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本当に「ボーイズラブ」?話題の芥川賞受賞作『影裏』を読んでみた

2017/07/29 06:30

男二人の関係どう読む? BLをもう一度考えてみよう


第157回芥川賞・直木賞の結果が7月19日に発表され、芥川賞は沼田真佑さん『影裏(えいり)』、直木賞は佐藤正午さん『月の満ち欠け』が受賞しました。

選考委員会後の記者会見の様子を報じた産経新聞の記事によると、選考委員の高樹のぶ子さんは芥川賞受賞作の『影裏』について、「性的なもの(ボーイズラブ)が背景にある」と語ったそうです。

“受賞作を推した方々の意見を申し上げると、キラキラした描写、文章というものがありました。また、性的なもの(ボーイズラブ)が背景にあるために、ためらいがちにいろいろなことにアプローチしており、これについて中途半端だという人もいれば、好感を持ったという人もいました。『3・11』もボーイズラブも、表面に出していないことを評価する声もありましたが、それに対するネガティブな声もありました

今回芥川賞を受賞した作家の沼田真佑さんは38歳の男性。受賞作の『影裏』がデビュー作で、4月に第122回文學界新人賞を受賞したばかりです。
今回の作品では、ご自身が住んでいる岩手の自然について書いたと言います。


 『影裏』のあらすじ


「性的なもの=ボーイズラブ」かどうかはさておき、そのような描写があるということで、7月28日に発売された単行本を早速読んでみました!


『影裏』のあらすじは以下のようなものです。

主人公の今野秋一は製薬会社に勤める32歳の独身男。都内の親会社から岩手に出向してきています。

岩手の地になじめなかった今野の交友関係は、同じく独身男性で、釣り仲間で飲み仲間である日浅典博ただ一人。

なにか大きなものの「崩壊」に偏執するという変わり者の日浅と、今野は気の置けない付き合いを続けていましたが、日浅の転職によって接点を失くしてしまいます。

その喪失感に戸惑う今野の前に再び日浅は現れ、今は冠婚葬祭の積立契約を売る営業マンをしていることを告げます。

今野は再会できたことを喜ぶものの、日浅が営業成績が悪いことを理由に今野に契約を頼んでからは二人の関係はギクシャクしてしまい……。

そんな中、東北の地をあの大震災が襲います。内陸に住む今野は意外にも穏やかな日を送っていましたが!?
 

 どこがボーイズラブ?


あらすじからもお分かりいただける通り、この作品の中で、今野と日浅は付き合っているわけではないのです。はっきりと恋愛感情を示すような描写もありません。
それどころか、選考委員が背景にあると言ったような「性的なもの」すらないのです。


それでは、どこがボーイズラブなのでしょう
Amazonレビューなどでは、LGBTを扱っているという文章が散見されますが、ゲイが登場するのでしょうか?

実は、今野の元交際相手として、「和哉」という人物が登場するのです。
確かに一見、ゲイカップルが登場しているように見えます。

しかし、この「和哉」という人物は、今野と別れたあと性別適合手術(SRS)をうけて、今は女性の身体で生活しているらしいのです。つまり、トランスジェンダーの女性(MtF)です。

今野はゲイなのでしょうか? それとも単にトランスジェンダー女性と付き合っていただけの男性なのでしょうか?

本文の描写だけではわかりません。今野が明確にゲイであるということを表す描写はないのです。一方で、妹の結婚式の想像に自分と和哉の関係を重ねるシーンはあります。

 「ニアBL」としての『影裏』


結論として、『影裏』に描かれているものはBLではないと言えます。

直接的にBL的な描写はないですし、今野と日浅の関係の背景にBL的なものがある、もしくは読み取れるとしても、それは解釈の問題になると思います。

例えば、直木賞に選ばれた三浦しをんさんの『まほろ駅前多田便利軒』はBLでしょうか? そういったものは読み取れますが、ジャンルとしてのBLとは違いますよね。

また、一般的には、BLは「女性向けの男性同士の恋愛物語」と定義されることが多いです。
三浦しをんさんの場合、ご本人もBL好きの女性という点から、広い意味でのBLとして捉えることは不可能ではないと思います。

しかしながら、沼田さんは男性。
男性のBL作家もいますが、その場合、明確に作者が「自分の作品はBLだ」と言っていることが重要。
その点を踏まえずに安易に「ボーイズラブ」だと言ってしまうのは危険だと思います。

強いて言うなら『影裏』は「ニアBL」「匂い系」だと言えるのではないでしょうか。
ニアBLは「BLとしても読める」作品。逆に言うと、BLは「BL以外には読めない」のです。

果たして今野は日浅が好きだったのか? 二人の間に何か特別な感情はあったのか?
作者の沼田さんは、文学界新人賞の受賞コメントで「2人の男の関係をどう読むかは読者に委ねた」と語っています。

BLとして読むとガッカリしてしまう部分も多いかと思いますが、ニアBLとして読むと今野と日浅の関係は想像の余地があって面白いのではないでしょうか。
いずれにせよ、BL描写には期待しすぎないことが重要かと思います。

芥川賞・直木賞の選考委員の方々には、BLというジャンルへの理解について、もう一度考え直していただきたいですね。

記者:みかん

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コメント3

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読んでないのでなんとも言えないけど、いわゆる匂い系の作品に対して選考員のような感想を持つのはおかしくない気がするけどなあ
ジャンルとしてのBLそのもの、あるいははっきりと同性愛を扱ってなくても、複雑な男二人の関係性に焦点を当てているようなので
あと、作者の性別は関係ないと思いますね
三浦氏みたいに明らかにBL好きを公言しているなら別かもしれないけど

ライターさんのいう「BLの定義は、男性作者の場合はBLと明言すること」というのはひどく違和感を覚えます。本人が自作をBLと認めない限り(あるいは解釈として許容しない限り)、その作品はBLじゃないでしょう。男性とか女性とか関係ないと思います。

これって性的なもの(BL)って書くんじゃなくて性的指向もしくはセクシャリティ的なもの(BL)って書いた方が良いんじゃないかな。多分そういう意味で選考委員の方は話してるし。

性的(BL)だと性描写とかそういうイメージを私はしちゃったし、記事にあるようにこの本には性的なBL描写は皆無な訳で。けどセクシャリティ的なものって書かれていれば辻褄があうような。

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