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NYが舞台の大人のラブロマンス

ゲイであることを家族に知られて腫れ物のように扱われるようになり、生きにくさを感じていた受けが、赴任先のNYで同じ傷を抱える攻めと出会って恋に落ちていくラブロマンス。とっても良かった〜!

テーマがマイノリティに焦点を当てられているので重くなりそうなイメージなのですが、受けの圭が自由の国アメリカで、1年半というタイムリミットがあるからこそ、ここでは自分らしく正直に生きようと決めていて、何事にも素直に前向きに向き合おうとするので、読者もそれにつられてポジティブな気持ちで読めます。とっても健気ないい子です。

ゲイというだけで自分を否定されて周囲に理解されない。傷つけられるまえに自分から距離を取り、防波堤を作ってしまう。そんなお互いの傷も痛みも分かるからこそ、決して強引に踏み込んでいかず、ゆっくりと歩み寄って愛を育んでいくのがとてもロマンチックで良かった。

同情やいっときの激情ではなく、傷の舐め合いともまた違っていて。相手の心地よい距離感で共感することでお互いを癒し、少しずつ惹かれあっていくのが大人の恋愛って感じで自然で素敵でした。

寡黙でシャイだと思っていた攻めが後半めちゃくちゃスパダリになり、大人の包容力ある愛し方で受けを宝物のように扱うのがものすごく萌えた〜。外国人らしくパートナーに対する甘い言葉もベタなアプローチもこれでもかと発揮してきてにやにやした。攻めのアダムが自分が信じると決めた人にはとことん甘い、愛したがりな人だと分かってほっこりでした。

劇的なストーリーや伏線が貼られた練り込まれた物語ではないですが、ゆっくりと丁寧に恋を育んでいく受け攻めが好きな人にはおすすめしたい作品です!ラストも明るい未来を想像させる、余韻を残すラストで素敵でした。

じんわりあったかい大人のラブストーリー

受け攻め2人はそれぞれ漫画と小説でプロを目指す創作者で(攻めの方はもうデビューしてる)垣根は違うけどSNSを通じて出会って、互いにアドバイスし合い、励まし合う関係。ある日受けの漫画の書籍化が本人のあずかり知らぬ所でおじゃんになり、それを励ますために初めて実際にオフ会という名目で会って食事をするけど、実は受けは自分が耳が聞こえないことを攻めにまだ打ち明けていなくて…という感じです。

耳が聞こえない主人公ですが、そういうお話にありがちな作られた「かわいそう」感は全くありません。受けは確かに耳は聞こえないけどあくまでそれは受けの全てではなくて一面で。攻めは受けの人間性に惹かれて恋に落ちて、ほんとに愛しくて可愛くて、パートナーとして大切にしたくてしょうがないんだなという感じが随所にちりばめられていてすごく優しい雰囲気でした。見ていて微笑ましいカップル。にやにやします。

攻めの方が8歳歳上なんですよ〜!酸いも甘いも知ってるスパダリ紳士攻めがどうやって初心な受けに警戒されないように歩み寄ろうかな陥落させようかなとすごい考えてアプローチしてるのが伝わってきて可愛かった〜。実は攻めも1つ秘密を持っていてそれを受けに隠しているんですが、それも受けを思う優しさからの秘密で…お話のテーマにも合っていて良かったです。表紙にヒントがあります。

受けも受けで初めて人を好きになって悶々とする姿が可愛かったです。これって自分のこと好きなのかな、でも勘違いかも…と自分の感情がグルグル回って手に負えなくなっていってるのが微笑ましい。初恋に悩む普通の男の子でした。耳が聞こえないことに確かに引け目はあるんですけど、攻めがそれを受け入れて歩み寄ってきてくれたら、「自分なんて」とたたらを踏むんじゃなく、自分も勇気をだして信じてみようとまず1歩踏み出してみる子です。健気で優しい、芯が強い子でした。すごい好きだー。

難聴というテーマを軽く扱っているわけでなく、かと言って必要以上に重くしているんでもない、バランスのとれた素敵なお話でした。 タイトルからライトな可愛らしいコメディテイストなお話かなと勝手に思ってたけど、実際読んでみると落ち着いた雰囲気のじんわり沁みる大人の恋のお話。とってもオススメです!

