chill chill ちるちる


初心者特集


腐りかけスウィーツがおいしいケーキ屋さんです
西洋骨董洋菓子店 よしながふみ
評者:ねむちゃさん
日本漫画界の大御所にして、その裏の顔はBL界を取り仕切る大ボスだったりする?よしながふみ先生。初心者向けの特集でまたいて通るわけにはいきません。そこで最近は映画化、アニメされて一般作品として流通している「西洋骨董洋菓子店」を腐りかけの女子の入門書としてお送りしたいと思います。

今回はBL初心者・BL匂い系、BLではないけれどもそれっぽい作品特集と言う事で、よしながふみ・「西洋骨董洋菓子店」をお薦めしたいと思います。
「西洋骨董洋菓子店」この作品の新刊書店店頭でのカテゴリ分けは一般コミックス(少女漫画系)として分けられ、BLコミックスとは分けて店頭に並べられています。
ですが、この作品の登場主要人物4人(橘、小野、神田、小早川)は全て男。
もちろん女性も登場しますがストーリー進行上、この4人にとって害にも毒にもならない、ケーキの上に乗っかっているセルフィーユのような添え物的役割。
無きゃ無いで別に構わないけれど、そうかと言って無いとなると彩りが何か物足りない。
女もちゃんと出てきて作品(ケーキ)は完成する。と言う辺りはやはり男ばかりで、女の存在はウザいお邪魔虫扱いのBL漫画とは違う、少女漫画系にカテゴライズされる所以かもしれません。

BL漫画のように直截的な描写はありませんが、作中「ゲイ」「ホモ」と言うキーワードはかなりの頻度で出てきますし、天才パティシエ・小野が焼けぼっくい(普通は男女の表現ですが)に火が付き元彼とあっさりよりを戻して寝てしまう(*朝チュンですが)など、随所にBL要素・腐臭漂う(腐女子の腐の意)、「ライトBL」「腐女子入門書」的作品だと言っても過言ではないと思います。

「西洋骨董洋菓子店」は去年(2008年)、アニメ化され深夜アニメ枠で放送されたばかりなので、ご覧になった方はまだ記憶に新しいかと思います。アニメ化されるよりもさらに前(2001年)にもテレビドラマ・実写化され、「イケメン4人が出てくるコメディー」として放送されました。しかし、やはり原作を読まずして何も語れません。

前置きが長くなりましたが、物語の始まりは登場人物それぞれの過去の回想シーン形式で始まります。
卒業式当日(14年前)、橘圭一郎(たちばなけいいちろう)は同級生・小野祐介(おのゆうすけ)に「君の事が好きなんだ」と告白される。
小野自身、同性に対し友情ではなくそれ以上の想いを寄せる事が普通ではない。と言う事はわかっていて、告白して相手がどう思うかも考えず、一方的である意味自分勝手な行動。
それに対し橘も橘で感情に任せて考えなしの、かなり酷い言葉を小野に吐き捨てる。

「ゲロしそーに気持ちわり―よ!!早く死ね この ホモ!!」

当時は未成年で視野が狭く経験も浅い。世間の事が分かっているつもりでいるが、人間としてはまだまだ許容範囲が小さい未熟者。こっ酷く小野を振った橘は、それ以来小野とは一切顔を合わせる事もなく大学を卒業し社会人経験も積み、色々な人と出会い人間的にも成長し色々な物を見てきた。しかし付き合う女、付き合う女なぜか同じ理由で橘から離れていってしまう。その原因は橘の心の中の黒い大きな染み(トラウマ)によるものだと考えた橘は、トラウマを克服すべく思いついたように勤めていた会社を辞め、突然洋菓子店、「アンティーク」を開店する事となる。
ケーキ屋を開店する為にはパティシエがいなくては始まらない。
両親に「ケーキ屋をやろうと思っている」と相談すると父親が最高のパティシエを呼んで来る。それがあの小野だった。

最初二人で始めたアンティーク。住宅街のど真ん中12時開店、深夜2時ラストオーダーという少し変わった営業時間。
小野の弟子として雇われた、悲しい過去を持つ元プロボクサー・神田エイジと、さらに橘の実家が寄こした橘のお目付け役、小早川千影が加わり、男4人で始まる過去アリ、傷アリの物語。
ストーリーの中で4人の男達の過去やトラウマや生き方が、徐々に明らかになっていくのが一番の見どころですが、舞台設定が洋菓子店と言う事もあり、ストーリーの中に出てくる洋菓子がどれも美味しそうで、緻密で繊細に描かれている所も見どころだと思います。

よしながふみの作品は背景や物が細かく緻密に描かれている所と、そうでない所のメリハリがはっきりしていて最近のコミックスによくあるような、はみ出しのコマ(断ち切り)が少ない。必要以上にベタベタとトーンを貼るのではなく、キチンと漫画の基本に則って、白と黒でシンプルに表現。台詞以外の所での心理説明や情景説明が少なく、「間」とキャラクターの表情で人物の心理を表す。
あえて台詞のないコマをつくることで「間」を表現していて、そのあとに続く台詞がストンと心に落ちてくるんですね。

基本男4人で進むストーリーですが、女性が出てくるシーンでは逆に台詞の文字数の多さで、女のやかましさを表現。台詞が多すぎてキャラクターがコマの端に追いやられる位の勢いで、まさに立て板に水。次から次へと喋りまくるという女性の性質を上手く捉えていて、台詞の文字数すらも人物の特徴として利用してしまうあたりは、よしながふみ独特の手法と言っていいのではないでしょうか。

BLって読んでみたいけど、どれから読んでいいのかわからない!と、二の足を踏んでいるそこの貴女!
この「西洋骨董洋菓子店」はBL作品ではないですが、まずこの作品をきっかけにしてゲイやホモに少し免疫(笑)をつけ、他によしながふみが出している作品の中にはBL作品もあるので徐々にスライドしていくのもまたよろしいかと思います。

作品データ
作 品 名 : 西洋骨董洋菓子店
著者 : よしながふみ イラスト : よしながふみ
媒   体 : コミック シリーズ : Wingsコミックス(コミック・
出 版 社 : 新書館 ISBN : 9784403615887
出 版 日 : 2000/06  価   格 : ¥546
紹介者プロフィール
ねむちゃ
30半ばにして突然腐女子に返り咲いた専業主腐(婦)
今までのブランクを埋めるべくBLコミックス、BL小説を狂ったように読み漁り、
恐ろしい勢いで増えつつあるBL本の収納場所に頭を悩ませている。
旦那に腐女子であることは知られているものの、妻の趣味には無関心の様子。

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