仔犬養ジン先生インタビュー

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仔犬養ジン先生インタビュー 美少年男娼とオタク少年、二人をつないだ過去の呪縛とは!? 青春ゲイ小説『謎めいた肌』

2016/03/24 17:59

世界の片隅で傷つき、苦悩している若者たちの物語
3月18日に発売された、アメリカのゲイ小説『謎めいた肌』。ちるちるでもニュースページで大きな反響があり、このたびは翻訳者である仔犬養ジン先生にご登場いただきました。二人の少年、男娼のニールとオタクのブライアンの青春物語。美少年ニールを売春に走らせ、ブライアンに心を閉ざさせた過去の呪縛……。非常に重く、痛い青春ですが、約10年前には日本でも人気のジョセフ・ゴードン=レヴィット主演で映画化されており、そういったお話も交えての、興味深いインタビューとなっています!! それでは「801 AUTHORS 108」第883回、仔犬養ジン先生どうぞ!

Q. 作品紹介をお願いします!
ブライアンとニールという二人の少年が主人公です。
8歳と7歳の夏、二人はある体験をするんですが、これが彼らの思春期にまったく違う形で大きな影響を及ぼしていきます。ブライアンが失われていた記憶を取り戻したとき、パラレルしたままだった二人の人生が、ふたたび交わります。
DVD『ミステリアス・スキン』より

Q. メインカップルはどんな攻×受ですか?
実は恋愛小説ではありません!
しいてあげるなら、クールな男娼ニールの、自分にいたずらした少年野球の監督への純粋かつ歪んだ恋心。子供の頃、実際は監督(攻)×ニール(受)でしたが、後半、ニールのイメージの中ではニール(攻)×監督(受)になっていく気がします。

Q. 当て馬や重要な脇役は?
主人公の少年二人、ニールとブライアンに片想いするキャラクターは数人登場します。
お気に入りは、一匹狼のニールを好きになるも、彼がゲイだとわかり、むしろ嬉しくなって、親友になる腐女子予備軍(!?)のウェンディ。

Q. 今作のこだわりポイントはどのあたりでしょう?
青春小説なので、普段の自分の文体よりも柔らかく、噛み砕いた表現を用いることに苦労しました。
(C)Mysterious Films, LLC
 
僕の居場所はどこにもない――いつも同じ…。

『謎めいた肌』はとても残酷な物語です。小児性愛や性的虐待の描写もなまなましくてショッキングですが、それ以上に痛いのは、誰しも多かれ少なかれ抱えている、いわゆる“中二病”という青春時代の未熟さを、“しょっぱい部分”を抉ってくるところなのです。
私自身、傷つきやすかった青春時代や当時の悩みからは、大人になるにつれ、ある程度意図的に距離をおくようになっていきました。いつのまにか当時の思い出やそれに伴った感情に、「なよなよとした青春の断片」とタグ付けし、記憶の片隅に押しやっていました。
おそらくこれは大人なら誰もがやっていることで、映画版でニールを演じた主演のジョセフ・ゴードン=レヴィットも過去のインタビューで、昔の自分はとても傷つきやすく、厄介な少年だった。けれど、いまはずっとおおらかになり、「自分を笑い飛ばせるまでに成長した」と話しています。
ただ、彼のように自分を笑い飛ばせるようになるには、たいていちょっと時間がかかる。そしておそらく、その心境に達するまでには自分の中でさまざまな記憶のすり替えや改ざんがおこなわれているのでしょう。この『謎めいた肌』のように。
ちなみに“中二病”という言葉の考案者である伊集院光さんも、いつもラジオで、普通の人ならとっくに忘れている(記憶から抹消している?)思い出をことこまかに、皮肉とユーモアを交えて、赤裸々に語ってくれます。ときどき伊集院さんも、「この話、十年前はつらかったけど、いまなら笑える」と言うんですが、でも、いままさにブライアンと同じ立場にいる若い人には、これがまだわからないかもしれない。
だからこそ、そんな若い人に、そしてブライアンと同じ状態で停止したままの人にも読んでほしい。『謎めいた肌』はそういう意味でも面白い作品で、読みながら共感することで、絶望的な気持ちにもなるけど、同時に救いも感じられるんです。

Q. 苦労した点、また楽しかった点など聞かせてください!
もともと映画版『謎めいた肌』の主演俳優ジョゼフ・ゴードン=レヴィットのファンでしたが、訳していくにつれ、ニールのイメージが彼から離れ、独り立ちしていったのが楽しかったです。
もうひとつ、今回の仕事で本当によかったのは、尊敬していた北丸雄二さんが解説を書いてくださることになり、お会いできたことです。
まさに敏感で繊細だった十代の頃に、北丸さんが翻訳された『フロント・ランナー』『スイミングプール・ライブラリー』を拝読していました。
お会いした際は、NYでのゲイ事情なども教えていただき、大変勉強になりました。私が二年半暮らしていたサンフランシスコはゲイの街として知られており、男性同士のカップルはゲイストリート、カストロでなくてもほとんど毎日見かけます。
アメリカ連邦最高裁が、昨年、同性婚を合憲と判断を下しましたが、最近では同性カップルが代理出産などで子供をもうけ、街で乳母車をおす姿もよく見かけます。かくいう私のゲイの友人(日本人)も米国人男性と結婚し、グリーンカードを取得していました。
NY在住の北丸さんの話では、NYでは“ゲイであること”がさらに一般化されていて、最近ではゲイバーやゲイストリートの必要性もなく、ゲイやゲイカルチャーは社会にとけこみ始めているとのことでした。
それから、北丸さんは、ラリー・クライマーの戯曲『ノーマル・ハート』を翻訳されているそうです。
TV映画版『ノーマル・ハート』より

