chill chill ちるちる
 
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【最終回】

「いよいよ完成! それから」
<前回までのあらすじ>
ひょんなことから、「BL荘」に迷い込んでしまったBL小説家志望のナルヨちゃん。
そこで、黒いマントをかぶったナゾの管理人と出会う。
BLの真髄が詰まっている6つの部屋にある鍵をすべて集めれば、今をトキメクBL小説家になるのも夢ではないと、管理人から聞いたナルヨは大奮闘! BL小説家に必要なさまざまな技術を身に付けていく。
そして、いよいよ最後の扉に挑むのだが!?



「ここまでいろいろなことをマスターしてきたわけだが、ついに今回が最後の扉になる」
「『好きなジャンル』『かっこいい男子キャラ』『萌えるストーリー』『ラブシーン』を詰め込んだプロットができて、小説ももうすぐ書き終わりそう」
「書き終えたら、さっそく新人大賞に応募するわけだが。……まさか書き上がったものを、そのまま送りつけるつもりではないだろうな?」
「だって締め切り近いし、急いで送らないと!」
「締め切りに間に合わせることは大切だ。しかし送る作品が他人に読んでもらえる出来ばえか、また応募の規定に合ったものか、確認しなければならないことがいろいろあるぞ」
「住所や名前とか……?」
「……そこから間違えては意味がないな。それでは、作品を書き上げてからチェックすべきポイントと応募規定の確認をしていこう」


■作品を書き上げてからのチェックポイント
かならず一度は紙にプリントアウトしたものを読み直してみよう。自分がお金を払って買った本だという気持ちで、自分の作品を客観的に読むことが大事だ。

<確認ポイント>
・満足できる内容に出来上がっているか。
・誤字・脱字はないか。
・使用してはいけない言葉(差別表現など)を使っていないか。
・不必要に同じ表現を繰り返していないか。
・参考資料などをそのまま引用していないか。
・他人の権利(著作権・プライバシー・肖像権など)を侵害する内容や描写はないか。
・その他、応募規定の注意事項に反していないか。

「あ、インターネットで調べたことをそのまま書いちゃった! しかも別の資料では違うことが書いてある! 漢字も間違ってた! 調べ直して、再確認して、自分の言葉にしなきゃいけないのよね。それに、プロットのとおりに書いたけど、読んでみたら何か足りない感じ。ちょっと書き直したくなってきちゃったな~」
「より面白くするためにも、気づいたことはすべて修正するべきだ。読者も同じところが気になるかもしれない。直すことで、よりわかりやすく読者の好感度が高い作品に近づくはずだ」
「キャラクターの個性が伝わるように表現できているかとか、『転』やクライマックスで盛り上げに成功してるかとかが不安だな」
「気になる部分がわかったら、そこに意識を集中させて作品を読み直してみるといい。キャラクターの個性が表現できているかが不安なら、キャラクターが描写されている箇所にしぼって読み直し、修正していこう。全体を追っているときは気づかない点にも気づけることがある」
「それを繰り返していけば、最後には全体的に改善されているってわけね。それじゃ、あれも気になるし、これも、あっ、そういえばあんなことも……」
「細かいところを修正したら、改めて全体のバランスを確認だ。最初に書いたときの文章の勢いも失わないように、バランスよく作業してほしい」


■応募規定の確認(B-PRINCE文庫新人大賞の場合)
小説に限らず、賞に応募する際は応募規定をよく読んでそれに沿った作品になっているか、応募者要項に間違いがないか確認しよう。

・応募内容……商業誌に未発表のオリジナルボーイズラブ小説。ほかの新人賞などに提出して結果待ちの作品は二重応募となるのでNGです。作品の複数応募は可。

「商業誌に未発表ならいいんだ。自分のウェブサイトにアップしてるものは?」
「課金制(お金を受け取って作品を提供する仕組み)の作品でなければかまわない。また、ウェブサイトではなく、同人誌で発表されたものもOKだ。ただし、ウェブサイトで発表しているものは、投稿してから結果が発表されるまでの期間中は、ウェブサイトから一時削除してもらうことになる」

・応募フォーマット……A4横の紙に縦書きで42文字×32行詰めとし、長編=80~130枚、短編=15~30枚。
1ページ目からノンブルを振る。また、応募要項を必ず同封のこと。

・応募者要項……(1)タイトル・住所・本名・筆名(ペンネーム)・年齢・職業(略歴)・電話番号・Eメールアドレス・応募のきっかけ(何を見て応募したか)、(2)受キャラと攻キャラの名前(よみがなを振る)と職業・800字以内の起承転結のあらすじを記入する。(1)(2)にはノンブルは振らずに、作品の前につけていっしょに(右肩をひもで)綴じる。

「作品以外にも、書くことがいっぱいあるのね」
「受キャラと攻キャラの説明とあらすじは、2枚目の紙にまとめて書いてかまわない」
「あらすじはプロットみたいなものでいいの?」
「おおまかな内容がきちんとわかるものであれば大丈夫だ。誤解しがちだが、ネタばれを気にしてラストまで書かないのはNGだ。応募要項のあらすじは小説としての面白さを見るのではなく、あくまで応募作品の内容を知るためのもの。ラストがどうなるかまでをきちんと明記しよう。それから規定ではないが、難解な漢字や登場人物名には、初めて出てくる部分に手書きなどでルビを振ると親切だ」