リバース コミック

麻生ミツ晃 

オメガバースへのアンチテーゼ



腐女子の好きな要素がふんだんにあしらわれた「オメガバース」という設定。運命の番、子育て、発情期…。設定だけで多くのロマンが詰まっていて、今や1つのジャンルとして多くの腐女子に広く愛されるようになってきていますね。ある程度設定が固定されているからこそ、安心して読める。手に取りやすい。裏切られることが少ないジャンルだと個人的には感じています。

その手軽さが私はお菓子の手作りキットに似ているな、なんて思っていました。料理人によって多少の味の違いはあれど、完成系はある程度決まっているような感じ。美味しいけれどどれも似てる。ハッと驚くような意外性はあまり無い。

でも、本作でその考えを見事に覆されました。オメガバースの世界観を麻生先生がじっくりと咀嚼し、ストーリーを練っていったのが物語の端々からすごく伝わってきます。

オメガバースの美味しい部分だけを掻い摘まむのでは無く、普段スポットの当たらないその世界ならでは苦悩や葛藤、暗い部分にも果敢に切り込んでいき、それが物語全体に深みと奥行きを持たせています。オメガバースが苦手な人や、運命の番設定に疑問を感じる人にこそ読んでもらいたい作品です。





主人公二人の、相手を思うが故に雁字搦めになってしまう関係が辛く切なく愛おしいです。受けの円がずっと抱えてきた、孤独な優しい嘘を知った時、そのあまりの一途さと健気さに、読者は彼を愛さずには居られなくなります。健気受けが好きな腐女子の方はぜひ!

語りたいことは沢山あるけれど、ネタバレは一切無しで読んで欲しい作品。ミステリ要素もあり、各話の引きが凄くて「次は?次はどうなってしまうの?」とページを捲る手が止まりません。厚いですがあっという間に読んじゃいます。

極上のオメガバース。麻生先生にしか描けない作品です。今年始まったばかりですが今年の自分のマイアワードはこの作品と決めています。自信を持って勧めたいです!ぜひ読んでください!



エモすぎる作品

エモい…エモすぎる作品…。前々からTLを賑わせていた作品で、自分の中では相当期待値のハードルを上げて見たのですが、それを裏切らぬ映像美、ストーリー、構成でした。

私はアンチ映像BLでは無いものの、人気作品だからと言ってあれもこれもと早急に映像化するのは違和感を覚える質です。やはり小説には小説の、漫画には漫画の敷地があって、その分野だからこそ輝いている、それでしか出来ない表現の仕方があると思うからです。決して映像=漫画や小説の上位互換ではない、というのが私の認識の仕方です。それを踏まえた上でも、この作品はほかの表現方法ではなく、映像であることに意味があるなと思わされました。

映像作品ではあるものの、決して台詞自体は多くありません。必要以上のことは語らず、むしろ表情や仕草、空間や間の置き方で登場人物の感情や気持ちを訴えてきます。短編作品なので尺自体はそんなに長くはないのですが、それでも「間」を本当に大切に扱っていて。BGMも台詞もない時間があるけれどそれが苦しくない。むしろその空白が心地よく、見る側に様々なことを想像させる余韻や余白を残してくれるんです。

色彩の使われ方も本当に美しくて。淡いタッチで描かれる背景に光が描かれるのが本当に効果的で、まるで攻めのソンホの目を借りて自分がその場にいるような臨場感でした。主人公である受けのミョンは作中横顔で映ることが多いのですが、学生時代のソンホがこっそりと、盗むように彼を見ているとことがそれだけでも伝わってきて、素敵な表現の仕方だなあと思わされました。濡れ場も結構ガッツリ描かれているのですがセクシャルな印象はあまりなく、もう本当に神聖で美しいシーンでした。エモい…BGMもエモすぎます…。

