一度食べたものの材料を記憶できるという、「絶対味覚」を持つ受けと、先々代のケーキの味を蘇らせようとする、有名洋菓子店社長の攻めが出会うお話。
わかりやすいシンデレラストーリーであり、貧乏青年が天職を与えられて活躍する、サクセスストーリーでもある。
サブタイトルの溺愛は正直そこまで感じなかったけど、受けにじゃれまくるワンコに嫉妬して、こっそり釘を刺す攻めがお茶目で可愛い。
受けのことがもう好きになっちゃってるのね〜、と読者はニヤニヤできるのだけど、このタイプの受けはそういう雰囲気にはとにかく鈍いというお約束。
いつも前向きで頑張り屋な受けには好感が持てたけど、前の会社を辞めた経緯とか、攻めに婚約者がいると誤解したくだりとか、もうちょっとハッキリした態度で、男っぽく行動してもよかったかな、と物足りなく感じる部分もあり。
読みやすくていいお話なんだけど、好みという点ではキャラにそこまで萌えられず、ちょっと残念。
すべての沙野作品を読んでいるわけではないのだが、ここ最近の先生の作品は、単純な好いた惚れたではない男同士ならではの関係を模索しているような気がする。
問答無用で相手に引き寄せられてしまう引力、相手を支配する力、その力の強さを競う駆け引きめいたもの。
それらすべてを恋と一言で言ってしまってもいいのかもしれないけど、BLにおける恋というものは、男女とは違うのだからもっといろいろな切り口で描けるはず。先生はそう思っておられるように感じる。
前作の「獣はかくして交わる」が好きだった方なら、絶対このお話もお好きなはず。
私は残念ながら、殺したいと思うまでの攻めの受けに対する執着を理解することは難しかったのだけど、こういう、甘いだけじゃない、一言で言い表せない関係性を描いたBLがもっとあってもいい。男同士だからこそ、恋とか愛とか、普通の枠組みにとらわれなくても、BLはもっと自由でいいんだと思う。
「兄弟の定理」は読まなくても理解できる内容だけど、医者の兄に会いたいがためにわざとケガをするスタントマンの弟、という設定が大優勝なので、未読の方はぜひとも読んでみてほしいです(私は神評価つけてます〜)。