• 電子書籍【PR】
  • 紙書籍【PR】

表題作キーリングロック

(仮)唯,フリーター
(仮)十識,小説家

その他の収録作品

  • 番外編/描き下ろし/あとがき

あらすじ

フリーターの唯は、ボロボロの状態で道に落ちている男を見つけた。不思議な魅力を持つ男・十識を放っておけない唯は、彼を家まで送り届ける。十識に振り回されつつ、彼を受け入れる唯だったが、朝起きるとドアの外側から鍵をかけられていた。「俺、監禁が趣味なの」と微笑む十識。これは監禁か、それとも…。日常と非日常の狭間で揺れ動くセンシティブ・ラブ!

作品情報

作品名
キーリングロック
著者
ymz 
媒体
漫画(コミック)
出版社
講談社
レーベル
ハニーミルクコミックス
発売日
ISBN
9784063650327
4.2

(79)

(42)

萌々

(16)

(18)

中立

(3)

趣味じゃない

(0)

レビュー数
14
得点
331
評価数
79
平均
4.2 / 5
神率
53.2%

レビュー投稿数14

柔らかな檻の中で

「俺、監禁が趣味なの」

儚げなカバーイラストにミスマッチな強烈な2文字に、これはいったいどんなお話なんだ?と興味がわいてしまう。
ページをめくるとそこには、小説家の十識の部屋という舞台の中で繰り広げられる、ひょんなことから出逢った2人の静かで、柔らかで、奇妙で優しい不思議な物語が広がっていました。
ymz先生のタッチと話運びがそうさせるのか、漫画だけれど文学的というか、彩度が低めの短編映画のような雰囲気があります。

このお話はボーイズラブなのか?というと、ラブなのかどうなのかもわからないというのが正直なところ。
ですが、さらさらと描かれるどこか低温で淡々とした2人の日々をよくわからないままの感情で読み進めていると、なぜかいつの間にかこの2人のことを好ましく思っている自分がいるのです。
決して爽やかではない。かといってとびきり明るくもない。
登場人物達のバックボーンが分かるヒントのちいさな欠片がほんの少しずつ散りばめられながら、緩やかに続く「監禁」生活が描かれています。
名前が付けられない奇妙な関係性が妙に心地良く、読後感も悪くない優しいお話でした。
萌え・萌えないでは括れないかもしれません。私は好みでした。

監禁というワードに惹かれて購入すると好みが分かれそうかなと思いますが、物語の全てをわかりやすく説明しない、淡く滲んだ水彩絵の具のような曖昧さや余白を楽しみたい方にはおすすめのお話です。

0

監禁、、?

監禁と聞いていたので見てみたら1ページ目から優しい話だと理解しました

過去に囚われて似てるふたりが出会った話ですね。エロ要素は皆無です、かといってピュアという訳でもなく、BLと言うよりかは、人との繋がりだとか、道徳のようなものを書いてると個人的に思いました。恋や愛という言葉はこの作品には合わない気がしました

個人的に十識の監禁をする理由が全く理解できなくて、過去がはっきり書いてあるわけじゃなかったので、感情輸入出来ませんでした

作品の流れとしては良かったです。また何か温かい気持ちになりました

0

奇妙な

分かりやすくかつ柔らかくなった「さよなら、ヘロン」だな、という気がしました。分かりやすくなっているかは微妙か。読みやすくなったというのが正しいか。

先生の作品の中でこの作品が最も剥き出しに先生の描くものの一貫した何かを表現しているように思えます。勝手な感想です。
よくよく考えたらボーイズでもラブでもないかもしれないな。実際、他の作品もそんな雰囲気のときあるからな。必ずしも性愛がその面白さに必要ないBL漫画が好きなので、自分はこちらも好きです。

0

過去からお互いに一歩ずつ。

読み終わって、温かい気持ちになりました。
監禁、とは言っても「暴力・命令なし、衣食住付き、欲しいものも大体買って貰える、ただ家から出られない」だけ。嫌なら出て行ける。
そう言われて特に躊躇するでも無く、まあいいよと受け入れてしまう唯。何でそんなに適当に生きているのか。
小説家で、監禁が趣味で、でも人恋しいからではなくて、むしろ他人がいる事で心に負担がかかってしょうがない十識。なのになぜ?

