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表題作夜啼鶯は愛を紡ぐ

エリアス,36歳~46歳,凛を見い出した貴族で実業家、
与那覇凛,19歳~30歳,オペラ歌手を目指す留学生

その他の収録作品

  • あとがき

あらすじ

不器用な男たちの十年純愛

オペラ歌手を目指して海外留学した与那覇凛は、
己の才能に絶望した時にエリアスと出会う。

貴族で実業家の彼は
凛を一流のアーティストにし、2人は恋人となる。

独特の倫理観を持つエリアスには
恋人が複数いて、同性の伴侶までいる。

自分だけを愛してほしいが口にできない凛は、
歌えなくなったらエリアスに捨てられると思い込み……。

不器用な男たちが繰り広げる十年に渡る純愛!!

作品情報

作品名
夜啼鶯は愛を紡ぐ
著者
小中大豆 
イラスト
yoco 
媒体
小説
出版社
プランタン出版
レーベル
プラチナ文庫
発売日
ISBN
9784829626504
4

(155)

(85)

萌々

(37)

(10)

中立

(5)

趣味じゃない

(18)

レビュー数
22
得点
608
評価数
155
平均
4 / 5
神率
54.8%

レビュー投稿数22

愛を知らない攻めへの歌

読み終えてからタイトルを読み返して、鳥肌が立ちました。
この物語は、ナイチンゲール(受け)が、愛を知らない攻めに愛を教えるために歌うお話です。

舞台は、A国と書かれていますが、イタリアやフランスでしょうか。英語が公用語ではないようです。
はじめに攻めのことを受けがマフィアと勘違いしたと書かれているので、そのあたりの国かなあとほんのり思いながら読みました。

オペラ歌手を目指す受けが、その才能が無いと周りに言われ大学を飛び出した夜、攻めに出会います。
男娼と間違われてホテルまで連れられて行きますが、そこで披露した歌声に興味を持たれ、歌手としてデビューさせられるお話です。

攻めの財力やコネクションであっという間にトップ歌手まで上り詰め、名声や財産を手にしますが、攻めの愛だけが手に入らずに受けを苦しめます。
攻めの恋人の地位は得たものの、攻めには他にパートナーや恋人がいて、攻めの唯一にはなれません。

読んでいる最中、本当に攻めが憎らしく思えて、受けちゃんを苦しめるな!と殴りたくなりました。
受けのマネージャーである友人が理解者だったのがたったひとつの救いです。

こんな攻め、見限ってしまえと思いましたが、そこは小中先生。ちゃんと攻めに罰を、受けに救いを与えてくれます。
終盤の、攻めザマァ!な展開にこれほど喜んだのは久しいことです。
攻めの愛が大きければ大きいほど良いと思っている私ですが、この攻めは終盤までほとんど一途な愛を感じることがありませんでした。
ふつふつと湧く怒りを昇華させてくれた小中先生、ありがとうございます。とってもスッキリです(笑)
尚且つ、攻めが愛を自覚してからの受けへのセリフが甘くて苦しくて重くて……!
こんなに人を愛せるんだったら、なぜ初めからそうしなかったのかと、お尻を引っ叩いてやりたいくらいです。

充分に反省した攻めが、これからどれだけ受けに尽くしてくれるのか。それが楽しみでなりません。あわよくば、その後の2人を読みたいです。
頑張り屋で溜め込みがちな受けを、一途な愛で甘やかしてあげてほしいです。

3

切ないけど美しい話でした。

幼い頃にローエングリンの白鳥の騎士に憧れて、歌手を目指している凛という日本人音大生(受)が、進路に行き詰まっていると きに偶然エリアス(攻)という謎の青年に出会います。
男娼と間違われて一夜を共にするのですが、そのまま恋人になり、パトロンとなって歌手デビューをさせてくれるというシンデレラストーリー。
でもエリアスには凛以外に正式なパートナーや、たくさんの恋人や愛人がいて。。。

話が面白くて一瞬で引き込まれました。出会ってすぐに身体の関係になってしまう2人ですが、愛撫から何から描写が美しくてとても素敵でした。

主人公の2人もすごく魅力的で愛情深くて読んでいて幸せな気持ちになりました。

2

思ったほど攻めが酷くない(良い意味で)

レビューを読んでいて、だいぶ覚悟していたんです。
浮気はするし、愛人も居るし、そもそも1番大事にしているパートナーが居る。
そして金も名誉も力もある攻めのエリアス。
そんな相手に対して、受けのリンちゃんはまだ大学生で、将来や才能の部分でも行き詰まっていて、特別裕福なわけでも何かに恵まれている訳でもない。
そんな2人がどう足掻いたところで、リンちゃんが辛いし、エリアスは酷い人じゃないですか。
傲慢で強気な攻めがあんまり好きじゃないので、いくら攻めざまぁ展開だとしても、読めないかもしれない。
そんなふうに覚悟していました。
けれども、読んでみて良い意味裏切られたのは、エリアスが考えていたほど悪い人間じゃなかったというところです。
エリアスは、育ち方や環境(性格も少しは反映されてるのかもしれませんが)のせいで基本的に他人を必要としていないんですね。
自分に近づいてくる人は、自分の金や名誉や、なんらかの付属品が欲しい人ばかりだったし、自分が他人に近づく時もそうだった。
なんらかの利害関係があってこそ、人間関係が成り立つと無意識の中で思っていたと思うんです。
けれども、終始一貫して紳士的で穏やかなんですよ。芯の部分が冷めているからなのかもしれないけれど、こんな風に大事にされたら、そりゃぁリンちゃんだって諦めつかないよねぇ。優しいのに残酷。でも好き。その複雑さがすごくわかるなぁ、と思いました。

そして、この作品は、そういう孤独にも気づかない孤独な攻めが、優しくて残酷な仕打ちをしながらも、ちゃんと人間になるお話だったんだなぁと思います。
リンちゃんの不安定な心の動きもすごく理解できます。一見、ヤンデレの執着受けに取られかねないかもしれませんが、リンちゃんはずっと強かったと思うし、向けられない愛人を与え続けた唯一だったと思う。