作画枚数がめちゃめちゃ多いというかんじではないですが(いわゆるヌルヌル動くと言うやつではない)細かい部分の動きが本当に丁寧で、流れる涙の軌道だったり、触れ合う時の手の仕草だったり、人物にかかる影の動きだったりが本当に素敵でした。細かいんですけど攻めが受けに触れる時、漫画では効果音として文字として描かれそうな仕草が(ナデナデとかギュッとか…)映像になるとこうもキャラクターの感情を表現できるのかと目から鱗でした。ネタバレかもしれませんが最後2人が抱き合うシーンが大好き過ぎて…。二人とも顔が見えないのに攻めが受けを心から愛おしんでいることがめちゃくちゃ伝わってきました…。

…とここまで冷静に語ってきましたが健気受け&スパダリ攻め大好きな私にはどストライクの作品でした萌えました泣きました。受けの置かれてる立場の方が攻めよりちょっと苦しいのでよく泣くシーンがあるんですがその泣き顔がほんとに可愛い…健気…泣ける…。今日届きましたがもう5週くらい見てますこの世界観にどっぷり浸かりました…。とってもとってもオススメ!ぜひ見てみてください。

悲しくも美しき大正浪漫

貿易商を営む宗方家に執事見習いとして入った弓削は、執事修行に励む中、宗方家の嫡男・鉄真に惹かれていく。鉄真もまた弓削の勤勉さや生真面目さを愛おしく思い、二人は淡い初恋を大切に育てていた。いつか灯台を建てる鉄真を傍で見守る事を心の支えにして精進していた弓削だったが、ある日宗方家の現当主である鉄真の父に身体を暴かれてしまう。

 阿片に毒されていた鉄真の父に諫言は通じず、他の使用人も見て見ぬふりをする中、人形のように身体を好き勝手に弄ばれる日々にただ絶望する弓削。それでも鉄真と語り合った夢を心の拠り所にし、ひたすらに耐えていた。しかし遂に阿片に狂った当主は鉄真に言いがかりをつけ、鉄真を手にかけようとする。鉄真を守るために当主を斬り殺す弓削。宗方家で起こった全ての事の顛末を弓削に被せ殺そうとする宗方家の家人たちだったが、鉄真はそれを制し、弓削に「一生傍で罪を償え」と告げる。

 以来弓削を守るために使用人たちの前で彼を罪人として扱い、辛く当たる鉄真だったが、事件前よりも強い愛情と執着を弓削に寄せるようになっていた。いつか弓削を宗方家から解き放ちたいと願う鉄真と、鉄真の傍にいたいとただただ願う弓削。二人の愛の行きつく果てはいかに。…という感じのお話です。

 文章の構成、表現、ストーリー、どれをとっても洗練されていて、物語の世界観にグイグイ引き込まれていきます。また、情景描写も素晴らしくそして美しく、読後はまるで映画を一本見終わったかのように、1つ1つのシーンが映像として浮かびあがります。漫画を読んだ後に絵が思い出されることはよくあると思うんですが、文ですべてを構成される小説において、場面や登場人物の行動が文でなく映像として思い出される体験というのが私はあまりなくて。尾上先生の稀有な表現力を堪能することが出来る名作です。

 物語のキーパーソンは主人公の弓削だと思うのですが、彼がなかなかに一言では著せない難しいキャラクターです。ちるちるでは不憫・健気受けにカテゴライズされている彼ですが、執着受けもぜひ加えたいところ。弓削は事件以来身体に癒えない爪痕を残され、心が砕けてしまい、鉄真を全ての行動原理として過ごすようになるんですが、同時に異様なまでの執着を見せるようになります。

 鉄真は深い愛情から弓削を宗方家から追い出そうと何度も画策するのですが、弓削はそれらを全て跳ねのけ、ただ鉄真の傍にいようとあらゆる手段を使います。毒を自ら飲み、地図のない山道を夜通し歩き、折檻を甘受する。これが相手のためを思う行為ならばただの健気受けであり、美談だと思うんですが、彼は違うんです。鉄真の傍にいるのは自分のため。たとえ鉄真から疎まれていたとしても、自分が宗方家にとって害をなす者であっても傍にいたいと願うんです。なかなかのエゴイストだなと思わされるのですが、鉄真以外の全てを望まないから彼を取り上げてくれるなという狂気にも似た彼の悲しい愛し方が頑固で潔くて私は物凄く好きです。
 
