雲絶間姫さんのマイページ

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女性雲絶間姫さん

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備えない勇気

 大っ変珍しいものを見せてもらっちゃいました。有事にあたって「備えない」国江田計。だってあの国江田さんだよ。小3で書道の授業が始まるのを見越して小2のクリスマスプレゼントにペン習字おねだりするような人だよ。それが麻生さんからいきなり話を振られるのを半ば予期しつつ、あえて「備えない」選択をした。しかもそのテーマときたら「番組制作における嘘と真実」だもんね。彼ほど日々本音と建前、虚像と実像を見事使い分けて生きてる人もめったにいないだろうに。麻生さん、まさか知っててわざとじゃないよね⁉
 
 でも、だからこそ、計は備えないという選択をした。栄渾身の映像を見た直後の現場の空気を揺らぎや迷いもそのままに、正味で伝えたかったから。視聴者だって分かる。アナウンサーも一人の人間であり、会社員だ。その口から出る言葉が常に本当のことだとは限らない。でも今、この一言だけは、掛け値なしの本音だと思える瞬間も確かにある。それはたいてい、緻密な計算とか周到な準備とかを取っ払ったところからひょいと現れるのだ。

 以前の計だったら、そんな選択恐ろしくて到底できたもんじゃなかったと思う。肚が据わって、なんかまた一回り大きく、いい漢になったよね。この巻、潮の「う」の字も出てきやしないんだけど、計の成長の後ろに、頼もしい相方の存在が透けて見える。これまで二人で時間をかけて一つひとつ積み重ねてきたものがあるから。シリーズものを読む醍醐味ってこんなとこにもある。

 なっちゃんの変化にも目を見張るものがあった。あのとびきり臆病な猫みたいな、人と正面から目を合わせることすらできなかった子が、神とも仰ぐ栄に真っ向から「それはちゃいます」と言える日が来るなんて。こちらもやっぱり恋の浮力に背中を押されているのかな。ただ彼の場合、恋人ができようが「ゴーゴー」を離れようがやっぱり一生自分は栄の「一の子分」だと思ってて。それは「一番長い」とか「一番近い」とかいうよりむしろ「そんなん俺しかおらへんやろ」というオンリーワンの認識だったらしいのだけど、この巻でなんとその地位を脅かすやもしれぬ新キャラが登場し、内心ひどく焦りまくるなっちゃんというのも珍しくて面白かった。

 ここまで長々つづってきて、ようやくですが主役の二人について。正直、栄ってこんなにもナイーブで脆い、壊れもののような人だったっけ…と少々当惑気味で読み進めました。その傑出した映像制作の才能に比して、あまりにも乏しい対人スキルのせいでどこにいっても波風は立ちまくるし、周囲の人間をばっさり切り捨てて返す刀で自分自身をより深く傷つけずにはいられない習性も今に始まったわけじゃない。でもすくなくとも「ゴーゴー」で突っ走ってた頃の栄はそれをつらいとも寂しいとも思ってないように見えた。

 設楽が公私ともに栄のそばに戻ってきて、一気に安定するのかと思えば逆で、再び設楽に自分のせいでいろんなものを擲たせてしまうのが怖くて、せっかくの新天地なのにのびのび仕事ができない。当の設楽は、栄が栄らしくあるためならいつでも自分を踏みつけにしていいと思ってるのに。どうにもかみ合わない二人。エッチシーンの回数と分量は年齢の割にたっぷりめ(大きなお世話)ながら、LOVEの面では大盛り上がり、とは程遠く。このシリーズのもう一つのキモ、っていうか毎回そっちの方をむしろ楽しみにしているお仕事面でも、やらせ問題やら出張先での大災害やら盛り沢山すぎて、少々散漫になってしまった感あり。「これぞ相馬栄」みたいな大仕事が見たかったし、そのためににこやかに暗躍しえげつない辣腕を振るう設楽も見たかった。これも一穂作品の罠。読むほどに欲深くなる読者の沼から抜け出せない。