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CRAZY ABOUT NARISE KONOHARA 木原音瀬にもう夢中! 癖になっちゃう痛気持ちイイ、木原ワールドの魅力をたっぷり紹介

木原音瀬の悲惨すぎるみじめキャラトップ5
評者 桃園あかりさん  

世の中には惨めな人はたくさんいますが、わざわざ本を買ってまで読みたくありませんよね。しかし木原音瀬は、そんな惨めな人たちにも生暖かい目を向けて、しっかりキャラ立ちさせてくれるのです。そこが痛い系の巨匠と言われる所以! 木原音瀬の本領、悲惨キャラランキングベスト5入賞キャラ発表です。(ネタばれ注意!)


1位 『セカンド・セレナーデ』 : 橋本道也

 性格の悪い橋本は、掛川を裏切って取引先の娘と結婚しようとするが、結婚相手は他の男の子どもを妊娠していた。破談によりすべてを失った橋本が掛川のもとに戻ろうとしたとき、掛川の出した条件は、親にカミングアウトするという「誠意」をみせろというものだった。
「父さんに…殴られた。男が好きで、もう結婚しないとそう言ったら殴られた」
律儀に実行した橋本に、掛川の反応は、「俺…橋本さんといると疲れると言っただろう。もしかして親に告白したら面倒を見るっていうアレを本気にしたのか」「これからどうするつもり?」
ショックを受けた橋本は、階段から転げ落ちて、歯まで折る。それなのに掛川は、「帰ってもらおうか」と追い討ちをかける。「冗談だよ」といっても、「家に帰りたい」と泣き続ける橋本に、掛川は「帰れないくせに」。
「僕を…抱くのか」
「宿泊費。安いものだろう」
「…僕は嫌だ。もう君に傷つけられたくない。…もう死にたい」
「これからの橋本さんの生き方は俺が決めてやる。もう考えるの嫌だろ」
首筋に口づけながらそう囁く。
「俺の言うことだけ聞いてればいい」
* 掛川だけが残ったという一応のハッピーエンドとはいえ、橋本は何もかもを失います。いくら性格が悪いとはいえ、惨め。


2位 『片想い』 : 吉本智

 吉本は冴えないと馬鹿にしてきた友人の三笠を、好きになってしまった。結婚するという三笠を引き止めるため、酔ったふりをして身体を投げ出すが、次の日に「酒に酔っていて記憶がない」というと、三笠に「なかったこと」にされてしまった。事情を知った三笠は再び吉本を抱くが、吉本はプライドが邪魔して、好きだといえない…。
「俺のこと、好きなんだろ」
それまで何も言わず、ただ体を苛んでいた男がそう聞いてきた。
「抱かれたいって思うくらい好きなんだろ。俺のどこがいいの」
答えられない。答えられるはずがない。
「こんな言い方したらお前が傷つくかもしれないけどさ、俺はお前のことなんてなんとも思ってなかったよ。意識したこともなかった」「悔しい? 俺になんとも思われてなかったのが悔しいか」
* 無神経で鈍いと馬鹿にしているはずの三笠に、いつの間にかいいようにされてしまう吉本。惨めだけど幸せだからいいんだよね?


3位 『NOW HERE』 : 福山智

 福山(30)は、はずみで寝てしまった冴えないおっさん仁賀奈(50)を、次第に可愛いと思うようになる。しかし仁賀奈の長年の思い人が離婚することから、シャイで恥ずかしがりやの仁賀奈の態度は、たんに自分に気がなかっただけだという真実があきらかになり…。
「私は福山さんのことを好きではありません」
「このままでもいいかと思っていたんです。福山さんが飽きるまで、体だけでよければお付き合いしようと。けど駄目です。私が福山さんに許したのは体だけで、心は違う。心まで偽ることはできません」
福山の前で、仁賀奈は両手を床につき土下座した。
「どうか私と別れてください、お願いします。福山さんはまだお若いしハンサムなので、すぐに好きな人ができるでしょう。そしたら、年上で、話し下手で、センスも悪くて、つまらない私のことなんてすぐに忘れます」
* 惨めキャラだと思っていた相手に、土下座して「別れてくれ」といわれ、さらに惨めにさせられた福山は、もっと惨め…。悲しいひとり上手。