 弓削は事件前の自分が愛されていた自覚はありながらも、鉄真の父親に身体を汚され殺人を犯した自分は醜いと蔑み、鉄真の愛情を信じ切ることが出来ません。しかし物語を通して十数年もの間、鉄真への歪んだ愛し方をひたすらに貫く弓削は健気で可哀想で…。読めばきっと惹かれるものがあると思います。

 鉄真もなかなかの執着攻めです。弓削を何度も彼のためだと宗方家から追い出しますが、何度も戻ってくる弓削の姿を見て弓削の愛情を試し、安心しているような部分もあるのです。弓削を不幸にさせまいと必死で家業をこなす鉄真。愛の重さや深さは同じでありながらも、弓削を宗方家の呪縛から解き放つことが彼の幸せだと信じて疑わない鉄真と、ただ鉄真の傍にいることを望む弓削のすれ違いがもどかしいんです…。切ない…。

 そして鉄真は建前上、弓削を父の仇として弓削を扱わなければならないため、彼への愛情を日の下で表すことは出来ないのですが、だからこそ他者の目を忍び、互いだけが分かる表現の仕方で弓削を大切に扱ったり、愛情を伝える鉄真がすごく素敵なんです…。桃だけでこんなにも二人の狂おしいほどの愛を表現できるのかと唸りました。本当にぜひ読んでほしい。

 好きなシーンは本当にありすぎて選べない。苦渋の決断で挙げると、弓削が最初に屋敷を追い出されるシーンと、先ほども言った桃の描写、そしてラストシーンが本当に美しくて好きです。耽美…。

 本文は余韻を残して終わるラストなのですが、彼らのその後や本文中で語られなかったシーンが描かれた同人誌が4冊ほど出されています(本文中に登場した人物のスピンオフのような同人誌も一冊)本文が人によって様々な捉え方が出来る本当に美しい締め方なので、購入をためらわれる方もいらっしゃるかもしれませんが、本当に素敵なのでぜひ読んでほしいです。

 いつか出る電子版を夢見ていたのに久しぶりに来た情報が絶版で本当に本当に悲しいです…。間違いなく名作なので手に入らなくなる前にぜひ本当に読んでくださいお願いします。いつか読もうかな~と思う方はぜひ購入だけでも。

京都弁が美しい


『戀という字を 分析すれば 糸し糸しと 言う心』

タイトルは本文中にも出てくるこの都都逸が基になっています。ぴったり。

京都の老舗旅館『井筒屋』の若き当主、荘一が亡くなる。彼に密かな恋心を抱き、悲しみに暮れていた侑央の前に現れたのは荘一の弟、千秋だった。次男として家族に愛情を受けずに育ち、東京で銀行員として成功を収めている千秋は後継ぎを望まれながらも、旅館を売却するつもりだと周囲に触れ回る。旅館を潰すわけにはいかないと井筒屋の女将から説得を頼まれた侑央に、千秋は「侑央が自分のものになること」を条件に旅館を継ぐことを持ちかける。荘一が大切にしていた旅館を守りたい侑央は千秋に身体を差し出し、以来2人は身体の関係を持つようになるが…。というお話です。


執着攻め×健気受け。幼馴染、再開もの。上下巻で物語が完結します。

舞台が京都なので登場人物のセリフがすべて関西弁で繰り広げられるんですが、これがめちゃくちゃ艶っぽかったです…!登場人物たちが古い慣習やしきたりが色濃く残る地域で育ってきた人たちなので、何気ない会話や情事の際のやり取りにも品や奥ゆかしさが見え隠れしていて、ものすごくときめきました。

攻めの千秋が策士に見えて、ものすごく不器用と言うか、普段は何でも卒なくこなして見せるのに、昔から侑央の心だけは思うようにならず、なんとか手に入れようと躍起になっているのが不憫で可哀想で萌えました。侑央に好かれるためなら何でもする千秋。嫌いな実家と決別する意味で1から積み上げてきた社会人としての自分の地位も侑央のためなら簡単に手放すし、幼いころから劣等感の原因でもあり恋敵でもある兄の声や口調を侑央の気を引くためにプライドかなぐり捨てて真似て、侑央を抱いているときに「目ぇ、閉じとき。そしたら兄貴としてるみたいやろ?」とか言ったりするんです…。なんて健気な執着攻め…。