このお話も小中先生の文書のおかげでどんどん読めてしまうんですけれど、最後のエリアスとの再会シーン、出来ればエリアスがなんかしら動いて欲しかったなぁ。でも、エリアスの性格を考えたら、出来ないよねぇ。は〜納得できないのに納得しちゃう不思議。笑

それにしても、ノウァちゃん。
好きになれないな〜〜〜笑

2

いろいろ言いたくなる作品

受に説教したい気分になったのと、攻が好みすぎるという複雑な心境での評価です。たいして魅力のない受になぜか翻弄される有能な攻、という構図が性癖にささりました。ヨーロッパのどこかの国が舞台の情緒に満ちた昏い雰囲気のラブストーリー、読後の余韻が長く続きました。

受がとにかく情緒不安定で重い。。”捨てられたらどうしよう”の強迫観念もすごくて、その一念で歌を生業にしている印象が否めませんでした。(最終的に成長はあるのですが…)し・か・も、貴族で実業家/攻の愛人の一人であるということを承知してスタートした関係だったのに、だんだん欲が出て正妻におさまりたくなる、、ってゆー過程が、、生生しくて、ほんとうに人間の業って…という件でした。

正直、エリアスの正式なパートナーだったデビットのほうに魅力を感じました。寄宿学校時代からの友人同士だった2人、いろいろあって長年連れ添ったけれど…凛が現れたことで別離が決定的になり、、対等な大人同士の哀愁がたまらんかったです。ここは凛の執着勝ちですが、”お前は俺がいなくても一人で生きていけると思うけど、この子は俺がいないと生きていけないタイプだから…”という別れのテンプレに重なってモヤりました(笑)。

新しいスターの登場で徐々に精神不安定に拍車がかかる凛の行動の痛さに、”アンタも同じことしてたやん!”とツッコミいれながら読み耽りました。たとえ、攻様に新しい愛人ができたとしても!、、、仕事のチャンスをくれて贅沢をさせてくれて優しかった恩人(攻)に対して、そういうふるまいができるんか?溺愛という真綿にくるまれた人間の大胆さが見えます…。自分が創り出した不安と恐怖で完全に壊れる受ですが、自爆なので全く同情できませんでした。

凛をライバル視するノウァが期待したほど性悪じゃなかったのが肩透かしでw、凛を失ってからの攻めの感情の変化については、中年後期にさしかかった男の心境あるあるに見えました。というところで、出会い、別離、再会にいたるまで絶妙なタイミングで行動していた受は強運ですね!
攻の示す好意を受は否定的にとらえるんですが、執着すること=”愛”なの?って小一時間くらい悩めます。そもそもポリアモリーだった攻の愛が間違っていたとは思えず、、むしろ、最初から最後まで攻依存が強い受の愛のがいびつでめんどくさいよね~!って叫びたくなりました。よって関係修復に関しては、”攻がすごく頑張った”展開にみえました。

攻受の資質と成熟度がアンバランスで違和感あるな~という印象が、攻様の”好きに一から十まで理由がある?”っていう台詞で巻き取られてしまいました。なんだかんだ、受の業が面白くて”えええ?”を連発する読者を作品に没入させる筆力は、さすがの小中先生です。

2

凛の視点で見たエリアスの変化

「鏡よ鏡、毒リンゴを食べたのは誰?」と、違うパターンの
「パトロンが、支援者の虜になる」恋物語。

エリアスにとって、凛は、最初は支援を求める一人にしか過ぎなかった。
凛が、淋しさを耐え忍ぶ過程を辿る粗筋になってますが、
物が溢れる中で情愛だけ受けず育った歪で無機質な心の持ち主;エリアスが、
本当の愛と愛を育む関わり方を、失ってから気づく話。

印象深い場面。
最初は、一夜の恋人:
海外留学中の与那覇凛は、憧れのテノールに不向きな資質と自覚、絶望する。
夜の街を歩いて、酔った暴漢から凛を助けてくれたエリアスを、凛はマフィアと勘違い。
凛を男娼と勘違いしたエリアスの一夜の遊び相手となり エリアスに「ずっと恋人」をねだる凛。
実は、エリアスは貴族の大実業家で、凛が在籍する学院の理事長、
しかも、男性の配偶者が居て、凛の他に恋人が複数いると知る。

エリアスから配偶者が去る:
エリアスの配偶者デビッドが借金返済を終え、恋人を作り去っていく。
「自分だけを愛してほしい」叶わない願いを封印する凛は、デビッドの心情に共感する。

凛も若手に譲る決意をする:
凛の喉にポリープが出来て、歌えなくなったら寵愛を失うと怖れる凛。
その頃、エリアスは若い歌手ノウァの支援を始めた。
過去のデビッドを思い出し、老いた自分の進退に悩む凛。
一切を整理して引退、日本に戻る。日本では凛は無名の一般人。
帰国後手術を受け、元のように歌えなくなった。

再会:
心の変調をやっと通常に戻せた二年後、凛は30才。
人を介して、凛に「エリアスが一目会いたいと言っている」と連絡が来る。
・・・凛が拒否らないように、エリアスが再会を手配。ココから後は、よくあるハピエンの展開。

エリアスは、本気で愛した人を失うことを怖れた寂しがりで、最後まで素直じゃなかった。
面白かった。
---

夜啼鳥:
ヨナキウグイス スズメ目ヒタキ科
小夜啼鳥、学名:Luscinia megarhynchos ナイチンゲール(英語: Nightingale)墓場鳥 スズメ目ヒタキ科
ウグイスより大型 名の由来は、夕方から夜更けまで美しい声で鳴くから。

カウンターテナー:
(英: countertenor)カウンターテノール
ファルセット(裏声)を用いて女声音域(男声のオクターブ上)を出すパート

1

美しくも切ない

小中先生はシリアスなお話も上手いですねー
攻めと受け両方に苛つきながら、あっという間にストーリーの中に引き込まれました。

エリアスは、ある意味正直な男だったかなと思います。
初めから最低な男でよければ恋人になろうと持ちかけていたし、実際その通りの男だったわけだけど。

むしろ思っていたのと違ったのは、リンの方でしたね。
恋愛にどっぷり浸かり、恋人中心に生活や仕事が回っていくタイプ。休日もエリアスが来るかもと思うと、どこにも行けず何も手に付かず……って、重っ;
でもねー、ちょっと分かるんですよ。
私もそういう経験あるから。同族嫌悪ですかね:

不安や疑心がリンの心と体を蝕んでいくところは切なくて、そんなリンの切実さ気付かないエリアスには憤りました。あっさり別れを選ぶって……流石にショック。

受けを失って弱々になっちゃう攻めは大好きなので、エリアスがそうなった時には不謹慎ながらも萌えました。
でも、リンは一度エリアスの傍を離れて良かったと思う。
そのおかげで、エリアスがいなくても生きていけると思えたし、もう一度歌うことと向き合えたから。

会えない時間が愛を育てる流れも、有りがちですが素敵でした。
リンは強くなったし、エリアスは人として成長したよ。

切なさの中に甘さを感じさせてくれる作品でした。
すごく回り道したけど、もう大丈夫だという安心感もあって、読後感も良かったです。
先生のシリアスもの、もう少し読んでみたいなぁー
yokoさんのイラストも作品の雰囲気にピッタリで素敵でした。

2

一度読んだだけでは理解できないかも

この作者さんの本を読むのは初めてです。表紙が綺麗だったので気になって購入しました。
シリアスであまり甘くない内容が好きなのでお話は◎ですが、作中で描かれている受けの描写と挿絵がかなり噛み合わず・・・うーんとなりました。
ページ数があまり多くはないのと攻めの行動があまり理解できないので、攻め目線での話もあればもっと理解が深まるのかなと思います。

1

No Title

テノール歌手としては劣等生だった凜がエリアスに見いだされ某国でプロデビュー、その全てを仕切ったのがエリアスです。

最初は充足した日々でしたが徐々に他の恋人の存在が明らかになり自身の声の調子も悪くなる、そこに登場した決定打が「クラヴィクラ」のノウァ。

『簡単に換えのきく、ただのツールにすぎない。だから執着もしないし、なくしても壊しても惜しいと思わない』と自分に見切りをつけた凜はエリアスからも歌手という仕事からも逃避して日本に戻ります。

人形でなくなった凜と、凜を失ったエリアスのその後がどうなるのかは実際に本を読んで欲しいです。

2

挫折しないで

表紙の美しさに惹かれ購入。
予想通りに美しさと、負の感情が混ざったようなお話でした。

あらすじは上記を参照してください。
エリアスが凛を恋人にし、歌手として成功させていくシンデレラストーリーの間は、顔をほころばせながら読んでいましたが、この先には闇しかないような文章が時折出てくるたびにビクビクしてました。
案の定。幸せだけではいられず、エリアスへの嫉妬心から始まり、歌うことへの自信喪失。喉の病気など次から次へと凛にのしかかり、最後には誰の言葉も信じられなくなる。
読むのが辛くなりました。
初読みの作家さんで、あらすじもあえて読まずにきたので、このままどす黒い感情に押しつぶされて終わるのでは!と思いました。
でも、できるなら読み続けて欲しい!

凛が全てを捨て日本に帰ると、あの異世界の様な作品の雰囲気はなくなり、現代へタイムスリップしたかのようでした。異世界の様に感じていたのは、凛の心を通して見ていたがらなのかもしれません。

何も欲しがらず、エリアスだけを一途に想い続けてきた凛にとっては、日本に帰っても消せる事のないエリアスへの想い。
また、凛が離れてしまってからのエリアスの改心。どんなにエリアスが凛に愛を唱えても、嬉しさと同じくらい捨てられる怖さで、その先には踏み込めずにいる凛。この2人の場面は、涙が出ました。

最後には唄うこと、エリアスとの関係、自分らしさを取り戻した凛が、本当に清々しく最後まで読んで良かったです。

4

愛と憎しみの10年間

なかなかのドロドロ愛憎劇でした。主役で受けの凛は欧州A国へ留学するも伸び悩み中のオペラ歌手志望。街で男娼と間違われた事をきっかけに好みの男と出会い、一夜を共にする。生まれて初めての恋人は貴族の実業家で凛を歌手として売り出しスターダムの道を駆け上がらせる。

しかし恋人のエリアスは多情家で凛の他に何人も恋人を持ち、同じ貴族で美形の公的なパートナーもいる人でした(全て男性)凛は辛い気持ちを隠しながら愛する攻めの為に歌手の仕事も必死に頑張るのでした、っていう健気で可哀想なストーリーですが…

結果、凛は7年程かけて全ての愛人を蹴落とし、正妻みたいだった公式男性パートナーも別れさせ、自分がナンバーワンとなります。正妻?だったデビッドはギムナジウムからの付き合いとのことだったので20年位付き合っていた人からの掠奪となります。ナンバーワンになっても浮気症の攻めのことは信用できず結局心身共に疲れきり、歌手として大事な喉も痛めて攻めとも別れて日本に一時帰国するのです。

凛は健気キャラだけど攻めの恋人デビッドと対決する時もマネージャーとの話し方も、誤解したまま逆ギレして日本に帰るシーンの時も決して大人しいとは言えない中々激しい芸術家タイプの性格だと思いました。見た目はナイチンゲールのようでも手強いライバル達を蹴落とす力強さを持った人だと思います。

しかし小中さんは浮気症だった攻めザマァの展開が多いですね。最終的にはハッピーエンドですが昼ドラのような修羅場場面が多くハラハラドキドキさせられたお話でした。

3

攻めザマァ要素がおいしすぎました

友人から「内容は攻めザマァ要素ありでとても楽しめたのだけど、受けの子の性格が面倒臭いのでここが甘受出来るかどうかで評価は分かれそう。」と教えていただいたので読んでみたけど、受けの子全然問題なかったです。
なによりも攻めザマァ部分が予想以上でして、大変おいしくて満足です。