4位 『脱がない男』 : 藤原課長

 嫌味なくらいハンサムでモテモテ、仕事のできる藤原課長は、実は陰のうをスピッツに食いちぎられた過去をもつ片タマ男。単純だけが取り得の体育会系の部下甲斐谷に、無理やりセックスされて、感じてしまい変態かと悩む。しかも甲斐谷と別れたあとには、なんとインポテンツに…。
「嫌だっ、嫌っ…あん…こんなの嫌だあっ」
潤んだ目尻から、ポロリと涙が零れた。
「どうしてだよ? いいんだよ、気持ちよくなって」
「嫌だ。こんな女性みたいに喘ぐのは嫌だ。そうでなくても私は変態なのに…」
「変態じゃないよ」「俺のことが好きだから、気持ちがいいんだよ」
喋りながら、甲斐谷は腰を動かした。
「や、嫌だっ。動くなっ」
「かき回したらもっと感じるんだよね。気持ちよくなっていいんだよ」
「嫌だ、嫌だ、嫌だ。そうでなくても私はインポテンツなのに…」
* 甲斐谷という恋人もできて、何でももってる藤原課長なんだけど、なんだか木原さんの藤原課長の描き方が、惨めっぽい…。


5位 『箱の中』(の「脆弱な詐欺師」) : 大江道利

 刑務所のなかで好きになった堂野を探すため、出所後、喜多川は稼いだ金をすべて捜索費用につぎ込んでいた。大江は喜多川に捜索を依頼されるが、娘の教育費用のことで妻に文句をいわれ続けたため、「個人的に請け負う」と嘘をついて、お金を騙し取る。騙したことをぎゃくに強請られ、何とか堂野を探し出した大江が家に帰ると…。
アパートに帰り着くと、部屋の中はシンとして水底のように静かだった。
今日は日曜日だし、妻も娘も出かけたのかもしれない。そういえば玄関に靴がなかった。ケーキの箱を携えてリビングに入ると、食卓テーブルの上に紙があった。留守の書き置きかと覗き込み…そして頭の中が真っ白になった。
妻の名前が記入され、捺印がされた離婚届。それらがものも言わずじっと大江を睨みつけていた。
* 喜多川&堂野という切ない恋愛の脇で、離婚されて落ちていく小市民的な悪人大江の惨めさが光ります。

◆番外編 『薔薇色の人生』百田保男
顔も悪ければ、頭も悪い百田保男。できのいい兄への対抗心から、暴走族に入り、覚せい剤に手を出して、いつの間にか前科三犯。両親は、刑務所に面会に行く途中の事故で亡くなり、家は人手に渡り、友人にも兄にも絶縁される。所持金もなくなって、橋の上から飛び降りて自殺しようとするところに、後の恋人である警官、浜渦論に助けられる。なのに、論に夕飯をたかり、ラブホテルでほとんど無理やり強姦する。その挙句の台詞。
「あんたが……あんたがこうやって俺の相手をするって言うんなら、死なないでやってもいいぜ」「捨てやがったら、俺は悪いことをするからな。そうなったらお前のせいだぞ。言ったからには、自分の言葉にちゃんと責任持てよ」。
*命の恩人にむかって、逆切れ? これでもかというほど悲惨な状況なのに、全然そうみえないのは、論と相思相愛になって、つねにラブラブだから。さらにこのあと、ヤクザにボコボコにされて、覚せい剤を打たれた挙句、車ごと海に沈められ(論に助けられる)百田の人生は悲惨なのですが、論のおかげで薔薇色。


紹介者プロフィール
桃園あかり
腐っていることを周囲に隠していないカミングアウト済み貴腐人。しかし流石に、子どもからはBLをどう隠すかが最近の懸念。職業は、意外にまじめなプロフェッサ~。思うより職場のスーツ率が、低くて悲しい



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