受けの侑央も気が弱そうな受けに見えて身持ちが固く強かで簡単には流されない頑固さがあり良かったです。幼馴染としては確かに誰よりも信頼を寄せているのに、自分とは違う思いを千秋から向けられて思い悩む彼の葛藤が良かった。下巻の高校時代のエピソードで変わってしまった千秋にを思いを馳せ、過去の幼馴染である千秋を恋しがって「…千秋ちゃん、…どこ…?」と呟く彼の台詞が切なかったです。千秋は確かに侑央から求められているのにそれは恋人としてではないという…。ううう切ない…。

受けの視点でも攻めの視点でも物語が描かれているのでどちらにも感情移入しやすかったです。(不憫な分、どちらかと言うと攻めの千秋に肩入れして読んでしまいましたが)あらすじだけ読むと攻めが無理やり迫って受けを翻弄している構図なのかなかと思いきや、どっこい読んでみればなかなか振り向いてくれない頑固で頑なな受けに攻めが振り回されているという構図で、力関係は完全に受けの侑央が上でした。惚れた弱みと言うやつですね。受けが機嫌を損ねるとすぐに自分が折れて謝ったり、あれやこれやと手法を変えて侑央が喜ぶ方法を考えたりする千秋が可愛かった。押して押して押した千秋に最後はほだされた侑央と言った感じでちゃんと結ばれました。長年の想いが実って良かったね…!

好きなシーンは上巻の大晦日を二人で過ごすシーンと、そのすぐ後電話で二人が会話するシーンと下巻の二人がようやく結ばれるシーンです。とてもよかった…。文の端々に現れる小物や着物、和の色の名前なども物語の奥行きを広げ、より世界観を立体的にする役割を担っていました。京都の静かでどこか柔らかい雰囲気が一貫して物語の中に流れていて良かった。京都行きたいです。とてもいい作品でした。すごーくおすすめです。

スパダリイケおじの魅力が詰まった作品

主人公の伊瀬はゲイ。性格も良く家庭的で一途な受けなのに、これまで付き合った男はろくでもない人ばかりで、今回のお相手にも「母ちゃんみたいでめんどくさい」という理不尽な理由で振られてしまった。一方的に振られて傷付いていた伊瀬の上に降ってきたのは、洗濯済の男物の下着。落としたのは紳士的で清潔感のある中年紳士、菱本という男性だった。
 
 落とした下着を拾ったお礼にと部屋に招かれる伊瀬だったが、菱本の部屋のあまりの散らかりように絶句。日常的に家事をしている伊瀬は汚い部屋を放置できず、菱本の片付けを手伝うことに。片付けながら元彼のことを思い出してしまい、涙する伊瀬。そんな伊瀬を菱本は優しく慰め、伊瀬は菱本が洗濯物を落とした本当の理由を知る。

 この出来事をきっかけに2人は関係を深めていく。穏やかでさり気ない菱本の優しさに失恋の傷が癒されていくのを感じている伊瀬。しかし、これまで悲しい恋を繰り返してきた伊瀬は、菱本に惹かれている自分を自覚しながらも、もう恋で傷つきたくないと菱本を避けるようになってしまい…。というお話です。

 表紙がめちゃくちゃ攻めてて大人なカプなのかなと思いきや、作者の上田先生があとがきで言われていた通り、大人を通り越した、穏やかな縁側カップルでした笑
 
 攻めの菱本さんがめちゃくちゃ素敵なおじ様でたまりません…!紳士的で包容力があって色気があって…。まさにスパダリ。スリーピーススーツなんかを嫌味なくサラッと着こなしちゃう隙のない男性かと思いきや、家事は全然ダメというギャップもあり。彼の穏やかで優しい雰囲気に受けの伊瀬はどんどん惹かれていきます。
 

 受けの伊瀬もめちゃくちゃ健気ないい子なんです…。本来はよく笑うおおらかな性格だと思うんですが、これまで恋によって付けられてきた傷のせいで恋愛に対してはとことん臆病、引っ込み思案になってしまっていて…。想いを自覚しながらも菱本さんに惹かれまいとする伊瀬はいじらしくもあり可愛らしくもあります。読後は素敵なお相手にやっとめぐりあえて良かったねと心から思いました。
 