この二人の過去が気になりつつ物語は淡々と進むのですが、唯のピアスを巡って二人の生活が大きく動きます。

二人とも過去に大きな消失を抱えていて、その二人が過去の後悔を乗り越えて、ほんの少しずつですが、お互いに手を伸ばすことで前に進んで行く様子がとても愛おしいです。

十識の過去については、誰にでも多かれ少なかれそういった経験は有りそう、と思ってしまう程度にしか描かれていないのですが、その点についても家出少女の心ちゃんの言葉通り、経験で一括りにされて決めつけられるものでは無いのだなあ、と。
その時何を感じてどれだけ辛かったかなんて他人に決められるものではないんだなあ、とハッとさせられました。(でも十識、マンションから飛び降りてるんだから相当辛かったはずなんですけどね、描写だけではそんなに?と思っちゃう、現実のいじめとかでも一括りにしちゃダメなんだなあと)

番外編と描き下ろしで、二人の生活が見られて良かった。
手探りで、でも互いに思い合っているのが微笑ましいです。
そしてここでもピアス。
ああー、そうなりましたか!なるほど、上手い!
二人のはにかんだ笑顔を見て私も幸せな気持ちになりました。

恋愛的な描写は有りませんが、それよりも心の底から求め合う様な、二人の関係が素敵なお話しです。

1

一度経験した者は強い

 嫌ならいつでも出ていくことが可能な、特殊な監禁状態に置かれた唯。仕事や家事をさせられるでも、性的なことを求められるでもなく、ただ家にいればいいだけ。それを強いる十識というキャラクターが一体どんな人生を歩んできて、今何を考えているのか、唯も読者もそこが気になるんですよね。一方で、自分だけが仲の良かった親友を失ってしまった過去を持つ唯。今度こそ、大切な誰かに寄り添い続けたい、手を放したくないという気持ちは誰よりも強くて、その折れなさには十識も驚くほど。他人を巻き込んで試すような生活を送っていた十識が、初めて誰かから一緒にいたいと思ってもらえることを知る。愛とか恋にまで発展はしなくとも、今の2人にはこれで十分なのだと思えました。題材に似合わず、心のあったかくなるような作品でした。

0

軟禁なんだな。

ymz先生ならではのお話です。

不思議な設定を受け入れられるかどうかが、好みの分かれ目かな、と思います。
私は、最近ymz先生作品を一気読みしてまして。こちらは、順不同の最後に読みました。

作画はラフ。だけど好きです。柔らかな光も、冷たい光も両方読み取れる。いつも、光と影の使い方が上手いな~と感動しながら読んでしまいます。

さて、キーリングロック。監禁ですが、うーん、軟禁くらいですよ。出ようと思えば出れちゃう。なのに、監禁した男、十識の世界に紛れ込んでいるような。監禁された男の唯も、相当面白いなぁと思います。
住むところ食べること寝床が保障されている十識の部屋。別に、暴力なし。セックスなし。

話は大半室内と過去の2人。
なんと云うか、この2人の出会いは多分必然だったのでしょう。過去の2人の後悔と、満たされない気持ち。ひとつひとつ解して、恐る恐る近くなる、で、互いを必要だと思う関係になるまで。

十識も、唯も変わっているんです。だからこそ、世間とズレもあったのでしょう。だけどズレも一周すると、符合するんだな…そんな不思議な気持ちになる読後感です。

舞台上の少人数の劇をみた気分です。
ymz先生作品は、なんだかんだ追っちゃいます、私は。

5

一般文学

読んでいる途中も読み終わった後も、ずっと独特の雰囲気と余韻を味わいました。
ラブな物語というよりも、一般文学を読んでいるような感覚になります。

深いようにみえて、そこまでではない。
はっきりと言葉を選ばずに言えば、寂しがり屋とお人よしのお話だと感じました。
おそらく、ymz先生の絵柄から醸し出される雰囲気が、深く見せているのだなあと。

彼らの過去だったり、微監禁だったり、いろいろな要素があり物語としては楽しめました。
行間を妄想するのが得意な人にはおすすめだと思います。

0

キーリングロック

心があたたまる作品でした。
何度も読み返してしまうし、その度に心がぎゅっとなります。

0

いわゆる監禁物とは違う

うーん、きっと深い意味があるはず。だけどたどり着けず。

唯と十識、お互いに与えたり相手で埋めたり。

唯は亡くした友達のこともあって十識を知るにつれほっておけなくなって、側にいて一緒に希望を見つけたくて。

十識は過去とは性格が変わって誰でも話せるようになりましたね。でも自分を拒むなら出て行けって。
きっとそこにも深い意味があるはず。
もう唯がかけがえのない存在になりましたね。

唯が無くしたピアスをそこまで探させるのも愛情?

