BL未満ボーイズラブ以上ほとんどBLとしか思えない名作コミックや小説、BLなのに内容がスーパー突き抜けちゃってる衝撃作を紹介します!


神父×殺人鬼、考え尽くされたドラマに絡みつく、主人公の同性愛。日本漫画の巨匠が描く濃厚ボーイズラブ!!!
MW(ムウ) 手塚治虫
評者:カノアマスミさん
結城美智夫は、小さい頃、偶然小さな島を訪れた際に、某国軍から漏れ出した化学兵器「MW」と言う毒ガスを浴びてしまった。彼は一命はとりとめたものの、そのガスの所為なのか、美智夫は良心やモラルと言うものの全くない、極悪非道な殺人鬼になってしまう。しかし昼間の彼は真面目なエリートな銀行員……彼の正体と企みを知っているのはただ一人、当時島で一緒になった幼馴染みの賀来神父だけだった。

 日本人なら殆どの人が知っている、たとえ実際にその作品を読んだことがなくても、作品のタイトルやそのキャラクターの一人や二人(或いは匹?) は絶対に一度は目にしたことがあるだろうビッグネーム。漫画の神様にしてストーリー漫画のパイオニア、手塚治虫。
彼のあまたある作品の中、主人公がゲイでホモセクシャルな作品が一つだけあるのを、皆さんはご存知だろうか?「MW(ムウ)」
この作品のあらすじをザッと言うなら、上記にあるようなとても固くてきつそうなもの。
「ありとあらゆる社会悪―――暴力、裏切り、強姦、獣姦、付和雷同、無為無策………、とりわけ政治悪を最高の悪徳として描いてみたかった」。
巻末のあとがきで手塚治虫自身も述べているように、この作品が表向き、重厚で濃密なピカレスクドラマとして描かれていた、と言う事はほぼ間違いがないと思う。しかし、あくまでそれは表向き。
私はこれを、実は内部で描かれている、主人公と幼馴染の神父の、激しくも複雑怪奇、実際肉欲をも伴った深遠なる愛想劇こそが、真のテーマなのではないか? と疑っている。
実質この物語を円滑で、表情豊かなものにしている最も重要な要素がこの二人の同性愛であることもまた真実であるし、「ゲイの贈り物」(別冊宝島) では「同性愛世界史と聖書を同じ比重で描き切った超大作」との評論もされている。
「同じ比重」とは、少々大げさな気もしたが、しかし言いえて妙…と言うか、多分的を得ているんじゃないかとも私は感じた。
物語の第一章、殺人を犯した美智夫が、その足で教会の賀来神父の元へ懺悔しに来るシーンがある。
「このぼくをあわれんでくれ。地獄へ何度落ちてもあきたらないぼくだ」
教会の表には、犯罪者を捕まえようと、多くの刑事やパトカーが並ぶ。
そこをあえて逃がせというのだ。
美智夫は、この賀来神父が、絶対に自分を裏切らないと思っている。
案の定、賀来は彼を警察に突き出すことが出来ない。何故なら賀来の真にしたいのは、美智夫の魂を救済する事で、彼を法の裁きに任せることではないのだから。
賀来はそんな自分を偽善さ、弱さをもまた知っている。知っているからこそ嫌悪し、地獄の業火に焼かれてゆく罪深い自分の姿を幻を夢に見るのだ、美智夫は、そんな賀来の心の葛藤と苦悩を陰からほくそ笑みつつ眺め、自分の手の内を惜しげもなく見せつける。自ら「抱いて」とすがり付き、またしても賀来を翻弄するのだ。
「あんたはぼくのものだ」と言い張り、賀来に恋して近づいて来た女性を、無理矢理に自分のものにし、時には賀来を自分の共犯者に仕立て上げ、神父を辞めさせまい、自分に繋ぎ止めておこうと、あの手この手で画策する美智夫に、そんな彼を「悪魔」とののしりながらも、関係を断ち切れずに、ずるずると流されるままになっている賀来神父。
ここまで読むと、腐の皆さんの多くが気付くと思う。
そう、美智夫と賀来の関係は、ものすごくBLの神父物としての王道に近いのだ。
もちろん、全体のストーリーや設定上、この二人の間には、多くの犯罪が付きまとう。しかし、不本意ながらも、身体を差し出されればそれを拒みきれず快楽に溺れ、それもまた罪深いと感じる賀来神父の姿は、受け攻めどちらにしろ、ほぼ完璧理想的なBL神父像のように私には感じた。
行為中、「愛している」「ぼくのそばから離れちゃいけない」と賀来にささやく美智夫には鬼畜な執愛すら感じる。
あの島での惨劇の前夜。当時不良グループの一員だった賀来は、まだ小さかった美智夫を無理矢理押し倒した。
美智夫は当時の事をこう語っている。
「あの時 あんたはぼくの服をぬがせて床におしつけた こわいとはおもったけど あんたには抵抗できない何かがあったんだ……」
ここで言う「抵抗できない何か」が16年間ずっとこの二人を微妙な位置に保っているキーワードに違いない。美智夫は無論、賀来もそれは感じていたはず。だから彼は神父を辞めることが出来ないのか。
「あんたがペニスをだした時 なぜかクスクス笑っちまった
お医者さんごっこをはじめるのかと思ってねぇ………
それがこんな状態になっちまったきっかけさ……罪作りだなあんた…」
ご存知の人も多いかも知れないが、「MW」は2009年、玉木宏、山田孝之主演で実写映画化される。それに伴い、近々本屋にも、この「MW」原作本がずらっと平台に並ぶかも知れないし、読んでみようという新しい読者も増えるだろう。
その際、腐の皆さんは、是非ともこれをただのピカレスクでなく、どうぞ腐った視点から、この二人の関係を思う存分深読みして欲しいと思うのだ。そうすれば多分、この壮大なドラマを、より深く味わいつくせるのがはないだろうか……と、私は半ば確信している。

