chill chill ちるちる


BLアワード2010


雲田はる子ブレイク!噛めば噛むほど味が出てくるスルメコミックス
野ばら 雲田はるこ
評者:縞々さん
ちるちるでも早期に「注目の新人」で取り上げていた雲田はる子が、2010年度はいっきに飛躍しました。「窓辺の君」「野ばら」で確実に固定ユーザーをつかんだ印象。
今回は、たくさんレビューをいただいた中からsenmegさんのレビューで本作を振り返ります。

「野ばら」【コミック部門】 12位

★雲田はる子先生のコメント

「野ばら」を選んで頂いてありがとうございます!雲田はるこです。こうして選んで頂ける事は思いもかけない事で、すごくすごく嬉しいです。選んで頂ける事で、思い出すきっかけになったり、ちょっと読んでみようかなと思ってもらえたり、また「野ばら」をお手に取って頂けると、うれしいなーと思っております。

私、個人的に今「みみクン」がすごく好きで、みみクンブームです。おかまちゃんものBLもまた機会があったら描きたいです。需要はあると信じて。みみくんのような、BL規定外(笑)のキャラを好きと言って頂けるのも、すごく嬉しい作品集でした。いや、全員誰でも、好きといってもらえるのはうれしいです。カバー下にもキャラクターの設定集が載ってますので、ぜひカバーを外してご覧下さい。そして何か新しい感情がめばえたりしたら、これもまた本望です。

ではでは、今後も拙作を読んで頂けるとありがたいです。雲田はるこでございました。よろしくお願いいたします。


「野ばら」
評者:縞々
王宮に住む王子様でもなく、囚われのお姫様でもなく、近所に住んでいそうな、
純粋な少年の心をいまだ残した男性たち。
そんな魅力的な男性が沢山詰まったのが本作「野ばら」。

はじめて雲田先生の作品を読んだのは某アンソロジー本。そのなかでも異彩を
放っていたのを覚えています。
いまどき珍しく、題字をご自分で描く、そこだけで完全にノックアウトでした。
もはや既成のフォントでは先生の魅力は出せませんよ!ってくらい世界観にピ
タっと当てはまるのです。こんな題字を採用してくれるのって東京漫画社 さん
だからかなと思う。相性が良かったのかも。
見て下さいよ、「みみクンのBOYの季節」の文字から溢れ出る昭和感とちょっと
うさんくさげなオカマバー感...(笑)
題字を手描きで描くだけで、導入から世界観の構築と先生の作品にある優しさが
溢れ出ているように感じます。
正直この題字のくだりだけで小一時間語れるのですが、趣旨からドンドン離れて
いきそうなので隅に置いておきます。
これはBL漫画、BL漫画・・・(呪文)

そんな雲田先生の「野ばら」、とても楽しく読ませて頂きました。
前作の「窓辺の君」ではデビュー作としてはハイレベルで作風は確立しつつも、
いまいち起承転結がはっきりしなかったり雰囲気だけで乗り切っている 作品も
多かったためどうなるかなーと思いつつ読んだのですが、2冊目でここまでと思
う程しっかりとした内容に仕上がっていてビックリです。
推測ですが恐らく先生は長編向きの作家さんなのかもしれません。キャラ作りが
相当細かい部分まで設定されているように感じられるので、前作のよう な一話
読み切りだとキャラの深みが出し切らないのかも、なんて。

表紙をめくると口絵が綺麗で、ここだけ見ても「お、今回はアタリだ!」と直
感。先生の絵ってスタイリッシュなんだけどどこか儚いというか、綺麗な のに
寂しい、夕焼けを見ているような気持ちになります。