 上田先生は初めて読んだのですが、細かいところまでとても大切に描かかれる繊細な先生なのだなあと唸りました。1番素敵だなと思ったのは端々に現れる「手の表情」で。小さいキスシーンや、さり気なく2人が傍にいて触れ合っているシーンでも、受けに触れる手の位置や仕草、置き方で攻めがめちゃくちゃ受けに愛情を持っていることが伝わってくるんです…。
 
 あとこれは攻めの菱本さんが紳士的な性格だからだと思うんですけど、セックスする時に、めちゃくちゃ荒々しく服を脱ぎ散らかした描写で攻めの切羽詰まった気持ちを表現したすぐ後に、受けを傷つけないようにか、セックスの前に攻めが腕時計をちゃんと外す描写があって。服を脱げば行為には及べるはずなのに、そもそも読者も描かれるまで時計をつけてるとこさえ気付かないのに、そういうところをちゃんと描いてるところが素敵だなあと思いました。コンドームつけてる時にも受けの足に頬を擦り寄せながら愛撫するんですよこの攻め。すごーく素敵でした。
 
 あとキャラの表情がとてもとても素敵なんです。攻めの視点で見る受けの笑顔とか無防備な表情がめちゃくちゃかわいくて、好きになった理由がわかって共感できるし、攻めが受けを見る時、受けを思い浮かべた時の表情がとっても慈しんで愛おしんでいるのが伝わってくる優しい表情で…。好きで好きでたまらないのが伝わります。個人的に好きなのは本編後の短編で同僚に伊瀬をかわいいと自慢した時の菱本さんの横顔と、そのあとの洗濯してくれる伊瀬を見て手で顔を覆ってしまう菱本さんです。魅力的でたまりません~!
 

 上田先生のほかの作品も読んでみたいと思いました。
 すごーくすごーく面白かった!おすすめです!

受けがひたすらに健気で愛しい

ファンタジー、再会もの。だけど重きを置いてるのは設定じゃなくて恋愛なのでふんわりと読めます。以下あらすじ。
 
 主人公の青は環境の変化から自分達の星で暮らせなくなって移住してきた宇宙人の末裔。青は一人ぼっちで、一族が大事にしてきた「花」の守りをしながら暮らしていた。
 
 この「花」には特別な力があり、青たち宇宙人の食料になるだけでなく、人間が含めばどんな不治の病も治す力を持っていた。食糧である花を人間達に奪われないように、そして人間とは違う見た目の青達は魔物として忌み嫌われているため、青は人里には決して近付かないよう何度も教えられてきた。

 しかしある時、青は怪我をしている少年、正人と出会う。いけないとは知りつつもあまりの怪我に、青は言いつけを破って花の力を使って彼を助けてしまう。お互いが一人ぼっちだったことから、会う度に仲良くなり、かけがえのない親友になる2人。しかしある日正人が家庭の事情で引っ越すことに。「絶対に行かない」という正人に、青は自分の力を使い、正人の中の自分に関する記憶を消してしまう。

 それから十数年正人のことだけを思って過ごしてきた青だったが、彼の命は環境の変化に耐えられなくなっている花と共にもうすぐ尽きようとしていた。そんな中、大人になって医者となった正人が現れる。命が尽きる前にもう一度だけ幼い頃のように正人と過ごしたいと思った青は、人間に化けて正人と暮らすことに…。というお話。
 
 めちゃくちゃ泣いてしまった~。青がもう健気で純粋でめちゃくちゃ可愛いんですほんとに…。宇宙人の青は本来の姿と人間の姿の両方が出てきますが、本来の姿もオオサンショウウオ似でゆるキャラみたいでほわほわ~っとしててかわいいです。彼が本来の姿で一生懸命短い手足でよちよち何かを頑張るのを想像すると思わずクスッとしてしまいます。性格もとても素直で純粋で。自分を犠牲にしても愛する人が幸せになることをしたいという獣の純粋さは何度も読者を泣かせに来ます。私はこの青に少し人魚姫を連想しました。
 

