みざきさんのマイページ

神作品

マスターレビューアー 「BLアワード検定」合格証 ソムリエ合格

女性みざきさん

レビュー数12

ポイント数182

今年度17位

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糖度の高さと多幸感がすごい

ゲイルの胸の効果音が「ぱいーん…!」で笑ってしまった。
確かにこれは見逃せない豊満な胸元ですよね。
上巻に引き続き、内容を少々ぼかした原作未読の者のレビューとなります。

さて、上巻でも甘さたっぷりの作品でしたが、下巻では更に糖度がパワーアップしていたのが嬉しいところです。
新たなキャラクターも多数加わり、やがて新たな展開へと。
結構一気に人数が増えたように思うのですけれど、上巻で感じたのと同じく、1人1人のキャラクターの描き方が丁寧かつ魅力的なので、これまた混乱することなく読めました。
私はセバスチャンとテオドールくんが好きです。可愛い。

盛り沢山な内容をどっさりと抱えながら新たな展開へと進んでいきますが、メリハリがあって読みやすく、それでいて面白いんです。
こちらのコミカライズ作品。チカが過去になかなかの辛い境遇に居たことや、この世界での一部の獣人によるヒト族への扱いがあまり良いものではないことを読み手に伝えつつ、なおかつ悲惨にし過ぎないぼかし方が上手くて。
あまり辛く描いても読んでいてしんどいですし、省きすぎても軽くなってしまう。
その塩梅がちょうど良いのがすごいなと。
この描写があるからこそヒト族には幸せになって欲しくなりますし、チカにも幸せでいっぱいになって欲しくなる。
チカとゲイルとダグラスというのは、関係を図にするのなら三角関係になると思うのです。
ただ、ゲイルとダグラスの攻め同士の信頼関係が深い様子が見てとれるのと、チカへと与えられる惜しみない愛情が心地良い。
関係性が平和かつ、"愛を与える獣達"がとてつもない安心感のある愛し方をしているので、最初から最後まで安心して読めるんですよね。
周囲のキャラクター達を含め、多幸感でいっぱいの甘く優しいお話でした。うーん、素敵!

原作未読の視点から一言で言うのなら「読んでよかった!」です!
本当にテンポが良く読みやすく、お話も面白いですし、松基先生の画もとても綺麗で、気付くとこの世界観がしっくりくるというのかな。
上下巻末に収録されている茶柱先生によるSSでは、キャラクターの本編とは違った側面が見られたり、原作小説の雰囲気も感じ取れますし、読み終えた頃には原作も追いたくなってしまっていました。
結論としましては、非常に良いコミカライズ作品でした。
こちら1冊だけでも、シリーズへの入口としても入りやすいのではないでしょうか?
願わくば、続刊分のコミカライズも読めると嬉しいな。

魅力的なデビュー作

こちらが作家様のデビュー作とのことで驚いています。
すごい作家様がデビューされましたね。

あのですね、まずお話がすごく面白いんです。
読み始めから一気にあとがきまで読んでしまったというか。
本当に読みやすい文で、なおかつ登場人物の1人1人に自然と心を持っていかれる。
何気ない発言のひとつひとつにサクッと刺さるものがあったりして、印象に残らなかった人がいないのです。
なんだろうな、上手く言葉に出来ないのが悔やまれる。
一言で言うのならば、良かった。とても良いお話でした。
ちゃんとBLなのですけれど、恋愛以外の部分も読み応えがあって非常に惹き込まれました。
私はこのお話、すごく好きですね。

個人的に、人を「個性」という言葉で括るのが少々苦手で。
「個性」って、本人よりも周囲が使うことの方が多くないですか?
都合が良い言葉だなというか、使うことによって、逆に差別や区別をしている感覚になるというのかな…これは私だけかもしれません。
なので、出版社によるあらすじにはうーん?となってしまったりして。

