寧に日々を過ごしている、しかも謙虚に。
西口じゃないけど、どうしたら今どきこんな青年が育つんでしょうね。
碧の作る料理は、まるで本人を表すように派手さは無いけど、文字で読むだけでもおいしさが伝わってくるようでした。地味な作業にも愛着を持って手を抜かず丁寧に仕上げてゆく。こんなところも目立つことが好きではない碧の人柄を上手く表しているなと感心します。
西口がうんと年下の碧に安らぎと愛しさを感じ、時に甘えたり、鼻の下を伸ばして締りのない顔をしてるところがかわいいな、と。
つい二人の幸せを祈ってしまいました。
続きのお話をまた書いて欲しいです。

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恋愛も、恋愛以外も

明光新聞シリーズ第3弾。
off you goにちょっと出て来た領収書が杜撰な、でも実は意外に鋭くって良時を悶えさせちゃった政治部の西口が主役です。
お相手は消え行く職業とも言える速記者、碧。
こういうなかなか珍しくて興味をそそられる職業と、それに生きる人を味わい深く描くのも一穂先生の魅力です。

とても賢くて実は強くてでも影のように淡々と生きている碧が、西口に「見つけて貰えた」喜び。
ヴァイタリティーがあって社交的で記者としても有能な西口が実は秘めていた鬱屈した思いが、碧に出会ってもう一度真っすぐに解放されていく…
本物の議会や新聞記事を想像しながら職業話として楽しみつつ、カッコいい老人やリアルな魅力の女性も絡みながら、二人が少しずつ心を寄り添わせていく様を、暖かな気分で味わえる話でした。
18も年上の西口が、碧に甘えている様も可愛らしい。

個人的には主人公二人の恋模様以上に、「いいやつとよくないやつがニコイチになってる」スーパー脇役の二人と会えただけで読んだ甲斐がありました!
ということで、is in you、off you goの前2作を読んでいなくても楽しめるとは思うのですが、多分読んでいるともっともっと楽しめると思いますので、未読の方は是非合わせてどうぞ。

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acop

snowblack さま
コメントありがとうございます!
レビュー未熟者ゆえ、どのようにレスしたらいいかわからずウロウロしておりました(^_^;)
なんと記念すべき初レビュー作がこれだったのですね!
『影』の碧が西口に見つけてもらえた喜びを私も噛みしめながら読みました。
off you goのふたり、いい味出してましたね。相変わらず口の悪い佐伯、冷静に事実を伝えて碧を父親みたいに諭す静。
実は私、is in youをこのシリーズの中で最後に読んだんですよ。順番でいうと違うのかもしれないけど、自分の中でちょっとイメージ悪かった佐伯が負けちゃう(?)のを最後に読んだので、どのキャラに対してもマイナスの気持ちにならずにすべてを読み終えられました。
そのシリーズ中でも、このステノグラフィカは1番好きな作品で、何度も読み返したくらいなのでそのレビューにコメントいただけてとても嬉しかったです!!!!

yoshiaki

snowblackさま

コメントありがとうございます。
碧が西口に30回噛めと言ったり、頑なに自分で服を脱ごうとしたり(西口は脱がすのが楽しいと言ってるのにw)という部分でちょっとイラッときたのですが、同人誌では結構いい味出しているんですね。
どちらにしろ、西口には、もう碧はまるごと可愛くて可愛くてしかたないんでしょうけれど(笑)
松田老人の若き日の話も、ぜひ読んでみたいと思います。ご紹介いただき、ありがとうございました。

真逆の二人だからこそ

…どうしてこう、ミチさんの文章は私の心を捉えて離さないのでしょうか…。
どうやって敬意を表して良いのかわかりません。

年の差ラブ、と言ってしまえばそれまでかもしれないんですが、
この度も素晴らしい心情の描写の嵐!!!