最初は監禁が趣味だって唯が閉じ込められて冷やっとしましたが、唯が平気で快適そうであれ?監禁の緊張感がないと思いましたがなかなかハートフルなお話でした。

0

エロなし以前に、エロ度すらないけど

BLコミックにエロは絶対必要かって言われると、エロなし、ストーリー重視のコミックもいいよねって答えるんだけど、BLのボーイズの「ラブ」をどの位の範囲まで言うのかとなると、またそれはそれで、、、
そんな気持ちにさせる、監禁?から始まる「日常と非日常の狭間で揺れ動くセンシティブ・ラブ!」
「監禁」、、、、
この言葉、プレイのワードだと、このお話では騙された!ってなる。
でも、この作品にとっては、「監禁」は違う意味で、重要な意味がある。
そこに閉じ込められているのは、誰で、誰の何?
そんな、監禁と解放のお話で、結末としては二人の関係は何となくほっこり続く、みたいな、いい感じでまとまってるのだけど、そもそも、この二人の間には恋愛感情があるのかって、読了後にふと我に返ってしまったので、萌のありなしで言ったら、ちょっと物足りなかったかな。

1

キーリングロック

男の子たちの恋愛ではなく、その根底にあるような人と人とのつながりを描いているように感じました。

「十識」って名前、なんだかとても素敵ですね。
終盤に彼が人を監禁するに至った経緯…というか彼の過去が明かされるのですが、一回目の読了時にはいまいちピンときませんでした。特別インパクトのある過去ではなかったからかもしれない。むしろ多くの人が共感できるのでは、とも思えます。

けれど繰り返し読んでみると、序盤での心ちゃんの言葉がじわじわと刺さります。(このときの彼女の淡々とした表情がまた良いのです)
ほんの少し思ってしまった十識の過去に対しての「そんなことで?」という思いは、彼女の言葉に帰結していきました。インパクトがある必要はなかったんですね。

唯くんのプロポーズ(?)も素敵。ぜひ読んでほしいです。そのほか、キャラクターたちのふとした表情(むっとしていたり驚いていたり)などがとても魅力的です。

ちょっぴり話がそれますが、こういう作品こそ音声化されてほしいなあと個人的には思います。
エロエロないわゆる “ボーイズラブ” を否定したいのではなく、耳でもこの作品を感じてみたいなあ…と。役者さん方の力が試される…!みたいな。(何様)

十識と唯くんには「一生やってろ」な関係をこれからも続けていってほしいです。




6

優しい、優しい話

淡々としたお話なんですが、読み終わった後しばらく動悸が治まらなかった…
電子で買った事を本気で後悔した一冊。。
紙媒体での買い直しを本気で悩んでます_:(´ ཀ`」 ∠):_


この物語自体が、十織が書く
ひとの現在も過去も許すようなやさしい話でした。

皆それぞれ傷を抱えて、病み方もそれぞれで、だからこそ寄り添う事の難しさや、理解する事の難しさがある中で、誰かの中に自分の居場所を望む事が出来るという事の奇跡がとても美しかったなぁ。

自分の心に負担をかけて、物語を紡いできた十織が、穏やかな幸福の中であたらしい話を書けるようになって本当に良かった。

2

ゆっくりと未来へ。

今年3冊目ですね!
セカンドコミック以降なかなか新刊が出なくて飢えていましたが、あれよあれよでもう通算5冊目のコミックです╰(*´︶`*)╯

ほっこりと心があったまるようなお話が続いていましたが、今回は暗め。
デビューコミック「さよなら、ヘロン」寄りの低温で寂しげな空気感を纏ったお話でした。
率直な感想をちょっと先に書いてしまうと、今作はストーリー自体はやっぱりすごく“ymzさん!”って感じで好みなんですが、全体的にやや描き足りていない感じがしました。
コミック化用に描き下ろされた部分が私は結構すごく重要なエピソードだと思うのですが、これもやっぱりちょっと解りにくくて、結果的に最後までずっともやーんと感が続いてしまったなーと。
だけど不器用ながらも頑張って進もうとしているこの2人のことはとても愛おしくなります。