主人公である祭が獣人なわけですが、彼がこの世界では難病に指定されている先天性の獣人であるということを除くと、描いているものは普通の高校生や大学生という、まだアイデンティティが確率されていない若者達の日常なんですよ。
祭も哲平も、別に個性的でもなく、その周囲の人々もごく普通だと私は思うのです。
何も特別なことはないですし、特別な脳力だってない。
正直、2人だけではなく誰も彼もがどこにでも居そうな人ばかり。ここがすごく良かった。
マイノリティに対する反応や言動を含めて、ああ、こういう人って居るよねと思えるリアルさでした。

それは、人によっては目に見える形かもしれないし、人によっては目に見えないことかもしれない。
誰だって何かしらのコンプレックスを抱えていたり、どうにもならない生きづらさや、「なんだかなあ」なんてやるせなさというものを内に秘めながら日々生きていると思うのです。
上にも書いた通り、読みながら、分かるなあこのやり取り…なんて思うこともしばしばありました。自分の日常にも置き換えられる部分があるんです。
人の心の繊細な部分をテーマに描かれた作品なのですが、攻め視点で綴られる物語の空気は決して重たくはなく、リアルでいて、それでいてとても前向きなもの。
優しさだったり、人のあたたかさも感じられる。
私は祭の家族が好きでした。特に弟の楽くん。

難しいテーマやマイノリティ描く中で、メッセージ性がありつつも、作中で誰かを優遇することも、"こうあるべき"なんて言葉もないのがお見事です。
あくまでも自然に、流れるようにメイン2人の成長を見守りながら、ふと気がつくと読んでいる自分も少し救われる部分もあるというか。
「人生そんなに悪くないかもな」なんて気持ちになれる優しいギフトを貰えたような、とても素敵な1冊でした。
作家様の次回作も楽しみにしております。

愛おしい戦闘兵器

表題作既読です。
電子で先行配信されていた表題作がすごく好きだったんです。特に、元戦闘用アンドロイドのリアムが。
まさかその後の2人が紙本で読めるだなんて嬉しい。
(表題作部分に関してのレビューは電子配信版のページに投稿しています)
大きく変わっている部分はないかな?と思いますが、一つ挙げるとするのなら、とあるシーンの書体の変化。
もう、これはあまりにも憎い演出でした。たまらなかったです。

以下、書き下ろし部分のレビューとなります。


「機械兵士と愛あるプレゼント」
本編終了後から数年後のお話。
こちらの作品。戦争・戦争後の新しい世界、戦闘兵器と人間の恋は成立するのか?など、題材的にもあまりBL作で多くは見かけないものだと思うのです。
本編でも感じましたが、この難しそうな設定の数々を魅力的なBL作品として仕上げ、なおかつリアムとジェフリーだけではなく、サブキャラクターにも深みを持たせているのがすごいなと。

ジェフリーと、かつては敵側だったプロキシマ人の元メカニック・イーゴ。
どちらも血が通わない戦闘兵器と呼ばれていた存在によって人生を変えられてしまった2人。はたしてそれは良い方向に変わったのか、そうではないのか?
お互いを想ってすれ違う、アンドロイドのリアムとジェフリーの価値観の違いを描きながら、他種族であるイーゴとの価値観の違いも描かれていて、これがすごく面白かったんです。
イーゴを変えたアンドロイドは一体どうなってしまったんだろうだとか、なんだかプロキシマ側のお話も読んでみたくなっちゃいましたね。
もしかしたら、リアムのようなアンドロイドがプロキシマ側にもいるかもしれないななんて。
あとがきに書かれていたプロキシマβの歴史も気になる。

そして、本編でも心揺さぶられたリアム視点。
書き下ろしでもリアム視点になる度にグッと掴まれたというか、アンドロイドには情緒がないと言いながらも、少しずつ感情が豊かになっていくリアムだからこその言葉と行動がなんともいじらしいんですよ…
時にはぶつかりつつも、薬指を絡め合いながら、これからも2人で仲睦まじく穏やかに暮らす未来が見えるような、素敵な後日談でした。