 攻めも優しくて綺麗な心を持ったスパダリ。若くしてルックスもよく優秀な医者の彼は特に青に対してはとことん甘くて、青のために尽くしてあげたくて優しくしたくて仕方ない甘々な攻めです。人間の青も宇宙人の青も等しく愛していて、見た目に惑わされず、青を受け入れることになんの躊躇もない彼はめちゃくちゃ男前でした。色々あって記憶が戻ったときに、嫌われたくない気持ち悪がられたくないと怯える魔物姿の青に接する彼が最高でした。本編後も短編で甘々な2人もちゃんと描かれています~。
 

 登場人物もみんな性格よくて読んでると心が洗われます。少しご都合主義気味の所はありますが、それよりも素敵なシーンが多かったので私は気になりませんでした。本格ファンタジーではないので雰囲気を楽しみながら読むのがいいかと思います。

大人の痛くて苦い恋愛の上質なBL

「ずっと遊んでいようぜ、俺とお前と静、三人で」
 

 攻めの良時と受けの密は幼馴染み。良時の妹の十和子と、喘息を患っていた密の病室が同じだったことをきっかけに知り合う。出会ってから良時と密と十和子は、お互いをかけがえのない存在として認めて成長していくものの、時間を重ねるにつれて、ずっと3人でいることの難しさに気付いていく。

 
 そんな中で、良時を想っている事を自覚しながらも、3人の関係を保つために、受けの密が選んだ選択は、十和子と結婚する事だった。十和子は密の想いに気付きながらも、彼女のある事情から密のプロポーズを受け入れる。良時は別の女性と家庭を持ち、密の幼い頃の宣言のように、3人で仲良く、穏やかに過ごす時間が続いていた。互いの気持ちに見て見ぬ振りをしながら20年間保ってきた3人の関係性。しかし、その関係は十和子からある日突然突き付けられた「離婚」という一言からとうとう崩れ始め…。というお話です。

 
 新聞社シリーズ3作目。女性キャラがかなり深く物語の歯車として絡んできます。登場人物はみんな40代。平均年齢がぐっと上がるので、前作ほどの瑞々しさや甘酸っぱさ、疾走感はないものの、歳を重ねてきた大人の恋愛だからこそ滲み出る、しがらみや葛藤や苦味が良かったです。時間をかけてゆっくり丁寧に焙煎された珈琲みたいな小説。直接的な表現は少ないけど、何も無いところに実は登場人物の色々な感情や葛藤が散りばめられていて、行間を読む作品だなと思いました。
 
 


 受けの密がなかなか強烈なキャラクターで、一筋縄ではいきません。一癖も二癖もある人物。病弱で、クールで、博識で、口が悪くて、仕事が出来て、捻くれ者。最初はこの人をどう料理したら受けになるんだろうと首を傾げていましたが、読み終えると納得。彼が大切な人にしか見せない弱さがあって、大切な人の為なら何を犠牲にしても構わないという危うさを持っていて。すごく献身的でいじらしい健気なキャラクターなんです~。でもこれは対良時さん限定の受けだなと思いました。密の健気さって他作品の健気受けみたいに常に出てるわけじゃないんですよ。普段は飄々とした食えない奴なのに、ふとした拍子にグラッと崩れかけて、そういう健気さを見せるのがずるい。一穂先生しか書けない魅力的なキャラクターだな~と思いました。
 
 密が良時の元妻に罵倒の限りを尽くして罵るシーンがあるんですけど、もう凄いんですよ。敵意剥き出しでよくそんな悪口思い付くなってくらい。彼女が良時を裏切って他の男の人と子どもを身篭ったっていう背景があるんですけど。賢い上に博識だからもう口が回るのなんの。

 そのすぐ後に良時に結構無理やり体を暴かれるんですが、そこで初めて身体を暴かれて苦痛しかないはずなのに、密はさっきとは打って変わって悪態のひとつもつかず無言で耐えて抱かれるんです。なんだかそのギャップに密~;;となりました。

 好きなシーンは、密が「ままならねえよ、なあ、良時」って言う所と、電話中に良時さんに書かれたたくさんの「密」の文字に密さんが身体を火照らせる所です。「良時の手で遊ばれた自分の名前」っていう表現がなんか物凄く艶っぽくていいなと思いました。あと、全部読んだ後もう一度読み直して「良時良時」を探すのが楽しかったです。

 密の魅力にどっぷりハマった1冊でした。面白かった!