タイトルの「キーリングロック」ってどういう意味なんだろうな〜?
最初「監禁」の英語なのかなって思ってたんですけど調べても出てこないし、これもいつもの如くymz語なのかなぁ?
ってなると、このタイトルをじーっと眺めていてイメージとして私の頭の中に浮かぶのは、「自分で自分に鍵をかけて閉じ込めてる」十識と唯の姿。
そしてこの2人が閉じ込めているものが、十識の【鍵】と、唯の【ピアス】に象徴されているのかな。
以下、ちょっとネタバレ気味なので注意して読んでください。



十識も唯も過去にとらわれたまま体だけ成長しちゃった大人になれていないアダルトチルドレンです。
だから上に書いた「自分で自分に鍵をかけて閉じ込めてる」っていうのはインナーチャイルド的なイメージ。

唯は人に合わせるのが苦手で気づいたら独りになってた。
十識は人に嫌われるのが怖くて人の顔色ばかり気にしてたら独りになってた。
唯には1人だけ気を許せる友人がいたけど、その友人は唯の耳たぶにピアスだけ残して死んでしまった。
十識にはそんな1人すらもいなかった。
十識の監禁願望は他人との寄り添い方が分からない故のものなのだろう。
だから自分を受け入れてくれた1人(この場合、唯)に100%を求めてしまう。唯の耳のピアスが許せなかったのはそういうことだろうと思う。
だけど唯の立場からしたらあのピアスは簡単に外せるものでもないって思う。唯が作中で言う「俺に穴を開けた友人は」の“穴”とはピアルホールだけでなく風穴の意味も含まれているだろうから。

「さよなら、ヘロン」もそうだったけど、どちらか片方が先に少しだけ踏み出すんですよね。
今回は唯でした。
描き下ろしで唯がピアスホールの片側だけを十識のために空けてあげるんです。
両耳とも外すわけではなく片側だけ。一気に全部はまだ無理だけど片方なら。このゆっくり感が逆にいいリアルさでグッときました。
でも主導は唯にあるけど、十識もやっぱり変化してるかな。
自分の買ったピアスを渡して、代わりにこれを付けてよって言えるようになったのだし。
空いたところに恐る恐るではあるけど自分から入っていく術を知ったという感じなのかな。
十識の【鍵】と唯の【ピアス】が机に置かれているエンドマーク後の一コマがニクい。
ここで一気にぐわぁぁぁと溢れてしまったなぁ。

私はもう片っぽのピアスは付けたままでもいいと思うな。
そういう生き方だって全然悪くないと私は思います。

【電子】レンタ版:修正-、カバー下なし、裏表紙なし、レンタ限定特典(1p)付き

1

みみみ。

>カミラさま
コメントありがとうございます。

アダルトチルドレンについては私の理解もその通りですので、コメントの意味をうまく飲み込めないでおりますが・・・何かしら私の文章にカミラさまに誤解を与えてしまうものがあったのだと思いますので精進いたします。

カミラ

コメント失礼します…

アダルトチルドレンて、言葉の響きから『大人になれない子供』というイメージが確かにあるんですが、本来は機能不全家庭で育った子供が心的外傷を抱えたままの状態で大人になっている事を現しています。
私自身、ACで、でもこの話にはすごく救われました。

ただ、アダルトチルドレンに関して正しく理解して欲しいという思いが強くてこの場を借りてコメントさせて頂きました。
突然のコメント失礼しました。

閉じていたもの


フリーターでその日暮らしをしていた唯(ゆい)はある雪の夜、道端で一人蹲っていた男、十識(としき)を家まで送り届ける。
帰ろうとする唯だが、十識に強引に引き止められ、気付けば朝まで酔い潰れてしまう羽目に。
今度こそはと唯は家を出ようとするが、外へ出るための扉には固く鍵がかけられ、背後には嬉しそうに笑う十識。
「俺、監禁が趣味なの」
それは他人をこの家に閉じ込めようとしてきた、十識のおかしな趣味。
家から出られない代わりにここでは好きなように過ごしていい。
食事も寝床も確保された魅力的な生活に唯は一も二もなく承諾し、二人の奇妙な共同生活の幕が上がった。