前半は神、後半は萌萌。
どちらにするか悩みつつ、今回はこちらの評価で。
風祭先生の次回作も追いかけたいです。

表現のひとつひとつが優しく、丁寧

なんて素敵なお話なのだろう。
こちらの作品、すごく好きです。
作家様の別作品が面白かったので、特殊設定ではない現代ものも読んでみたいなと購入したのですが、これが大当たり。
レビューを書いている今、とても心地の良い読後感に包まれています。

自由の国・アメリカを舞台に、自由なようで自由ではない部分や、宗教や文化・習慣の違いを交えながら、男性同士の恋愛を真面目に、じっくりと丁寧に描いた作品でした。
同じ企業に勤務する、恋愛対象が「男性」の圭とアダム。
生まれも育ちも異なる2人ですが、自身のセクシュアリティに関して家族から理解を得ることは叶わず…と、過去に心に傷を負っているところは同じなのです。
これほどまでに自由な国だというのに、自分たちの中ではごくごく普通の恋愛でも、その対象が同性であるだけで、1番認めてほしい家族にはすんなりとは受け入れてもらえず、異質な者として見られてしまう。
アダムの家族の宗教観もあって、場合によっては日本よりも風当たりが厳しい部分もありますね。

差別・偏見・宗教と、かなりセンシティブなテーマを描いているのだけれど、お話のトーンは決して暗くはないのです。
むしろ、すごく前向きで優しいお話だなと感じました。
読み進めていくと、はじめはぼんやりと曇っていた空にうっすらと陽が差して、淡い色でグラデーションを描きながら少しずつ晴れていくようなイメージ。
導入からするりと読みやすく、それでいて非常に丁寧で繊細な描写が光ります。

桜部先生の文章の雰囲気が、なんだか読んでいて「いいな」と心地良さを覚えてしまう文章なんですよね。
すぐに恋愛関係になるのではなく、同じ痛みを知る圭とアダムが出逢い、ゆっくりと一歩ずつ。
心の交流を重ねながら、ただの同僚から友人になり、もっと親しい友人に。
2人の距離の縮まりがアメリカでの何気ない日常生活と会話で自然に表現されているのが良いのです。
傷を舐め合う2人ではなくて、お互いに支え合って前を向く2人だったのも素敵でした。
頑なだったアダムの変化と、圭の前向きさ、そして何より、誠実さと優しさを持ち寄るかのような2人が好きです。
恋愛面に関してはぜひあなたの目で。
こちらもときめきあり、ロマンティックさありで素敵ですよ。

食事・文化・宗教・育った環境。
日本とは異なるアメリカという国の一面をちょっとだけ覗き見ることが出来たような気がします。
食事の描写もひとつでも丁寧で、作中に登場する料理がどれも本当に美味しそうだったんですよね。
うーん、ポップコーンを片手に映画を観たくなりました。

アダムの家族に関しては、もう少し長めに読めればもっと良いまとまりになったかなとは思いますが、それでも自然とこちらの評価を押している自分がいます。
ああ、恋愛っていいな。
読後にはそんな気持ちになれる素敵な作品でした。

2人のまつ毛の音はどこで買えますか?

ひー、受けも攻めも可愛かった…!!
なんでしょうね、理屈抜きに萌えたというか…萌えと可愛さがたっぷりと詰まった甘い1冊でした。
受け攻めどちらも業界人ということもあり、どのページをめくっても顔が良く、目にも優しいです。
なんだか一時的に視力が上がった気がする。
大きなネタバレはなしのレビューとなります。


人気も実力もある俳優・北村に惚れ込み、ひっそりと"推し"ている、ソロアイドル・雪が主人公のお話。
過去に北村が出演していた映画を観て以来、その佇まいや演技に男として憧れていた雪は、ある日念願叶って雑誌のモデルとして共演することに。