『ノーマル・ハート』は、エイズをテーマにした戯曲で、LGBTをテーマにしたそのほかの舞台『ベント』や『トーチソング・トリロジー』と並ぶ傑作として知られています。
2014年にアメリカのTV局HBOで、マーク・ラファロ、マット・ボマー主演でTV映画化されましたが、この映画版も、十年に一本のLGBTの名作です。日本ではまだソフト化していないので、もっと多くの方に見ていただけないか模索しています。

Q. 執筆中の、思い出に残る日常エピソードをご披露願います!
それぞれの登場人物に対して、「私も若い頃、よく感じていたことだ」「私も似たような経験をした」「彼らのなれのはてが私だ」と、ことあるごとに感じていました。思い出したくない過去、いわゆる“黒歴史”がある人にこそ読んでほしい物語。
小児性愛に関しては、翻訳をちょうど終えた頃に、米国で公開していた『スポットライト』という映画を見ました。神父が世界中で少年たちに性的虐待を加えていた事実を、教会が隠ぺいしていたことをジャーナリスたちが暴露する作品で、2016年のアカデミー賞作品賞を受賞しました。この中に登場する、子供の頃に虐待されたゲイの男性の発言、「(神父に)自分が選ばれたことを名誉に感じた」が、いたずらされた監督へのニールの発言とまったく同じで驚きました。

Q. お仕事について教えてください。
私は現在米国で、漫画家として英語のBLウェブコミックを連載中です。ほかにもBLやLGBT本の執筆、出版、リサーチなどの仕事に携わっています。
『小説b-Boy 1月号(リブレ出版)』では、サンフランシスコで毎年おこなわれているBLイベント「ヤオイコン」のイラストレポートも描かせていただきました。

Q. 発売に関して今のお気持ちはいかがでしょう?
致命的な誤訳がなければいいなあ、と思っています。それから翻訳を手伝ってくれたコートニー、ありがとう!

Q. ちるちるユーザーにメッセージをどうぞ!
米国にも腐女子は大勢おり、日本と同じように長い歴史があります。言葉の壁があって、あまたある名作が日本では紹介されていないのが残念です。というよりも、私が十代の頃よりも、海外のLGBT関連小説が翻訳刊行されなくなっている気がします。
ハーパーコリンズさんはLGBT関連ならびにM/Mロマンスも、今後需要があれば出版していきたい、と仰ってくれていますので、この難しいチャレンジ(!)をぜひみなさんにも応援していただければと思います。
担当編集:Kさんより
ハートブレイクノベル――そう呼ばれる本作は、アメリカの若者に熱狂的に迎えられ、2004年に映画化されました。その受け入れられ方からして、日本の少女漫画『トーマの心臓』や『風と木の詩』、『カリフォルニア物語』に非常に似ています。
その狂おしい心情を、日本人にも違和感なく伝えるためにはどう表現すべきか。さらに複数主人公という日本の小説にはない形で描かれた作品であったため、キャラクターたちの魅力を損なわずに伝えるためにどうすべきか。キャラクター一人ひとりの性格を吟味しながら、ジンさんと一年がかりで本を作っていきました。
ジンさんの詩情豊かな情感に満ちた文章とともに、ぜひご賞味ください。

愛と性が実は生々しく同じものであったことに気づき始める。
それを知ったとき、少年は大人になる――新たな現実を生きるために。――ジャーナリスト・北丸雄二(本書解説より)

その他はみだし情報
▼ジンさんが作成し、ムービーパラダイスとジュネガーデンで配布された幻のちらしです。
ホーリンラブブックスさんでご購入いただくと、麻生ミツ晃さんの薄墨タッチで描かれた美しいイラスト、俳優ブロマイドと一緒にちらしもついてきますので、ぜひ。
▼今回、本文中の扉イラストを、麻生ミツ晃さんに描いていただきました。実は、いったんカラーで描いたものを、さらに薄墨画風に見せるよう処理された大変凝ったものです。


麻生さんがゲイ小説にご興味をお持ちでいらしたことから、今回、ご協力いただきました。麻生さん、この場を借りてお礼を申し上げます。本当にありがとうございました。

LGBTの情報サイト、ジェンクシーにてご紹介いただきました。

(C)仔犬養ジン/麻生ミツ晃/ハーパーコリンズ

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コメント5

投稿順|最新順

匿名5番さん(1/1)

紹介記事で気になりました!

匿名4番さん(1/1)

ボリュームも情報もたっぷりのインタビューで面白く読みました!
作品についても丁寧に詳しく書いて下さっててありがとうございます。
麻生先生のイラストがとってもいい感じ…!

匿名3番さん(1/1)

でも表紙の子供、すごいきれいな人じゃない?

匿名2番さん(1/1)

ってか実写絵いらない
気持ち悪いだけ

匿名1番さん(1/1)

この部分のサムネは、いつもマンガの中身の絵なので実写でびっくりしたw

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