出会った時から「自分は冷酷で誠実ではないので、純愛を望むなら必ず期待を裏切られるだろう、そんな最低の男で良ければ恋人になろう」と言われたうえで恋人同士になった二人。
その言葉通り攻めのエリアスは凛を可愛がる一方で、公的な男のパートナーがいて、更にあちこちで浮名を流しまくる。
いかがなものか…とも思うんだけど、「君一筋だよ」なんて言って陰で浮気をしまくる男よりも、あらかじめ釘をさしておいてそれでも良ければと提示してるあたりは、考えようによっては誠実かなと思うんです。嘘をついていないという点で。ただしすごく傲慢だと思うけど。
だからあらすじにある「不器用な男たちの十年純愛」という「純愛」には、え?!と思います。

ワーグナーのローエングリンに憧れ、オペラ歌手を目指していた学生時代。
蚊の泣くようなひょろひょろテノールなのに、将来ローエングリンを歌えちゃうような資質を持つ同級生と役を張り合い、それを周囲から指摘されても聞く耳を持たなかったというエピから、凛の一筋縄じゃいかない思い込みの激しさが伝わってきました。
(ワーグナー特有の分厚いオケの音量に負けない図抜けた声量と強靭な喉が必要な事から、オペラ歌手の中でも「ワーグナー歌手」という特別枠がある位なので、凛が同級生をライバル視するなんてあまりにも自分が見えていないというか、例えるならば猫がライオンに戦いを挑んでるようなものなんです。)

そんな彼が、エリアスという厄介な男を愛してしまったら……。
異国の地で自分には彼しかいない、そして彼を繋ぎとめておける手段は歌しかない、歌を失ったら自分の価値はない、みたいな思いつめも当然だろうなぁと。
そして「エリアスには何も言わない事が自分の矜持」みたいな自己満足など、その鬱陶しい重さも含めて楽しめました。

やがてミュージックシーンのトップを長年走ってきた凛が不調と同時に少しずつ凋落する気配を見せ始め、同時に新鋭の存在に焦り、足元から少しずつ崩れ落ちていくような気持ち……トップアーティスト達がドラッグやアルコールに手を出してしまう心理ってこういうものなんだろうなぁと思いました。

ついに愛を手放し歌もやめてしまった凛。
ノウァなら、愛を失っても歌い続ける、どんな苦しみの最中にあってもそれを歌で表現する、感情をそのまま歌にぶつける事が出来るタイプだと思うんだけど、凛はそういうキャラではないと思うんです。
芸の肥やしにするまでの処理速度が月とスッポンくらい違うんだと思う。
凛にとっては歌うことでエリアスへの愛を伝えていたのだから、愛を失って歌が枯れるのも仕方ないというか、歌を忘れたカナリア状態が哀れでした。

そして攻めザマァが美味しくてニヤニヤしまくりです。
受けに去られて、初めて愛を知るみたいな攻め、最高。
受けに去られて完璧だった攻めがやさぐれたり、弱り果てる姿が大好物なのでとても美味しくいただけました。
もっと弱ってもいいのよ、なんて。

恋人同士であった時は、凛を「大切にしてる」と言いつつも、仕事のためなら他の男を抱くことも躊躇しなかったような仕事人間で、人として大切なものが欠けていたエリアス。
凛も、あれこれ要求する他の愛人達とは一線を画していたいというプライドから、エリアスには何も言わず望まれる歌をただ歌うお人形さんのような存在だった。
そんな嘘くさかった二人が、初めて腹を割って話す様子が何とも好きです。ようやく人間同士の会話って感じで。
とりわけ凛の作った微妙なスパゲティを二人で食べてるシーンが好き。
凛が作ったものなら必ず全部食べるエリアス、かわいいし。

私は最後に「二人のための、新しい愛の歌を」となったところがうーむ……と思ってしまいました。
「歌=エリアス」で雁字搦めだった歌うお人形さんが、ようやく誰のためでもない歌を歌いたい、自分は歌が好きなのだということに気づけたのだから自由な羽を得て、軽やかに大きな視点を持ってアーティストとして羽ばたいていってほしかった。変わっていく様子をもっと読みたかった。
なのに、またしても二人だけの超狭い世界に戻っていってしまったように思えて、失墜感を覚えました。
二人のラブ的にはそれが望ましいと思うんだけど。

5

恋を知った歌姫の悲しみと喜び

切なさに胸を締め付けられるような思いで読みました。
yoco先生のイラストが素敵で手に取りましたが出会えてよかったと思う作品です。

初めて愛した人は恋人に対して不誠実な人。
パートナーと複数の恋人もいる貴族で実業家。
自分の知らないところで何をしているのか、他の恋人たちをどんな風に愛しているのか辛くて想像もしたくない。
一番の望みは他の人と別れて、自分だけを愛して欲しい、でもそれを言ったら捨てられる。
歌手として成功しても満たされない。
そんな凛の心情が健気で不憫で胸を締め付けられます。

作者様がおっしゃる通り『終始どよーんとした空気の話』でしたが、私としてはこのシリアスで重いお話が案外好きなのだと知りました。
途中で面倒になることもなく一気に読ませていただき、ファンになりました。

この手のネガティブでぐるぐる悩む自己完結型主人公にしばしばイラっとくる場面が少なからずあるのですが、この作品ではなんだかリンと同調したのか、嫌われたくない、捨てられたらどうしようと言いたくても言えないことを飲み込んで必死で歌いすがりついて行く感情が痛々しくて離れることを選ぶシーンでは泣きそうでした。

エリアスはその生い立ちから誰からも人を愛する喜びや辛さを教えられず、『不誠実』とは自覚していても改めることなく人を愛する気持ちを軽んじてきたツケを支払うことになるのです。
初めて人に執着したり嫉妬したり、あるいは恋するが故に怯える気持ちを知り凛を手放したことを後悔して深く反省することになるわけです。

最後にやっと本音を語り合い分かり合えるのですが、あのまま何もなく関係が続いていたらいつかきっと張り詰めていた糸が切れてしまったかもしれません。
又は、無理しすぎて疲れた凛が壊れ、理解できないエリアスとではやっぱり続けられなくなるかもしれないと思いました。
冷静になってやっぱり好きだという結論になる為に時間が必要だったのだとおもいます。

その後の二人は…
二人きりの甘々な隠遁生活もそう長くは続かず、新しい事業に触手を伸ばすエリアスと一斉を風靡した歌手の一皮剥け成長した凛を世間は放っとかないんじゃないかな。
静かな別荘暮らしはいつまで続くのやら…

7

愛の重さや比重に悩める彼に幸福を

先生他の作品よりかなりシリアスです。
でもラストはハッピーエンドなのでハッピーエンド好きの方は安心してください。
凛の重い愛と、歌声だけを愛されてるのではという疑心暗鬼の部分は読んでいて辛いです。
でも凛の愛が報われるのです。
彼のこれからの幸せを祈ります。

5

「神」というより「神×2」くらいの気持ち

評価が「神」までしかないので仕方なく「神」ですが、もっと突き抜けるくらいの評価です。わたし的には!