酔った勢いで身体からだったり、仕事中にえっちなちょっかいをかけられたりと、業界ものではそこまで珍しくはない設定かなと思うのです。
でもですね、そこからの展開とキャラクターがあまりにも可愛らしくてたまらなくなってしまったなあ。
読み進めるに連れて、どんどんと可愛さを増していく受けと攻め。これは…最高なのでは…?
急接近だった始まりとは裏腹に、少しずつもだもだとしたピュアなときめきでいっぱいになっていくんです。すごく萌えた。

もう、メイン2人のキャラクターがとても良くて。
間近で見る憧れの存在のかっこ良さと色気、仕事ぶりに尊敬の念を抱いていたら、突然ダメ出しをされてヘコむ…だけでは終わらず、何クソと食らいつこうとする負けん気が強い雪くんが好きでした。
ちょっぴりちょろくって、良くも悪くも真っ直ぐで素直な良い子なのですけれど、ぐるぐると悩んだり、喜怒哀楽が丸わかりな表情のひとつひとつが本当に可愛い。
"僕"が"俺"になったり、敬語が乱れたり、素が見え隠れする度にたまらなくなったのはきっと読み手だけではないはず。
ですよね、北村さん。

そして、攻めの北村さん視点が多くはないので、不思議なキャラクターの彼が何を考えているのか謎な部分が多いようにも思えますが…
作中の言動を見るに、何事もじっくりと観察したり、頭の中で分析しがちな人なのかなと。
あと、ちょっと天然なのでしょうか。天然な男前ってずるいんですよね。
余裕がありそうな大人のかっこ良さと、そこでなの?となる可愛さも併せ持った攻めでした。
受けから、行動や言動を「可愛いな」と思われている攻めがお好きな方はぜひ。
(コミコミスタジオさんの特典リーフレット付きがおすすめです)

読み終えてみると、大変失礼ながら、よくある業界ものなのかなと読み始めた私がどうやら1番ほだされていたようです。
瞬きが聞こえそうなほどまつ毛が長い2人が好き。
その後の甘い姿にどっぷりと浸かってみたくなる作品でした。
渡辺先生の次回作も楽しみにしております。BIG LOVE。

STAYGOLD 6 コミック

秀良子 

歪な形のユートピア

1巻から追ってきた中山家のお話も最終巻。
良いところで終わった5巻から続きを待ちわびていました。

駿人と優士。思えば、中山家のこの2人から始まったお話でした。
彼らはひと回り以上も年齢差があるわけで、駿人と比べてしまうと、明らかに優士は"大人"なのです。
成人も迎えていない子供の目線から見た大人というのは、もう少しで手が届きそうで届かない、追い付けそうで追い付けないもどかしい存在。それが近親者で、保護者のような立場であれば尚更ですよね。
そんな"大人"だった優士。
巻数が増し、作中で駿人が年齢を重ねて成長していく度に、優士についていた"大人"という記号がぺりぺりと剥がれていくようで、読み進めるに連れて、保護者でも叔父でもなく「ただの中山優士」になっていく様が人間臭くて好きです。

STAYGOLDという作品の魅力はどこか?
私は、作中で描かれる"変化"だと思っています。
子供が大人へと育っていく、肉体的・精神面の成長と変化。
唯一無二のようだった、とある親友との関係性の変化。
知りたくなかった感情の名前を知ってしまってからの変化。
優士がクレヨンを折りながら無心に描いた、歪な形の安心出来る家を失ってからの変化。
最終巻となる6巻では、大人側だった優士とコウの生活と心情の変化が巧みに描かれています。
秀良子先生の心理描写が非常にお上手で、苦しいほどに惹き込まれ、どうしようもなく魅せられる。

中山家という、歪な形をしたユートピアのようだった家を失ってから、些細なことから大きなことまで、失ったものや大切だった物事に初めて気付いていく。
ただ家を出ただけなのに、ずっと一緒にいた家族のまだ知らなかった一面だって見えて来たりもする。
これが、子供組じゃなくて大人組なのがまた良いんですよ。日本に残ったのも大人組ですし。