・応募方法(郵送の場合)……応募フォーマットに添った出力紙を郵便で送る。
プリントアウトした作品に応募者要項(1)(2)を明記した紙を添付の上、右肩をひもで綴じ、通し番号を振って応募宛先に郵送すること。応募作品の文書データを収録した記録メディア(フロッピーやCD-R等)も必ず同封すること。

・応募方法(データ送信)……メールで文書データを送信する。
データの応募先→bp-award@ml.asciimw.jp(添付ファイル送信)

・応募資格……不問。

「応募資格って?」
「賞によっては応募者の年齢制限があったり、過去に受賞歴がある人の応募を禁止している場合もある。『不問』と書かれていれば、作品を初めて書いた初心者でも、長年作品を発表してきたベテランでも、誰でも応募でき、その履歴を問わないということだ」
「じゃあ、私も応募できるよね」
「そうだ。初心者は特に注意事項もよく読むこと。受賞した場合の著作権の扱いなど、大事なことが書かれている。他人の権利や作品を侵害していないかどうかも重要だ」
「作品が発売されてからの権利とか?」
「ほかにもいろいろなことが書かれているぞ。一つ一つきちんと理解してから送るように。それから、締め切りは必ず守ること。出来ばえに不安がある場合は納得のいくところまで直してから送るように。自分の実力を充分発揮した渾身の作品で勝負するのだ。ライバルも皆同じことをしているぞ」

■詳しくはhttp://asciimw.jp/award/b-prince/を参照■

「よーし、頑張るぞー!」
「それでは6つめの鍵を授けよう」
「やった、すべての鍵が揃った! これで私もBLマスターね!」
「よく頑張ったな。しかし本当の戦いはこれからだ。今までマスターしたことを常に頭に入れて、1人で戦っていくんだぞ」
鍵を受け取って最後の扉を開くと、全身がまばゆい光に包まれた。

***

まぶしさに閉じた目を開けると、薄暗い廊下に戻ってきていた。振り返り、壁に沿って並ぶ扉を眺めた。
『小説を書くための基本』、『好きなジャンルを選ぶ』…6つの扉の奥で、大切なことを学んできた。これからはそれらを生かして、すてきなBL作品を……!
「…しみじみしている場合ではないぞ」
「ギャッ!」
背後から声をかけられて飛び上がった。
「何を驚いている」
「いえ、てっきりさっきのでお別れなのかと……」
「まだ大事なことが残っているからな。これまで授けた6つの鍵を出しなさい」
言われるままに両手にのせて差し出すと、管理人はその上にてのひらをかざし、呪文のようなものを唱えた。
「わっ!」
もくもくと煙が上がり、足元から風が巻き起こる。私のスカートも、管理人のマントも風をはらんでふくらみ、めくれあがった。
(……えっ?)
今、一瞬、フードの奥の顔が見えたような……。
私の見間違いでなければ、ものすっごいイケメンだったような……。
てっきり老人だと思っていたのに。
もっとよく見ようと身を乗り出した瞬間、手の中の鍵がボンッとはじけて消えた。その後に残っていたのは……。
「……ペン?」
それは、2匹の蛇がハート型に絡むオブジェの付いたペンだった。
「ただのペンではないぞ。『BL小説家ペン』だ」
「BL小説家ペン!?」
「BLマスターにだけ与えられるペンだ。ナルヨ君が学んできた基本やキャラの作り方、ストーリーの考え方…BL小説を書くための大事な6つの要素を、このペンを見るたびに思い出し、そして書いて書いて書きまくれ」
「ありがとう……!」
「では、このアパートを出て行くときだ」
管理人に示された方向を見ると、あれだけ見つからなかった玄関の扉がちゃんと存在していた。
「本当に、帰れるんですね」
「ああ。ナルヨは未来につながる『鍵』を手に入れたのだ。鍵穴に、そのペン先を差し込みなさい。鍵が開くはずだ」
「お世話になりました」
「ここで学んだことを忘れないようにするのだぞ」
「はい!」
まっすぐに扉に向かって歩き、鍵穴にペン先を当ててみた。本当の鍵みたいに鍵穴にはまり、ドアノブをまわすことができた。
ドアを開きかけ、もう一度振り返った。薄暗い廊下の先に、管理人はさっきと同じように立っていた。
「さようなら、ナルヨ」
「……さようなら」
(あなたはいったい……)
聞きたいことは山ほどあるけれど、なぜか聞けなかった。
「りっぱなBL小説家を目指したまえ」
その声は、とても優しかった。私はうなずき、今度こそ外へ出た。

気づいたら、道の真ん中に立っていた。振り返ると、懐かしく感じる「BL荘」がボロアパートのまま私を見ている。まるで夢でも見ていたような……。
でも、夢ではない証拠に、私の手には「BL小説家ペン」が握られていた。
これからこのペンで、ステキなBL小説をたくさん書くんだ! そして、新人大賞に応募するんだ!
私にはできるはず、だって、BL小説を書くために必要な要素を理解したのだから。
「さっそく、帰って書き始めるわよ!」
あの管理人さんもびっくりしちゃうくらい、ステキなBL小説をね。私は手にしたペンを空に向かって高く掲げた。



ナルヨ、運命の人に出会う 画:赤根 晴





お・わ・り

「BL錬金術」ご愛読ありがとうございました。
これを読んで、あなたもぜひB-PRINCE文庫新人大賞にチャレンジしてみてくださいね!

編集部では、今回のBL小説の書き方講座を読んだ感想をお待ちしております。
■ご意見・お便りはコチラ : bp-info@ml.asciimw.jp



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