もともと好きな作家さんの一人だった小中先生の作品ですが、この作品はつい最近になって存在を知り、あらすじを読んで「あ、わたし好みの作品かも・・・」と慌てて買って届いて即読みました。

読みだしたら止まりませんでした。

期待しすぎて読みだしたらハードルが上がり過ぎているため「あー、そーでもなかった。期待してたのはこんなんじゃなかった」っていうことが多々あるのですが、この作品は私の期待をさらに上回る私の好み過ぎる作品でした。
そう!こんなのが欲しかった!!という感じ。

人によっては地雷だったりするかもしれませんが、私は攻めが奔放だったり倫理観が他とはかなりずれてたり世間の常識とはかけ離れたところにいる人が好きだったりします。
でもなかなかそういう要素が描かれていても中途半端に終わって、結局ほぼ甘々に終わることが多くて、う~~~ん・・・となることが多いのですが。

で、そんな攻めが受が去ってから初めてその存在の大切さを思い知って弱っちゃう展開は大好物過ぎて悶えます(笑)

凛が苦しんで悩んでどんどん追い込まれていく描写がすごかった。
だから余計にその後のエリアスの思いや凛の怯える心に涙して。

yoco先生のイラストがこの作品にぴったりで、それもこの作品を素敵なものにしてくれています。
読み終わった後に改めて表紙を眺めて、また涙が・・・しばらく見入ってしまいました。

久々に、こういうの読みたかった!と思わせてくれる、とても素敵な作品でした。

20

健気

初読み作家さん。
yoco先生のイラストに惹かれて購入。
物語の世界観・雰囲気とyoco先生のイラストが凄くマッチしています。
読み進めていくうちにいつの間にか受の凛くんの歌声が聴こえてきました。

こういう純粋で健気な受くんに弱いです。
攻のエリアスに出逢って、自分がなりたいと憧れていたオペラ歌手(テノール)への気持ちは、恋だったのだと気づいてから歌声にのせて愛を紡ぎ続ける10年の物語。

切なくて切なすぎて胸が苦しくなりました。

11

誰のために歌うのか

今回は侯爵であり音楽活動にも熱心な実業家と
オペラ歌手を目指して留学した学生のお話です。

受様が歌手としてデビューして引退するまでに
攻様との恋愛事情が絡まって進展します。

受様は子供の頃に見たオペラで
白鳥の騎士(ローエングレン)に憧れ
自分も彼の様に歌いたいと
オペラ歌手を夢見るようになります。

幸いにも家族の受様の夢を応援し
EUの音楽大学に留学します。

高校でも専攻の声楽で高い評価を受け
周りの生徒と比べても
「上手い」という自負がありました。

しかし
音楽大学の学生のレベルが段違いで
プロレベルがゴロゴロしていた上に

華奢な体格からの成長は望めず
音楽教育や訓練を受けても
生まれ持った声帯の限界を感じ

憧れたローエングリンのような歌を
謳う事は出来ないという挫折を
味わうことになります。

努力だけではどうにもならない現実に
打ちのめされた受様は自棄になって
学生寮を飛び出します。

薄着のまま繁華街に出た受様は
男娼と間違えられて絡まれたところを
凄みのある美貌の男性に助けられます。

その男性こそ今回の攻様です。
攻様は音楽活動にも熱心な実業家で
名家である侯爵家の当主でした。

攻様もまた受様を男娼だと思い
一晩分の時間と金の代価を求めますが
誰とも寝た事のない受様は
自分が満足させられるか判りません。

そこで攻様は受様に歌を歌わせますが
オペラのテノールの曲は全否定されます。

しかし、
その後に受様が歌った歌によって
受様の歌の才能を確信し
受様の身体も翻弄します。

そして受様にプロデビューの道を示し
攻様の恋人にしてくれるのです。

しかし、攻様には
正式な場で伴う同性のパートナーと
複数の恋人がいたのです。

攻様を愛し始めていた受様は
攻様の唯一の存在になれないなら
一番になりたいと望みます。

そのためには
攻様が認めてくれた歌で
攻様が望むスターになるのだ
と強く思う様になります。

そして受様は攻様の元
プロ歌手としての道を歩み始めます。

受様は歌手として花開けるのか!?
そして攻様との恋の結末とは!?

受様の歌と恋が
攻様との出会いによって
徐々に変転していく様子が
シリアスに描かれたお話です。

受様は攻様に恋をした事で
求めていた夢とは異なるタイプの
歌手として才能を見出されます。

攻様の後援と受様の努力で
受様はプロ歌手として大成しますが

攻様にとって受様が
唯一の恋愛相手で無かったために
受様は常に不安と背中合わせで
攻様との付き合いを続けます。

やがて受様は攻様の恋人の1人から
攻様のパートナーにまでなりますが

受様の人気が衰え始め
自身の喉に違和感を覚え始めた頃に
攻様が自ら新人歌手のデビューを
手掛けた事から

受様は徐々に自分の歌と恋を見失い
不安定に失速していくのです。

受様と攻様の愛の違い、
2人のすれ違いに胸を痛めながら

歌を失い、攻様との恋を手放した受様が
最後に手にするものとは何なのか
ハラハラしつつ読み進めたお話でした。

受様は音大に入れまで
自身の実力を疑わず挫折知らずですが

留学先の音大には
受け様より才能のある学生に囲まれ
自分の歌を信じられなくなります。

そんな時に出会った攻様が
受様の歌を認めてくれた事で
失われた自信を取り戻したのです。

それ故にプロ歌手を目指した時から
受様にとって歌は攻様を失わない為の
手段となってしまいます。

それほどまでに受様を縛る恋は
攻様の気持ちをも変えていくのですが

喉に異変を感じた事で
歌えなくなれば攻様を失ってしまうと
新人歌手との関係を疑うほどの
疑心暗鬼に陥りるのです。

攻様が絶賛した歌を
歌えない自分に価値はないのでは?
かつての自分の様に
攻様が新人歌手の手を取るのでは?
かつてのパートナーのように
自分もあっさりと手放されるのでは?