若者が、学生が大人になれば世界は広がっていくけれど、大人は大人でしかないんですよね。
世の中に完璧な大人なんてあまり居ないんじゃないかなって思うのです。
ちょっとのことでだめになったり、ふと過去を後悔してみたり、後悔をしても今更どうしようもなかったり、仕事と日常の合間でなあなあになりながらぬるま湯状態で生きていたり。
優士とコウの姿が万人にぴったりと重なるわけではないとは思いますが、なんだかリアルだな、分かるなと思う。

何かを失い、1度バランスが崩れたところから優士とコウはどう動き出すのか?
名前を知ってしまった、あの感情は?
やはりここが1番気になるところ。
生きていれば日々の物事は否応なく流れていくけれど、何年経っても変わらない想いを真っ直ぐに伝え続ける駿人が、優士にはずっと、それこそ何年も前からいたんです。
帰る場所の描き方が単純に"家"ではないところが良かった。好きです。
菊花ちゃん。あなたが言った通り、お兄ちゃんは本当にかっこ良くなったよ。

そして、今までコウに関しては本人のモノローグが多くはないこともあり、掴みどころがない人という印象が強かったのですが、今作で印象がかなり変わりました。
コウに、魂のかけらを失ったとまで思わせる日高。
簡単に上手くいく関係ではないのがこの2人の魅力であり、行く末が気になって仕方がないところです。
コウと日高に関しては、これから番外編でじっくりと読みたいななんて。

すっきりとした終わり方かというと、5巻のあの盛り上がりを考えれば、6巻は決してすっきりとはしないと思うのです。
ですが、何度か読み返して余白やモノローグをひとつずつ咀嚼すると、この終わり方は余韻があって良いのかもしれないなと。
萌萌と神評価のどちらにするか悩み、やはり神評価で。
1巻から順番に。何度も読み返したい作品となりました。

まいったな、好きだ

"高校の同級生同士のセックスフレンドもの"
と聞くと、痛々しかったり、薄暗かったり、エロティックだったり、そんなイメージを持ってしまいがちなのですけれど、こちらの作品はそうではない。
読中・読了後に、じわじわじわ〜っと萌えが広がっていく言葉にならないこの感じ。
いやあ、これは好き。すごく好きです。
切なかったり、しっとりとした雰囲気はあるものの、両片想いと共依存関係の描き方がなんだか甘さや優しさを感じるものなのですよね。
2人の間に流れる空気がたまらなく好みでした。

「お伽噺は泡と消え」というタイトルが素敵です。
そして、作中のあちこちに登場する、人魚姫を彷彿とさせるエピソードの数々が上手い。
本来ならば人間とは相容れない、人の世界とは違う海の底で暮らす人魚達。
もし、異なる世界で暮らす人魚が、外の世界で暮らす人間を知り、相手を愛おしく想ってしまったら?

"人魚姫"と聞くと何を想像しますか?
BL的にはなんとなく、受けの切なくて苦しい悲恋ものになりそうなところですが…
このお話は、外の世界を夢見る人魚姫が攻め。
人魚姫に手を伸ばし、海の底から引っ張り上げる王子様が受けです。
攻めの朱巳も受けの雪也も、どちらも非常に好みのキャラクターでした。
お互いへの気持ちが優しい人同士のお話ですごく良かった。
なんというか、攻めの朱巳が色気たっぷりなのですけれど、ふとした時に可愛らしさも感じられて好き。可愛い攻めで好きでした。

綺麗じゃなくても、ゲロ臭くても、ピザやラーメン、酒にタバコ、ヤクザが登場するお伽噺があったっていいじゃない。
じゃのめ先生流のお伽噺、存分に楽しませていただきました。

CANIS-Dear Mr.Rain- コミック

ZAKK 

すべてはここから

念のためネタバレ有りに設定をしていますが、大きなネタバレは無しのぼかしたレビューとなります。

旧版既読。CANISシリーズ新装版第1作目。
旧版との違いはほとんどなく、カバーイラスト・カバー下の手のイラスト・今回新たに描き下ろされた4Pほどの漫画くらい。
書店での旧版の入手がなかなか難しい状態だったので、これを機に壮大なCANISシリーズの世界へ飛び込んでみるのはいかがでしょうか?

