★作品発表★ 著者:ひな姫
ハルアキは、シュウジが住む部屋のドアの前に立っていた。
こんな関係を続けていくのは、不本意なことだった。しかし、シュウジとの間で交わされたのは、そういう『契約』だった。 ハルアキがシュウジの部屋を訪れ、そして、ハルアキはその見返りをシュウジから与えられる。
チャイムを鳴らすと、ドアが開いてシュウジが現れた。
「入れよ」
言われてのろのろと靴を脱ぎ、部屋へと上がる。
できればこんなことはしたくなかった。でも、目的のためなら仕方がなかったのだ。
「……あ」
所在なく部屋に立っているとふいに腕を引かれ、革張りのソファへ押し倒される。
「今日もこうするために来たんだろ。なら、いつも通りやれよ」
横暴な物言い。だけど、抗えない。何も言わずにリビングまで歩くと、ハルアキは着ているシャツに手をかけた。
幼い頃から同性にしか興味が持てなかったハルアキは、入社したゲーム会社で初めてシュウジと出会った。
彼はプロデューサーを担いながら、よくプランナーであるハルアキの世話をやいていた。
ハルアキが新作ソフトの開発で煮詰まると、助言や的確な指示を出し、導いてもくれる。指導者として、一人の人間として、やがてハルアキはシュウジに惹かれていった。
シュウジの事を思えば、胸は踊り、期待に応えようと頑張れる。でも、叶わない想いに苦しくもなる。
入社当時に異性とホテルに入っていくシュウジを見かけた事があるのだ。
だが、半年経った今では隠しきれないほどにハルアキの想いは膨らんでいて、自分でもどうしていいのか分からなくなっていた。そんな時だった。
『あれ? ない……』
持って帰ってきたと思っていた資料が鞄の中に見当たらず、ハルアキは一度会社に戻った事があった。
『シュウジさん?』
誰もいない社内には、よほど疲れているのか眠っているシュウジがいた。
起こそうと試みるも、シュウジは微動だにしない。社内には、シュウジとハルアキの二人だけだ。それでつい魔がさした。
『貴方が好きです、シュウジさん』
寝ているのをいい事に、思わず想いを吐き出し、シュウジに口付けてしまったのだ。
ゆっくり唇を離すと、寝ていた筈のシュウジがハルアキを見つめていた。言い訳出来る雰囲気でもなく、ハルアキはゴクリと固唾を飲み込んだ。
『ふーん。たまには男と遊ぶのも悪くないかもな』
しかも予想だにしなかった言葉がハルアキに掛けられた。
『いいぜ、抱いてやっても。お前には快楽をくれてやる。その代わりお前に拒否権はない。好きな俺に抱かれて嬉しいだろ?』
『……っ!』
『一種の愛人契約だ』
それからハルアキは、シュウジのいいなりになっている。
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「ちゃんとオレを楽しませろよ?」
ニヤニヤと笑みを浮かべたシュウジの言葉に、羞恥で頬を蒸気させながらも、ハルアキはボタンを全て外し、肩がけにした。瞬間腕を引かれ、体を反転させられる。そして背後から抱きしめられた。
「こっちに来い」
その状態でソファーに身を下ろされ、下着と一緒にズボンも片足だけ脱がされる。
「後ろはやってやる。前は自分でどうにかしろ」
右手を取られて、下肢に導かれた。そして彼の左手を咥内に含まされ、唾液を絡めるように中をかき混ぜられた。
気持ちの通わない関係。あるのは悦楽のみ。
(不毛だ……)
しかも惨めだった。
もう止めてしまいたい。でも彼に抱かれていたい……。
相反する言葉がハルアキの脳裏に浮かんでは消える。毎回こうやって葛藤しながらも最終的に選ぶのは『愛人でもいい』という想いだった。
契約の通りに、シュウジはハルアキに快楽を与え、ハルアキはシュウジに依存している。
もう何処にも行けない程に、身も心もシュウジに囚われていた。
「さっさとしろ」
ハルアキは視線を伏せると、言われた通りに自身の性器を握り込んだ。
シュウジに触れられていると思うだけで、そこは熱を持ち、頭をもたげている。軽く数回扱いただけで、まるで彼にされている気になり、ハルアキの内腿は歓喜に震えた。
「あ……、っあ」
「いやらしい奴だな。そんなに気持ちいいのか?」
嘲るような声音と共に、咥内に入れられていた手を引き抜かれる。そして後孔に宛がわれた。
「ほら見ろ。旨そうに呑み込むだろ?」
「や……っ」
唾液でぬめりを帯びたシュウジの指が蕾に呑みこまれて行く。
「お前はココに、いつもこうしてオレを咥えてんだよ」
無遠慮に押し込まれる指。躊躇なく肉襞を擦られ、前立腺を集中的に刺激される。もうココでの快楽は嫌というほど教え込まれているハルアキの体は、もっと刺激を求めて、シュウジの指を締めつけた。
「ああ……っ、や……あ」
開放も間近だ。ハルアキのまなじりには涙が溜まっていく。
「まだイクなよ」
「い……、たい」
動きを止めたハルアキの右手は退けられ、今にも弾けそうになっている分身は、シュウジにきついくらいに握り締められた。これでは欲を吐き出せない。
「どうせなら大好きなオレのモノでイカせて欲しいだろ? ――ハルアキ」
勢いよく中に入っていた指を引き抜かれる。手早く前だけくつろげて出された、シュウジの熱の固まりを後孔に宛がわれ、一気に貫かれた。
「ひ、あ……っああ!」
指とは比べ物にならないほどの質量に、ハルアキの頬を涙が伝っていく。体が浮くくらいに下から突き上げられ、与えられた悦楽にハルアキの視界は白く霞み星が散った。
「あ、あ…ッ、あああ!」
「ほら……っ、さっさと腰振れ。イかせて欲しいんだろ?」
「や……っ、あ、ああ……! 手、離……ッして」
「離してやってもいいが、オレより先に行ったらお仕置きだ。どうする?」
「そんな……ッ、んああっ!」
円を描くようにぐるりと中をかき混ぜられ、ハルアキの嬌声が切なく響く。
「まあ、頑張ってオレをイカせる事だな」
シュウジが折れる事はない。仕事中の彼もそうだった。全て有言実行する男だ。また、そんなシュウジにもハルアキは惹かれている。
「ん……っ、あ」
観念するように一度瞑目した後、ハルアキはゆっくりと腰を動かし始めた。
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「ずっとこうして飼っててやる」
焦燥しきった顔で眠るハルアキにそっと口付けると、シュウジは口元に笑みを刻んだ。
あの日、ハルアキの鞄から資料を抜き出したのはシュウジだった。
取りに来たのを見計らって寝たふりをして、ハルアキという名の獲物が罠にかかるのを待っていた。
万人には受け入れ難い、シュウジのサディスティックな性癖。歪んだ形でしか与える事が出来ない愛。シュウジは一般的な方法で、人を愛する術を持たない。
「初めて会った時からお前を愛してるよ」
そう口にすると、シュウジはハルアキにもう一度口付けた。
おわり