大体にして、速記者を主人公にするあたりから凄いですよ!
色々勉強なさったでしょうね…。
頭が下がる思いになってしまいます。
正直、私は頭が悪いので国会や政治の事はちんぷんかんぷんですが、
それなりにわかりやすく説明して下さっていますし、
やっぱり(当然でしょうけど)様々な人の感情が行き交う場所なんだなぁと。

誰にも気に留められず、ひっそりとただ毎日職務を遂行していて、
家事一般をそつなくこなし、
感情の起伏にも恋愛にも縁が無い碧。

反対に、誰にも愛想が良く、
下ネタを他人と話しても下品さを感じさせず、
若者を盛り上げつつ、仕事にも全力な西口。

碧が西口の声と話し方と食べ方がずっと気になっていたというのも萌で、
話すきっかけになったトラブルで、
西口に庇ってもらったにも関わらず
素直にすぐ感謝の気持ちを伝えられないで悩むところも萌!!
序盤からぐぐぐいぃぃぃと掴まれました。
碧の手作り弁当を奥さんの愛妻弁当と勘違いしてっていうのも
後々引きずるんですが、これがまたいいわけですよw

年上の西口が、大人らしいスマートさを見せたかと思えば
子供みたいな面をさらけ出したりして、
これで好きにならないわけないって!!っていう。
別れた奥さんの事も、同僚の想いを寄せてくれている女性に対しても
西口なりの誠実さで関係していて、
本音を吐露する時にはわざと茶化したり…。
そして、別れた奥さんに仕事でも、人間としても負けたと
敗北感に打ちのめされた過去があり、
それを碧には話してしまいます。
好きすぎる、こんなおっさん!(そんなにおっさんぽくなかったけども)
愛しくてかなわんのです。

碧は近年の若者には滅多にいないような
真面目でまっすぐで…。
いつも、簡単とは言いながら
きっちり食材を使いこなして食事を作る自分が
男として恥ずかしい気がしてくる可愛らしさがいい!
コンプレックスに思う事ないじゃんか!
むしろ凄い事なんだよ、碧!

ちょっとした諍いがありながらも、
助け助けられの種明かしが、とにかくずっしり来ました。
それぞれの人間関係が、二人をそのまま象徴しているようでした。
心が温かくなって、涙ぐんでしまいましたよ。


そんな二人が愛を確かめ合うシーン、
西口がここで少しおやじっぽくて良かったです!
そうこなくちゃーw
頑なな受けが恥じらいながらも感じて乱れていく姿は
これこそBLの醍醐味!!みたいな気さえします。
敬語もいいし♪

『off you go』の佐伯は本当に口が悪くて、
実は私ちょっと苦手なんですけどもw
でも今回は良いスパイスになってくれました。
静はパートナーですごいなというかw
全部込みで愛しているんですけどね。

そしてこのシリーズの挿絵、青石ももこさん、
ミチさんもあとがきでおっしゃっていましたが、
「ちょっと体温の低そうな男の人」がたまらんです!

更にミチさんのブログのSS『ハートグラフィカ』
本編読後に是非是非!!
短いのに悶えるー!!ぐあー!!
ささいな、同じ様な事考えても
こっそり思うだけで口に出さない大人の男二人。
もう、勘弁して…。
(嘘です!もっともっと読みたいです!!)





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バツイチ大人を落とすには

「off you go」の関連作。
「off you go」の二人は、この作品の主人公である西口と、新聞社に同期入社した仲間。
「同期入社」は重要なキーワードですが、ストーリー的には「off you go」を読んでなくても特に問題はなさそう(って言うか、私自身がoff you go読んでないけど、、)

お話の舞台は国会議事堂。
ひっそりとした黒子のような仕事、国会速記者の碧と
グイグイと突っ走るエネルギッシュな仕事、新聞記者の西口。
二人が議事堂内の昼食時の食堂で隣り合ううちに、碧は西口にの声に惹かれるようになります。
ある日、碧の手作り弁当をきっかけに二人は言葉を交わすようになり、、、。

「国会速記者」って言う、地味で遠くない将来に消えてゆくだろう仕事。
その仕事に誇りを持って、ひとりで坦々と、きちんと生活している碧。
こんな主人公を持ってくる一穂さんって!
そして、そんな碧が、ちゃんと恋愛をして、成就させる。
甘い結末がうれしい作品でした。


7

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