旧版をお持ちの方は、描き下ろし部分との絵柄の違いを見比べるのも楽しいと思います。
ZAKK先生、本当に絵がお上手なので。
本編は線がしっかりめの、目で追っていてわくわくするポップな感じ。
描き下ろし部分は、動きのある描き方はそのままに、より洗練された流れるような線の強弱が美しい。
うーん、目が楽しい。どちらもすごく好きです。

出逢いは雨の日。
とある帽子店の帽子職人兼店長と、空腹で道端に倒れていた美しい黒髪の青年の組み合わせ。
店の人材不足に悩んでいた沓名は、ある日、仕事帰りにリョウと名乗るハーフの青年を拾う。
人懐っこく見目の良いリョウを見て、アルバイトとして働いてくれないかと持ちかけることに…と続きます。

この、リョウという青年が謎だらけなんですよね。
19歳とは思えない色気もあれば、迷い犬のような雰囲気もあり、人懐っこい大型犬のような雰囲気もある。
そして、決して気軽には立ち入れない部分も。
なんて魅力的な青年なのだろうか。

帽子店・DANTEと沓名の家でのやり取りをメインに、全体的にコミカルにお話は進んでいきます。
その合間合間に、2人の距離の縮まり・沓名とリョウの掘り下げ・意味深なカットの数々が差し込まれていく。
コミカルさとシリアスさ、謎めいた部分と過去の描き方が上手く、読み手の興味を惹きつける力が強いです。

こちらの巻はまだまだ序章といったところ。
BL的要素は多いとは言えませんし、受け攻めもこちらだけではわかりません。
ですが、雨で出来た水たまりにたまった水がパシャンとはじけるように、この巻からあちこちにはじけた滴が広がっていきます。
今後の展開が本当に面白いので、まだ未読の方がいらっしゃったら、まずはこちらからぜひ。
CANISシリーズ、おすすめです。

兎の森 (2) コミック

苑生 

薄皮を剥がすように、少しずつめくられていく

フィクションで、架空の日本に住む知らない高校生の男の子達のお話なのに、すごく生々しい。
2巻もあっという間に読んでしまった。
2人の関係、環という男の子の内側のほの暗い部分、そして環の内側に入りたい志井。
読ませ方が上手いです。コマ割り、視線、惹き込まれる展開に夢中になってしまう。
シリアスの中に、不自然にならない自然さでコミカルな部分も描いているのが重たくなりすぎず、するりと読みやすい。
これは志井と環だからこそ出せるトーンなのかも。

長年の幼なじみに好意を寄せる志井と、長年の幼なじみから好意を寄せられて戸惑う環。
1年間という期間を設けてお付き合いをすることになった2人。
一般的にはこのまま恋愛モード一直線になりそうなところですが、なかなかすぐにそうはならないのが兎の森の魅力。
少しずつ、少しずつ、メインキャラクター2人の外側にある薄皮をぺりぺりと剥がしていっては、そっと隠していた内面が見えてくる。

この2人。付き合ってはいるものの、志井の高校生らしい性欲を含んだ環への真っ直ぐな"好き"の気持ちと、環の幼なじみへの気を許せる好意の矢印が噛み合わないので、恋愛未満な感じが強いんですよね。
なんというか、"好き"って、言葉の響きも文字もたった2文字でありながら、シンプルでいてとても複雑で、種類や意味が異なる難しい気持ちだなと。
志井の環への好き。環の志井への好きと、母親への好き。環の母親からの環への好き。
どれも好意だというのに、真っ直ぐだったり、安心感があったり、歪んでいたり…
本当に関係性や人によって違うものだよなあと思います。