真っ白な装丁の表と裏に空いた鍵穴のような丸い円。
そのなかに浮かぶ二人の人物が今回の主人公、十識(表)と唯(裏)です。

小説家だという十識はどこか掴みどころのない人物で、出会ったばかりの唯にも遠慮なく抱きついたり触れてきたり。けれど時折垣間見える、彼のなかの心の傷痕。
初めて出会った時のような、一人静かに閉じこもっていく危ういその姿に、唯は心の内で十識を放っておいてはいけないと感じます。
唯の方はずっとあてのない生活を送っており、色んなことにいい加減。こだわりや執着もあまりない希薄な人物です。
そんな唯にはかつて、ふとしたことで親しくなった友人(同級生)を喪った経験がありました。
最後に話した時、普段は強がっていた友人が漏らした心の叫び。
あの時、友人の言葉をもっとちゃんと拾ってやれていたら、あんな結末ではなく、何かが違っていたのでは……。
友人が空けてくれた両耳のピアスの穴。塞がらないようにそれ埋めてくれるピアスは死んだ友人と唯を繋ぐ大事なものでした。
しかし十識から突然、それを捨てられないなら出て行ってくれと言い渡されてしまいます。
どちらも選択できずに戸惑う唯を置いて、十識は黙って家を出て行きます。
外へと続く扉の鍵は開けたまま。
誰もいない家で一人きりなった唯は、自分が十識との生活を大切に思っていたことに改めて気が付きます。
自分たちの出会いを、この頼りない繋がりを、いつか「会えて良かった」と思えるようなものにしたい。
何事にも希薄であった唯は、今まで望むことのなかった未来を思い描くようになります。

別々の孤独を歩んできた唯と十識ですが、物語の軸となるのは十識の抱え続ける憂いです。
小さな頃からずっとずっと一人きりでいた十識。ひどく臆病で不器用な子どもだった十識は、友だちや家族との触れあい方も知らず、誰からも温もりも得られず、自分が居る意味なんてないのだと本気で思っていた。
そうして孤独のまま大人になった十識は、自分の存在を受け止めてくれる誰かがやって来ることを望んできました。
それは身勝手で、我が儘で、絵空事のような願い。
やろうと思えば、自分自身で孤独の世界から飛び出すことだってできたかもしれない。
その鍵(可能性)はいつだって十識の手のなかにあった。
しかし十識は自らの世界に閉じこもることしかできませんでした。
鍵の束を握りしめ、誰かの訪れによって扉が開かれることだけを頼りに生きてきた。
十識自身、自分がどうしようもない人間だとわかっている。
それでも、こんな自分の姿を知っても尚、それでもいいと、手を差し伸べてくれる誰かが現れるのを待ち続けていました。
幼いころから空いては広がり続ける深い孤独。穴だらけの心を、傷だらけの過去を、まるごと満たして掬いあげてくれるような、そんな誰かを。
そして、唯との出会いにより、十識の願いは叶うことになります。
けれども、自分を受け入れてくれることばかりを必死に望んできた十識には、扉の先の世界(未来)を思い描くことができません。
自分が本当に欲しかったものは、ずっと望んできたものは果たして何だったのか。
途方に暮れる十識の傍で、唯はある言葉をかけます。
それは閉じた世界から出て、新たな生き方へ進むための鍵。
二人が「ともに暮らす」ための小さな一歩でした。

今作は少し短めのお話ではありますが、唯、十識の人物像が物語にとてもよく染み込んでおり、物語の終幕には二人の言葉が優しく胸を伝ってきました。
人のもつ様々な心情を細やかに掬いあげるymzさんの今作もまた、素敵な仕上がりとなっております。

ただ同じ場所に居るだけではともに「暮らす」とはいえないでしょう。
少しずつでもいい、お互いの孤独が交わるように、悲しみも、喜びも、傷痕も、時間も、同じ屋根の下で、同じ食事をして、分かち合えたら、支え合えたら、笑い合えたら、それはありふれた、けれどかけがえのない「暮らし」となるのではないでしょうか。
二人分の孤独がひとつに溶けあうとき、描き下ろしの二人の部屋は柔らかな風が吹き込み、優しい温もりを感じました。

7

この作品が収納されている本棚

マンスリーレビューランキング(コミック)一覧を見る>>

PAGE TOP