受様が徐々に歌を歌えなくなり
攻様との恋を見失っていく様子は
とても切ないです。

小中さんのお話なので
受様が別れを選んでも
攻様との復縁は疑いませんでしたが
途中かなりハラハラでした (>_<)

受様が歌への真摯な思いを取り戻し
攻様が唯一の愛に辿り着いて
本当に良かったです。

今回は年の差モノ&切ない系で
凪良ゆうさんの『雨降りvega』は
いかがでしようか。
両想い確認まで時間がかかるところも
似てるかも(笑)

18

とにかく切ない…

すっごく好きなお話でした。
お話としてはシリアスで結構重い話だけれどそれゆえにぐいぐい引き込まれていきました。

他の方々が内容について書かれてらっしゃるので私はとにかく読んだ感想を…

※ネタバレが多量に含まれてますので注意してください




凛(受け)がとにかく一途で健気で悲しかった。
自分の声がオペラ向きでなく、悩んでいるときにエリアス(攻め)と出会いその声に可能性を見出だしてもらったからということもあり、余計にエリアスに対してあれほど盲目的に愛を向けていたのかな……


そして、その出来事があり、歌うことが凛にとってエリアスの側に置いてもらう理由になって捨てられないために必死になってる姿に、自由に歌っていいんだよっと言いたくなります。


売り上げが伸びなかったりなど色んなことが積み重なり凛が追い込まれていく時には辛くて辛くて……

凛も自分なりに考えて、今までのように言われた通りにやっているだけじゃダメだと思って自分から意見を言ったりしてみてもスタッフや周りの人たちからは鬱陶しがられ、イーサン(マネージャー)にでさえ君らしくないと言われる始末。
凛がエリアスに電話をするシーンでは思わず涙がポロポロと………
((ここがとにかく辛かった;;
凛の切迫した空気とエリアスのそこまで大事に捉えていない空気感の違いが感じられてほんとに切なかった

結果的に凛は歌手をやめて日本に戻りますが、凛にとってはその方がよかったなと思います。
一度外の世界を見ることで盲目的になっていた「歌うこと」や気持ちの面でも整理をつけやすいし、と。


個人的に凛に感情移入しまくっていたのでこの後の攻めざまぁ展開にちょっと胸がすっとしました。
再び心を通わせることが出来てよかったな~とは思いますがそんな簡単に信じていいの!?大丈夫!?とは声をかけたくなりましたね笑


作中で凛の「難しい人だとは思うけど、あなたは不誠実な人ではないよ」という言葉に、ちゃんとエリアスのことを理解しているんだなーと思いました。
自分の愛の形とエリアスの愛の形が違うこともわかってはいるけれどやっぱり耐えられなくて離れてしまった。
でも、一度別れて外に目を向けたことで凛はもう一度エリアスと向き合うことができたのかな……
最後には自由に歌うことが出来てほんとによかったです。
誰のためとか関係なく歌が好き。もうここで拍手したくなりました。



欲を言えば、エリアスの生い立ちなどはもう少し詳しく、出来ればエリアスの視点で知りたかったな、と思います。凛が日本に戻ったときのことなどエリアス側の視点が気になります。

また、エリアスの公のパートナーだったデビッド。凛がノウァに感じていた感情をデビッドも凛に対して抱いていたんだろうな、て思うとデビッドのことが気になって仕方ありません。今の恋人とのことなど幸せになったあとのことを少しでもいいから知りたいです!

24

受けが女々しすぎる

初読みの作家さまですが、yocoさんの表紙につられ購入。

内容はすでに書いてくださっているので感想を。ごめんなさい、辛口の感想です。おいやな方はスルーでお願いします。





ちるちるさんでは評価が高いですが、ごめんなさい、全然ツボに入らなかった…。

とにかく、受けが女々しい。と感じてしまった。

オペラ歌手を目指し、けれど彼の持つ声質、音域ではどう抗ってもオペラ歌手には向いていない。けれど自分でそれを自覚できず、周囲のアドバイスさえ素直に受け取れない。
挙句の果てに街中で助けてもらった男に惚れこんで、彼のために歌を歌う。

歌手としてのプライドが彼にはないように思えました。

オペラ歌手を目指し、でもその夢は叶わなかった。
そこで気持ちが折れるのは理解できるし、気の毒にも思う。

けれど、彼が歌う、その理由が、

恋人に捨てられたくない。

ってなんやねん…。

そして、恋人や同性のパートナーを持つ恋人・エリアスに対しても。
彼が複数の恋人がいる男と知って、それでもなお、彼を選んだのは凜自身。それならそれで、自分で気持ちの折り合いをつけるべきなのにエリアスにイラついたり、騒いだり。

彼のエリアスに向ける愛情が一途だと思う方がいるのは理解できるのですが、個人的には凜がどうにもこうにも女々しくて萎えてしまった…。

純愛、と言えば純愛なのかも。
あれだけ一人の男に惚れこめるというのはある意味羨ましくも思う。

が、個人的に全く好きになれない受けさんでした。

一方のエリアスはツボでしたね。

彼の持つバックボーン(貴族という身分とか、お金持ちである、とか)から、彼に私欲のために近づいてくる輩は多く、それゆえにさらりとした人間関係を築けないのではないか。