きっと、志井という幼なじみの男の子との時間は、幼い頃から環にとって屈託なく笑える唯一と言っていいほど、家よりも安心出来るものだったのではないかな。
だから、戸惑いながらも押し切られて交際をOKしてしまうし、途中途中で拒否や否定をしつつもなんだかんだで流されてしまうし、許してしまう。
これだとなんだか環がずるい人のようにも思えるのですけれど…
1巻、2巻を読み返して、誰にも言えずに幼い字でノートに綴るしかなかった過去と、好きな母親との変わりゆく複雑な関係を、環はずっと誰かにこの隠された状況を暴いて助け出して欲しかったのかもしれないなと感じてしまったんです。
一緒に手を繋いでフェンスの向こう側に連れて行ってくれるのは、もしかしたら他の誰よりも安心が出来る志井なのかもしれない。
そんな期待をしてしまう2巻でした。

今作で新たに登場したタクミも好印象の良いキャラクターで好きでしたね。カラッとした気持ちの良い性格の志井のアドバイザー。
そして何より、1冊を通して良くも悪くも志井の真っ直ぐさと環への心からの"好き"があふれていて、不器用ながらに懸命な志井が大好きになってしまったな。
引き続き、複雑で多感な高校生2人のその後を見守っていきたいです。3巻も楽しみ。

やだなにこれかわいい

トビワシオ先生、めちゃめちゃ漫画が上手い。
初読み作家様だったのですが、読んでいてとにかく画面が楽しいというか、目が楽しいというか。
グググっと心が持っていかれるんですよ。
特に見開きページでの表現が印象的。
いや、本当に上手いなあ。これは好きですね。
コマ割りからキャラクターの表情、設定までどれもが魅力的ですごく面白かった。どのサブキャラクターも埋もれない個性がありますし、最後まで飽きさせない展開です。

近接地域に存在する、やんちゃな高校生が集まる犬頭高校と猿戸高校。
どちらもいわゆるヤンキー校で、名前の通りまさに"犬猿の仲"な対立校。
そんな、やんちゃが集まる高校に通う高校2年生同士がメインとなるお話なのですけれど、2人の出逢いは学校ではなく河川敷で。
河川敷に住み着くフグリが大きな野良のオス猫を介して、なんとまあ、ヤンキーとは正反対のあまりにもピュアで可愛らしいクソウブなロミジュリ劇が繰り広げられていく。これが最高なんですよ。

ドライでマイペース。ダウナー系な雰囲気のある樹里が、河川敷で出逢った対立校のひろみにビビッときてしまう。
理由は分からないけど、理屈ではなくどうしようもなく相手に惹かれるなんて、そんなのもう恋しちゃってるに決まってるじゃないですか。
この、ビビビッのコマひとつに上手さが凝縮されている。
繰り返しになってしまいますが、ヤンキーなのにクソウブなやり取りがたまらなくて。
2人とも人間性が良い上に、なんだかもうプリティが多すぎる。可愛かったです。
読めばきっと分かるので、どうかまずは読んでほしい気持ちでいっぱい。

もっと殺伐としたバチバチのボコり愛をお求めだと少し違うかもしれません。
ですが、起承転結が分かりやすく、ラブとコメディのバランスの良さ、そしてヤンキーの中にロミジュリなときめきが詰まった作品だと思います。
高校生のウブな恋愛が読みたい方、肩の力を抜いてラブコメを楽しみたい方、ヤンキーもの初心者の方におすすめの作品です。
フグリが大きな猫がお好きな方もぜひ。

同時収録の「つばぜり愛」はリバーシブルもの。
これまであまりリバーシブルは読んでこなかったのですが、こちらも非常に楽しく読めました。
今後作家様買いしてしまうかもしれません。