作品データ
作 品 名 : MW(ムウ)
著者 : 手塚治虫 イラスト : 手塚治虫
媒   体 : コミック シリーズ :
出 版 社 : (小学館文庫) 小学館 ISBN : 4091920047
出 版 日 : 1995/02 価   格 : ¥591
紹介者プロフィール
カノアマスミ
作家単位で好きなのは、小説家で吉田珠姫、夏樹碧、小鳥遊てつみ、漫画家で細倉ゆたかに國居亨。ギャグもシリアスもマルチで読むが、本人自体は無意識に性質がお笑いらしい。最近、眼鏡に過剰反応示すようになったので、とりあえず、このサイトの店長 (?) キャラには深い愛着を覚えた。年下攻めと癒しなおっさん受けと生徒×先生、ショタ×大人、旦那様×年上執事、なんかも好き。只今BL挿絵を描ける絵描きになりたいと、日々研磨中。
このコラムに寄せられた感想
2012年10月14日 匿名さん
No Title
美智夫ではなく美知夫です


2009年07月30日 カノアマスミ
藤棚さんへ
確かに。
私も映画見た後ブログで感想書いたんですよ。
そこに書いたんですよね~「原作読まないで映画先見た人は、もしかして映画のがいいって人多いかも・・・」ってかなんてか。
色々、確かにそうなんですよね。映画の方が何かと分かりやすい。ツッコミ所ぼろぼろあるからこそ、合間を縫ってけるんですよ。BL的にもそれ大きいかなぁ~?
うん、確かに映画のが妄想を挟む余地はあるかも知れません。
同人誌作るのにも、確かに元が整いすぎてると、作りようがない、みたいな?
まぁ、とは言え原作のは別にマジBLシーンだけがウリってワケでもないから、全体的に見ると原作のが深いんですがね~

ほうほう、出演者のコメントねぇ~そんな楽しみ方もあったとですか。それは中々興味深いカモ♪

今回の、神父役からしてかなりもう違うので、すごく心配してたんですよ。
ブログ散歩してれば「イイ糞映画www」とかもいわれてたり。

はっきり言って心配して損したって感じです。(つかでもキタイしてなかかったからこそよりギャップで楽しめた、とか 爆)

あ、ちなみに私が自分のブログに書いた映画の感想はココです。(一応貼っておこう・・・・・)
http://ameblo.jp/amanosumika/entry-10306779103.html


2009年07月29日 藤棚
この映画をハマって、5回も見てしまいました。
そういえばちるちるさんにコラムがあったな!と思い出し、
コラムを再読させて頂きました。大変面白かったです。

>「抵抗できない何か」が16年間ずっとこの二人を微妙な位置に保っているキーワードに違いない。
それは結城と賀来の関係性を考える重要なポイントだと思いました。
映画ではこの部分を「幼馴染で、一緒に地獄を経験し、共に生きてきた絆」
に変えているので。もしかして一般的には判りやすくなったかも?

ストーリーの面白さや完成度は原作が勿論「神」ですが、
BL的に萌えられたのは、どちらかというと私は映画版でした。
映画は突っ込みどころが満載で、穴だらけなんですよね。
しかしその穴というか隙間を妄想で埋めるのが得意な腐女子には、
大変優しくて、オイシイ映画だと思いました。
夏の祭典では「映画版・MW」本が結構出そうな気がします(笑)
逆に原作は完璧すぎて、萌える隙がなくて……

あとこれは、かなり邪道な楽しみ方かもしれませんが。
映画製作サイドの裏話や裏設定。役者が映画について語ったことなどを
頭に入れてから映画を見ると、かなり萌えます。
特に主演の二人が自分の演じた役についての考察が面白くて、興味深いです。
『結城と賀来は二人でひとつ。賀来は絶対に自分から離れない、必ず戻ってくると信じている』
と語る玉木君に対し、『二人はひとつというより、賀来的には求めても求めても足りない』と言う山田君。
二人は一心同体と考える結城と、もっともっとと貪欲に求める賀来の映画としてこの作品を見ると、
あっという間にサスペンス・アクション映画「MW」が、「両片思い擦れ違いラブロマンス」に早替りです。