凜に去られた後、すぐに追うことができなかった彼の不器用さが、かえって好印象でした。

が、いかんせん、どうにもこうにも受けさんに感情移入できず。
評価下げて、ごめんなさい。

9

ドシリアス

かなりのシリアス&切なさだったので、小中先生ではないのかなと途中で作者の確認をしてしまいました。そんなに作品数読んではいないのですが、小中先生では珍しい作風だと思います。

凛はオペラ歌手を目指して海外留学をしますが、才能に絶望します。そんな時に出会ったからなのか、エリアスがいたからこそ歌を歌えるからなのか執着とも言えるくらい彼だけを想っています。
エリアスは凛以外にも恋人が複数いるし、更にはデビッドという同姓の伴侶がいます。一夜限りの相手もいるくらいエリアスは自由というか不思議な男です。しかも、それを隠そうとしていないです。沢山の恋人がいて、それでもエリアスは凛の事を愛していると言います。

エリアスの力もあり歌手として成功します。でも、凛は歌手の成功を喜ぶというよりもエリアスの為に歌っているという感じです。
その為、歌えなくなる=エリアスに捨てられると思い込むくらいです。
イーサンというマネージャーが凛を支えてくれていますが、傍にいる彼よりもエリアス第一の凛です。
それでも2人はすれ違うし、凛は焦りや不安とか色んな面からかなりメンタルが弱っていき、歌手として成功しているはずの凛があまり幸せそうには思えなかったです。
ちょっとした綻び(凛にとっては大問題でしたが)で2人の関係が終わり凛は逃げるように日本に帰ります。
この時の凛のボロボロ具合が何とも痛ましかったです。我慢をせず素直になっていればと思うし、エリアス以外の人の言葉をもっと聞きなよと色々凛に言いたくもなりますが、「エリアスに嫌われたくない・愛されたい」というただそれだけの事が彼をここまで追い詰めてしまったのかなと思うと切ないです。

凛が離れてしまった事によって初めて凛という存在がエリアスにとって大事だったのかと気付く攻めざまぁという展開に少しスッキリします。別にエリアスが嫌いという訳でも他に恋人がいたとしても凛を愛していたという事には違いないですが、エリアスがもっと早く凛への想いに気付いていたらと思う部分があったのでちょっとスッキリしてしまいました。

個人的には凛の気持ちに共感する部分は少なかったのですが読み応えがあります。ドシリアスなので落ち込んでいる時に読むとかなりずーんという気持ちになるかもしれないです。

7

歌姫のお話

音楽ものが好きで、どんなのだろうかと期待していましたら、クラシック、コンクール等ではなく、歌姫(?)としてデビューするものでした。攻め受けの変遷もとても染み入りましたが、受けが自分を解き放って「歌う」ことが出来た時の開放感が好きで、泣きました。ぽきんと折れそうになるまで追いつめられる受けがお好きな方にはオススメしたいです。攻めさんが「複数の方との関係を維持される方」という事を、お伝えしておきます。

お話は、凛の留学している大学の学生寮でのシーンから始まります。中に入ろうとした時に、同室の学生が友人たちと凛の事を話しているのが聞こえ、部屋に入れず街に飛び出します。通りで変な男に絡まれたところを30代半ばのプラチナブロンドの男性に助けられ・・・と続きます。

攻め受け以外の登場人物は
大学時代の同室の学生(♂)、デビューしてからのマネージャー、凛より後にデビューした歌手(♂)、攻めの公式パートナー(♂)等。
マネージャーがいい人でした。ほんとに良かった。

*******以下はより内容に触れる感想

苦しく切なく痛く・・・デビューしてから引退するまでの過程が、心配で心配でたまりませんでした。追い込まれるのにシンクロしてしまい、だから凛が逃げるように引退するのはとても良く分かるし、あれで正解だったと思うのです。一度離れた方が絶対良かったと思うのです、失うと分かっていても。一生割り切れる訳のない気持ちだけど、一度逃げてもいいと思うのです。その後、イーサンに会って、エリアスに会ってもう一度見つめなおすことが出来て、本当に凛は幸せだと思いました。二人の想いが掛け違うようなタイミングで無くて本当に良かった。ハラハラし通しだったので、はーと息をつく感じでした。

その後、凛が歌うことを思い出し、最後「一緒にいさせて」と言うところまで涙ぐみっぱなし。凛が自分の在り方をきちんと見つけて、自分の足で立てることが出来て本当に嬉しかった。エリアスが弱り切ってたのも「攻めザマア!」と溜飲が下がる心地で良かったです。エリアス、しっかりしてよね!ほんとに(怒)凛、喧嘩したら家出しろ!!すぐ謝ってくるようになるさっ

攻めに対する怒りはあれど、とにかく受けが目覚めたことが嬉しくて、安堵感、幸せ感でいっぱいな本でした。後日談があれば少しでいいので、読んでみたいなあ。レコードだしてものんびり曲作ってマイペースに過ごす凛に会ってみたい・・・

13

あーちゃん2016

セルフつっこみ。
紙書籍を一旦手放したものの、我慢できず電子で再購入。ひか〇ブックでカラー口絵もモノクロ挿絵もありました!やっぱり好き、このお話。

お人形

うーん……読後にこういう風に感じるのが久しぶりなので、どう書けばよいのか戸惑っています。
とても読ませるお話だと思います。面白い。暗くて重いのだけれど一気読みしちゃったので、それは間違いないと思うのです。小中さんの力は感じる。

でもね、
あたし、主人公の与那覇凜ちゃん(どうしても『ちゃん』呼びしたくなっちゃうタイプなんですよぉ、私の中で)に、どーしても共感出来なかったんです。
もう、途中から
「あんたは!あんたは!あんたは、それだから!」っていう言葉が頭の中でグルグルしてね。まるで、仲の良い幼馴染みか、親戚のおばさんの如く、凜ちゃんを叱り飛ばしてしまいたい願望が渦巻いて堪らなかったんです。
それだけ感情移入したって事なので(何度も書いてクドイのですけれど)物語には大変力があるんですよ。だから単に登場人物の好みの問題なんですけれども。

