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これが処女作とは……!?

私が探す限りだと、この本が野萩さんにとって初めての商業本かと思います。
それでこの質のものを出されるとは、すごく驚きました。
絵が自分好みだったので、表紙絵だけでの衝動買いしてしまったのですが、全く後悔はありませんでした。むしろ、良い作家さんを見つけられ、十分に萌えも補給でき、読後の満足感は並より頭ひとつ飛び出るのではないでしょうか。
以下、ネタバレは含まないようにしつつ、収録されてる三篇の感想をば。

スタンス・リバース
表題作らしく、表紙に出ている2人が主役のお話です。
西村(受)のもとに、年上の宇津木(攻)が部下として来て、そこで徐々に二人の距離が近づいていくのところを描いています。
表紙と帯の説明から、宇津木がすごく軽くてチャラいやつに見えるのですが、話を読み進めると意外とそうでもないかな、とは思いました。
最後の展開に少し無理があるのではないかなと思いましたが、あまり気にせず読むことができました。
リーマンもので、30代男性同士のラブが好きな人なら、読んで損はない作品化と思います。西村さん、かわいいです。ごちそうさまですw

春告げ鳥
前篇と後篇に分かれており、前篇が受である律吾を主役に、後篇では攻である勝馬を主体に話がすすめられます。前篇は律吾と勝馬の関係がどんどんと変わっていくところを描き、後篇では同性間恋愛の苦悩と家のしがらみにより二人の距離が開くお話になります。
律吾は勝馬の家に居候しているので身分で言うと勝馬の方が上になります。身分差恋愛というと家のしがらみによる苦しくてドロドロしたものを思い浮かべることもあるかもしれませんが、この話はそこまで深くはありません。あっさりしており、とても読みやすいうえに、登場人物に感情移入できるストーリーではないかと思います。
ただ、あっさりしているという点で、明治時代を背景としているにしてもあまり時代を感じません。明治時代でなくてもこの話は再現できるのではないか、こういうことが本当に明治時代にあり得たのか、などの疑問が目につく方も読者の中にはいるかもしれません。ただ、あまり気にせずに読んだ方がこの話はおもしろいと思います。
二人の距離が近づき、しかしさまざま足かせにより距離が開いていくところを見るのはとても切ないですが、その切なさの部分を微塵も落とさずに、とても読みやすい物語へと仕立てているところがこの作品の魅力化と思います。

あなたのために
とある絵画教室での、先生である藤崎(受)と生徒である牧野(攻)の少し切ないラブストーリーです。先生と生徒というと歳の差ものかと思われる方もいるかと思いますが、二人はそこまで歳は離れていません。前の二つの話より軽いテイストの話です。
藤崎の絵を愛する心に惹かれる牧野と、牧野の絵を通して彼の内面に惹かれる藤崎の二人ですが、ちょっとした誤解からすれちがってしまいます。ただ、それでも二人が互いを思う気持ちは変わらず、最後は落ち着くところに落ち着きます。
短編として、とても質の高い物になっているのではないかと思います。

総評
3篇のすべてに共通して、思い合う二人の距離の近づきと、そこに生まれるすれちがいの苦悩を描いています。本の帯では簡単に「ドラマチックなストーリー」「切ない」と書かれていますが、端的に表すとまさにそうです。ただ、その言葉だけでは計れないものがあります。是非全編通して読んでもらい、この1冊に込められた「切なさ」とはどのようなものなのかを肌で感じ取ってほしいです。
ここまで淡々と書評みたいなものを書きましたが、すごく個人的な感想を言いますと……、
絵がすごく良い! 成人男性のカッコよさや年を取った男性のにじみ出る渋さ、年を取るにつれて変わっていく男としての魅了とでも言いましょうか。そういったものがダイレクトに伝わってきます。もう、この一冊だけでいろんなものを補給できて、本当にごちそうさまですww
中年とまではいかない、だけど青年というには少し擦れている、そんな男性の持つ色気やかっこよさを是非体感してください。
いろんな人にお勧めしたい、良作ばかりの1冊でした。萩野さんの今後の活躍にも期待大です!!