映画は突っ込みどころ満載で、おいおいと思うところもありますが。
あちこちで酷評されまくるほどの、酷い作品ではなかったと思います。
長文コメント、失礼しました。


2009年07月29日 カノアマスミ
匿名希望さんへ
私は映画の神父へたれ攻めでも良かったんですが・・・・・うーん、まぁ主人公の性格もすこーし変わってますからね~
映画のだと、確かに受けのがしっくりくるかもですね。主人公の性格的にも。
原作の神父だったら、確かにもう見かけからして攻めですね、アレをあえて受けにしちまったら、なんかBL色強すぎ・・・ってか原作の色んな設定が生きなくなるとは思うんですよ。
まぁそれはともかくとしても・・・やっぱり、確かに原作と映画はもう完璧別物っすね☆


2009年07月28日 匿名希望
コラムと映画をみて
 私は事前の情報がないまま映画を見たので、コラムや原作の内容をしって驚きました!ホモっぽいな~て、みただけで原作にその要素がある事を知りませんでした。なんで、全く情報のない私視点では、結城×賀来でした^^;まさかぎゃくなんて…。ちょっと人選間違えてるとおもいます。賀来役が受け顔なので…。原作は原作、映画は映画とわけて視た方がいいのかもしれないと、おもいました。


2009年07月26日 カノアマスミ
べりぃさんへ
あれ、映画の方になくなっちゃったですか。マァそれは残念というか・・・うーん・・・・・
でも確かにまぁ、原作見てショック受けたとかのすぐ後だと・・・気持ちの切り替え的に難しいって人もいるかもですねぇ~

私も映画、実はすこい心配してたんですが、でもあれはあれで結構良かったって感じでしたよ。
意外に神父がかわいかった・・・・・なんかすごいヘタレっぽくて♪


2009年07月24日 べりぃ
コメントありがとうございます♪
はじめまして(^_^)べりぃと申します。【BL的MW】へのコメありがとうございます♪
あのブログ書いてから、しばらくして本が届いたので、読みました。
想像以上に凄く良かったです!!
お陰で、映画のほうには興味なくなりました(^▽^;)
登場人物のイメージがちょっと違うので・・・
でも、2ショットの宣伝ポスターには撃ち抜かれましたねぇ(≧m≦)


2009年07月05日 カノアマスミ
匿名さんへ
映画なんて、普通のとかでも、結構男女のベッドシーンとかありますしね。以前テレビドラマでつかこうへいの「ロマンス」とかあったし・・・(アレは男同士のそういうシーンありますから)
手塚治虫のだってやりゃいいと思うんだけどな・・・・・


2009年07月05日 カノアマスミ
ぎがさんへ
そーりゃ確かに神父、報われねぇ。(苦笑)

いったらなんですが、映画のストーリーに関しては、初めっからほぼキタイしてませんでしたよ私は。
「どろろ」とか「ガラスの脳」とかすさまじい事になってたもんなぁ~実写だけじゃなくってアニメとかもそうですけどね。
NHKで以前やっていた「火の鳥」ってのもあれひどかった・・・ミョーな駆け足だったり、二つの話が同時進行して、それが絶妙に絡んでて・・・ってのがウリな話なんか、一本丸々カットされてたし。「ブラックジャック」はちょうどジャストでもやもやっぽいイミシンな終わり方な話を、それ以上描いてフンイキぶち壊されるとか・・・・・ブツブツブツ・・・(コアなファンのぼやき)

って、まぁそれはともかくとして。(爆)
原作漫画な映画はシナリオがカナリ大変なことになる・・・ってのは、もうほぼジョーシキではあるんですが。
手塚治虫のは特に色々話も細密で、ぎちぎちですからねぇ~一つなんか崩せば他も連動して・・・みたいなの多いと思いますよ。

とりあえず、だから多少変わるのははなっから想定内ではありました。
むしろ、でもそれで考えたら、ぎがさんのコメ読んだら、「映画版、割とキタイ出来そうだ・・・」って思った位です。

あの配役だと、例の出会いのショタシーンは出来ないでしょうからねぇ~確かに。
そんでもって、ああいう深い結びつきでないと、大人になってあんな禁断の関係・・・ってのはちとナンですかね?
ってか、初めに助けて、後で殺人鬼・・・って変わり方は、ちとあからさま過ぎるかもなぁ~

最後、もやもやした終わり方になってたら良かったです。そこは私も気になってたんですよね、あそこの「ニヤリ」がものすごく好きなんですよね~
なんか、単なる復讐ってのじゃない、ってカンジがいいんですよ。後味悪い・・・「マズイっっもう一杯」ってカンジですかね?(爆)

映画、見に行こうかどうしようか今すっごい悩んでます~私今。
とにかくナニはなくとも鬼畜眼鏡玉木っっっ☆☆


2009年07月05日 匿名さん
No Title
ぜひ実写でこのシーンをやってもらいたいですよね!


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