オペラのソリストになるべくして留学した先で、自分の才能に限界を感じていた時に、有力者の大人(エリアス)に見いだされて、ワールドミュージックの歌い手としてトップスター兼、彼の恋人になった凜ちゃんですが、エリアスが自分以外にパートナーがおり、なおかつ、つまみ食いも含めて、別の男性達とも関係を持つ人だったため、いつか自分は捨てられるという恐れを捨てきれません。エリアスが新たに力を入れて売りだそうとする若い魅力的なボーカルの台頭、自分の人気の衰え、そして何より声の不調の不安によって、今まで決定的な我が儘を言わずに耐えてきた凜ちゃんはエリアスに側にいて欲しいと訴えるのですが……

「エリアスって正直な男だなー」と思うのです、私は。
最初に「誠実な恋人にはなれない」って言っちゃうんだもん。
他の男性と付き合っていることを隠さないし、かと言って露悪的に話して傷つけようとしている訳でもない。
それに対して凜ちゃんは、彼に嫌われることを恐れ、自分を主張しないという態度を取り続けます。
徹底的に『エリアスのお人形』という立ち位置なんですね。
これが、私にはダメだった。

もうひとつダメだったのは、凜ちゃんにとって歌を歌うことってエリアスの関心を惹くことだけの目的なのでは?と思っちゃったから。
「え?歌うこと自体はそれほど好きじゃないの?」と感じる決定的な部分があって、これがね、共感出来なかったんです。

最終盤で、こういう凜ちゃんも変わる訳なんですけれども、この変わりつつある部分がもう少し重点的に描かれていたのなら、もう少し応援したい気持ちになったかも知れません。
凜ちゃんの力になろうとする人もいるんだけれど、その人達と友情を結べず、結局「あなただけがいればいい」というトーンが強いままでお話が終了してしまうのは……
まだ30歳と若いのに、2人だけの繭の中で隠遁する生活が待っている様な気がして「それって幸せかぁ?」と、この結末に首を捻っている私がおります。
でも、お話の『グイグイ感』が素晴らしいので『萌』評価で。

11

全ては、今この瞬間の為に

元々好きな作家さんでデビュー作から全て持ってますが、今回は鳥肌が立ちました。
「不器用な男たちの十年純愛」となってますが、これを「純愛」と言うのは何か違う気がします。
ただ、全てを引っくるめて、やっぱり「愛」としか言いようが無い・・・。

作家さん自身も今作は雰囲気が違うと書かれてまして、いつものラブコメや明るいお話を想像されると戸惑われるかもしれません。
どシリアスで痛くて切なくて、大変重いお話です。
綺麗で純粋なだけの愛でもありません。
が、これもまた主役二人にとっては紛れもない愛の物語。
強く強く心を動かされました。




内容です。
オペラ歌手を目指して海外留学するも、夢と現実の間で挫折感を味わっている凛。
そんな時、貴族で実業家のエリアスと出会い、才能を見出された凛は、一流アーティストとして華々しい成功と恋人の地位を手に入れます。
しかし、独特の恋愛観を持つエリアスは、凛の他にも恋人やパートナーを持ち、決して凛のものだけにはなりません。
そんな中、歌えなくなればエリアスに捨てられると凛は恐れていてー・・・と言うものです。


まずこちら、受けである凛は、相当面倒くさい執着系です。
そして攻めのエリアスはつかみ所が無い宇宙人。
終始、凛の視点で語られますが、とにかく痛くて切ないのです。
凛とエリアスの恋愛観はキレイにすれ違っていて、恋人だからこそ自分だけを愛して欲しい凛に、何人も恋人がいて一人だけを愛すると言う事自体が理解出来ないエリアス。

エリアスはある意味とてもズルい男なんですよね。
二人の出会いは、凛を男娼と勘違いしたエリアスが買ってと言うものなのですが、最初から「誠実な愛はやれない」と予防線を張っている・・・。

セレブな恋人にトップアーティストとしての華々しい名声と、全てを手に入れたかのように見える凛。
でも、仕事以外ではずっと自宅でエリアスが訪れるのを待ち、歌えなくなって捨てられる事を恐れて、自身の「声」や人気に縋り付く日々・・・。
純粋な夢を追っていた青年が、「愛する恋人」と出会ったばかりに、大好きな夢が重荷に代わりどんどん追い詰められて行く・・・。
もう、このあたりの凛の心理描写が容赦なくてですね。
読者側はグイグイ感情移入させられ、切なくて切なくて仕方ない。

で、そんな凛を酷い目にあわせるエリアスですが、彼は彼の独特の倫理観で生きています。
上手く言えないのですが、根本的に意識が違うと言った印象なんですよね。浮気性とかでは無く。
要はどちらも不器用なんですよね。
不器用故のすれ違いと言っちゃうには、この二人の十年て痛すぎるのですが。

と、二人のすれ違いに焦れて焦れて読者が爆発しそうになる頃、先に爆発する凛。全てを捨てて、日本に帰国です。
ここからが死ぬほど萌えるのです。
ちょっとだけネタバレですが、攻めザマァてトコでしょうか。
エリアスはエリアスで、誤解されててと気の毒な部分もあるんですけど、やっぱ萌える!!
もっと追い詰めてやってもいいんじゃないの?と。

ラストがすごく感慨深くて、最後の一行に涙腺崩壊です。
ホント遠回りし過ぎたけど、これまでの十年は、今この瞬間の為にあったんじゃないかと。
ここまでたどり着くのに十年て!! なんて不器用なカップルなんでしょうね。

先にも書いたように既刊全て読んでいますが、ちょっとこれまでに無い雰囲気の作品。新境地を開かれたのではないでしょうか。
浮気が地雷の方にはダメかもしれませんが、十年にも及ぶ壮大な愛の物語にぜひ心を震わせていただきたいです。


※追記です。
私は受けを酷い目に遭わせる攻めて大嫌いなのですが、小中先生の書く「酷い攻め」と言うのは好きなんです。
ずっと理由が分からなかったのですが、「愛を知らなかった攻めが、受けによって愛を知る」と言うパターンがどストライクだったんだと、今作でやっと気付きました。
エリアスの「愛を知った」後のヘタレっぷりにも注目して下さい!

33

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