星をテーマにした美しく悲しいお話

瑠璃色のとんぼ玉。鏡写しのオリオン。
 傷ついたルリビタキ。透明なインク。

 これらを鍵にしながら、物語は進んでいきます。

 尾上先生の1945シリーズの1作目で、太平洋戦争時代を生きた人達の物語。シリーズの中でもこの作品は少し異色で、日本を舞台に物語が進んでいきます。痛くて、苦しくて、切ないけれど、とても美しいお話。私はシリーズの中でこれが一番好きです。

 舞台は昭和19年で、終戦間近。戦況が思わしくない日本が、起死回生を狙って特攻隊を募り、敵軍を撃墜させようと躍起になっている時代。そんな中で、受けの希は自分の命の恩人であり、初恋の人でもある資紀が、特攻に行かなければならない状況にあると知る。希は自分が彼の身代わりとなるために資紀の家に養子としてやってくるけれど、資紀は自分を助けてくれた昔とは違う、冷たい青年に成長していた。それでも希は、昔の恩を返したいという一心で、特攻に行くまでの短い期間、資紀に報いようと様々な手を尽くすけれど、そんな希に、資紀はただつらく当たってくるばかりで…。というお話。

 戦争の時代をテーマにしていますが、掘り下げすぎることなく、軽く扱っているわけでもなく。尾上先生独特の美しい言葉で物語が綴られていて、とても読みやすいです。戦闘機などの描写も、この作品ではほとんど出てきません。理由は主な舞台が戦場ではなく、出撃する前の日本での生活だというところが大きいかな。ただ平和な今の時代とは違い、常に死と隣り合わせという状況があるので、そこから生まれる感情や葛藤、覚悟なんかは重く苦しいものが多いです。でも読んでほしい。物語後半は涙無しには読めませんでした。


 主人公の希がただひたすらに健気。天文学を志す父の元に生まれたため、賢くて聡くて、どこか達観してる所がある子なんですけど、そんな賢い子でも理由が分からないくらい、攻めから色んな理不尽な扱いを受けます。到底叶えられない無理難題を押し付けられたり、大切なものを壊されたり、無理やり体を暴かれたり…。でも、それでも希はひたすらに攻めを疑わずに慕い続けようとするんです。5歳の頃助けて貰った大切な思い出と、長年大事に温めてきた資紀への気持ちを、その張本人からどんどん粉々に壊されても尚。その姿が見ていて可哀想で、痛々しくて。読み進めるのが辛いシーンもありました。ほんとにこの子がいい子すぎて健気すぎて、攻めの資紀さんに対して疑心暗鬼になりながら読み進めました。

 攻めの資紀の性格がなかなか拗れてて読めないです。優しいのか、冷たいのか、昔の彼と今の彼のどちらが本物なのかがほんとに分からない。彼の内面に触れられる描写が物語中にほとんどないので、読者は希と同じ気持ちで話を読んでいくことになると思います。なんで?どうして?そんな気持ちではらはらしながら私も読みました。

 王道の展開かと思いきや、衝撃のシーンが待っていたり、なぞかけのようなものが端々に隠されていたり。読み応えは十分です。戦争物にありがちなきな臭さ、生臭さはあまり無く、星を大きなテーマとして、どこか幻想的で美しい雰囲気でストーリーは展開していきます。少しだけネタバレを含んで言いますと、死ネタ、バッドエンドはありません。そして読み終わった後は、資紀の視点でもう一度読みたくなるはず。私は彼が唯一優しく希を抱いたシーンを読み返して、涙が止まりませんでした。本編後の短編で、穏やかな2人のその後を垣間見ることが出来ます。この手のお話が苦手ではない方はぜひ、読んでみてください。

そして尾上先生が出されている同人誌「葉隠否定論」ではこの作品の資紀視点で物語が繰り広げられ、彼の葛藤や希への狂おしいほどの愛が描かれています。作品を気に入った方には必読かと思います。そちらも合わせて是非。