そんな表題作はぶっきらぼうコックさん×バツイチ子持ちの街角恋愛事情。子持
ち設定だけあって、保育園児のモネちゃんがキューピット的な立場でと ても良
い味だしてます。親としての責任感と、男としての恋愛感情の両方に揉まれてふ
らふらになる受けをしっかりと支えようとする攻め。王道展開な のですが微笑
ましい日常と恋愛両方の幸福をバランスよく丁寧に描かれていてとても好感がも
てます。
後半2作、「みみクンのBOYの季節」と「Lullaby of birdland」では表題作には
無かった非日常系の笑いあり涙ありのラブストーリー。一冊で偏りがなく、通じ
て優しい空気が流れているのでゆったりとリ ラックスしながら読む事が出来ま
した。

雲田先生の作品の魅力は、キャラがバリアを貼っていないところにあるかと思い
ます。
一般的に、漫画のキャラクターも、普通の人間と同じく最初から自分の素性をさ
らけ出して行く人は少ないと思います。初めにページを開いたときに、 「彼は
どんな人かしら?」という一種の人見知り状態というか、腹の探り合いみたいな
ものが漫画と読者の間でも起こると思うのですが、雲田先生の作 品ではそれが
少ない。冒頭から素性を垂れ流しているという意味では無いのですが、変な言い
方をするとキャラが読者を受け入れる余地を持っていると いうか。ニカッと健
康的に笑いながら「お嬢さん、ちょっと寄ってかな~い?(←みみクンにあら
ず)」みたいな気軽さが彼らにはある。
ゆったりとした世界観がそうさせるのかもしれません。そんな導入なので、読ん
でいてとても気持ちが良い。
あとがきを読んでいても、先生自身と作風にギャップが無いので、先生ご本人の
魅力が非常にうまく出ているのだろうなあと感じます。
しかしとかく自由奔放で直情型、かつ深く考えないタイプと考えても腹の底まで
はさらけ出さないタイプのキャラが多いので、イラッとくる方もいるの かも(笑)

そして最後に雲田先生の実力を知るのはこの本のカバー裏。私が所有するBL本の
カバー裏漫画で一、ニを争う電撃が走る内容、その名も「おパンツ 表」。
はっきり言って、BL作家さんでキャラの(しかもイケメンの)体躯の違いを描き分
けられる作家さんて、そんなにいません。
まあ、先生のお描きになるキャラって一概にイケメンとは言い難いのですが(個
性的という意味で)、それでも天使のような顔をした小悪魔的な美形外 人に
「ぽってりお腹幼児体系」のスキルは装備させないだろうなっていう...(笑)で
も読了後にそれを見せられると不思議なことに、「ああそうな んだろうな」と
妙に納得してしまうんですよね。
そして裏切らないパンツの種類の数々。パンツの柄や形態で人間性ってかなり出
ます。
まだこの本を読んでいない方、本編を読む前にカバーを捲ってはいけませんよ!
これはメインをじっくり堪能したあとの小粋なおまけです。

まだこの本を手にとって無い方、雲田はるこって誰?って方、これからの活躍が
更に期待されること間違い無しの作家さんです。百聞は一見にしかず、 ぜひ一
度手にとってご覧ください。
休日の昼下がりにでも、リラックスしながら読むと幸せな気持ちいっぱいになれ
ますよ。
どうやらBL以外の方面でもご活躍されているようですが、これからも更なる幅広
いご活躍を期待して!

作品データ
作 品 名 : 野ばら
著   者 : 雲田はるこ イラスト : 雲田はるこ
媒   体 : コミック シリーズ : MARBLE COMICS(コミ
出 版 社 : 東京漫画社 ISBN : 9784904101766
出 版 日 : 2010/06/20 価   格 : ¥650
紹介者プロフィール
縞々
腐女子歴9年目。近年、世間との趣味のギャップに悶絶すること多し。絵や内容がどんなに拙なくても「唯一無二の個性」を持っている作家さんこそ真の実力者であると考えている。同性愛と名のつくジャンルは後学のため(笑)と大体全てのものに目を通しているため大概のことには驚かないので、驚かせてくれる作家さんを日々探索中。倫理的にマズいジャンルも純愛なら大好き。

Page Top