BL業界がそんなに 楽しいわけがないっ!?


元編集関係者が語るBL業界事情 第三回「BL業界のスケジュール合戦」
評者:ミサキさん
今回は、商業BL業界の肝ともいえる「スケジュール」のお話。「スケジュール」をしっかり組めるか組めないか、これで編集者のスキルを決定的に計られる!?
ヲタ女子で腐女子な元編集関係者が、セキララにBL業界の内部事情に切り込む超リアルコラム。感想はコメント欄にブチ込んでみてくださいね。お待ちしてますよ!
ミサキのツイッターは @misaki_dxです 

 年の瀬が迫ったこの時期、出版業界は死にそうになっている人が頻出しています。
 だいたいの大型連休の前は同じような現象が起こるのですが、今の時期はいわゆる「年末進行」と呼ばれる繁忙期です。
 よく言われる「○○進行」とは、大型連休に印刷所が機械を止めるためそのぶん入稿日などの締切が前倒しになることを指します。
 通常進行のつもりで締切を逆算していた日には、痛い目を見る恐怖の進行です。中には万が一を考えて、大型連休のある月は仕事を減らしたり入れなかったりして、スケジュールを調整する作家もいるほどです。
 さらに、大型連休のタイミングは大規模な同人イベントが開催される時期でもあるので、それに参加する人はもっと追われた状況になることもあります。

 というわけで、今回は商業BL業界のスケジュールのお話をしたいと思います。
 この界隈で「スケジュール」というと、作家の作業時期を指します。
 スケジュールがすべての生命線です。これが確保できなければ刊行物は作れないし、作家は作家としてやっていけません。そして、人気作家のスケジュールをどれだけ持っているのかで編集の能力は判断され、仕事の依頼がどれほどあるのかで作家は自分に対する需要を実感することができます。
 スケジュールは版元側から作家に仕事の依頼をしたときに発生します。
 ちなみにこれは口約束です。スケジュールが確定した段階で契約書が出ると思っている人もいるかもしれませんが、今のところBL業界では聞いたことがないです。
 確定したスケジュールはFAXやメールで文字にして残るようにしますが、それも契約書ではないので法的な強制力も拘束力もありません。お互いの認識次第です。
 なので、稀に忘れ去られてしまうという事件が起きます。
 こんなことが起こる最大の原因は、「スケジュールの設定が先の話すぎる」ことにあるのではないかと思っています。スケジュール管理などを丁寧にやっていれば避けられることですが、それにしたってBL業界は未来の話ばかりをしすぎです。

 前にも書きましたが、作家は基本的にフリーランスです。どの版元と仕事をするのも自由です。
 そうなると目ぼしい作家には、たくさんの版元が群がってスケジュールの打診をします。作家がそれを引き受けてスケジュールがどんどん埋まっていくと、後から依頼した版元に割り当てられる作業時期は妙な隙間になるか、先へ先へと延びていくことになります。
 版元側はそれでもその作家に仕事をしてほしければ、どんなに先の話でも時期を作ってもらえるだけありがたいので、スケジュールを確定していきます。これを繰り返していくうちに、すごい人だと気がつけば3年分の仕事が埋まってしまうわけです。
 そうなると編集はますます他社を出し抜いて先のスケジュールを確保しなければいけないので、顔も知らない他社の編集と牽制し合うことになります。
 こうしてどんどん打診の時期が早まっていくと、常に先の話をする状況の完成です。
 他ジャンルの話を聞いていると、こんなに先の話ばかりしているのはBLだけのようです。
 どこでいつ病気になるか、はたまた仕事ができているかどうかも分からないままに決めていくので、いざその時期が来たときに本当に体調を崩していたり、思うように書けなくなっていたりすることはよくあります。
 そういう状況を防ぐためか、中には毎年スケジュールの打診を受け付ける時期を決めている人もいます。
 自分のペースや今後やりたいことなどと照らし合わせた上で、引き受ける仕事の調整をしているようです。
 みんながこうだったら楽なのになぁと思いますが、その作家ごとのやり方に合わせて対応していくしかありません。
 ちなみに、これはある程度キャリアや人気がある(=やりくりが必要なくらい依頼が来る)人の場合なので、新人のうちはそういう作家になれるようにとにかく頑張るだけです。

 作品を生み出して作り上げるのは作家なので、それぞれが「これくらい時間があればできる(……はず)」というのを予測したうえで、各担当編集と相談して決めていきます。
 ただ、1年は12ヶ月しかないので、あっという間に埋まってしまいます。で、ますますスケジュールの取り合いがヒートアップすることに……。
 そこを上手くくぐり抜けて人気作家のスケジュールを確保していく編集が「デキる編集」として扱われることが多いように感じています。
(ほとんどは実務能力にも長けている人ですが、「なぜ、あなたが?」という人も稀にいます。現場の状況が分からないと見えない事実なので、そこは度外視です。)
 結局は利益を生み出せるか否かが判断基準となります。
 いいビジネスパートナーを持っていれば、それだけいい仕事をしているということです。

 そんなわけで、みなさんが手に取る刊行物のほとんどは約半年~1年前、長い人なら3年前から掲載や刊行の予定が立っている場合があるということです。
 詳細な時期はそれぞれの状況で変わりますが、年の瀬が近づいてくると書籍なら翌年の刊行ラインナップはだいたい決まっていると思います。雑誌掲載の場合でも表紙にそこそこの大きさで名前が載る作家や連載の場合は、おおむね(ページや内容は別ですが)決まっていることが多いです。
 この業界にかかわるまでは、常に何年も先のことを考えて過ごすことなんてありませんでしたが、慣れてしまえばそれが普通になってしまいました。
 ただスケジュールを埋めるだけなら簡単ですが、それがいい仕事に繋がるかと言われると、そういうものでもないのが難しいところです。

 このコラムを続けていけばいくほど若者の夢を打ち砕いているような気がしてなりません……。
 それでももし、この業界に入りたいと思っている人がいるなら、ジャンルへの愛以外に忍耐力と根気と体力、さらに毛の生えた頑丈な心臓もあるといいのではないでしょうか。
 外野の私が言うのもおかしな話ですが、仕事のできる人はそういった土台がしっかりとしている人が多いと感じています。
 仕事として続けていくうちに削られていく部分もありますが、持ちこたえられるだけの蓄えがあれば何とかなるものです。
 業界内での立ち回り方や技術は、続けていく間に身についていくことでもあります。
 そこはあまり深く考えずに飛び込んでみてもいいと思いますよ。

 コメント欄かツイッターアカウント@misaki_dxまでお寄せ下さい。

紹介者プロフィール
ミサキ
ヲタ女子で腐女子の残念な元編集関係者。欲望の赴くままに業界に足を突っ込むも、根気の無さと面倒くさがりが遺憾なく発揮され現在フェードアウト中。「好きなこと=できること」にするのを目標に、目下自分探しの旅を(二次元のなかで)繰り広げている。座右の銘は「世の中やっぱ金と欲」。
近況:そろそろ花粉が飛び始めているというのは本当なのでしょうか? 備え始めなければ……。
このコラムに寄せられた感想
2012年12月25日 あや
おもしろいです!!
いつも更新楽しみにしてます!!!BL業界って謎すぎて、どうなってるのかずっと知りたかったので、こんなに率直にお話しくださるの、すごくありがたいです。 ある雑誌に続き物で掲載されていたマンガが、次の回から別の出版社の電子書籍のアンソロに連載になってたとか、本当にBL業界は謎です・・・。 ではでは、大掃除がんばってくださいね。良いお年を~。



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